66 見るなの部屋(毛馬内)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔の話こです。
 昔、ある処に、毛馬内町みたいな市イチの立つ処がありました。
 その市の度タンビに、二反ばかりの布を背負って売りに来る女オナゴが居ました。見れば
女振りブリこも良いし、何処ドコの女だろうと思って、何処かの男が後アトっこを付いて行
きました。
 そうしたら、ずんずん山へ入って、何処までも歩いて行くのでした。ずっと山奥へ行
ったら、立派な門があって大きな家がありました。
「俺オレは道に迷ってしまった、どうか一晩泊めて呉クれろ」
と言いました。
「一晩なら泊めて呉れる」と泊めました。
 
 そして、女は次の日もまた布を売りに行かなければならないために、
「俺は市へ布を売りに行くが、この家は部屋数がいっぱいあるけれども、どの部屋へも
決して忍ぶ(忍び込む)なよ」
と言って、出て行きました。女が出て行った後、男は、
「良い」
と約束しましたけれども、何があるだろうかと部屋へ忍びました。すぐ一つの部屋を開
けたら、米がいっぱい入っていました。
「おや、米が沢山あるな」
と見ていたら、米は天井テンジョウから降って来ました。男はその米を手で少し掻カき回した
ら、今まで降っていた米が止まってしまいました。
 次の部屋を捲メクったら、金カネが降っていました。
「金が沢山あるなぁ」
と一寸チョット触ったら、また金が降るのも止まりました。
「大変だ、どうしたら良いだろうか」
と思ったけれども、また次の部屋を捲ったら、鼠達がいっぱい居て、
「百になっても二百になっても、ニォオの声を聞きたくない」
い言って踊っこを踊っていました。これを聞いた男は、
「ニャオー、ニャオー」
と言ったら、鼠達はみんなコロコロ死んでしまいました。
 
「おや、大変なことをしてしまった」
と部屋へ戻って寝ていました。そこへ町から女が戻って来て、
「おや、お前は忍んだな」
と言いました。米が止まるし、金が止まるし、鼠が死んでいたからなあ。
 そうであるけれども、その女は何としたものなのか、次々とご祈祷キトウしたら、また元
通りになりました。鼠の部屋へも行って、
「おや、俺の爺ジジ、婆ババはみんな死んでいたな」
と言って、また、
「モニャ、モニャ」
と言ったらなぁ、鼠達が生き返って、歌こを歌って、踊り出しました。
 それを見た男は、動転ドデンして、とうとう逃げ出したそうです。
 どっとはらえ。

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67 化け太鼓
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのです。
 昔、ある処に爺ジイが屋根を葺フいて、婆バハは庭を掃いていたら、豆こを一粒見付けま
した。
「爺な、爺な、この豆っこを煎イって食ったら良いだろうか、種っこにしたら良いだろう
かなぁ」
と言ったら、爺は、
種っこにしたら、良いだろう」
と言いました。そうだったので便所の前に植えました。
 植えたら、芽っこが出て来たために、水っこを呉クれたり、じき(肥料)を呉れたりし
て、段々大きくなって、花が咲いて、一本の豆の茎クキに大した実っこが成りました。
 
 そうしたらある晩バンゲ、爺が便所へ行こうとしたら、ピーカリ、ピーカリって光るも
のがありました。「何があるだろう」と見に行ったところが狐が居た訳です。
「おや、この野郎」
と爺は捕まえて、ぶっ殺そうとしたところ、狐は、
「爺、ご免して呉れ。俺オレ今、恩を返す」
「何、恩を返すと云うのか」
「俺オレ、今太鼓に化けるのであるから、爺はそれを持って回って童ワラシ方に、叩タタかせ
て、銭ゼンこを貰モラえ」
と言いました。
 狐は、ころっと太鼓に化けて、爺はその太鼓を叩きました。
  ポンポンポンハァスッポロポンノポン
   ハァポンポン
 
 童達が沢山集まって来て、
「爺はいいものだな、俺にも貸せ」
と言うので、爺は童方に貸すと、その太鼓のことを、
  ポンポンポン
と叩きました。
「痛いではないか、この童さつさと叩け」
と言うとね、童達は、
「おかしな事を言う太鼓だ」
と言って、爺様に戻す訳です。また今度叩いて行くと、童達は、
「爺ジ、貸せ」
と来る訳です。また、叩けば、
「この童、さつさと叩け、痛い、痛い」
と言う訳です。童は今度は動転ドデンして、その太鼓のことをドーンと投げました。
そしたら、狐が、
  ギャーン ギャーン ギャーン
と泣いて、山へ帰ったけれども、爺へ恩返しした訳だそうです。
 どっとはらえ。

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68 甚兵エ川原ジンベエカワラの狐(毛馬内)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔の話っこです。
 昔昔、毛馬内の甚兵エ川原に、たいした悪い狐が居てね、小坂の町(市)の日へ商い
アキナイに行った帰りの人達を騙ダマして、あぶらげ(油揚げ)とか魚などを捕ったもので
した。
 ところがある日、一人の若者が甚兵エ川原を通りかかると、狐は川の水に顔を映して、
一生懸命化けている最中サイチュウでした。
「ははん、この馬鹿狐め、今度は何に化ける気で、こんなことをしているのかな」
と、草の陰に隠れて見ていました。
 そうしたら狐は、てろんと綺麗キレイな姐アネさんに化けました。
 けれども、川に映った頬ツラっこは、姐さんであったけれども、映らなかった後ろの方
のところを化け忘れて、未だ狐の毛はふさふさとしていました。若者は、おかしくって、
おかしくって仕方がなかったけれども、知らぬ振りして近付いて行って、
「姐さん、姐さん、何処ドコへ行くところでしょうか」
と聞きました。そしたら狐が化けた姐さんは、
「俺オレは、これから毛馬内の町へ用っこがあって行くところなのですよ」
と言いました。若者は、
「そうですか、俺も丁度毛馬内へ行くところです。そしたら、一緒に行きましょう」
と言って、狐が化けた姐さんと、若者が一緒になって、毛馬内の町へ歩いて来ました。
 
 さぁて、いよいよ毛馬内の町へ入ったら、『かどや』と云う酒屋サケヤがあって、酒っ
こを造っているものですから、プーンと良いかまり(匂い)っこがして来ました。
「姐さん、どうだ、此処ココで一杯酒っこを飲んで行かないかい」
と若者が言いました。そうしたら、狐も酒っこが好きなものですから、
「そしたら一杯行きましょうかね」
と、『かどや』へ入って、
「さあ、どうぞ、さあ、どうぞ」
と、酒っこを飲みました。そして、狐がいい加減に酔っぱらったところを見計らって、
若者は、
「姐さん、姐さん、後ろこのところが見えているようですよ」
と言いました。
狐はびっくりして、後ろこのところへ手をやったけれども、もうどうにもならなかった
そうです。
「この馬鹿狐め」
と、若者には叩タタかれるし、逃げる気になっても、酔っぱらっているものですから、あ
っちさ、ふらふら、こっちさ、ふらふら、やっと山っこへ逃げて帰りました。
 どっとはらえ。

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69 雪鬼ユキオニ(小坂濁川)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔の話っこです。
 昔昔、ある山の中に、夫オドと婦オガと暮らして居ました。
 あるとき、雪がのんの、のんのと降る日に、夫が、
「俺オレ、町へ用っこがあって行って来る」
と言いました。婦が、
「何にもこのような日に、行かなくても良いのに」
と止トめたけれども、夫は出掛けて行ってしまいました。
 婦は夫が出掛けた後アト、窓からじっと外を見ていました。そうしたら、誰ダレか雪の降
る中をこっちへ歩いて来るのが見えました。
「おや、夫は戻って来たのだろうか」
と見ていたら、それは夫ではなくて、鬼であったそうです。
 
 これは大変と云うことで、婦は火棚ヒダナの上に隠れました。間もなく鬼が序口ジョグチ
へ入って来て、両脚をバタッ、バタッと雪をほろって(叩いて下ろす)、
「婦ぁ、居たか」
と、家の中に入って来ました。そうしてね、戸棚を開けて婦のことを探しました。けれ
ども、なかなか婦のことを見付けることが出来なかったそうです。
 ところが、婦の長い髪の毛がだらっと火棚から下がっているのを、見られてしまいま
した。
 鬼は、その髪をムズラッと掴ツカんで、引っ張って落として、婦のことを食ってしまい
ました。
 
 夫が帰って来て見たら、婦が食われた痕アトが辺りアタリ辺りホトリに、散らかってありまし
た。
「あんぇ、無情ムジョいことをしたな。俺が出掛けなければ、何もこんなことにならなか
ったのに」
と、夫は悔やみました。
 次の日、夫は鬼がきっとまた来るだろうと思って、懐フトコロに鉈ナタを入れて、囲炉裏イロリ
の側に座って、じっとしていました。
 そしたら鬼は、またやって来て、序口でバタッ、バタッと雪をほろって、
「夫、居たか」
と叫びました。夫は返事をしなかったそうです。鬼はのそっと入って来て、夫のことを
見ると、
「何だ、居たでないか」
と言いました。それでも夫は、懐に鉈を握ニギったまま動かなかったそうです。そうした
ら鬼は、夫のことも食おうとして、大きな毛むくじゃらの手をして、ムタッと夫の肩を
掴ツカみました。
 
 そのとき、夫は振り向き様ザマに鬼の額ナズキ・ナジキを、ワタッと鉈で叩タタきました。
「あっ、痛い」
鬼は、額を押さえて家の中から外へ飛び出して、忽ちタチマチ馳せて、見えなくなってしま
いました。
 そうしたけれども、雪の上に点々と血の痕アトが付いていました。夫は血の痕を辿タドり
ながら、山を二つも三つも越えました。
 夫は、恐る恐る木の陰に回って見たら、木のほこら(洞)の中で、鬼は玉ダマっこにな
って死んでいました。
 夫は、それを見て帰りかけたけれども、
「待てよ、本当に死んでいるのだろうか」
と、戻り帰って、鬼の肩に手を掛けて揺るがして見ました。それでも鬼は、動かなかっ
たそうです。
「ああ、婦の仇カタキを取った」
と帰って来ました。
 だからね、雪がのんの、のんのと降る日は、全く外に出るものではありませんよ。鬼
が来るからね。
 どっとはらえ。

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70 雁ガンの眼マナクに灰アク入ハイれ
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのです。
 ある村に、爺様ジサマと婆様バサマが住んでいました。
 爺様も婆様も若いときは働き者で、それに正直で村の人達から好かれていました。
 しかし、年を取って働けなくなったので、この頃は暮らしに困るようになりました。
婆様は、
「爺様や、爺様、これから段々寒くなるし、爺様も稼げなくなるし、この冬は何とした
ら良いだろうか」
と言いました。そしてまた、
「もう少しあれば雁が飛んで来るが、あれを何とかして捕れないだろうか」
と言いました。
 雁は渡り鳥で、秋になれば北から南へ、何十羽も群をなして飛んで行くが、爺様の家
の上も何回も飛んで行くことがありました。
 
 ある日、爺様はしぶと(囲炉裏)から灰アクを一杯笊ザルに取って、それを持って屋根の
天辺テッペンへ登りました。婆様は下で棒を振り上げて待っていました。やがて北の方から
雁の群が飛んで来たそうです。爺様の登っている屋根の丁度上まで来たところで、爺様
は大きな声で、
「雁の眼に、灰入れ!」
と叫んで、灰を掴ツカんで、「ばあーッ」と空へ撒マきました。すると、先頭の雁からうま
く眼に灰が入って、ぼたぼたと落ちてきました。
 下で待っていた婆様は、一生懸命棒で叩タタいて捕りました。
 雁は先頭に指揮官が居て、それに従って整然と飛んで行くので、指揮官にも先の方を
飛んでいた雁の眼にも灰が入って、みんな落ちてしまったので、後アトから来た雁に灰が
入らなくても、みんな後に付いて行って落ちてしまったのです。
 
 婆様は下で後から後から落ちて来る雁を一生懸命棒で叩いたので、へとへとに疲れた
けれども喜んで雁を捕りました。
 爺様と婆様は次の日、沢山の雁を車に積んで町へ売りに行きました。
 そして、沢山お金を取ったので、これで暫く暮らせると喜んでいました。
 ところが、これを聞いた隣りの爺様と婆様も、
「おらもやろう」
と言いました。
 
 この爺様と婆様は根性コンジョウが悪くて、村の付き合いもあまりしないで、村の人から
嫌われていました。
 この爺様も、灰を笊に取って屋根へ登りました。婆様は棒でなく鉞マサカリを振り上げて
いました。
 こうして待っていると、雁が飛んで来ました。そこで、爺様は、「雁の眼に、灰入れ
」と言うのを間違って、
「わ(自分のこと)の眼に、灰入れ!」
と言って、撒いてしまいました。
 さあ大変、雁はそのまま飛んで行ってしまったし、眼に灰が入ったので、爺様は屋根
からごろごろ落ちて来たのでした。
 これを婆様は、鉞で叩きました。爺様は、
「俺オレだ、俺だ、間違うな」
と叫んだけれども、婆様は、
「屋根から落ちたものを殺せと、言った」
と言って、何回も叩いたので、爺様はとうとう死んでしまいました。
 村の人はこの爺様と婆様に、誰も同情する者が無かったそうです。
 だから人の真似マネをするものではないし、根性を悪くするものではありません。
 どっとはらえ。

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