「エクソダス」
「いやあ、やばかった。もう少しで学校が潰れちまう所だったな。」
「まあ、俺達にかかればざっとこんなもんよ。」
「あれー、あたしが助けに来た時やられそうになってべそかいてたの
誰だっけ?」
「ゆ、優美!余計な事言うんじゃなーい!」
そんな話をしながら諭と早乙女兄妹が会議室に入って間もなくデブリー
フィングが始まった。
「今回は攻撃力に欠けるという我々の弱点を突かれて苦戦を強いられ
ましたが、新しい戦力の増強によって何とか任務を成功することが出来
ました。みなさんご苦労様です。これからも頑張って下さい。」
「うん。優美、頑張るからね!」
「Surely、もちろんよ!その為に大急ぎで戻ってきたんだから。」
優美と彩子は未緒の言葉に威勢良く即答したが、結奈はわずかに遅れ
て口を開いた。
「私は止めておくわ。あなた達でなんとかしなさい。」
「えー、何でよ?あんなに強いのに。」
不満げな夕子の質問に対して結奈は煩わしそうな表情をしつつも返答
した。
「問題点は最初からはっきりしていたのよ。現在入手可能なジェネレー
ターではパワー不足で世界征服ロボ本来の性能の50パーセントも発揮
できていないわ。特に稼働時間の低下は著しいものがあるわね。」
結奈の言葉に夕子は納得せざるを得なかった。あの時ほとんど動かな
かったのは大半のエネルギーを武装に回していたからなのは容易に
想像できたし、いくら強力な兵器でも短時間しか戦場に留まれないの
では戦力として計算するわけにいかない。
「そう言うわけだから改良の必要があるわ。目処が立つまで残りの戦力
で何とかするのよ、いいわね。」
居丈高な結奈の口振りに反発して何人かが口を開きかけた時、それを
制するように声が響いた。
「まあ、あれはまだつかいものにならないのですか?それではしかた
ありませんねぇ。」
結奈は反射的に声のした方を睨み付けたが、視線の先に居たゆかり
から悪意は感じられなかった。ゆかりはいかにも無邪気そうな笑顔を
浮かべて話し続ける。
「うまくなおせると、いいですねぇ。」
「あ、当たり前でしょ。私を誰だと思ってるの?少しでも早く取りかかり
たいから、これで失礼するわ。」
このまま会話を続けているとゆかりのペースに巻き込まれてしまうと感じ
た結奈は話を切り上げる事にした。
(一体何を考えているのか推測できない。この私をうろたえさせるとは、
古式ゆかり・・・要注意ね。)
結局その日は何事も無く終わったが、翌朝になって緊急召集がかけ
られた。全員集合したのを確認して席を立った未緒は緊張した面持ち
で口を開いた。
「先程連邦軍総司令部より通達がありました。本日をもってキラメキ隊は
実戦部隊として連邦軍の指揮下におかれます。」
未緒の話を聞いても一同に目立った反応は見られなかった。「実戦」
ならとっくにこなしている為、別に大した変化ではないと感じている
らしい。しかしその後の未緒の言葉はこれがいかに大きな変化であるか
を認識させるのに十分なものだった。
「準備が整い次第、キラメキ隊はアフリカ戦線へ向かいます。」
未緒の言葉はそれを聞いた者の間に波紋を起こした。広がった波紋は
最終的に詩織の疑問という形で未緒の元に達した。
「でも、ここの守備はどうするの?交代要員も来ていないみたいだし。」
「その点は心配無いだろう。」
未緒に先んじてレイが詩織の疑問に答えた。
「考えてもみたまえ。奴らが何を狙っているかは知らんが、兵力が根こそ
ぎ出て行った跡にそれが残されていると考えるかね?」
「重要なものは残されていないと考えるのが普通ね。」
「そう言うことだ。まあ、念のためしばらく総員退避させるつもりだがね。」
「じゃあ一安心ってところか・・・あれ?でもそれって、もしかして・・・」
「ええ。敵の狙いは私達に集中することになります。それは覚悟しておい
てください。ではこれより出発準備に入ります。」
未緒が締めくくって解散となったが、未緒は部屋を出て行こうとするレイ
を引き留めた。
「伊集院君、ここでは連邦軍から何か特別変わったものを預かったりして
いますか?」
「いや、基礎訓練用のザクやジムとかどこにでもある物ばかりだが、それ
がどうかしたかね?」
「そうですか。いえ、なんでもないんです。」
しかし言葉とは裏腹に未緒の表情にはどことなく翳りがあった。
物資の積み込みが終了した後、諭は個人の荷物をまとめに部屋へ
戻った。士官候補生にそれほど大した荷物があるわけもなく、身の回りの品を鞄に放り込んで荷造りは終わる。相部屋の好雄も準備を済ませて
ベッドに腰掛けて休んでいる。
「なあ、好雄。」
「あ?」
「なんか、すごい事になってきたな。」
「ん。まあ、なんとかなるんじゃねえか。」
「そうだな、今からあれこれ考えても仕方ないか。」
「そう言うこと。んじゃ、そろそろ行こうぜ。」
準備が完了したのを確認した未緒は艦長席から指示を出した。
「これより本艦は北極経由でベルファストへ向かいます。出発時にDCに
よる襲撃の可能性があるため、全機出撃可能状態で行きます。」
最終チェックも問題無く終わり、未緒は発進の合図を出した。それとほぼ
時を同じくして監視の兵からサイクロプス隊へアルビオンの動きが報告
された。
「どうします、隊長?出端を叩いちまいますか。」
ミーシャがシュタイナーに指示を仰ぐ。
「いや、ここは一つ奴等の目的を探ることにする。攻撃はそれからでも
遅くあるまい。」
間もなくアルビオンを追跡するべくガウ攻撃空母の編隊が北の空を目指
して飛び立っていった。その先頭を飛ぶ旗艦「ウーフー」のブリッジで
シュタイナーはこの先の展開を楽しむような表情を浮かべて彼方に浮か
ぶアルビオンの姿を眺めていた。
「さて、この先どんな獲物がかかるか。先は長い、ゆっくり待つとしよう。」
次回予告
あーあ、艦の中でぶらぶらしてるのも飽きちゃった。DCは相変わらず
金魚の糞みたいにくっついて来てるし。え、あれがオーロラ?うわぁ、
きれいだなぁ。・・・あれ、前で見たこと無いロボットが戦闘してるよ。もし
かして敵なの?どうしよう、挟まれちゃうよー!
次回ときめきロボット大戦「戦場のヘビーメタル」・・・ええー、このまま
突っ込む?無茶だよぉ!