(1)一橋の自治 (a)「大学自治=教授会の自治」という考え方についてどのような意見をお持ちですか。現在、一橋大学は全学全構成員自治の立場をとっていますが、これを支持されますか。また、今後どのような方向に進めていくべきであると考えますか。 (b)全構成員自治の原則のもとで、学生が果たすべき役割についてどうお考えですか。本学における学生の位置づけ、及び本学の意思決定への学生参加のあり方について具体的にお答えください。 (c)いわゆる「権力排除声明」(1969,5,16)では、教育研究の自由な発展のためには大学の自治が必要不可欠であり、外部からの統制を認めないことがうたわれていますが、大学の自治の意義についてどのように考えますか。 村井 (a)大学の自治とは何か、ということについて考えさせられることが多いのですが、まだ結論が出ていません。大学の自治=教授会の自治という図式は成り立たないと思いますし、少なくとも、全学的問題について、教員層だけではなく職員、学生の意見を聴いて決定していくという点については、支持しています。今後もその支持の態度に変わりがありません。 (b)大学の構成員それぞれが自治を持っており、また、全構成員が共通に関わる重要問題については、各層の意見をよく聞いて決定すべきであると思っています。学生層の自治との関わりについては、カリキュラムの編成や、懲戒手続、学内の治安問題など、具体的な問題について、学生の意見がどのように表明され、また行動が行われ、それが大学運営にどのように反映しているのか、こうしたことこそ、重要な問題ではないかと思っています。 (c)「権力排除声明」という名称に私はなじみがないのですが、臨時措置法の制定によって政府の一方的判断で廃校になる危険性があるという当時の状況下で、大学の問題は、権力的解決によるべきではなく、大学の自主的判断によって問題解決をすべきであるという姿勢を示したものだと思います。現在においても、少なくとも私はそうあるべきであると考えています。 石 (a)本学においては,全学的な問題について,大学を構成する教官・職員・学生が議論をたたかわせ合意を得るという方式が,長年の慣行で定着しています。教授会のみが大学自治の担い手ではなく,これまで培ってきた学内運営のルールを守るべきでしょう。 (b)学生が全学的な問題について学内の意思形成に重要な役割を果たすことはいうまでもありません。これまで勉学条件や学生自治に直接かかわる問題については,団体交渉で解決してきました。 (c)大学の自治は,大学の生命であり当然でしょう。 富澤 (a)全学全構成員自治という理念は大切だと思います。その理念を有効に実現するためには、教員、職員、学生という、立場を異にする構成員がそれぞれどのように大学運営に参加するのが望ましいのかという問題を解いていく努力が必要だと思います。 (b) 学生は教育を受ける主体ですから、そのような立場からまずなによりも、よりよい教育を受けられるように教育のあり方をめぐって大学運営に参加すべきではないでしょうか。 (c)教育研究の発展のためには大学の自治が重要ですが、このことは大学が閉鎖社会でよいということを意味しません。Tの2のCで私は「組織構成員と組織関係者の活力」が重要だと述べましたが、国立大学も文部省、同窓会など種々の組織関係者をもっています。「外部からの統制」は避けなければなりませんが、組織関係者を排除した自治は閉鎖社会をつくりだすことになるのではないでしょうか。 安藤 (a)本学では、教授会を中心としながらも、事柄に応じて職員層および学生層の意見を反映させつつ大学自治を行ってきました。この伝統は間違っていないと考えます。 (b)全学的な重要問題とくに学生自治に関するそれについては、学生は当事者として発言し、学内ルールに従い全学的な意思決定に参加すべきでしょう。 (c)大学自治の意義は、研究教育の自由の確保にあると考えます。 (2)学長・学生部長選考について (a)現在の一橋大学における学長・学生部長選考への学生・職員の参加制度についてどう評価されますか。またその原則と運用について何か問題点があるとお考えですか。もしあれば具体的にあげてください。 (b)現在、阿部学長は現行の学長・学生部長選考制度の存続は不可能であるとして、制度の見直しを提案していますが、この認識についてどのようにお考えですか。 (c)学長からの制度見直し提案に対して、学生院生は学生大会や院生総会において反対決議を可決しましたが、このことについてどう考えられますか。現行の学長・学生部長選考制度を擁護なされますか。 (d)現行制度の維持の展望について、学生と話し合いますか。 村井 (a)前執行部に席を置いたものとして、この質問には、大変に答えにくいものがあります。個人的には、学長・学生部長選考に職員・学生が参加するということは、支持しております。ただし、参加方式のあり方について議論するとすれば、必ずしも現在の方式がベストであるとは考えていません。また、現行方式では推薦手続の中で候補者に辞退する権利が保障されていないのは、問題だと思います。 (b)前執行部に席を置き、現行制度のあり方について検討を行った者として、個人的な回答を控えさせていただきたい。 (c)学生大会や院生総会において反対決議があったというのは、無視できない事実であると思います。現行制度についての見解は、(a)で答えたとおりですが、この制度に変更を加えなければならないほどの内在的要因があるという認識はありません。しかし、他方、歴代学長は、文部省にメモを提出して所要の措置を講じると約束してきており、政府、とくに文部当局、および財政当局との関係において、もはや抜き差しならない状態になってきているという事実も認識しております。私は、かつて検討委員会に席を置いた者として、この委員会の「現行制度の実質を維持する」という基本方針に賛成しましたし、現在でも、個人としては、この態度に変わりがありません。 (d)一教員として、自由に話ができることを望んでいます。 石 (a)戦後,民主的な選考ルールの一環として参加制度はそれなりに機能してきたと思います。しかし,学内外から問題点も指摘され,また最近の国立大学を取り巻く環境の厳しい変化から,検討が迫られているということでしょう。 (b)学外に対しに見直しを公約し,学内に向かって制度堅持を言明するといった不誠実な態度を,公的な機関としていつまでも続けられません。と同時に,前回の学長選の時と比べ,様々な面で一橋を取り巻く状況が厳しくなっています(例えば,独立行政法人や民営化の可能性,来年度予算の制限など)。いま何らかの改革に着手しない限り,一橋の将来はないと断言できます。 (c)反対決議は当然尊重されるべきでしょう。したがって話し合いを通じ,双方がぎりぎり妥協できる方法を探るべきだと思います。 (d)私はいま大学執行部の一員ですので,現在進められている評議会と三自治会,職員の話し合いの結果,合意が形成されることを期待しています。 富澤 (a)一橋大学における学長・学生部長への学生・職員の参加制度は長年にわたって運用されてきましたが、その間学内的には大きな問題は生じなかったと理解しております。 (b)文部省との関係からすると、現段階では学長・学生部長選考制度の見直しをせざるをえないと認識しております。 (c)既得権確保の見地からすると反対決議をせざるをえなかったということは理解できますが、大学全体の運営という立場からすると、現段階では学長・学生部長選考制度について検討せざるをえないという事情があることを理解していただきたいと思います。 (d)今日の条件下で学長・学生部長選考への学生・院生の参加を確保するための新たな方途について話し合いをすることが必要だと考えます。 安藤 (a)現行の学長・学生部長選考制度について、学内だけを考えても例えば制度の運用面で問題がなかったわけではありませんが、現時点でより重要なことは、国立大学をめぐる最近の状況との関わりで問題とせざるを得なくなったということです。 (b)文部省に対して約束してきた現行選考制度に関し「所要の措置を講ずる」ことを全く行わずに放置しておくことは、行財政改革の中で出ている国立大学の独立行政法人化ないし民営化の議論との関係などから、もはや本学にとって得策ではないと考えます。 (c)現行の学長・学生部長選考選考制度を維持したいという学生の立場は理解できます。しかし、上記(b)に述べた理由から、現行制度の完全な維持は困難であるといわざるを得ません。 (d)現在進められている評議会と三自治会の話し合いが結実することを願っています。 (3)団交ー確認書方式について (a)学生の団体交渉権の保証が本学の自治にとって欠かせないものだとお考えになりますか。 (b)確認書は評議会と学生の双方を拘束するものであり、どちらかが一方的に破棄できるものではなく団交での正式な決定によってしか破棄できないことを認めますか。 (c)学生の団交権の保証の観点から見た場合に、大学当局による団交拒否や、団交の議題制限はありうると思われますか。 (d)団交による合意(確認書の締結)以外に、学生との合意形成の手段があるとお考えですか。あるとお考えならば、具体的にお答えください。 村井 (a)最終的に、団体交渉によって確認書を締結するという方式は、現在の一橋大学の一つの重要な意思形成手段ですし、学生の自治権の保障であるでしょう。しかし、常に団体交渉によらなければ意思形成ができないということではないので、学生層と教員層との話し合いによって別の方式が採用されることがあってもよいのではないかと思います。 (b)一方的な破棄は確認書違反でしょう。 (c)大学当局による団交の拒否というのは、団交権が保障されているとすれば、その保障に違背することです。ただし、問題が団交に熟しているか否かで双方に意見の相違がある場合には、それをもって団交拒否と一概には断定できません。議題については、双方の事前の話し合いの中で詰められることでしょうから、学生側の一方的な議題設定が絶対的ということはありえません。 (d)たとえば、個別の問題毎に学生・職員を含む委員会を形成するという方式も考えられます。あるいは、全学協議会方式というのもかつては検討された時代があります。 石 (a)そのように考えています。 (b)確認書が双方を拘束するのは当然で,その破棄にあたっては双方の十分な議論が不可欠でしょう。 (c)団交は双方に膨大なエネルギーと時間をかけさせます。実りある団交のために,折衝により議題の設定を十分にする必要がありますが,団交要求に対し,双方とも原則として拒否できないと考えています。 (d)正式の手続きにしたがった団交なら,その合意が最重視されるべきで,他に代わるより重要な手段はないでしょう。 富澤 (a)慣行は尊重されなければなりませんが、団体交渉が学生と大学当局との合意形成の方式として唯一であり且つ最適の方式であるかどうかという問題については検討の余地があると思います。団体交渉は労使関係における合意形成には適合的な方式ですが、学生と大学当局における合意形成の方式としては(d)で述べるような難点をもっていると思います。 (b)確認書は評議会と学生の双方を拘束するものではありますが、団交での決定によってしか破棄できないとすると、問題解決は非常に困難となるでしょう。双方で団交以外の方式の可能性についても探る必要があるように思います。 (c)議題如何によっては団交が成立しないことがありうると思います。 (d)団交方式はしばしば団交当事者間の対立面を表面化することにより合意形成を困難にしがちです。2者間で意見が対立する場合は多数決原理が活用できないからです。したがって、結果は闘争勝利か敗北かというかたちで表現されがちです。合意にいたる過程で実質的なコミュニケーションを積み重ねる努力が必要だと考えます。必要な場合には、多数決原理も活用すべきでしょう。たとえば、学生と大学当局との十分な話し合いを前提にして、適当な時点で学生の投票によって学生全体の意向を示し、その投票結果を配慮してさらに話し合いを積み重ねていき、最終的に学生自治会と大学当局が確認書を締結するという方式も考えられます 安藤 (a)現行の学内ルールに従って学生と評議会の団体交渉権は保証されるべきです。 (b)確認書を一方的に破棄して学内が混乱する途は避けるべきです。 (c)上記(a)の原則が確認されれば、具体的な団交議題や時間の問題は折衝で解決できるはずです。 (d)現行の学内ルールによれば団交による合意が最高の合意形成手段でしょう。 (4)現在までの経過と今後の対応 (a)昨年、阿部学長は学生その他の反対を押し切るかたちで「学長・学生部長選考制度検討委員会」の設置を強行しました。この点についてどのように考えますか。 (b)大学評議会は今年7月に「新たな検討の方向(案)に」を公表し、従来の確認書(「いかなる場合も現行制度を擁護する」という趣旨の確認書)に抵触せざるを得ないことを認め、この点について、陳謝しました。この陳謝についてどのようにお考えですか。また、このようなことを繰り返さないために具体的にどのように対処していくお考えですか。 (c)大学評議会は今年6月に「新たな検討の方向(案)」を公表しました。この中では学生・職員の投票は参考投票とされていると同時に、自主投票とされており、教官だけでも学長を選出することが可能となっています。全構成員自治の観点からすれば、学長の選出には学生・職員の参加が必要不可欠であると考えますが、「新たな検討の方向(案)」についてどのようにお考えですか。 (d)現在、大学評議会は現行制度の改廃を提起していますが、72年確認書では制度の「改正については、学生・院生と評議会との団交での決定を経なければならない」と、学生との合意なき制度改廃は行なわないことになっています。こうした制度改廃の手続きを遵守されますか。 (e)現在、学生・職員と評議会との間で学長選考制度についての話し合いが行なわれていますが、かりに今回の選挙で文部省が発令を拒否もしくは引き伸ばした場合、本学の全構成員自治の理念にのっとり学生・職員との話し合いのもとにこれに対処することを約束しますか。 (f)今後、学長選などの問題に取り組むにあたって、文部省が実質的に大学の自治に介入することがあった場合、いかなる圧力にも屈することなく本学の自主的な立場を明確に主張していくことを約束しますか。 村井 (a)私自身、そのメンバーでありましたし、もちろん、設置に賛成しました。少なくとも、検討委員会の設置については、「学生その他の反対を押し切るかたちで」行ったという認識はありません。 (b)本年5月以降のこの問題の推移については、私はそれまでの責任上、個人的意見を言うべきではないと考えています。 (c)(b)に同様です。 (d)大学の制度改廃手続がそうなっており、それを変更するという学内の合意が形成されない限り、大学は、現在の制度改廃手続に則って改廃することになるのでしょう。 (e)私は「約束する」立場にありませんが、大学は、従来のあり方に則って職員・学生の意見を聴き、全学の意思を結集して対処することになるのではないでしょうか。 (f)個人としては、大学の自主的決定に対して不当な干渉を排除すべきだと考えています。 石 (a)設置自体は違約であったとは思いません。しかし検討委の審議の過程でいくつかの新しい問題が生じ,確認書の趣旨に抵触する結果になったと思います。 (b)陳謝は当然です。他の構成員を結果として裏切ったことになるわけですから,大学側は心から詫び,今後の研究・教育・学内行政を通して,信頼の回復に全力をあげねばなりません。 (c)参加の方式に関し,現行制度が唯一なものとは考えていません。いま評議会と学生・職員の間で,代表者が現行制度見直しで折衝を続けていますので,その成果を見守りたいと思います。一橋の伝統に従いなんらかの方式で,職員・学生が参加できるように工夫すべきです。 (d)遵守するように努力すべきです。 (e)すべてのやり取りを全学的にオープンにし,学生・職員と話し合い最善の対処の仕方を考えるべきでしょう。 (f)あくまで本学の自主的な判断を貫くべきです。 富澤 (a)「学長・学生部長選考制度検討委員会」の設置を決定したのは阿部学長ではなく、大学の最高意思決定機関としての評議会だと認識しております。評議会は各部所教授会の意思決定を配慮して最終決定をしますが、私は教授会の審議においては、委員会設置の提案理由を理解したうえで、やむをえざる措置として提案に対して反対の意見表明をしませんでした。 (b)「新たな検討の方向(案)」の内容が従来の確認書等に抵触する以上、陳謝は当然だと考えます。この案の公表に当たって、評議会は「今後、この案をもとに職員・学生と折衝し、一方的な強行をすることなく、学内の合意形成を図っていく所存である」と述べていますが、私は「一方的な強行をすることなく、学内の合意形成を図っていく所存である」という点で、この所信表明を支持します。 (c)「新たな検討の方向(案)」は学長選考への職員・学生の参加を不可欠なものとしていません。職員・学生の参加を実質的なかたちで保証する方途をさらに探る必要があると思います。 (d)団交方式はWの3のdで述べたような問題を含みますので、合意形成の手続きとして団交方式以外はありえないとは考えません。 (e)職員・学生との話し合いをもとに事態に対処することが必要だと思います。 (f)本学の自主的な立場を主張することは当然だと思います。 安藤 (a)評議会による検討委員会の設置そのものは直ちに約束違反とは言えなかったと考えます。 (b)陳謝は、評議会として相当な責任のとり方だと思います。評議会は、現在進めている学生・職員との話し合いに尽力し、信頼を取り戻す努力をしていると思います。 (c)「新たな検討の方向(案)」は、同案の公表にあたって出された評議会文書(6.15)にあるとおり、学長見解(6.10)に述べられた諸状況と「教官、職員、学生が参加している選考のあり方」を擁護するという基本方針のはざまに立って、ぎりぎりの模索を重ねる中から到達したものです。私はこの評議会決定に参加しましたが、同案は折衝の出発点であり、評議会と三自治会の話し合いで双方の妥協案を探る努力を続けるべきだと思います。 (d)「新たな検討の方向(案)」をもとに職員・学生と話し合い、一方的な強行をすることなく学内の合意形成を図っていくというのが評議会の方針ですから、学内ルールに従った制度改廃の手続きの遵守に努めるべきです。 (e)仮にそのようなことになれば、それは本学の非常事態であり、全学の叡智を結集して対処の仕方を考えるのは当然のことでしょう。 (f)本学の自主的な立場で判断し行動すべきです。 1大学審議会「中間まとめ」について (1)大学と社会の関係について (a)今回の「中間まとめ」は、現在の大学が「社会の要請」に応えていないという認識のもと様々な「改革案」を提案していますが、大学に対する社会の要請とはどういうものであるのか、そもそも「社会」をどう捉えたらいいか、ご自身の考えをお聞かせ下さい。 (b)大学審は、大学の社会貢献とは産官学連携であるという認識を示しています。これについて、どのように考えますか。また、社会に開かれた大学とは、どのようなものだと思われますか。 村井 (a)「社会」とは何かという一般論をするだけの用意が、私には現在ありません。大学教育に対して人々は何を期待しているかということについても、私は正直なところよくわかりません。産業界、官界、一般の市井人、受験生各層によって期待しているものは違っているのでしょうね。 (b)大学が自足的な研究機関でない、あるいはなくなってきているということは確かでしょう。その点からは、実務界との連携は必要となってはきていると思います。ただし、それが産業界や官界に限るということではないとは思います。 石 (a)大学は社会から隔離された独立主体ではありえません。特に国立大学の場合,国民の税金で運営されているわけですから,大学の自治を主張する一方で,社会の要請に答える義務もあると考えています。 (b)産官学連携のみが,大学の社会貢献ではありません。しかし,日本の経済社会の発展・進歩・向上のために,各分野と連携することも必要で,これとの関係で今後とも大学が果たすべき役割は大きくなるものと思います。大学での研究・教育上の成果を社会に還元すること,地域住民と積極的に交流すること,対外的に情報を発信することなど,開かれた大学のイメージです。 富澤 (a)社会は人間集団ですが、私はその人間集団をまずは住民集団としての地域社会というかたちで捉えたいと思います。住民はそれぞれ生活向上を目的とするニーズをもっていますが、「社会の要請」という場合は、地域社会をいくつかのセクターにわけて考える必要があると思います。地域づくりという観点からすると、ABCD、つまりadministration(公的セクター)、business(民間営利セクター)、communicator(コミュニケーションをはかる組織のセクター)、democratic organizations of the community(住民組織から成る民間非営利セクター)という区分けが考えられます。このような区分けにおいては、大学は公的セクター、民間営利セクター、民間非営利セクターの要請に応えて、communicatorとしての機能をもつ組織として捉えることができます。このような観点からすると、大学に対する社会の要請とは、公的セクター、民間営利セクター、民間非営利セクターの要請として捉えられると思います。 (b)上記の観点からすると、大学の社会貢献とは産官学提携に限定されず、住民組織をも対象とするものとなります。したがって、「社会に開かれた大学」という場合の社会には住民組織も含まれると考えます。 安藤 (a)〜(b)ソ連崩壊後の国際社会における日本の進路選択として、アメリカ化をベースにした国際化の方向が採られつつあり、大学審議会の議論もその線上にあるように見受けられます。 1大学審議会「中間まとめ」について (2)高等教育再編について (a)大学審は、国立大学の統廃合をすることを示唆しています。このことについてどのように考えますか。 (b)国立大学のエージェンシー化および民営化について、どのように考えますか。また、こうした国立大学再編の動きに対し、どのような取り組みが必要だと考えますか。 村井 (a)行財政の縮小化という観点からの一方的な国立大学の統廃合論には、賛成できません。 (b)これも上記と同様ですが、行財政上の指導という名の干渉に対抗できるだけの自力財政力をもっており、受験料収入に依存しなくてもいいという保障があるならば、国立大学である必要はないでしょう。エージェンシー化についてはよくわかりません。いずれにしても、これらは大学の自主的改革として勧められるべきものだと思います。 石 (a)18才人口がピーク時より半減する将来,現在99ある国立大学の存続は,財政的にも物理的にも(定員に達しない大学が頻発)困難でしょう。統廃合は好むと好まざるとにかかわらず,自然に起こってきます。 (b)基本的に反対です。国大協などを通じ,強く反対すべきです。 富澤 (a)どのような見地から国立大学の統廃合をはかるのかということが問題だと思います。私は地域づくりに果たす大学の役割を無視してはならないという見地から、地域社会のあり方によって大学のあり方も多様であるほうがよいと思っています。統廃合の基準として「科学技術創造立国」論にもとづく「先端的分野」のみを強調するようなことがあれば、地域づくりに果たす大学の役割が軽視されかねません。 (b)教育のもつ高い公共性を考えるならば、国家の教育責任は重く、国立大学を安易に民営化すべきではありません。国立大学再編が官主導にならないように、国大協などで十分検討すべきだと考えます。 安藤 (a)行政改革および省庁再編の風圧の中で、文部省としては約100もある国立大学をすべて支え切れるものではないということでしょう。 (b)本学を含むほとんどの国立大学は独立行政法人化および民営化に反対のはずです。本学が国立大学として存続していくえうで、例えば大学院重点化は一つの選択であると考えます。 1大学審議会「中間まとめ」について (3)学内改革について (a)大学審は学部教育について、学生が勉強していないことを問題にし、成績評価の厳格化や履修登録の制限などを打ち出しています。このことについてどのように考えますか。 (b)大学審は高度専門職業人の養成機関としての大学院教育を強調していますが、大学院が果たすべき役割についてご自身の考えをお聞かせ下さい。 村井 (a)成績評価の厳格化や履修登録制限などは大学の自主的教育改革としてはあり得ることだと思います。 (b)大学院が研究者養成だけではなく、実務界等多様な方面に向かうための人の教育・研究機関として位置づけられてきていることについては、いささか戸惑いを感じつつもそうならざるを得ないかと思っています。法学の領域では、もう少し積極的にロースクール構想を具体化することも考えられます。 石 (a)一般的にいって,もしこの動きに反対なら,学生が自らの態度で不必要だということを示すべきでしょう。 (b)日本の大学院教育は,世界の基準からするといわゆる学者養成に重きを置きすぎるきらいがあります。人文系でももっと実社会で活躍できる人材の教育をしてもよいと思います。 富澤 (a)入学はむずかしくが卒業は容易という現状を、入学は容易だが卒業はむづかしいというように改めるべきだと思います。そのための方途して成績評価の厳格化は評価できます。 (b)職業の専門性が高度化している現状を考えると、大学院は研究者養成機関としてだけでなく、高度専門職業人養成機関としての役割も果たすべきでと考えます。 安藤 (a)大学の大衆化の結果とはいえ、大学がここまで言われるようになったか、と寂しい限りです。 (b)大学院の役割として研究者養成のほかに高度専門職業人養成がいわれていますが、いずれの役割を重視するかはそれぞれの大学院(研究科)が判断すべきことでしょう。 1大学審議会「中間まとめ」について (4)大学運営の集権化について (a)大学審は、「責任ある意思決定」という名目のもと、教授会の権限を縮小し、学長と一部の教官、事務局長に権限を集中させようとしています。こうした大学運営の集権化についてどのように思われますか。また、教育研究と大学運営は分離されるものであるという大学審の認識について、どのように思われますか。 (b)大学審は、学長選考のあり方について、一部の教官による候補者の絞り込みや投票権者の範囲の縮小などを打ち出していますが、これについてどのように考えますか。 村井 (a)権限の集中化については、私は賛同しかねます。また、現在の国立大学において、教育研究と大学運営を完全に切り離すことには反対です。 (b)大学が自主的に決定すべきことだと思います。 石 (a)欧米のように,大学教師をその資質に応じ,ある年齢層から教育・研究・大学運営のいずれかに相対的に特化されることも考えていいかもしれません。現状のように,能力に無関係に三分野で教師を"酷使"するのは,人材の枯渇につながりかねません。といって,一部の人のみに大学運営の権限を集中させるのもやはり問題で,集権化には何らかの歯止めを必要とします。 (b)一般論に,あまり振り回されることはないと思います。 富澤 (a)大学運営を教育研究から分離してその集権化をはかるとすれば、それは大学の民主的・自主的運営の基盤を堀崩すことになると思います。 (b)学長選考への参加方式は大学構成員各層のあり方によって異なると思いますが、大学構成員のすべてがなんらかのかたちで参加することが望ましいと考えます。 安藤 (a)〜(b)大学審議会で議論されている新しい運営方式がすべての大学に一律に強制されるようなことは好ましくないと考えます。 1大学審議会「中間まとめ」について (5)大学評価体制について (a)「中間まとめ」では、第三者機関による大学評価体制を確立し、大学間の競争を促すとしています。大学教育に競争原理を持ち込むことについてどう考えますか。 (b)第三者機関による評価体制は、学外者からなる大学運営協議会の設置などとともに大学自治を外部から侵害する危険性を多分にはらんでいると思われますが、このことについてどう思われますか。 村井 (a)第三者機関による評価については、真に客観的な第三者機関というものが想定でき、その評価を大学が自己改革の参考にするというものならば、必ずしも否定的にのみ捉えられるべきではないと思うが、これを大学のランク化に利用し、大学間の競争を激化させる目的で導入するならば、賛成できません。 (b)機関の性格次第ではその危険性もあると思います。 石 (a)お互いに切磋琢磨することで研究・勉学の実が上がるのは事実でしょう。大学教育にも,産業界とは異なると思いますが,大学の自治と離反しないことを条件に競争原理を適用し,相互に刺激しあうことも必要だと思います。 (b)内部評価はなれ合いになりやすいし,外部評価はご指摘のような心配もあり,両者はトレード・オフの関係にあります。外部評価をするにしても,あくまで参考程度にするべきでしょう。 富澤 (a)第三者機関による大学評価に際しては、大学の発展に役立つような評価基準を明確にすることが必要です。恣意的な評価は大学を危険な競争状態に追い込むことになると思います。 (b)第三者機関による評価体制は、運用の如何によっては外部統制につながる危険性をはらんでいると思います。 安藤 (a)〜(b)大学評価は受験界などで事実上すでに行われているわけですが、公式の機関でそれを行う場合の趣旨は、大学の格付や自治の侵害ではなく、大学の発展向上のための一手段であるべきです。 1大学審議会「中間まとめ」について (6)大学間の格差づけについて (a)大学審は、予算などを特定の大学に重点的に配分することで国立大学を大学院中心の大学や教養教育を重視する大学など、特定の機能に特化した大学に機能分化させることをうたっています。このような大学の格差化についてどのように考えますか。 (b)また、そうした予算配分の過程で様々な形で文部省による一種の「大学統制」が起こっています。学長も認めてきたように、一橋大学でも文部省の予算誘導による自治侵害が起こっていますが、この問題にどのように取り組むつもりであるか、お聞かせ下さい。 村井 (a)大学の自主的判断で改革を行い、特色を出していくことに文部省は予算的支援をすべきだと思いますが、大学間に格差を設けることには賛成できません。 (b)予算請求等を通じて、文部行政が貫徹してくることと、学内の自主的改革との乖離が生じることがあり、大学執行部はその狭間できわめて困難な判断を強いられることになるでしょう。その場合に、できる限り民主的な判断手続をとるべきでしょうが、それは、その時の全学的な意思形成のあり方に関わる問題だと思います。 石 (a)現在,予算とは関係なく事実上格差はついています。今後,財政面でますます制約されますから,従来のように,平等主義によりまんべんなく配分するのは不可能です。機能を重視し,効率的に配分するのはある程度やむを得ないでしょう。 (b)国立大学である限り,大学運営は国の行政下に置かれ,予算配分権を握られているのは否定しようのない事実です。この中で,いかに大学側の主張を通すか,粘り強く交渉し,先方を納得させるしか方法はないでしょう。 富澤 (a)Xの2のa(編集注 Xの1の(2)のaと思われる)で述べたように、大学のあり方は多様であってよいと思います。それが大学の格差化につながらないようにするためには、予算配分の基準づくりの過程で大学の自主性を活かせるような方途を講ずべきだと考えます。 (b)予算誘導による自治侵害というような事態が明確な場合は、その不当性を明らかにして社会に訴えるべきだと思います。 安藤 (a)〜(b)行政機関である文部省の予算配分上の裁量は仕方がないことですが、文部省も社会を無視して行政は行えませんので、大学は不断の努力によって社会的価値を維持し向上させることが必要でしょう。 1大学審議会「中間まとめ」について (7)大学審への対応 (a)大学審の全体的な動きをどのように評価しますか。また、大学審の答申は来年にも法制化されると言われていますが、一橋大学として具体的にどのような対応をとられますか。 (b)一橋大学のみならず、この問題については国立大学協会に働きかけるなど全大学人と協力した取り組みが必要ですが、大学として具体的にどのような取り組みをなさいますか。 村井 (a)大学審の答申について私個人が考えていることについては、上記の通りであり、大学の自律的判断を損なうようなものであっていけないと思っています。 (b)個人としては、大学の自律的判断が損なわれるような事態が生じた場合には、他の大学の人たちとも連携しながら対処すべきであると思っています 石 (a)まだ最終答申が出ないのでその全貌がわかりませんが,明らかになった段階でケース・バイ・ケースで対応すべきです。法制化についてもその中身を問題とすべきです。 (b)ご指摘の通り,国大協を中心に大学全体で取り組む必要があります。 富澤 (a)大学のあり方を大きく変えることになりかねない大学審議会「中間まとめ」の提言については、その検討に十分時間をかける必要があり、安易に法制化を急いではならないと思います。 (b)一橋大学としては、学内的検討をすすめるとともに、国大協などを通じて各大学の意見調整をはかるべきだと思います。 安藤 (a)〜(b)大学改革を目指している大学審議会の議論に賛否両論があるのは当然でしょう。同審議会は近日中に最終答申を出すはずですので、その後は法制化の過程で国立大学協会等を通じた対応が残されているでしょう。 2文教予算 (1)閣議決定によって財政構造改革法のキャップ制がはずされたものの、文教関係予算の増額は前年度比1.6%増と、他分野予算と比べても不十分なものにとどまっています。こうした予算配分が大学予算の伸びを抑制し、学費問題や教育研究条件の悪化を生んでいることをどのようにお考えですか。 村井 (1)大変に憂うべき事態です。 石 (1)財政構造改革法においては,文教関係予算に限らず,すべての予算項目が抑制の対象とされました。先進国の中で最悪になった財政赤字を増税でなく,歳出カットで縮小されるためには,ある程度やむを得ない措置でしょう。 富澤 (1)大学における教育・研究基盤を充実させるためには、文教予算の増額が不可欠です。大学審議会「中間まとめ」も、「高等教育改革を進めるための基盤の確立」のためには「公的支出を先進国並に近づけていく配慮が望まれる」と指摘しています。科学技術基本法をふまえた科学技術基本計画では、対GDP比での「公支出」の倍増による欧米並の研究費の充実と研究支援体制の確立が提起されています。日本の研究・教育体制が国際的に後れをとらないためにも、また教育の機会均等をはかるうえでも、文教予算の増額は緊急の課題だと思います。 安藤 (1)文教関係予算はもっと増額されるべきです。 ここでおしまい!! |