山神は醜男だから、その機嫌をとるためにオコゼを供える、とかいう話しを聞い
たことがあるが、それについては、次のように書いている。
山入りのときシカリ(統率者)は、山達(やまたち)の秘巻(山達根本之巻)と オコゼの干物を懐中にしてゆく。オコゼも秘巻同様に里では、絶対に見てはならぬ とされていた。これらは山に入って狩小屋の棚に供えるが、緊急な場合はとり出し て祈る。 山神さまは、普通の神さまにように家に留まっているのではなく、常にマタギた ちと共に行動していられると彼らは信じている。 オコゼは12枚の紙に包んで持参するが、これには面白い理由がある。オコゼとい うのはオニオコゼという魚であるが、必ずしも魚のオコゼとは限らず、土地によっ てはシカの耳を切りとったものや、毒毛虫、巻貝などの干したものをオコゼといっ ているところもある。 山神さまはひどい醜男である − と、何時の頃からか伝った。山神は、自分の面 相の悪いのをひどく気にやんでいる。ところで山が荒れたり、雪崩が頻発して獲物 がとれないのは、山神様の御機嫌がわるいからだ。そんなときシカリは、お守りの ように大事にしていたオコゼを、紙を開いてそっと見せる。オコゼという魚はまた グロテスクな面構えをしているから、山神様はこれを見て、世の中に俺よりもひど い面をした奴がいるのか一と安心して期限をなおす。それで山も鎮まり、獲物もと れる、と云い伝えられているからだ。12枚もの紙に包んであるのは、一度に見せず に1枚1枚めくって、山神さまを欺しだまし機嫌をとり結ぶためだといっている古 老もある。 |