41 カッコと後妻ゴギ(毛馬内)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのです。
 父エデと母アッパがありました。そしてカッコと云うめごい女童子オナゴワラシこ(可愛い女
童子)がありました。
 カッコが六つになったとき、母は病気して死んでしまいました。父は炭焼きであった
ために、母が居ないと、飯ママを炊いて呉クれる人が無いために、後妻母ゴギアッパを貰モラい
ました。ところが後妻母は、父が居るときはカッコを凄スゴくめごがった(可愛がった)
振りをするけれども、父が山へ稼カセぎに行くと云うと、後妻母が「カッコ、水を汲ん
で来い」の、「カッコ、鍋を洗って来い」のと、まるで苛イジめていました。父が帰って
くると、
「カッコ、今日はどうしてる」
と言いました。カッコは今日は母に苛められたと云う話をしたいけれども、我慢して、
何にもしないでいました。
 
 そうしているところが、父はまた山へ、春になったために、山へ小屋掛けて、炭焼き
に、毎日山の奥へ行って木を伐キっていました。そうしたところが、今日も、
「カッコ、山へ行って何か取って来て呉れるからな」
と言って、山の奥へ出掛けました。
 家にカッコと後妻母とが居たところが、母が段々暗くなって来たために、
「カッコ、カッコ、鍋を洗って来い」
と言ったために、両方の手に鍋を提サげて、沼へ鍋を洗いに行きました。そして、一所懸
命に鍋を洗ってしまったために、家へ帰って来ようと見たところが、鍋の蓋フタが無かっ
たのです。このまま家へ戻れば、どんなに母に怒られるかと思って、カッコは、仕方シカタ
が無くなって泣いていたら、沼の中から、先の母アッパが出張デハて来て、
「行こう、こっちへあべ(来い)、こっちへあべ(来い)」
と言ったようなために、そのままカッコは沼の中に入って行きました。
 
 晩方になったために、父が山から五月苺イチゴをいっぱい、蕗フキの葉っこに採って来て、
カッコへ呉クれようと思って、急いで帰ってきました。そして、
「カッコ、カッコ、今来た。今日苺を採って来たよ」
と言ったところが、カッコが居ないために、
「母、母、カッコは何処ドコへ行ったのか」
と言いました。そしたら、母が、
「先サッキた、鍋を洗いに行ったのだ、其処ソコいらに居ただろう」
と言ったために、父は大急ぎで沼の処まで行ったところが、カッコの赤い緒の下駄ゲタっ
こばかりあって、カッコは見えなかったそうです。父が、何もかも仕方が無くなって、
「カッコやーえ、カッコやーえ」
と叫んだところが、暗くなった沼の真ん中から、チャブチャブと水が立って、そして、
鳥っこが飛びました。その鳥っこが、
「あっちゃとってえったな、こっちゃとってえったな」
と叫んで、林の中へ行ってしまいました。
 それで、春になれば、カッコウが来るときに、
「あっちゃとってえったな」と云う鳥っこが飛んで来るだろう。あれがカッコなのだと。
 どっとはらえ。

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42 うりひめこ(八幡平)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、ある処に、爺様ジサマと婆様バサマとありました。この二人は子供を持たないために、
産土様ウブスナサマ(オボシナサマ)に願ガンを懸カけることにしました。
「何とかして、子供を一人授けて下さい」
と毎日拝んで、二十一日も願懸けしました。そして、その二十一日目に、これが最後だ
と石段の坂を下りて来たら、石段の脇で、小さい生まれたてのおぼこアカンボウが寝ていま
した。それで、
「これは、産土様の授けて呉クれたおぼこでしょう」
と言って、そのおぼこを拾って来ました。そして、爺様と婆様と、大しためご(めんこ
い)がって育てました。そうしたら、そのおぼこは、大した綺麗キレイな娘こになって、十
四五になって機ハタを織っていました。それで、その娘のことをうりひめこと名前こを付
けました。
 
 あるとき、爺様と婆様が外へ出掛けて行くことになったために、
「うりひめこや、うりひめこ、俺オレが居ないとき、誰が来ても、戸こを開けるなよ。ビ
ーンと鍵を掛けて、全マッタく戸を開けるなよ」
と言って、出掛けて行きました。うりひめこは、婆様が居ない後アト、戸へ鍵を掛けて、
「きーしかっか、おばなえや。とにねでぁ、おばなえや」
と、機ハタを織っていました。そしたらね、天の邪鬼アマノジャクが来て、戸をドンドンと叩タタ
いて、
「うりひめこや、うりひめこ、戸を開けろ」
と言いました。
「俺オレの家の婆様は、誰が来ても戸を開けるなよ、と言っていたもの」
い言うと、
「そうか」
と言って、戻って行きました。そして、今度は婆様の声色コワイロを使って、
「うりひめこや、うりひめこ、戸を開けろ」
と言うので、
「俺の家の婆様は、誰が来ても戸を開けるなよ、と言って行ったもの」
「俺は婆ババなので、戸を開けろ」
と言うので、
「婆様が来たか」
と戸を開けたら、婆ではなくて天の邪鬼でした。そして、入って来た天の邪鬼は、うり
ひめこに乱暴ランボウをする気になってかかって来たので、うりひめこが声を発タてたら、
天の邪鬼は、うりひめこを殺してしまいました。そして、うりひめこの代わりになって、
「でくだりばったり、でっちらでっちら」
と言いながら、機を織っていました。其処ソコへ婆様が戻って来て、その声を聞いて、「
何時イツものうりひめこと違うな」と思いました。急いで家へ入って見たら、天の邪鬼が
居て、機を織っているために、
「俺の家のうりひめこは何処ドコへ行ったのか」
と聞くと、
「婆様があまり遅いために、迎えに行ったのです」
「あや、そしたら何処へ行ったのかな。出違えたのか。俺も迎えに行こうかな。寒くな
って来たので、どんぶぐ(綿入れ半天)でも出して着て行こうかな」と箪笥タンスを開けて
どんぶぐを出す気になったら、うりひめこの頭がどんぶぐに包んで、箪笥に入れられて
いました。
「あや、仕方がないな、うりひめこが殺されていらあ」と腹の中で動転ドデンしました。
 
 天の邪鬼は、
「婆様や、婆様、寒くなってので、酒こを飲んで行ってよ」
と、茶碗を伸ノべて寄越ヨコしました(差し出した)。見たら酒ではなく、血であったので
した。
「これは、うりひめこの血だろう。俺の家のうりひめこを殺したろう。うりひめこは、
産土様の授けて下さった子供だったのに」
と言って、婆様と爺様とは、産土様へ知らせに行きました。産土様は、天の邪鬼を喚ヨ
んで、大した説教をしたけれども、天の邪鬼は腹這いハラバイになって、
「聞きたくない」
と耳を押さえたので、産土様はお姿を現して、天の邪鬼の背中にドンと足を掛けて、折
檻セッカンしました。
 どっとはらえ。

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43 山おばと牛方ウシカタ(八幡平)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、ある処に一人の牛方が居ました。
 その牛方は、山へ牛を追って行って放して、小屋こに泊まるのでした。その日も小屋
に泊まることにして、晩飯バンゲママを炊タいて食いました。けれども、その日はいっぱい
余りました。牛方は、
「こんなに飯ママを残して、投げるには勿体モッタイ無いな。これを山おばに食わせたら良い
だろうなあ」
と思って、大きな声で、
「山おばやーえ、飯呉クれるから、来ーい」
と叫びました。そうしたら、向こうの山から、山おばがガリガリと柴シバを踏フんづけて、
音を発タてて走って来ました。牛方が、
「俺オレが飯を炊いて食ったけれども、飯が余ってしまった。勿体無いので、お前に呉れ
るから、食ってしまえ」
と言いました。
 
 そうしたら、山おばは、ガリガリと音を発てるようにして、ベロッと食ってしまいま
した。
 そして、牛方へ、
「こればかりか。こればかり呉れると行って、人を喚ヨんだのか」
と怒りました。牛方は、
「後アトは無いのだ。余ったために呉れる気になって喚んだのだから、後は無いのだ」
と言うと、山おばは、
「こればかり呉れるとは、人を喚んで・・・・・・。それなら、お前のことも食ってしまう」
と言うために、牛方はおっかくなって、
「んにゃ、そしたら、其処ソコに牛ベゴが居るために、その牛でも食って呉れろ」
と言いました。そしたら、山おばは、牛のことをガリガリと食って仕舞いました。そし
て、
「未だ足りない。お前も食ってしまう」
と言ったために、牛方はおっかなくなってドンドン逃げました。
 
 そして、下の山の萱柴カヤシバの陰に隠れました。追って来た山おばは、萱柴の処に来
て、
「何でもこの辺りに隠れていたな。出て来ーい」
と叫びながら、萱柴をドットッドットと倒して探しました。牛方は、端ハジこの方の萱柴
にピッタリ隠れて、
「当たって(見付かって)呉れなければ良いが」と思っていましたが、とうとう終シマい
に、その萱柴へ来たために、牛方はベロリと出張デハってしまいました。そしたら、山お
ばは、
「此処ココへ隠れていたな」と言って、牛方のことを捕まえて、引っ担カツいで、山の方へ
連れて行ってしまいました。
 山おばの家へ行ったら、先にもう一人の牛方も捕まって、隠されていました。そこで、
二人で何とかして逃げようと、こっそり相談こをしました。先に居た人が、
「お婆バさんや、お婆さん、今日は疲れたのでしょう。今日寝るとき、石のからどに休
むのですか、金カネのからどに休むのですか」
と言ったら、山おばは、
「今日、頭の塩梅アンバイが良くないので、石のからどに寝るのだ」
と言いました。
 
 「そしたら」
と、石のからどに寝かせました。山おばは、すぐゴーゴーと鼾イビキを繋カいて眠ってしま
いました。そこで、二人は、
「二人で、山おばを殺してしまおう」
「どうして殺したら良いだろう」
と相談して、大きな釜に湯をドンド沸かしました。そして、熱い湯を山おばの耳の穴に、
ドッドと注ツいでやりました。山おばは、
「熱い、熱い」
と泣きながら、死んでしまいました。
「よい塩梅に死んでしまったけれども、このままだと、また、生きて来るだろうから、
焼いてしまおう」
と言って、二人でドンドンと火を焚タいて、山おばを焼いてしまいました。そうしたら、
風が吹いて来て、その灰アグがボボーと散らばって、灰が蚊カとか夜蚊ヨガなどになって、
二人にかかって(向かって)来ました。
 それで、山おばは、死んでも人を食うと言われているのです。
 どっとはらえ。

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44 粟ぶくと米ぶく(八幡平)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、ある処に継母ママハハが居ました。
 そして、自分の子供の米ぶくと、先妻センサイの子の粟アワぶくと暮らしていました。この
継母は、何をしても米ぶくばかりめごがって(可愛がって)、粟ぶくは苛イジめてばかり
いました。
 ある日、二人に、
「山へ行って、栗クリを拾って来い」
と言い付けて、粟ぶくへは、底に穴の空いているこだし(蔓で編んだ篭)を持たせ、米
ぶくには、良いこだしを持たせて、
「これにいっぱい拾って来いよ」
と出してやりました。
 
 山へ行ったら、米ぶくは、粟ぶくのことを先に立てて、薮ヤブを漕コがせて栗を拾わせ
ました。
 粟ぶくは栗を見付けてこだしに入れれば、栗は小出しの穴からコロコロと落ちました。
後ろにいた米ぶくはその栗をチャッと拾って、自分のこだしへ入れました。また、拾っ
て入れればコロコロ、チャッと拾って自分のこだしへ貯めました。
 そうしているうちに、コロコロと落ちた栗こは、土の穴へコロコロと入ってしまいま
した。栗こ一つとも云えないと思って、二人でその穴こへ入ったら、奥の方に一人の婆
様バサマが居ました。
 
 「婆様や、婆様。此処ココへ栗こが転がって来なかったか」
と聞いたら、
「栗こよりも、お前達はどうして此処へ来たのかや。此処は鬼の居る穴で、今に帰って
来れば、お前達は捕トって食われるだよ」
と言いました。二人は動転ドデンして、
「んにゃ、どうしたら良いだろうか」
「どうしたら良いかと言っても、今鬼達は帰って来る頃だために、戻っても行き会って
しまうだろう。まず、俺オレの尻ケッツの下に早く隠れろ」
と言って、尻の下に隠して呉クれました。そこへ鬼達が戻って来ました。
 
 「や、何だか人臭クサいなー」
「んだ、んだ。何だか里臭いなあー」
と言うので、婆様は、
「今ね、里の雀スズメこが飛んで来たので、そのため里臭いなのだ」
「本当だろうか」
と言って、其処ソコいらを探していたら、
「居ないな。婆ババのことを転ばそうか。尻の下に居ないかな」
そしたら、
「年寄りを転ばせば、後ろに眼マナグが付くからな」
と言いました。鬼達は諦アキラめて、飯ママを食って、また穴から出掛けて行きました。
 
 ところが、その婆は大した虱集りシラミタカリで、背中とか、尻などモソモソモソとやって
いました。
 米ぶくと粟ぶくは、
「虱を捕って呉れましょう」
と言って、大した虱を捕って呉れました。そしたら、婆様は大した喜んで、
「良かった、良かった、大した良かった。そしたら、お前達に土産ミヤゲを呉れてやろう。
この箱は、こっちの方は重たい箱、こっちの方は軽こい箱、二人して好きな方を持って
行け」
と言いました。そしたら、米ぶくは、
「俺オレは、きつい(丈夫)ために重たい箱を貰って行く」
 粟ぶくは、
「俺は、与太こ(ひ弱ヒヨワ)なために、何ドレでも良い。軽こい方でも良い」
と、二人で箱を貰モラって、家へ帰って来ました。
 
 家に来て、米ぶくは重たい箱を開けて見てみたら、中に何ナンだりかんだりのぶかれも
のガラクタばかり入っていました。米ぶくは、
「こんなものを呉れて寄越して」
と怒って投げてしまいました。粟ぶくも軽い箱を開けて見ました。そしたら、中に綺麗
キレイーな着物とか、宝物とかがいっぱい入っていました。米ぶくは、
「粟ぶくや、粟ぶく、お前のに何が入っていたか」
と聞くために、
「俺のだってお前のだって、皆等しいだろう。等しい人から貰ったものだから。まして、
俺のだけが軽いのでしたから、僅ワズかより入っていないのです」
と言って、箪笥タンスへチャチャと仕舞シマってしまいました。
 
 そのうちに、花輪の祭こが来ました。継母は、自分の子ばかり連れて行く気になって、
粟ぶくに仕事をのっこりタクサン預アズけました。庭にノロッと粟を広げて、
「この粟をみんな押して置け」
と言いました。そして、米ぶくにはデラデラッ良い着物を着せて、二人で町へ出掛けて
行きました。そうしたところで、粟ぶくは、
「どうもしようがない、俺も祭こに行きたいけれども、連れて行かないだろうし、どう
にもされないな」
と、まず、おぼけ(竹篭)で風呂へ水を汲みました。けれども、ジャーとまかって(こ
ぼれて)ばかりいて、水はさっぱり溜まりませんでした。そこへ、寺の和尚さんが来て、
「それだと水は溜まらない。これで底に詰めて汲んでみたら」
と言って、衣コロモの袖をもいで(ちぎって)、おぼけの底を塞フサいでいました。それで、
粟ぶくは、一時間イットキマ(エットコマ)にいっぱい水を汲んでしまいました。それから、今度は
栗を押したけれども、なかなか捗ハカドらなくていたら、雀スズメこ達がいっぱい集まって
来て、チュンチュン鳴きながら粟押しをし、羽根こでバタバタやればボボーと籾モミも飛
んでしまうし、これも一時間に出来てしまいました。
 
 言い付けられた仕事が速く終わったので、粟ぶくもどうしても祭こを見たくなって来
ました。それで、婆様から土産に貰った着物を出して、綺麗に飾って花輪へ出掛けまし
た。町へ行ってみたら、継母は自分の子にだけ何だり買って呉れて、好きなものを食わ
せ、いい気になって、祭こを見て歩いていました。粟ぶくは、あんまり憎らしく悔しく
なって、自分も梨ナシを買って食って、そのかまど(食べ残しの種の部分)をブーンとぶ
っつけてやりました。そうしたら米ぶくが「母アパや、母。粟ぶくも来ているよ」
と行ったけれども、継母は、
「誰が来るだろうか(どうして来れるものか)。あの位のっこり仕事を言い付けて来た
ものなのに」
と言うので、
「そうだろうかな」
と言って、また、いい気になって、祭こを見ていました。粟ぶくは、
「あれ達は、家へ戻るかも知れないな」
と思って、十分に祭こを見て、先に家へ帰って、良い着物は仕舞って、知らない振りを
して、其処いらを片付けたりしていました。一時間エットコマしたら、二人が帰って来たため
に、わざと、
「お前達はな、お前達ばかり祭こを見に行って来て」
と、羨ウラヤましそうに言いました。
 
 次の日になったら、
「粟ぶく嫁こに給ターもれじゃ。粟ぶく嫁こに給ーもれじゃ」
と言って、嫁貰いが来ましたが、継母は、
「米ぶくな」
と聞いたら、また、
「粟ぶく嫁こに給ーもれじゃ」
と言いました。
「米ぶくではないかい」
と聞けば、
「んにゃ、粟ぶく呉れて給えタモレ」
と言いました。
 
 この嫁貰いは、村の大きい家の人で、昨日粟ぶくが一生懸命稼いだり、綺麗ぇーな着
物を着て、大した綺麗な娘こになって祭こへ行くところを見たために、
「あれなら、俺の家に嫁こに欲しいな」
と思って、来たのでした。継母は何たって自分の娘の方を呉れたいと思って、
「俺の家の粟ぶくの髪ときたら、ジーワリカブキリキリキリと大した目臭い(みっとも
ない)髪だし、米ぶくの髪なら、ピンパラリンピンパラリンと、良い髪なのにな」
と言ったけれども、嫁貰いは、
「んにゃ、粟ぶく給えタモレ」
と言いました。仕方無く、粟ぶくのことを呉れることにしました。そしたら、その大き
い家から、金覆輪キンプクリンの鞍クラを置いた馬こが迎えに来て、カランコロン、カランコロ
ンと、鈴を鳴らして、嫁こが行きました。米ぶくはそれを見て、羨ましそうに、
「ああ、俺も嫁こに行きたいなぁ」
と言いました。継母も、無情ムジョけなくなって(可哀想になって)、
「そしたら、おれが連れて行く」
と言って、米ぶくのことをばっこぶるしに乗せて、デンゴロリン、デンゴロリンと、田
の畦クロを引っ張って行きました。そしてら、ばっこぶるしがデングリとひっくり返って、
米ぶくは田の中に落ちて、ズブズブと沈んで行って、
「羨ましいーじゃ、うらつぶ。尻シリこの曲がったも、おかしけり」
と言いながら、螺ツブになってしまいました。
 どっとはらえ。

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45 蛇の祟タタり(八幡平)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのでした。
 ある処に沢右エ門と云う人がありました。ちっこい童子ワラシを連れて、竹薮タケヤブへ竹
を切りに行きました。
 そしたら、昼間になったために、
「お前があそこへ行って、水を汲んで来い」
と言いました。そしたら、その童子ワラシこは、桶こを持って水汲みに行きました。其処ソコ
の水この処に、大きな木を並べて置いてありました。其処へ、また大きい蛇が伝ってい
ました。
 そしたら、その童子の水汲む処へ、ズッと頭を下げて、赤い口を開けて、その童子を
呑む気になりました。その蛇の口がその水に映っていました。それを知らないで、その
童子こは、
「何と綺麗キレイな物が映っている」
と見ていました。その時、その童子こは、蛇によって芯(魂)を抜かれていたのです。
 
 そしたところで、沢右エ門が、
「随分水を汲んで来るに遅いこと」
と思って、迎えに行って見たら、もうその子供こは、とっくに弱っていました。
「ようし、この野郎。こらっ、お前がこの子供を食う気になって殺したな。よしよし、
待て」
と、まず、その子供のことを、手前の小屋っこに入れて来て、また、蛇の処へ行きまし
た。
「よし、お前と勝負しよう。場所の良い処へ出張デハれ」
 蛇も言うことを聞いて、行きました。そしたら、その蛇は行きながら段々大きくなる
のでした。そしたところで、今度は沢右エ門がうる木のまっか(股)を切って、蛇と云
う奴は、頭よりも尾っぱがおっかないために、尾っぱをパーンと一つ叩ハタけば、その木
は蛇を越えて、向こうへ跳ねて行ったのでした。そしたら、蛇はその跳ねて行った方へ、
尾っぱでパターンと返して寄越すのでした。そしたら、また、こっちでパターンと叩け
ば、こっちへパターンと跳ねて来るのでした。
 それを何回もやっていたら、ついつい蛇は死にました。そして、それに止トドめを刺す
のに、一間置きに一本ずつ刺したら、十二本も刺さりました。その蛇は十二間の長い蛇
でした。しかし、その子供こは、それが元で、遂に死にました。
 
 次の年、また、其処ソコの山へ竹を切りに行って、その蛇を殺した処へ行って見たら、
大きな骨がカラカラとありました。それを黙ダマってただ見て来れば良かったけれども、
「この野郎のために、己オノレの子供をただ殺されてきしまったのか。この畜生チクショウ、こ
れは」
とブーンと踏んだら、その時、足がグラッとなったと思ったら、痛くして、それからそ
の足が段々痛くなって、その沢右エ門もそれが元で、死んでしまいました。
 どっとはらえ。
 
参照[鹿角物語「2020かえらじの沢」]

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