使えるフィンガリング(1) これはリード倶楽部会報から加筆訂正したものです。  

HPで情報をお届けするに当たり、何を書くのが良いかと考えましたが、指遣いが最も皆さんの役に立つのではないかと思いま すので、これから連載して行きます。  As−Bのトリルは常に話題になるものの一つだと思います。このトリルは出来ないと書いてある本もありますし、メーカーも特別なキーを付けたりする ので諦めてしまう人が多いのではないでしょうか。ファゴット協会の編集長をしていた折りに書いているので「知っている」人もおられるでしょうから、今回 はもう一つおまけが用意してあります。

 勿論これはモーツァルトの協奏曲の音域、第5線上のトリルの事ですから、そのつもりでどうぞ。霧生さんの書いた教則本を見た人は、Asのフィンガリン グをして右手のGのキーを動かす方法を御存じでしょう。しかし、これはBが 如何にも低いのです。私も菅原先生からこのやり方を習いました。ただ、この 時も、後に(当時)日フィルにいた友人からも「Aのホールをトリルするのが、良 いらしいんだけれど上手く行かない」と聞きました。実際、音がひっくり返ってどう仕様もありません。一回だけなら何とか行きますが、これではコントロー ルされた演奏とは言い難いですね。読響の山田さんがモーツァルトを演奏した時も一度しか入れていませんでした。この方法は無理なのでしょうか?当然違うから書いているに決まっていますね。

 フリッツ・ヘンカー氏(元ハンブルク州立劇場首席奏者・バイロイト音楽祭 オケにも常連で出演、芸大の客演教授、ハンブルク音楽院教授を歴任。ヤマハは最終的に氏をアドヴァイザーとしてファゴットを開発した)にレッスンを受けていた時に モーツァルトを吹きました。ヘンカーさんは「日本人はこのトリルのやり方を 知らないね。」と言って吹いて見せました。確かにAのホールをつかって見事 にトリルしています。どうやるのか聞いても、にやにやするばかりで教えてく れません。こっちは何度やっても旨くいきません。そうこうしている内に漸く教えてくれました。盲点があったのです。コツはまさにそこでした。

 高い音ではボーカルの穴は開いた状態の方が音が出し易いのですが、例えばテナー 音域では逆にPPキーを塞ぐ方が良い事は御存じでしょう。

真ん中のAsの時も左手のEホールはハーフホールになっていますよね。実はこれが旨く出来ない原因でした。考えてみればBはハーフホールにしていないのですから、音がひっくり返っ て当然なのです。つまり、トリルに入ったらEホールは完全に閉じられなくて はならないのです。バソンのフィンガリング表があれば見て下さい。バソンではBのフィンガリングはこれなのです(最近はヘッケルと同様のキーも付いて いるそうですが基本は変わりません)。音の高さにだまされていたのです。

 ヘンカーさんはこの事を余り教えなかった様で、レッスンを受けた人でもこ の事を知っている人は少ない様です。もっとも私が大分広めてしまいましたけど。私が氏から受けた影響はこれに限らず本当に大きかったですよ。それは皆さんにも役に立つと思いますから、おいおい書いて行く事にしましょう。さて、おまけの話しです。

 ここからがおまけです。

更にオクターヴ上のトリルです。これはかなり珍しいものですが、ストラヴィンスキーの管楽八重奏の冒頭1stファゴットに出てきます。これは本当に困ります。asを右手4指でなく5指で取り、右3指ホールと左1指で(cis,aの)2つ のキーを同時に動かすと言う力技もありますが、余り器用にはいきません。実 に簡単な方法があります。

asを普通に取り左1指で2つのキーを同時に動かすとaが鳴ります。この時低Dキーを一緒に押さえて下さい。かなりbに近い音が出るでしょう?。楽器にもよりますが、bが少々低いもののトリルに聞こ える筈です。少し唇を締め加減にした方が結果が良い筈です。試してみて下さい。そうそう、低いトリルでは楽器によりAのホールで旨く行かない事があり ます。その時はGキーでトリルして下さい。