「激闘サイクロプス隊」
 初めての実戦、しかも相手はたった四機とはいえ、歴戦の強者、
サイクロプス隊。士官候補生達の間に緊張が走る。
「バニング隊が戻るまで持ちこたえてくれればいい。数と機体性能は
こちらが上だ。腕の差は何とかカバーできる。」
口ではそう言ったものの状況はかなり悲観的だった。しかしこういう時に
総指揮官のシナプスが弱気を見せるわけには行かなかった。
「彼等を信じましょう。きっと上手くやってくれます。」
ブリッジの面々を力付けようと必死になっている未緒の言葉に頷いた
シナプスは自らに言い聞かせるように力を込めて言い放った。
「うむ、その通りだ。あのバニング大尉が鍛え上げた連中がこの程度の
任務をこなせないわけがない。」

「十一機対四機。数の上ではだいたい四倍か。普通は結構楽な戦い
なんだけどね。」
待機中のジムカスタムのコクピットで諭がぼやいていると通信が入った。
「まあ何とかなるって。ばっちり支援してやるからがんばれよ。」
「好雄のジムキャノン2と美樹原さんのガンキャノンDは後ろにいる
からまだ気楽だよな。まあ文句言っても始まらないし、援護よろしくな。」
そう言った後で諭はパイロットが誰か知らないジムスナイパー2もいる事
を思い出したが、改めて確認するのも面倒なので放っておいた。

バニング小隊は苦戦を強いられていた。さっさと片付けようと攻勢に
出れば敵は後退し、味方の救援に向かおうとすれば集中砲火を浴びる。
「くそっ、こいつら慣れてやがる!」
苛立ちを隠しきれないベイトをバニングがたしなめた。
「焦るな。ここで無理をしてやられては状況が悪くなるばかりだ。向こうは
奴らが何とかすると信じるしかない。」
その言葉は自らに対して言い聞かせているかのようでもあった。

 いよいよサイクロプス隊が接近してきた。当面の作戦はアルビオンと
三機の支援用モビルスーツが後方より援護射撃を行い、残りの八機が
二手に分かれて敵の侵攻をくい止めるというものだった。これでは
前線の戦力比が二対一まで低下してしまうが、選択の余地はなかった。
「作戦開始、幸運を!」
未緒の声を合図に前衛の八機は進撃を開始した。

 「うっ!まだ・・・やれるよ!」
清川望のズゴックは既に左腕のコントロールを失っていた。残された
右腕に全てをかけて突進する。
「行くよ!」
アンディのケンプファーに渾身の一撃をたたき込む。辛うじてブロック
したものの意外に大きなダメージに驚くアンディ。
「何だと?直撃ならやられてるぜ。」
破壊されたショットガンを捨てて距離をとろうとしたとき今度は側面から
衝撃を受ける。正面に気を取られている間に朝日奈夕子のアクトザクが
回り込んでいた。
「へへ。さっきのお返しだよ。」
警報が鳴り響くコクピット内で夕子はそう言って攻撃を再開した。その
すぐ近くではガルシアが鏡魅羅のゲルググマリーネと藤崎詩織の
フルアーマーガンダム相手に手こずっていた。
「くそお、何者だ、あのガンダムは!」

 諭達の方は一層厳しい状況だった。こちらはいわばサイクロプス隊の
主力であり、腕の差はかなりものを言っていた。
「くっ!庶民の分際で!」
伊集院レイのギャンは際どいタイミングでシールドを構えた。防ぎきれ
ない衝撃がコクピット内のレイを揺さぶる。虹野沙希のパワードジムが
レイをサポートしようとしたが、モニターからミーシャのケンプファーが
姿を消した。
「どこを見てやがる!」
「え?・・・きゃああっ!」
沙希の機体にチェーンマインが巻き付く。爆炎の中から現れたパワード
ジムは動くのがやっとの様だった。この機体には修理装置が装備されて
いたが、残念ながら自らを修理することは出来なかった。
「ちいっ!」
サーベルを突き出すレイ。何とか当てることは出来たがまだ決定的な
ダメージにはならなかった。

 「こいつ、なかなかやる。」
シュタイナーは自分の前に立ちはだかるガルバルディβに脅威を感じ
ていた。戦闘が始まってから今までお互いに決定打を与えられない。
相手に僚機のジムカスタムや支援射撃のサポートがある分戦いが
長引けばこちらが不利だった。
「だがミーシャが向こうを片付けてくれればやりようはある。」
シュタイナーの思惑を察したゆかりは諭に通信を送った。
「つらだてさん、いじゅういんさんたちのおてつだいをおねがい
します。」
「でも古式さん一人じゃ・・・」
「わたくしはだいじょうぶです。ておくれになるまえにいってください。」
ジムカスタムがミーシャの方へ向かい始めるのを見逃すシュタイナー
ではなかった。
「そうはいかん!」
ジムカスタムを引き留めようとしたケンプファーをビームが掠める。
「それはおたがいさまというものです。」
コクピット内のゆかりのつぶやきをシュタイナーは知る由もなかった。
 
 諭の乱入によって圧倒的にミーシャの有利に傾きかけていたゲーム
バランスが中間点付近に引き戻された。二機がかりの猛攻に次第に
ダメージが蓄積されていく。それでも戦闘を継続していれば最後に
立っているのはケンプファーの方である可能性が高かった。
「そろそろ潮時か。」
しかしシュタイナーはそう判断した。この戦闘に勝ったとしてもその後
任務を遂行できなければ意味がない。
「作戦を中止する。全機撤退!」
四機のケンプファーはバーニアを全開にして戦場を離脱。時を同じ
くしてバニング小隊と交戦中の敵部隊も後退を始めた。
「はあー、助かったあ。」
「本当。一時はどうなるかと思ったよ。」
とりあえず持ちこたえられたことを喜ぶ一同。一方ブリッジでは今回の
戦闘に関する分析が行われていた。
「今の経緯についてどう思うかね、如月君。」
「はい、サイクロプス隊の真の目的は施設もしくは施設内部の何かだと
考えられます。キラメキ隊の予想外の抵抗により任務の遂行が困難
になったため撤退したのでしょう。」
「恐らくその通りだろう。となるといずれ再攻撃がある。次はどう来るか、
だな。」
一端言葉を切って深刻な表情をしたシナプスだったが、やがて気を
取り直したように指示を出した。
「とにかく彼等は良くやってくれた。ゆっくり休ませてやってくれ。念の為
警戒は怠るなよ。」

次回予告
 ベテラン勢がごっそり抜けて人手不足のキラメキ隊に、やって来ました
ニューフェイス。役に立つか立たぬかは使ってみてのお楽しみ。次回
ときめきロボット大戦「助っ人、大暴れ」・・・さて!