「戦場のヘビーメタル」
 「あーあ、つまんないなぁ。」
アルビオンのブリッジ後方にある展望室の椅子に座り込んで、優美は
肺の中の空気と共に今日何度目かの不平を絞り出した。キラメキ士官学
校を出発した翌日、警戒しながらの航行であり、ようやく北極圏にさしかか
ろうとしていた。DCの部隊は様子見を決め込んだらしくかなり後方から
追跡を続けている。
「もう、こんなに退屈だと優美死んじゃうよぉ。」
「おいおい、その位で死んでちゃ命が幾つあっても足りねぇぞ?」
優美の極端な発言に好雄が思わず茶々を入れる。優美は好雄を睨み
付けながら口をとがらせる。
「その位退屈だって言ってるの。お兄ちゃんは黙っててよ。」
売り言葉に買い言葉で好雄も言い返す。
「暇だ暇だって言ってても何も変わんねぇぞ。暇のつぶし方くらい自分で
考えろっての。」
一瞬優美の顔に怒りの表情が現れたがすぐに姿を消し、代わっていか
にも良からぬ考えを秘めていると言った感じの笑みが浮かんだ。
「いい暇つぶしを思いついたんだけど、もちろん協力してくれるよね?」
優美の意図を瞬時に察知した好雄の顔が瞬く間に青ざめる。
「や、やめろ、やめてくれ。」
しかし優美は好雄の哀願などお構いなしと言った風情で指をベキベキ
鳴らしながら迫っていく。
「かわいい妹が困ってるんだもん、嫌なんて言わないよね、お・に・い・
ちゃん。」
好雄は隣にいる諭に涙目で助けを求める。しかし諭は悲痛な表情を
浮かべて無言で首を横に振った。
「あ、た、たすけ・・・ぐわああっ!」
展望室に好雄の絶叫が響きわたる。ゆかりはその様子を見ながら嬉し
そうに夕子に話しかけた。
「さおとめさんたち、ほんとうにたのしそうですねぇ。」
「ゆかり・・・マジで言ってるわね。」
その時ゆかりは視界の片隅に何かが揺らめいているのに気がついた。
「まあ、きれいですねぇ。」
ゆかりの声に優美が思わず振り返ると、展望室の窓の外にオーロラ
が広がっていた。優美は好雄を放り出して窓に駆け寄った。
「うわぁ、本当にきれいだなあ。」
「直に見るのなんて初めて。もう最高って感じ。」
その場にいる全員が初めて直接見るオーロラの感想をそれぞれ
口にした。
「映像を記録しておきます。」
「許可します。ライブラリーに保管しておきましょう。」
ブリッジでもオペレーターと未緒の間でこんなやりとりがあった。

 一方ガウ級攻撃空母「ウーフー」機内ではサイクロプス隊の面々が
アルビオンの目的地を推測していた。
「奴等の目的地はアジア方面ではなかった。ましてや北極なんぞただ
の通過点だろう。で、このまま行くと・・・」
「レイキャビク基地には打ち上げ施設があります。宇宙に行くつもりで
すかね。」
「ここを過ぎるとまあベルファスト基地に寄って補給するのが常道で
しょう。」
シュタイナーは部下達の意見にうなずいて見せて言葉をつないだ。
「レイキャビクなら話は単純だ。打ち上げの時に叩けばいい。問題は
ベルファストだな。そこから更にアフリカ戦線とヨーロッパ戦線の二択
になる。とりあえず現時点ではここまで絞れただけでも良しとしよう。
もうしばらく様子を見るか。」

 北極圏を過ぎてしばらくしてレイキャビク基地が見えてきたがどうも
様子がおかしい。
「レイキャビク基地で戦闘中。襲撃を受けている模様。」
「見慣れない機体が居ますね。新型でしょうか?」
しばらく検索を続けていたオペレーターから報告があった。
「分かりました。あれは先日地球連邦に対して宣戦布告したボセイダ
ル軍のヘビーメタルです!」
未緒は戦闘態勢を整えたメンバーに通信で状況を説明する。
「ヘビーメタルの装甲にはZZガンダムのビームコートに類する処理
が施され、ある程度までのビーム兵器による攻撃は通用しません。」
「じゃあ実弾兵器装備で行かなきゃね。」
「No problem、問題ないわ。元々ビーム兵器なんて無いもの。」
「しかしこの状況はまずいな。」
諭の深刻そうな声は続いた。
「どんなにうまくいっても戦闘の真っ最中にDCに追いつかれる。DC
とポセイダル軍が組んでいる訳じゃないが、それでも挟み撃ちみたい
な状態になることに変わりはない。」
諭の懸念に対する未緒の返答はあまりにも異常な物だった。
「私に考えがあります。ビーム兵器装備でモビルスーツのみ出撃して
下さい。」

 グルーンがレイキャビク基地の最後のMSを撃破した後、パイロット
のリィリィはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「ふん、暇つぶしにもなりゃしない。なんでこのあたしがこんな辺境で
雑魚と遊んでなきゃいけないんだい?」
「そう言うな。一応ここも重要拠点ではあるんだからな。」
ハンスがなだめるようにそう言ったがそのときすでにリィリィの注意は
北から来る敵の増援に向いていた。
「性懲りもなくまた来たかい。何度でも叩きつぶしてやるよ!」
やる気満々のリィリィに対してキラメキ隊の方はあまり乗り気ではなか
った。なぜビーム兵器が効かないと分かっている相手にわざわざ
ビーム兵器装備で向かって行くのか、未緒の意図は誰にも理解でき
なかった。
「廉価版のアローン及びグライア型は通常装甲なのでこれらを優先
的に攻撃します。とにかく自分の身を守ることを第一に考えて下さい。」
未緒の指示に従って戦闘を開始する。こうなってしまえば余計な事を
考えている余裕は無い。

 「ええい、ちょこまかと逃げ回るんじゃないよ!」
リィリィは苛立っていた。新たな敵はさっき片付けた連中より少しは手応
えがあると言えなくもなかったが、そのあまりに消極的な戦いぶりは敵な
がらふがいなさを覚えるほどだった。
「しかしこいつらにしてみれば正しいやり方だ。こっちのB級が結構撃破
されている。」
ハンスが冷静に現状を分析してみせる。
「だが仮にB級を全滅させたところでどうなる?我々が残っていれば奴
等に勝ち目は無い。」
マハールの疑問に答えられる者は居なかった。

 シュタイナーは前方で繰り広げられている戦闘に不自然なものを感じ
取っていた。
「木馬の連中は何をやっているんだ?ヘビーメタルにビーム兵器が効
かないことぐらい知っているはずだが。」
「最初の内油断させておいて、頃合いを見計らって一気に仕掛ける
つもりですかね。」
「そんな小細工を仕掛ける意味はないと思うが。まあいい、念のため
部隊を展開させておく。」
DCが部隊を展開させるのに合わせて未緒の指示が飛んだ。
「全機戦闘を中止、レイキャビク基地に撤収します。」
これらの動きがボセイダル軍から見ればどう映るかは言うまでもない。
「はん、そう言うことかい。せこいまねを!」
「さて、どうする?」
「決まってるだろ。囮なんざ放っといて本隊を叩く!」
ボセイダル軍が迫って来るのを見ながらミーシャとシュタイナーは慌て
る素振りもなく話していた。
「見事にはめられましたなあ。で、このまま迎撃といきますか?」
「そうだな、ボセイダル軍も敵であることに変わりはない。ここは一つ売
られた喧嘩を買うとしよう。奴等に商売のイロハをじっくり教えてやれ。
・・・MS、前へ!」

 結局キラメキ隊との戦闘で戦力を消耗していたボセイダル軍が撤退
して戦闘が終了したが、DCも戦闘を継続する余力は無かった。
「止むを得んな。木馬が宇宙に出たら向こうの連中に任せよう。一旦
ブレストへ向かい戦力を整える。」
DCが撤退した後、軽い整備を済ませたアルビオンは再びベルファスト
を目指して発進した。

次回予告
 ベルファストでつかの間の休日を楽しむ好雄は一人の少女と出会う。
そしてその出会いは水面に波紋を起こす一個の小石。次回ときめき
ロボット大戦「邂逅、そして潜入」
−この次も、サービスサービスぅ!