「松館今昔:風物詩」

ハッパとジャッコ・ナメ流し

 何時の頃であったか、夕方の時刻、駐在所のUCHIYA巡査が 自転車かなんかで大急ぎで松館に来て、
「今方、オドした、ハッパだべ、ハッパだな」
と通り過ぎて行った。
 なお、駐在所は3kmほど離れた字長内集落にあり、当時は砂利道であった。
 
 その頃、松館には鉱山(尾去沢鉱山か)に勤めていた人が何人かいた。
 鉱山の勤務は、午後三時に終わるので、帰宅すると夕方になる。夏になると、 その時刻辺りに、ヨネシロガ(米代川)の水泳ぎの場所で、ハッパを 仕掛けるのであった。
 
 「サァ、ワシャドァ(ワラシ共)、早グ、エ(家)さエゲ(行け)。 エマ(今)、ハッパかげるたえに」
 と、怒鳴られた。
 それでも、水泳ぎの場所に残っていると、
 「サッ、早グ、オガ(陸)さ上がれ。ミチ(水)さヘッテル(入っている)ど 足のニグ(肉)はがえるぞ」
 あわてて、川岸に上がると、タバコの火で点火されたハッパが川の中に 投げ込まれる。
 「ドン」
と水飛沫が立つ。まだハッパが沈まないうちに破裂すると、大きな音がして、 飛沫も大きいが、ジャッコ(ウグイ。ハヤ・クギとも)には効果がない。 にぶく「ドン」となれば、
 「ソレッ」
と、死んたり弱ったり(仮死状態)したジャッコを捕まえる。
 私共子供たちは、現場から離れた川下に追いやられて、捕まえる。 捕ったジャッコは、あらかじめ準備しておいたヤナギの小枝に刺して持って帰る。
 深い所では潜って、苦しさを我慢して捕る。水眼鏡などは無いので、 薄ぼんやりと白いのがジャッコである。
 青酸性の薬剤で、ドンジョ(泥鰌)などを捕ることもあったらしい。
 薬剤を小川に流すことを、確か「ナメ流し」と云ったようだ。
 このナメ流しは、隠密裏に行われるので、私は現場に立ち会った記憶はない。
 ナメを流す場所は、生活用水に関係の無いような、米代川など大きな川の合流地点 に近い、小さな川の下流で行われていたようであった。
 
 実は私共子供達も、ナメ流しをした。オニグルミ(普通の胡桃)の実がまだ青い七月頃、 青い実の皮や、葉などを石で叩いたりしてつぶし、それを小川などに流すのである。
 いくらかは、「ナメ」としての効果があったようであった……。

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