Last Update 99-03-24

連載小説 物欲スパイラル
(第1話 それは、ほんの思いつきだった)

何の変哲もない普通の生活を送っていた人が、ある出来事をきっかけに、だんだん壊れていく。この物語は、そんな怖〜いお話です。

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Tさん(仮名)は、平穏無事なパソコン生活を送っていました。彼のパソコンは今となっては多少古いP54C-166MHzと先輩からもらったATマザー、それに合わせて新調したATミニタワーとFMVから移植したパーツという構成ですが、日常使っている分には何も問題はないし、アップグレードなんて考えてもいませんでした。

そんな彼が、CD-Rを欲しいと思ったのは、自分のCDライブラリからオリジナルCDを作りたいと言った単純な動機からでした。

音楽CDを作ると言っても、たいして使う物じゃないとの思いから、雑誌広告で29,800円で売っていた2倍速のCD-Rを買うことにしました。

それをパソコンオタクでもあり、マザーボードをくれた先輩のS氏に相談したところ、

「今どき2倍速ぅ〜? 今買うんだったら最低でも4倍速じゃなきゃ。」

と、話も聞いてくれません。Tさんにとってみれば、2倍速でも充分だったのですが、CDが17分で作れる事、そのCD-Rはファームウエアのアップデートが出来ない事などをインターネットのページを見ながら解説され、「そうかなあ」と思い始めていました。トドメを刺したのは、S氏の見せてくれた通販のページで4倍速が34,800円で売っていた事で、「ま、予算オーバーだけど5,000円くらいなら」と言うことで、これを買うことに決めました。

帰り道、何となく釈然としない物が残りました。4倍速はいいけれど、少ない小遣いから5,000円オーバーはちょっと痛いと思ったTさんは、本屋に寄り、「CD-R活用大百科」という本を買って帰ります。

CD-Rのカタログやライティングテクニックが載っていて、後々まで使えると思ったからです。
そこでTさんは驚くべき文字を見つけたのです。

「今から買うのであればCD-RWドライブをオススメする。」

愕然としました。いくら何でもこれ以上の追加投資は出来ません。悲しみに暮れるTさんですが、「しょがない、CD-RWにしよう。でも、5,000円以上高かったらやめよう。」と固く心に誓って、S氏に再び相談することにしました。

翌日の昼休み、S氏の職場を訪れた時にはS氏はいませんでした。そこで、S氏の隣の席のOさんに相談する事にしました。時々自分の意見を押しつけるような所があるS氏に比べ、Oさんはソフトな語り口で、初心者にも優しく教えてくれるような所があり、Tさんは信頼していました。Oさんにその事を相談すると、

「そうだね、CD-RWの方がいいよね。」

と言って、インターネット通販の店を探してくれました。

「これなんかどう?」

と言って見せてくれたCD-RWは38,800円。バッチリ予算内です。
喜ぶTさんに、Oさんはこう問いかけます。

「ところで、Tさん、SCSIカード持ってるの?」

初耳でした。何でも、CD-RはSCSIカードが必須であり、それを買わなければいけないとのこと。
Tさんが、

「SCSIカードがいらないCD-Rはないんですか?」

と聞くと、

「あるけど、CPU占有率が高くて書き込みエラーが出たりするから、おすすめ出来ないよ。」

と言われました。

詳しく聞くと、SCSIにはFASTとULTRAとULTRA WIDEがあり、安いカードだったらそれぞれ7千円、9千円、1万2千円ぐらいだけど、CD-Rに使うのであれば一番安いFASTで充分との事でした。

帰り道、トータルで約4万5千円の出費がTさんの肩に重くのしかかります。しかし、音楽CDを作れるのであればしょうがないかと思う事にしました。また、

「きっとSさんだったら、一番高いULTRA WIDEを勧めただろうなあ。」

とも思いました。そう思ったら、5万円の投資が4万5千円になって、かえって得した気分になるから不思議な物です。しかし、これが破滅への第一歩になるとは、その時のTさんは、夢にも思いませんでした。

 


おことわり

この物語は実話に極めて近いですがあくまでもフィクションです。
また、登場人物は
ごく身近にいそうですがあくまでも架空の人物です
登場人物を身近にいる誰かに当てはめて楽しんでみるのも良いでしょう。

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