「松館今昔:風物詩」

ヤグラ架け

 梅や桜桃を収穫した後には、まだ重要な任務が待っていた。「ヤグラ架け」 である。
 メッコノギ(梅の木)は棘があって、ヤグラ賭けには不向きであった。 サグランボノギ(桜桃の木)は、しなって居心地が良かったが、ときには 落下したり、枝を折ってしまったりした。
 
 さて、夏の夜の楽しみは、こうした樹木にヤグラを架けて、寝泊りする ことであった。
 ハサゴをワラ縄で縛って足場や骨組みを組み、バラ板を探してきて、 屋根・壁・床にした。
 入り口には、布を垂らしたり、板戸を取り付けたりした。家から夜具を 持ち込み、蝋燭を灯したり、ヨガエブシ(夜蚊燻し)をしたり……。
 楽しくて、蚊に悩まされる夜であった。
 
 ところで、ヨガエブシに使う布は、ヂオリ(地織)であった。ヂオリの 布は、紺色に染め上がっている。その染料は、ムラサキと云う植物である。 ムラサキには、殺菌殺虫効果もあることが知られていたのである。
「紫根染」参照
 
 田んぼや畑でヨガエブシをするときは、ワラを少し束ね、その端にヂオリ を挟んで、火を付けて、腰紐に刺して作業をする。

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