Last Update 99-03-29
連載小説 物欲スパイラル
(第2話.
入って行く..)
前回までのあらすじ
Tさんは、CD-Rを買おうと先輩のS氏やS氏の友人のOさんに相談したところ、2倍速のCD-Rを買うつもりがいつのまにか4倍速のCD-RWを買うハメに..。
SCSIカードも必要だという事もわかり、当初予算の3万円を大きくオーバーしたTさんは何か釈然としない物を感じていた。しかし、物欲には勝てず、4倍速CD-RWとSCSIカードをインターネット通販に注文したのだった。
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そして三日後、待望のCD-RWとSCSIカードが届きました。通販会社からのメールで消費税と送料がかかると書いてあった時にはちょっとびっくりしましたが、乗りかかった船だと思い、申し込む事にしました。更に、振り込み手数料が620円かかるとの表示が出ましたが、カード振り込みなので実感がなく、そのまま振り込みました。
SCSIカードを挿し、ドライバのインストールが終わり、いよいよCD-R初体験の時が来ました。ここでありがちなのが、「CD-Rメディアがない」というパターンですが、そこはTさん、抜かりはありません。週末にヤマダ電機で128円のメディアを10枚、買っていたのです。
ソフトのマニュアルを片手に格闘すること30分、いよいよ、CD-R焼き込みスタートです。メディアは音楽CD、いまだに時々聴いている南野陽子のベスト「NANNO SINGLES」です。
インジケーターがオレンジ色に変わり、「書き込んでいます。」の表示が出ました。そして待つこと3分、「バッファアンダーランエラー」の表示が出て、無情にもCD-Rは止まってしまいました。
翌日、S氏に、「バッファアンダーランエラー」の話をしたところ、
「どうやって書き込んでいるの?オンザフライ?、ハードディスクにイメージを作った?で、何倍速で焼いたのよ」
と聞かれましたが、何のことだかさっぱりわかりません。
いきさつを順を追って話すと、S氏は「ああ、オンザフライでやったのね」と言いました。
「ところで、TさんのCD-ROMは何倍速?」
とS氏に聞かれたTさんは、「FMVから持って来たCD-ROMだから、多分4倍速」
と答えました。
「それじゃあだめだよ。4倍速のCD-ROMから4倍速で書き込もうとしたわけ?」
とS氏に言われ、ちょっとムッとしたTさんは、
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
と聞き返しました。
「早いCD-ROMを買う、それか2倍速で書き込む事かな。」
何という事だ。最初の予算から2万円近くオーバーして買った4倍速CD-Rが2倍速でしか使えないなんて、それなら最初から2倍速を買っておけば良かった。
そう思っているTさんを後目に、S氏はお得意のインターネット通販のページを開いています。
「これなんかどう?」
と見せられたCD-ROMは32倍速で1万円でした。
「でも、これはSCSIでしょう。ATAPIじゃだめなんですか?」
見事な切り返しです。SCSIとATAPIについては「CD-R活用大百科」に載っていて、じっくり読みました。Tさんは、どうも釈然としない出費と引き換えに日常生活では全く役に立たない知識を確実にGETしていたのです。しかしS氏は、
「Tさん、音楽CD作りたいんでしょ? だったらSCSIじゃなきゃダメだよ。」
と冷たく言い放ちました。
何でも、音楽CDをコピーする為にWAVファイルを作る時、SCSIのコマンドを利用する必要があるというのです。またしても、S氏にしてやられました。
「最悪、音楽CDは作れないかもよ。」
とS氏に言われ、SCSIを買う事にしました。Tさんには、S氏がまるで貧乏人から金をだまし取る詐欺師のように思えて来ました。
「ところで、ライティングソフトは何使ってるの?」
「楽々書込123です。」
Tさんは答えました。
「え〜、あんなの使ってるのぉ〜?」
S氏はまたしてもTさんを追いつめます。
「いいかい? CD-Rを買う時はライティングソフトがCD-R本体よりも重要なんだぜ。CD-Rを生かすも殺すもソフト次第なんだから、ましてや「楽々書込123」なんてソフト、誰に勧められたの? 店の人?」
Tさんは小さな声で
「Oさんです。」
と答えました。ウソをつこうかとも考えましたが、もしウソがばれた場合、今度は何を言われるか判りませんから正直に答えてしまいました。
「あいつか、しょうがねーなー。あいつももうちょっとちゃんと教えてやりゃあいいのによ..。」
もう我慢なりません。自分はいいのです。初心者だし、言われても仕方ありません。しかし、Oさんの悪口を言われるのは許せません。そして、自分のせいでこの野郎にOさんのネガティブなイメージを植え付けてしまったとしたら..。
耳が熱くなって来ました。体が震えて来ました。拳を握りしめ、深呼吸をします。
突然、机の中をごそごそ探していたS氏が振り向きました。ビクッとするTさんに、S氏は数枚のフロッピーを差し出しました。
「やるよ。」
フロッピーには「Easy-CD Ama」と書いてありました。「CD-R活用大百科」にも載っていて4星がついていたソフトです。
「え、いいんですか? でも、高いでしょう。」
「買うと2万円くらいするハズだよ。俺はいいんだ。別のソフト買ったから。」
Tさんは力が抜けてしまいました。この人は、時々こういう太っ腹な所があるのです。
すっかり忘れていましたが、マザーボードをくれたのもこのS氏でした。
「どうもありがとうございます。」
そう言ってS氏と別れた帰り道、Tさんは思いました。
「やっぱりSさんはイイ人だなあ、あれで高圧的な所がなきゃ、もっと良い人なのに..。」
そして
「やっぱり持つべき物は、オタクの知り合いだな」
と思ったのでした。
しかし、これから自分が坂を転げ落ちるボールのように深い谷底に落ちて行く事など、Tさんには予想もしていませんでした。
つづく
おことわり
この物語は、実話に極めて近いですがあくまでもフィクションです。
また、登場人物はごく身近にいそうですがあくまでも架空の人物です。
また、「Tさんは、友人Tと同一人物ではないか?」というお問い合わせをいただきましたが、
今回は違います。
登場人物を当ててみるのも良いでしょう。