杉本さんの人柄、音楽に大事な事。

初めてお会いした時に撮った写真。ドヴィエンヌ演奏中(若い!)

ウルム劇場(Ulmer Theater)の楽屋口前で

杉本さんは2004年12月31日を以ってウルムのオーケストラを定年退官されます。長らくお疲れ様でした。現地の新聞(Ulmer Kurturspiegel ウルム文化の鏡)にインタビューが載り、見出しは「夢のゴールはドナウにあり」でウィーンから始まりウルムでオーケストラ人生を終えられる杉本さんにはぴったりです。それを読むと、かねてからの持論を展開され、少しも変らない音楽文化、そして日本への情熱を感じます。オーケストラは辞めても、もっとこれからそうした活動に勤しまれる事でしょう(2004年12月16日記す)

杉本さんと初めて会ったのは、もう20年以上前(2004年現在)になります。当時、「音楽草の根運動」という活動を始められた時です。当時、私の知り合いでウルムのオーケストラに在籍していた人が、私の妻を伴奏に推薦してくれた事がきっかけです。その時私は出演予定が無かったのですが、飛び入りでドヴィエンヌの二重奏を演奏しました(上の写真参照)。それ以来のお付き合いです。私は杉本さんの穏やかな人柄に魅了されてしまいました。

その後、菅原先生のお供で、次いで私一人で、また友人を伴ったりもしてドイツでのシェルターの様に伺わせて戴いています。もう8回くらいはウルム(Ulm)に行きましたかねえ。

ヴァルターさんと知り合ったのも杉本さんを通してです。

ウルム劇場の楽屋口

ここで良く杉本さんと待ち合わせします。

何せ、パイパーズのインタヴュー記事でも書きましたが、シベリア鉄道経由(1週間!もう帰れない、と思ったと仰います)でウィーンに給費留学された方です(ファゴット第1号!)。友人知己は、かの国にも数多くいらっしゃいます。ドイツにしっかりと根を張り、両国の友好を願っておられる愛国者でもあります。

ウィーンへカール・エールベルガー先生に付くために渡り、その後ライムント劇場(オペレッタ専門・ウィーン)を振り出しに、アーヘン、ダルムシュタット、アウクスブルク、ウルムとファゴット人生を歩んで来られました。外国人演奏家と言うことで、不利に扱われた事もあったようです。現在はウルムが本当に気に入って家を建て、住んでおられます。私もドイツでウルムに着くとホッとして、ドナウ川を見に行ってしまいます。ウィーンと川で繋がった町です。

ウルム郊外、聖ペテロ・パウロ巡礼牧師教会/カミロ・エールベルガー御夫妻と。カミロ氏の趣味が教会巡りなのです。本当に綺麗な教会。ここで、杉本さんは協奏曲を演奏された事があるそうです。

カール先生のレッスンは「火の出るような」ものだったそうです。先生はウィーン風を強制せず「君たちはウィーン以外で演奏するだろうから、ヴィヴラートもどんどん練習しなさい」と仰ったそうです。フィンガリングも同様に。そして常に「歌なら、そうはしないだろう」と仰られたとの事。分かります。

卒業後ドイツのアーヘンの劇場に就職した時に、カール先生に給料を見せると、先生の国立劇場と変わらなかったとか。当時の国力の差です。しかし、音楽を考える時間が、金を稼ぐ時間より多く持てた当時の方が良かったかも知れないとも、杉本さんは話されます。

初めて帰国した時、NHK-FMでタンスマンのソナチネを日本初演されました。「ウィーンで得られた事を、国に還元しなければ」との思いだったとの事。今は穏やかな方ですが、若い頃は怖かった様ですよ。ドイツ人を蹴飛ばしていたと聞いてます。

私も、お付き合いの中で色々と教えて戴いたり、影響を受けたり随分しました。

音楽草の根運動の演奏会を、松戸・森のホールで行った(1996年7月14日。私と妻も参加)後の打ち上げ。シャルモートリオ(実に気の良い人達!)と。

前列左から/杉本さん、ピアノの妻の有子、ピアノのハインツさん、クラリネットのファイルさん。

後列左から/テナーの前多さん(現在、沖縄県芸助教授)、チェロのボーテさん、森のホールの八嶋氏(現在は家業を継ぎ退職)。

 

音楽は浮き世の汚れを落とす石鹸との言葉に、杉本さんの文化に対する端的な考えが表されています。

アカデミーの学生の時、優秀な科学の学生を集めた表彰式で演奏された事があったそうです。当時の文化大臣が「皆さんは科学を専攻する優秀な学生だ。是非人類に貢献して欲しい。しかし、科学を追究する余り、人の道を踏み外してはならない。その為には自然や文化に接して欲しい。その為に、アカデミーの学生に演奏を依頼した。」と演説したそうです。

「血で血を洗う様なヨーロッパの歴史です。道を踏み外さない為に文化が必要なんですね。ファゴットが上手くなる事は大きな流れの1部なんです。」と杉本さん。こうした杉本さんが、日本の隅々に音楽を届けて音楽の楽しさ、意味を伝えたいと始められたのが「音楽草の根運動」です。利子の低迷で財団が四苦八苦している我が国では、難しい状況です。また、演奏会が盛んになる日は来るのでしょうか?

私たちも、先人のこうした思いを継いで、良い演奏をしなければと思います。

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