退院後2週間で、一応体裁を整えて吹ける様にはなって来ました。面白いもので、身体が元の状態を作ろうとして頑張ります(本人は大変なのだが)。
一例を述べましょう。流れてしまう左の唇を何とかしようとしていたら、空気が上あご左上部の歯と唇の間に入りました。良い音がします。自分の音です。久し振りに聴いた気がします。筋肉、つまり口輪筋自体は弱くなって無いので空気を逃がさないんです。流れるのは縫い目が攣(つ)れるからなのですね。それを補う為に空気が入ったんです。上唇の形が良くなりました。
もちろんこれで全てOKではありません。一時的にしのいでいるに過ぎません。でも、完全に快復するまでは、こうした工夫の日々が続くのでしょう。覚悟しました。でも、2週間ほどで、9割方の事は出来る様になって来たのは自信です。癒りは早い方ですから。それに音を出す事にこんなに神経を遣った事が無いので、逆にこうなって見えて来た事もあります。まだ、それが形にはなっていませんけれど。それはまた次の機会に。
一番困ったのは、私のもう一つの仕事であるリード造りです。自分の状態が普通で無い事は確かなので、今ひとつ自信がありませんでした。もちろんリード造りのテクニックでは世界一を自負していますから、職人的感覚だけでも出来ますが、最後は自分で吹いて確認しないと商品にする事は出来ません。自分の気が済まないんです。下手なものを渡しては、それを使う人が可哀想ですから。
楽器屋さんに出すものは難しくて、店にストックしてある時間の経過をいつも考えないといけません。100%鳴らしてしまうと、逆に駄目になってしまいます。さりとて、鳴らないリードは問題になりません。湿度と温度の変化が与えるダメージも大きい。最後まで面倒見られる相手なら良いのですが、不特定多数相手では予測して作るしかありません。使用者に付いてある範囲に入る身体的条件を想定し、それを念頭に置いて造ります。余りにファゴットに向かないであろう人は、他のリードにして貰うしかありません。また、性能に上限はありませんが、下限は決めないといけません。最低でも普通の指遣いで、High-eが出せる事と、4分音符を132〜138で16分音符4つが確実にシングルタンギング出来るのがそれです。ダブルならもっと出来るのは言うまでもありません。そして良い音でね。そうした事は、自分が出来なければ確かめ様がありません。
だからちゃんと吹けない事には、自信を持って出せないし、良いものを造っていると言う矜持が保てないのです。まあ、人は少しずつ顔も体型も違うので、そこまで悩まなくても良い気もするのですが、性格ですね。だから442で吹ける様になった時は、正直ホッとしました。ピッチが取れないリードでは問題になりませんからね。引き攣れでタンギングも実は遅くなっていたんです。身体は関連しているから当然ではあるんですが、体験しないと分かりません。ようやく132でならシングルで切れる様になりました。もちろん日に拠って調子に差はあるんですが・・・・。
今も(2002年1月11日現在)こうした戦いは終わっていません。もちろん他人が見て、聴いて分かる様な無様な演奏はしませんが、水鳥の水中の動きの様にファゴットを吹く為の工夫と思考はしばらく続きそうです。災いとは思わずに、良い機会だから、それなりに楽しんで対処出来たら良いなあと思っています。日に日に良くなって行くのも感じますし、完全に戻れる日がそう遠くない気がします。まだ左目だけウインク出来ません。可愛い娘を見ても、そう出来ないのが残念ですよ(笑)。ああ、右目ですれば良いのか(爆)!
長々と書き連ねて来ましたが、今回の入院の顛末はこれにて木が入ります。ちょ〜ん!