アマチュアの演奏家(だけでは無いけれど)がどうしても音楽の形を作れない事は、ままあります。技術上の問題から派生する事なら時間の問題、練習量の問題が大きいと言えますが、頭を切り換える事で随分違うものです。そういった事柄、フィンガリングの問題など書いて行きたいと考えています。実戦的に身につけた事で、分かり易く書ければと思います。
さしあたって、楽譜を読むのに最も注意すべき点を挙げていきましょう。まあ、ありすぎるのでそれがまた難しいんですけど。
(1)音の長さ 皆さんはどうしてここは四分音符なのだろう、八分音符なのだろうと考えた事はありますか?音の長さを決めるのは作曲家に取っては大問題の筈です。しかもフレーズと密接な関係がありますから、勝手に解釈は出来ないのです。しかし、一つの何の指定も無い音は演奏家にその判断が委ねられています。例えば、四分音符にスタカートがあれば短い音ととらえますが、その長さは無限の段階があります。テヌートなどの無い普通の音符となら、共通する長さも考えられる程です。ドイツで活躍しているチューバの日本人演奏家で、「四分音符のスタカートはテンポ80までなら、一番長い」と言う人さえいます。これは私には、飲めませんが、チューバでは良いのかも知れません。
実はとても難しい問題から入ってしまったのですが、音楽を理解する為にはこの事が基本だとまず分かって欲しいのです。そうすると、ピアニストがペダルの操作に何故気を使うかが分かります。殆どの作曲家でピアノ音楽が大きな、大きな割合を占めている事も実は分かるのです。ピアノは音の切れる場所が正確なのです。つまり音の長さが正確なのです。管楽器では出る場所はタンギングをする、そして切る場所もまたタンギングをする事で決まるのです。息だけで、切る事もしますが、その場合でもホームポジションに舌は戻るのです。つまり舌は常にリードのチップ(先端)に停車中なのです。
私が菅原先生に最初に習ったのはこれでした。結構ショックでした。それでは、響きが足りないのではと言う人も居ます。だから一人で吹くなら「息だけで、切る事」も全くしない訳では無いのです。しかし、合奏の場合それでは語尾が合いません。楽器によって長さが変わってしまうからです。一例を挙げれば、ベートーヴェン8番の1楽章にスタカート付き四分音符でファゴットのソロが出て(37小節目から)、同じ形で2度目にクラリネットとユニゾンになる所(233小節目から)では八分音符で書いてあります。これは、ベートーヴェンが曖昧な長さを嫌ったと考えられます。
古いドイツの劇場(オペラをする)などのピットは響きが悪く、長めに演奏しないと具合の悪い所もあります。しかし、彼らはそこでしか、普通は演奏しないのです。だから、自分達がどのくらい長めにするか分かっているのです。ひるがえって我が国を見ると、世界で最も響きの良いホールを沢山持っています。そんな所で長めに演奏しては、ペダルを踏みっぱなしの下手なピアニストになるのです。余程の酷いホールで無ければ、響きはホールが付けてくれます。
さて、「音の長さ」に付いて極く一部に付いて書きました。全てはとても書き切れませんが、他の問題に関連して何度も出てくると思います。一旦、この項を閉じます。
次回は実戦に役立つフィンガリングとして、多くのファゴット吹きが出来ないと思っているAs-Bのトリルに付いてです。
1999年5月18日記