「助っ人、大暴れ」
サイクロプス隊の襲撃の翌日。キラメキ士官学校は重苦しい空気に
包まれている。アルビオンの艦長席に座った未緒は数時間前の出来事
を回想していた。
緊急召集をかけられた一同の前に立ったシナプスは厳しい表情で
話を切りだした。
「諸君も知っての通り最近再びDCの活動が活発化している。現に
我々もサイクロプス隊の襲撃を受けたばかりだ。」
わずかな、しかし聞いている者には何倍も長く感じられる沈黙の後、
シナプスは重々しい口調で告げた。
「我々出向者に原隊への復帰命令が下された。」
一瞬の静寂の直後に爆発的に巻き起こった抗議の渦は現状を考えれば
当然と言えた。
「何だって?敵の第二波がいつ来るか分からないってのに!」
「くそっ、上層部は俺達を見殺しにする気か!」
興奮状態の一般スタッフ達がシナプスに詰め寄りかけた時、今の雰囲気
にあまりにもそぐわないのんびりした声が響いた。
「まあ、それではわたくしたちががんばらなくてはいけませんねぇ。」
声の方に全員の視線が集中する。そこには状況が分かっているのか
疑いたくなるようなゆかりの笑顔があった。この寸劇のお陰で曲がりなり
にも熱狂状態を脱したスタッフ達は愚痴をこぼしつつもぞろぞろと席に
戻った。
「諸君の心情は十分理解しているつもりだ。だが我々は軍人である以上
命令に異議を唱えたり疑問を持ったりしてはならない。」
口ではそう言いつつも実は他ならぬシナプス自身が今回の命令に疑念
を抱いていた。
(DCがわざわざサイクロプス隊を投入してまで狙った何かがここにある
はずだ。あえて警備を手薄にする必要がどこにある?)
とりあえず上層部に何か考えがある(と言うよりも何か考えていてくれる)
と信じるしかなかった。
「幸いアルビオンとクルー、MS等は士官学校所属なので残していける。
ここに残るパイロット諸君の能力も先の戦いを見た限りでは十分実戦に
耐えうるレベルに達している。伊集院財閥が民間から助力を得られる
よう手配しているのでそれまで何とか持ちこたえてくれ。諸君の健闘を
祈る。」
その後、如月未緒士官候補生がアルビオン艦長代理に任命された。
これは同時にキラメキ隊司令官代理に着任することを意味する。
「私にこんな大任が務まるでしょうか。」
思わず弱気な台詞が未緒の口から紡ぎ出されるとすかさずブリッジ
要員達がそれに答えた。
「やってもらわなきゃ困りますよ。生き延びるためにね。」
「あのロンド・ベルのブライト司令も最初はこんな状況だったそうですよ。」「いつもの調子で行けば大丈夫ですよ。」
別に彼等は親切心でそう言っている訳ではない。未緒に自信を持って
指揮してもらわなければ部隊全体の士気、ひいては彼等自身の命に
関わる。それに今日までの間に未緒はその能力に関して十分信頼を
得ていた。更に昨日の戦闘で実戦にも強いことが証明された今、キラメ
キ隊のメンバーにとって未緒は大半の現役士官よりよほど頼もしい存在
と言えた。そんな思いを込めた彼等の言葉に未緒が答えようとした時、
オペレーターが緊張した面持ちで叫んだ。
「所属不明機多数接近中。来ました、第二波です!」
飛行要塞グールのブリッジであしゅら男爵は不機嫌そのものといった
感じで悪態をついていた。
「ふん、サイクロプス隊め。看板倒れもいいところだな。たかが士官学校
一つ落とせず尻尾を巻いて逃げ帰りおって。尻拭いする方の身にも
なって見ろ。」
更に何か言いかけたあしゅらだが、副官の鉄仮面が近付いて来るのを
見て言葉を切った。
「間もなく目的地に到着します。ご采配を。」
しかしあしゅらは面倒くさそうに首を振った。
「采配だと?そんな物はいらん。目標に向けて全軍突撃だ。」
「は、しかし・・・」
「いいか、奴等の戦力はMSばかり十数機、戦艦一隻だ。力押しして
やれば止めきれる物ではない。分かったらとっとと始めろ!」
その戦歴はあまり誉められた物ではないが、実戦経験が豊富なだけ
あってあしゅらの指摘は的を射ていた。機械獣を一機撃破する間に他の
機械獣が接近するという展開が続き、防衛線は後退を続けていた。
「しまった、バドが!」
飛行可能な機体を持たないキラメキ隊にとって空中の敵を足止めする事
は至難の業だった。メカザウルス・バドが数機前線を突破して基地攻撃
に向かおうとした時、影が一つその前に立ちふさがった。
「Go to hell、地獄に堕ちなさーい!」
バドが一機真っ二つになって落ちていく。突然現れた増援が何者か確認
した夕子は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「テ、テキサスマックぅ?何でこんなもんがいきなり出てくんのよ!」
「私、ちょっと心当たりがあるんだけど、ひょっとしてさっきの声・・・」
望が最後まで話す前にテキサスマックのパイロットが割り込んできた。
「That's right、その通りよ。みんな久しぶりね。」
「片桐さん?」
全員の驚きの声が重なる。北米へ研修に行っている筈の片桐彩子が
こんな形で現れるとは普通誰も予測できない。
「Anyway、とにかくさっさと片付けちゃいましょ。」
そう言って彩子は次のバドに攻撃を始めた。他のメンバーも気を取り直し
て戦闘を再開する。
「このこのぉ、いい加減落ちやがれってんだ!」
好雄はトロスD7に攻撃を加えていた。しかし頑丈さが取り柄のこの機械
獣はまだ動きを止める気配はない。攻撃に夢中になっていたジムキャノン2の足下にミサイルが炸裂し、好雄が怯んだ隙にトロスが一気に間合いを詰める。
「うわあーっ!もうだめだあ!」
トロスの体当たりに吹っ飛ばされた好雄が悲鳴を上げる。止めを刺そうと
近寄りかけたトロスに上空からミサイルと機銃弾が降り注ぐ。
「好雄、まだ生きてるか?」
「へっ、ご挨拶だな。残念ながらまだピンピンしてるぜ。」
好雄の所へ駆けつけた諭が上空に視線を移す。
「ゲットマシンが駆けつけてくれたみたいだが、色が変だな。」
「ああ、ありゃプロトゲッターだな。・・・ん、まてよ。まさか・・・」
好雄の不安を決定的な物にする声が通信機から流れてきた。
「やっほー、お兄ちゃん、助けに来たよ!」
「だあー、やっぱりお前か!」
「ここは優美に任せてゆっくりしててよ。チェーンジ、ゲッター3!」
トロスと灰色のゲッター3が取っ組み合いを始めたのを横目で見ながら
諭は好雄に尋ねた。
「おい、ひょっとしてあのパイロットって・・・」
「ああ、俺の妹だ。」
「一体どうやって・・・あ、まさか、早乙女博士とお前ん家、何か関係
あるのか?」
「関係も何も、バリバリの親戚だよ。」
「なるほどねえ。」
そんな話をしている間に目の前の勝負の決着がつこうとしていた。
「いっくよー、優美ボンバー!」
ゲッター3が力任せにトロスを担ぎ上げ、勢い良く地面に叩きつける。
衝撃でボディがねじ曲がったトロスは機能を停止した。
「ぬうう、サイクロプス隊め、いい加減な事を抜かしおって!」
あしゅらは予想外の事態に苛立ちを隠そうとしなかった。怒りにまかせて
最終手段に訴えることを決意する。
「全速前進!こうなったら自らの手で仕留めてくれるわ!」
弾幕の嵐の中を突き進むグール。損害を受けつつも防衛線を突破、
施設に対する攻撃を開始しようとした時、施設内から意外な機体が姿を
現した。
「グランゾン!何故こんな所に?」
パイロットはその言葉が非常に気に障ったらしく、棘のある返事が返って
きた。
「私の世界征服ロボをあんな低俗なメカと間違えないで欲しいわね。」
「ねえ、今の声、聞き覚えない?」
「うん。紐緒さんじゃないかと思うんだけど。」
紐緒結奈。キラメキ士官学校技術士官コース所属。藤崎詩織や如月
未緒と共に首席争いのレギュラーであり、いずれは開発チームのトップ
に立つと目されている。
「邪魔な奴。ひねりつぶしてくれるわ!」
グールの攻撃が結奈の機体に集中する。しかし結奈は避けようともせず
平然と攻撃を受けた。
「これは私に対する挑戦ね。その愚かさ、身を以て償いなさい。」
世界征服ロボから発射された巨大なドリルがグールに大穴を開ける。
「うおおーっ!馬鹿な、これほどの力が!」
最早グールに戦う力は残っていなかった。それどころか次の一撃で撃墜
されるのはまず間違いなかった。
「い、いかん、このままでは・・・総員退避、急げ!」
「これでもくらいなさい。」
世界征服ロボの大出力ビームの直撃を受け、グールは溶けた金属の
固まりになって地上に落下した。間一髪脱出に成功したあしゅらは
脱出艇の機内で歯ぎしりをしていた。
「ぐうう、キラメキ隊め、覚えておれ!」
次回予告
DCの攻撃を二回もくい止め、やっとで一息ついた俺達キラメキ隊。
ところが連邦軍の総司令部から通達が届いた。実戦部隊として俺達を
運用するんだと。マジかよ、まったく。おまけにアフリカ戦線へ向かえ
ときたもんだ。おいおい、無茶言わないでくれよ。無事にここを出て
行けるのか?
See you again!「エクソダス」