歴史小説

義元、遼たり


書  名:義元、遼たり
著者名 :鈴木 英治
出版社名:徳間文庫
登場人物:今川義元、太原雪斎

update by 2023/1/9


若干、勘違いをしてしまったのは、読み始めてからであった。

何を思ったのか、「義元、遼たり」という書籍の続編であるとばかり思って手に取ったのが本書だ。

つまり、今川義元という父と、その子である氏真の父子物語が、前後編に渡って描かれていると早とちりをしてしまった。

しかし読んでみるとその誤りに気がついたのだ。

良い意味で期待を裏切られた。

今川氏真という人物について、いくぶん先入観が多く頭の中で占めていた。

思い込みとではあるが、「公家の格好をした蹴鞠大好きなお坊ちゃん」とでも言おうか。

某歴史シミュレーションゲームにおいても、その能力値はお世辞にも高くなく、武将というよりは文化人の立ち位置。

しかし本作では立派な、今川家の当主であり父であり夫であった。

父義元が桶狭間で討たれた後は、しっかりと今川家をそして駿府に住む人々の安寧を願う姿。

歴史は結果が正義であり、さらに後世には面白おかしく伝わってしまうモノ。

本作を読んでみて、自身の思い込みを半生しつつ、今川氏真という人物を見直してみたくなった。


★ ★ ★ ★ ☆ 4stars
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落梅の賦


書  名:落梅の賦
著者名 :武川  佑
出版社名:講談社
登場人物:武田六郎信友、穴山梅雪

update by 2023/3/18


甲斐武田家の終焉が描かれた作品。

武田家の最期は、武田信玄という巨星が統治していた世とはことなり、家臣らは雪崩の様にして織田方や徳川方へと降伏するという、痛ましいほどあっけない結末だ。
その中には地侍だけではなく、武田一族も含まれており、その代表格としては穴山梅雪信君であろうか。

そして本書の主人公の一人となる、信玄の異母弟にあたる武田信友。

本作では補陀落渡海の失敗で命を長らえた清安という坊主と、武田信虎が駿府に追放後に授かった信友という二人を中心にして物語が進行していく。

清安という伊勢から落ちてきた坊主。

補陀落渡海を慣行しているが、元々は武士だったという経歴。

またこれが、武田信友の奇妙な出会いとなり、その活躍は駿河の地へ移り、武田家滅亡までを見届けることとなる。
この二人のやり取りについてはともかく、ここに穴山信君も絡み、当時の衰退していく大名家の悲哀が所々で描かれている。

歴史的な史実はともかく、歴史の転換点を描いている割には、何かあっさりしている気がしてしまった。 何が物足りないのか。

合戦の場面も、凄惨な戦争として描写されており、人間ドラマとしても信友と信君に清安を加えた三人からの視点であり、武田勝頼などは蚊帳の外。
いままで多くの作品でわき役でしかなかった武将視点で描かれるのは面白い。

調べてみると著者は「虎の牙」という、本作につながる作品をすでに発表しているとか。

まず「虎の牙」を読めんでみれば本作の感想もだいぶ、変わってくるかもしれない。



★ ★ ☆ ☆ ☆ 2stars
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書  名:脇坂安治 七本槍と水軍大将
著者名 :近衞 龍春
出版社名:実業之日本社
登場人物:脇坂安治

update by 2023/10/19


「賤ヶ岳七本槍」といえば、加藤清正、福島正則、片桐且元、加藤嘉明、平野長康、糟屋武則そして脇坂安治といった武将を挙げられる。
個人的にこの中でも平野長康や糟屋武則といった武将は、加藤清正や福島正則などと比べると、馴染みが薄いのではないだろうか。

それに比べて脇坂安治。

どちらかというと、ターニングポイントとなる歴史的な場面で名前を目にすることはあっても、その生涯について述べた作品は少ないと想われる。
本書は、乱世の戦国時代、織豊の時代から江戸時代初期にかけて活躍した安治を主人公にした作品だ。
また、サブタイトルにもある「七本槍」と「水軍大将」から、その活躍の場面も想像できる。
賤ヶ岳を場面にした柴田勢との戦いから、秀吉の九州攻め、そしてそれに続く朝鮮出兵での活躍が描かれたエピソード満載と期待感が高まる。

さて本書は脇坂安治の一代記とでもいおうか。

近江の浅井家に仕えたところから、羽柴秀吉の家臣となってからの立身出世が描かれている
また初陣から天下分け目の関ヶ原の戦いまで、戦国時代の主要な合戦を軸にして、安治の人生を凝縮した物語となっている。

政治的な難しい話は抜きにして、いくつかのエピソードを交えながら、槍を片手に戦場を疾駆する安治。
その半生が淡々と川の流れの様に描かれており、読んでいて難しいことは無い。
後半では水軍を創設し、その大将となり大海原を駆け回り奮戦する姿も、新鮮な気持ちで与えてくれる。
そして安治の家族愛に満ちた日常も描かれ、その武張っただけの姿では無い一面についても感じさせてくれている。。

しかし義父弟が序盤から登場するするのだが、この伏線が安治の運命を左右するのではと期待を持たせる伏線もあるのだが・・・。

最後は細々と収束していってしまう点が少々がっかりでもあり、少々残念でもある。



★ ★ ☆ ☆ ☆ 2 stars
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