歴史小説

駆ける 少年騎馬遊撃隊


著者名 :稲田 幸久
出版社名:角川春樹事務所
登場人物:小六、山中幸盛、吉川元春


草原を疾走している騎馬の後ろ姿、そして騎乗しているのは赤い衣を纏った子供。
表紙の絵柄のことだ。

題名から騎馬隊を率いて躍動する少年の、出世物語が描かれているのかと想像ができた。
しかし読み進めると必ずしもそうでは無い事に気づかされる。

戦国時代を舞台にしながら、英雄など光り輝く物語よくあるが、本作は一転して陰の部位が多くている様に思えてならない。

主人公である小六がその代表だろう。
村が賊の集団に襲われ、親兄弟に加え親友までも亡くし、天涯孤独の身になった少年小六。
唯一、小六に残されたのは風花という名の葦毛の牝馬のみだ。
そして居場所が定まらない小六に手を差し伸べたのが、その馬術に目をつけた吉川元春。
やがて小六は吉川元春の配下となり、自分を居場所を見つけ出し、吉川軍の人々に支えられ成長していくことになる。

しかし善意だけで小六は拾われた訳では無く、その馬術を合戦に役立てるという思惑が見え隠れしてならなかった。 そして小六を鍛えられることになる。
その師匠となる人物、老将浅川勝義であるが、彼にも人には言えない暗い過去を胸中に持ち合わせているのだが、それは物語の中で。

一転して吉川元春が属する毛利家により、没落させられた尼子家。
この尼子家の再興を夢見る家臣等に担がれた勝久、それを支える山中幸盛やその仲間達。
幸盛の胸中にあるものは、尼子家の再考よりも毛利家憎しに塗り固められている。
何がなんでも毛利家を叩きのめす、という強い志を持った状態で出雲の奪回を賭けた戦いに挑もうとしていた。

尼子家と毛利家を代表として吉川軍による決戦。

向かえるのは山中幸盛が率いる尼子軍、それに攻める吉川軍が衝突するのだが。
思いがけない結末で戦いに終止符が打たれ、小六や幸盛といった面々の運命はどうなるのか。

最後はちょっと感動してしまうかもしれないです。


★ ★ ★ ☆ ☆ 3 stars
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騎虎の将 太田道灌(全二巻)


著者名 幡 大介
出版社名 徳間文庫
登場人物 太田資長、長尾景春、伊勢新九郎

室町幕府が衰退したきっかけとなったと言われて久しい応仁の乱。

戦国時代の火蓋が切られたというターニングポイントとして語られるほど、その知名度は高く歴史の教科書にも記されている。
しかし関東地方ではそれよりも以前から、武士による権力争いが勃発しており、すでに戦国乱世への序章を迎えていた。

太田道灌という武将について、勉強不足であるためかほとんど知らない。 江戸城を築城したとか、最期は暗殺されたという事ぐらいの知識であり、以前に伊勢原市ある首塚を訪ねたのだが、それも偶然見つけて立ち寄ったくらい。 さらに道灌の生きた時代、関東では全国に先駆けていくつかの大乱、享徳の乱や禅秀の乱といった事変が勃発している。
しかしこれの乱に関する知識も皆無の状態。
そんな状態で手にとったのが本書であり、「太田道灌」という名に惹かれたのが事実である。

本書では太田道灌の青年期から晩年、最期までの事績が記された長編大河モノとなっている。ずばり「太田道灌物語」といってもおかしくはない。

単に道灌の動向や活躍を描かれているだけではない。
関東という、当時では辺鄙な地における支配を目論む武士たちの闘争が描かれている。
享徳の乱や、長尾景春の乱といった争いに対し、道灌がどう立ち向かったのか。
戦だけでは無く、江戸城の築城をはじめとした経済という考えも取り入れた合戦の仕方は、時代の先駆者とでもいえよう。

上杉氏の家宰となる活躍する道灌は、やがて関東屈指の武将として名を馳せることとなるのだが、その途上では様々な苦難が待ち受けている中、道灌はどの様にしてそれを乗り越えていったのか。

また道灌以外にも多くの板東武者が躍動して、関東を駆け巡る様を楽しめる。
武田信長という老将が強く印象に残り、長尾景春という義弟との関係、道灌とは水と油の長尾忠景とのやりとりは、ほくそ笑んでしまう。
さらに京にいる伊勢新九郎という、後の伊勢宗瑞となる人物ではあるが、関東つながりから続編をと期待してしまう。

さて最後に、本書の題名である「騎虎」とは「何」なのか。
読んでもらえればその「何」がきっとわかります。

長編とはなってますが、歴史好きであるのであれば、飽きずに読み続けられるはずです。


★ ★ ★ ★ ☆ 4 stars
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計策師 甲駿相三国同盟異聞


著者名 赤神 諒
出版社名 朝日新聞出版
登場人物 向山又七郎、小春

そもそもこの「計策師」って何なのか。
この題名に目を奪われ手に取ったのが本書である。

「計策師」についてだが著者が巻末で、外交の役割を担う「奏者」「取次」もしくは「軍師」ともいうべき存在であり、また造語と説明されている。

つまり大名家を代表として他家との折衝にあたり、条約締結に奔走する役割とでもいおうか。
弓や槍を手にする武士とは異なり、弁舌を武器にして命を賭して戦う者だそうだ。

本作においても甲斐武田家、駿河今川家、相模北条家の三家で結んだ、いわゆる甲駿相三国同盟の締結に奔走した計策師の悪戦苦闘が描かれている。
同盟締結に反対する勢力の妨害工作や、命を狙われることも屡々。
また相手を舌先三寸で相手を納得させ、また相手の懐に飛び込み心を鷲掴みにする姿は、現在社会の営業マンといったところか。
それでも他者の命は奪わず、巧みな話術で相手を捻じ伏せる、承服させるやり方は計策師の特徴であり、一番の見せ場ともいうべきところだ。

なお甲駿相三国同盟という条約は史実に基づいていても、その過程を描かれ方についてはフィクションとなっている。
合戦などの場面は脇に追いやられることで、地味にうつる交渉事中心の物語の様にも思えるが、
史実に則る必要などないわけあるから、書き手の思い通りまさにエンターテインメント小説である。
そこは杞憂に終わる。

個性豊かな登場人物もその一つだろう。

又七郎の師匠でもあるが、その力量は弟子に劣ることにコンプレックスを抱く駒井高白斎。
甲斐国内に限っても、金銀を利殖している穴山信友、女好きとして描かれる小山田信有、そして武田晴信の最大のライバルである重鎮の勝沼信元。
これ以外にも多くの人物が又七郎と関わり合いを持ち、交友を深め、時には裏切り、命を奪い合うの展開を見せてくれる。

されに本文中ではその人物を「姓名」や「官職名」で語られるのは当たり前ではある。
しかし又七郎の心中の言葉なのだろうか、本書内ではその人物を「あだな」で表現している場面が多い。
どんな「あだな」がつけられているのかについては本書を読んでいただきたい。

間違えれば地味な内容である交渉や対談の話になり兼ねない。
しかし交渉とは相手との談判であり、相反する意見に決着をつけることでもあり、奇策をもって折衝をまとめる「どんでん返し」が散りばめらており、読み手を飽きさせない。

最後まで計策師として人を殺めず、己の舌を武器に立ち回る又七郎。
同盟は無事に締結されるのか。


★ ★ ★ ★ ☆ 4 stars
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黒牢城


著者名 :米澤 穂信
出版社名:角川書店
登場人物:荒木村重、黒田官兵衛


織田信長に反旗を翻し、有岡城に籠もった荒木村重とその配下の武将たち。

籠城した城内で巻き起こる難事件。

それは謎に包まれた怪事件であり、その真意を読み解いていくミステリー仕立ての時代小説となっている。

城主の村重が謎の解明に乗り出すが、なかなか解き明かせない。
村重は地下牢に幽閉した黒田官兵衛の知恵を借り、事件を解明していくという話だ。

本書の中で村重が勘兵衛と土牢で語るこの場面、互いのやりとりは読んでいて楽しい。
村重が事件を整理して語り、それを勘兵衛が独自の解釈でヒントをつぶやく。
それを村重がさらに解読して解決へと導く方程式。

一見すると村重謀反という歴史的事実とは関わりが無い様に見えるのだが、詳細についてはここでは省かせてもらう。
事件のあらましを書くとネタバレにもなってしまうからだ。

周囲を敵となった織田家の軍勢に囲まれ、信じていた毛利家の救援が来ない事実に追い詰められる籠城した人々。
追い詰められる荒木方。

歴史好きであれば結末までの史実は周知であろうが、ミステリーとして書かれた本書の結末にどう感じるか。
どちらかといえば歴史モノというよりは、謎解きに重心をおいた物語だ。
どう思って本書を手に取るのか。

それにより評価が分かれそうだが、どちらにしても良い意味で期待が裏切られるだろう。


★ ★ ★ ☆ ☆ 3 stars
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