「キラメキ隊出撃」
 「あー、しんどかった。」
早乙女好雄が見るからに疲れ果てた様子で宿舎に向かう道を
歩いていた。その隣にいた陣館諭が面白そうに話しかける。
「しかし好雄もすっかりバニング教官のお気に入りだよな。腕立て伏せ
200回にパックドリルか。」
諭の言葉を聞いて重装備で延々走らされた時の苦しさを思いだした
好雄は露骨に嫌な顔をした。
「止めてくれよ、まったく。あのバックパックは俺にゃ重すぎるぜ。まあ
ザクになら丁度いいかもな。」

 キラメキ士官学校。連邦軍の士官学校としては世界的にトップクラスの
水準を誇る。名目上は連邦軍の施設だが、設立・運用はほぼ伊集院財
閥の力によるものであり、実質的には民間団体と言ってもいい。連邦軍
への資金協力の見返りに優秀な人材をスタッフとして多数招くなど、施
設面以外の充実ぶりも高く、優秀な士官を多数輩出していた。

 諭達の前方に古式ゆかりが空を見上げてぼーっと突っ立っていた。
「古式さん、どうしたの?そんなとこで。」
「ああ、つらだてさんにさおとめさんですか。そらもようをながめていた
のです。」
諭の返事を待たずゆかりは付け加えた。
「どうやらあらしがきそうですねぇ」
「え、こんなに晴れているのに、それはないと思うよ。」
しかしゆかりは自信あふれる態度を崩そうとしなかった。
「そろそろですねぇ。ではまいりましょう。」
しかしゆかりは宿舎ではなく格納庫へ向かって歩き始めた。
「おーい、そっちは格納庫だよ・・・変な古式さん。」
その時遠くで爆発音が響き、黒煙が立ち上った。
「何だ、事故か?」
その質問に答えるように敷地内に警報が鳴り響いた。
「敵襲、敵襲。候補生は第一種戦闘配備、バニング・カレント各小隊は
出撃せよ。繰り返す、候補生は第一種戦闘配備、バニング・カレント各
小隊は出撃せよ。」
「行くぞ!」
二人は一斉に格納庫に向かって駆け出した。
「なあ、諭」
「なんだ?」
「嵐ってこのことかな?」
「あ、なるほどね・・・って、何で古式さんがそんな事知ってんだよ!」
「さあ・・・」

 「無駄弾が多い!」
ザク改のマシンガンをかわしたバニング機は反撃をお見舞いした。
「隊長、何故奴らはこんな所に攻め込んで来たんでしょう?」
アデルが素朴な疑問を口にした。
「訓練用の敵役として売り込みに来たんだろうよ。」
すかさずモンシアの軽口が割り込む。
「だったら不合格だな。こいつらの相手はひよっこ共には荷が重い。
それに・・・」
ビームサーベルをザクに突き立てながらバニングは続けた。
「あいにく席は俺達で一杯だ。」

 アルビオンのブリッジでは総司令兼任のシナプス艦長が戦況を
見守っていた。
「現時点ではやや優勢だがまだどちらに転ぶかわからんと言った
ところか。敵も必死だな。」
しかしやがて敵軍の陣形が崩れ始め、撤退を始めた。
ブリッジの緊張が和らぎかけたとき、静かな声が響きわたった。
「艦長、現在の状況は危険です。」
声の主は士官候補生で唯一「実戦参加」している如月未緒だった。
「どういう事かね、如月君。」
シナプスの質問に未緒はよどみなく答えた。
「敵部隊の撤退が偽装ならば、深追いしているカレント小隊が致命
的な打撃を受けて形勢が逆転する恐れがあります。またバニング
小隊の位置も決して我々に近いとは言えません。」
「なるほど、事態は急を要するな。」
頷いたシナプスは前線部隊に緊急命令を発した。
「敵部隊の動きは陽動の恐れがある。速やかに後退し防備を固めよ。」
しかしカレント小隊の反応が鈍く、結局それが命取りになった。
瞬時にして壊滅したカレント小隊の残骸を踏み越えてケンプファーの
部隊が姿を現した。

 「あのマークは・・・サイクロプス隊!」
「馬鹿な、何故たかが士官学校にあんな大物が来るんだ?」
その時サイクロプス隊隊長のシュタイナーは満足そうなつぶやきを
漏らしていた。
「雑魚は片付けた。名高いバニング小隊と手合わせしたいところだが、
任務を優先しなくてはな。アンディとガルシアは右翼へ、俺とミーシャは
左翼へ回る。他の者はバニング小隊を足止めしろ!」
四機のケンプファーが飛び出すと同時に残ったモビルスーツがバニング
達に襲いかかる。サイクロプス隊を止める手段は一つしか残されていな
かった。
「敵MS四機接近中。キラメキ隊全機出撃せよ!」

次回予告
 精鋭サイクロプス隊を相手に苦戦を強いられるキラメキ隊。傷だらけの
機体、破壊される施設。死闘の果てに彼等が見た物は。次回ときめき
ロボット大戦「激闘サイクロプス隊」
−Not even justice,I want to get truce.  真実は見えるか。