31 小坊コボウっこと三枚のお札
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのです。
 ある村の外ハズれっこに、お寺がありました。このお寺に、和尚さんと小坊さんの二人
が居ました。和尚さんは、なかなか偉い人でした。小坊は毎日、お寺の中を掃除したり、
庭掃きをしたりしていました。
 あるとき、小坊が庭を掃いていたら、綺麗キレイな姐アネさんが来て、
「小坊さんや、小坊さん、うんと旨い物をご馳走するために、俺の家へ遊びに来ないか
い」
と言いました。小坊は、
「和尚さんから聞いて、和尚さんが行っても良いと言ったら、行きます」
と言ったら、姐さんは、
「それでは、明日アシタまた来る」
と言って帰って行きました。晩バンゲになって、小坊は、
「和尚さん、今日綺麗なお姐さんが来て、ご馳走するからって言ったけれども、行って
も良いでしょうか」
と聞きました。和尚さんは、
「そんな処へ、行くものではない」
と言いました。
 
 次の朝間、小坊が庭掃除をしていたら、また姐さんが来て、
「小坊さんや、こ小坊さん、綺麗な着物を買って上げるために、遊びに来ないかい」
と誘いました。小坊は、
「和尚さんに聞いてから」
と言ったら、姐さんは、
「明日、また来る」
と言って帰って行くが、それから毎日、小坊さんを呼びに来ました。小坊は、
「綺麗な姐さんが毎日来るけれども、行っても良いでしょうか」
和尚さんは、
「そんなに来るのか」
と言って、暫く腕組みして考えていたら、三枚のお札オフダを出して、それに有り難いお
経を書いて、小坊に渡しました。
 「このお札は無くさないようにしてな。困ったことがあったら、このお札を一枚ずつ
使え、そしたら、行っても良い」
 
 小坊は、お札を懐フトコロに仕舞シマって、次の日庭を掃いていたら、矢っ張り綺麗な姐さ
んが来て、
「小坊さんや、小坊さん、和尚さんから聞いたかい」
「和尚さんが、行っても良いと言っています」
と言ったので、そしたら一緒に行きましょうと、二人で出掛けました。
 ずっと、ずっと村を外ハズれて、何処ドコまでも歩いたけれども、何処まで行くか、分
からないために、小坊は、
「姐さん、姐さんの家は未だだか」
と言いました。
「うん、未だ未だ、もう僅ワズかだ」
それから、また、ずうっと歩いても、家らしいものは見えないために、
「姐さんや、姐さん、未だだか」
と言えば、
「うん、未だ未だ、もう僅かだ」
と言ったけれども、小坊は何回も聞くと、姐さんが怒ったために、初めは綺麗な姐さん
と思っていたら、段々おっかない人に見えて来ました。
 
 それからまた、ずっと歩いて、やっと大きな家に着きました。姐さんは、
「此処ココが俺の家だ。入れ」
と言いました。姐さんのことを見たら、今までの姐さんとは、別の人見たいで、鬼見た
いに見えました。小坊は「これは大変な処へ来てしまった。何とかして逃げなければ」
と思っていました。そこで小坊は、
「姐さん、ババ(大便)が出たから、便所へ行って来る」
と言いました。そしたら、姐さんは、
「小坊! 逃げる気だな。待てっ」
と叫んで、小坊の腰に縄を付けて、その端ハジこを自分が持って、
「さあ、行って来い。逃げる気になったって、逃がさないぞ」
と言いました。小坊は仕方無く、縄を引きずって便所へ行って、考えました。
「そうだ、そうだ、和尚さんから、お札を貰ったな」
小坊は腰から縄を解トいて、便所の柱に縛シバって、その柱にお札を一枚貼って、こっそ
り逃げました。小坊の便所が長いために、姐さんは、
「小坊や、小坊、ババは良いか」
と呼びました。そしたら、便所から「まーだ」と聞こえました。また暫くして「小坊や、
小坊、ババは良いか」と言えば、「まーだ」と言いました。姐さんが怒って、いきなり
縄を引っ張りました。そしたら、柱が外れて、便所がゴロンと転びました。
 
 小坊はとっくに逃げて、お札が「まーだ」と返事をしていたのでした。姐さんは怒っ
たのなんのって、あんまり怒ったために、本当に鬼になってしまいました。そしてまた、
小坊を追い掛けました。
「小坊、待て! 捕ツカまえて頭から食ってやるから、待てー」
と叫びながら、追い掛けました。
 小坊は一生懸命走ったけれども、未だ子供なので、相手は鬼だから、すぐに捕まりそ
うになりました。そこで小坊はお札を一枚出して、
「此処ココに、大きな川が出張デハれ」
と叫んで、お札を後ろに投げました。そうしたら、一時イットキの間(イットコマ)に、大きな川
が出来て、ドウドウと水が流れました。鬼は「何だ、こんな川」と言って入ったけれど
も、流されてしまうし、深い処で「アップアップ」なりました。
 
 小坊はその間に、一生懸命逃げました。鬼は流されながらも、やっとこさ川を渡って、
また追っ掛けました。
「小坊、待てー」
鬼の足が早くて、また、捕まりそうになりました。
 小坊は、残っているお札を一枚出して、
「此処に、大きな砂山が出張れー」
と叫んで、後ろへ投げました。そうしたら、小坊と鬼の間に大きな砂山が出来たのです。
鬼は登る気になれば、ズルズルと砂が崩れて、なかなか越えられませんでした。
 
 その間に小坊は馳ハせて、馳せて、とうとうお寺に着きました。
「和尚さん、今鬼に追っ掛けられて来たのです。早く戸を開けて下さい」
と叫びました。和尚さんは寝ていたけれども、小坊はどんどんと戸を叩タタいて、
「早く、早く、鬼は其処まで来たのです」
 和尚さんは「今、着物着て」「今、帯締めて」と言いましたが、小坊は「早く、早く
」と言うために、やっと戸を開けて、押入オシイレに隠しました。
 和尚さんは炉端の前に座って、餅を焼いていました。其処へ小坊を追っ掛けて来た鬼
が来たけれども、そのとき、綺麗な姐さんになって来ました。
 
 「和尚さん、小坊が来たでしょう」
と言ったら、和尚さんは、
「いや、来ないよ。それより餅でも上がれ(食べれ)」
と言って出しました。そして、
「お前さんは、何にでも化けられるだろう」
と言ったら、
「うん、何にでも化けれる」
和尚さんは、
「それでは、大きななって見て」
と言ったら、どんどん大きくなって行くので、
「ああ、よいよい、今度は小さくなって呉れろ」
と言いました。姐さんは、ずんずん小さくなって行くので、そこで、和尚さんは、
「ああ、分かった、分かった。今度は味噌ミソになって見て呉れろ」
と言ったら、皿の中に「こてっ」とした、味噌になりました。和尚さんは急いで、餅に
味噌を塗って、むしゃむしゃと食ってしまいました。
 どっとはらえ。

[次へ進む] [バック]


32 二人の爺な
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのです。
 爺ジイなと婆ババとありました。婆は座敷を掃いて、爺なは庭を掃いて居ました。そう
したら、豆っこ一つ見付けました。見付けたと思ったら、その豆っこは、鼠ネズミ穴へ入
って行きました。豆っこに付いて行って見たら、下に立派な家があって、
「豆っこも来たけれども、鬼達は博打バクチ打ちに来るために、梁ハリに上がって、鶏トリっ
この真似マネしてござれ」
と言われました。「よし」と思って、梁に上がって待っていたら、鬼達がいっぱい来ま
した。そのために、時間も経タった頃なので、と思って、鶏っこの真似をしました。三番
鶏と言えば、行くために、
「コケコッコー、一番鶏」
と言いました。また少し経ってから、
「コケコッコー、二番鶏」
 
 三番鶏を歌ったら、鬼達は、
「夜明ける。明るくなれば大変だ」
と、みんなは出した銭ゼンこを仕舞シマわないで、そのまんま行ってしまいました。爺なは
その銭こをいっぱい貰って、家へ帰って来ました。貰って来た銭こで旨い物を買って食
って居ました。そうしたら、隣の爺なが、
「火っこ、呉クれて給えタモレ」
と言って来ました。「火っこ呉れるけど、俺オレの家で、豆っこの後アトを追って行ったら、
銭こをいっぱい貰って来た。それで旨い物を買って来て食っているところだ。入って食
ってござれ」
と言いました。それならと言って食って行きました。隣の爺なは、家へ行って、俺もと
思って、
「婆、座敷を掃け、俺は庭を掃く」
と言って、無い豆を無理ムリに見付けて、入らない穴に入れてやって、自分も入って行け
ないために、婆から尻ケツを押して貰って入りました。
 
「豆っこが来ていないだろうか」
「豆っこも来ていたけれども、博打打ちが来るために、三番鶏と言えば、博打打ち達は
行くために、梁に上がって、鶏っこの真似をしてござれ」
と言いました。「よし」と思って、梁に上がって鶏の真似をしました。そして、三回歌
いました。鬼達は、みんな明るくならないうちに行くと言いました。一番後アトに子っこ
鬼が残りました。子っこ鬼はあんまり急いだところで、閂カンヌキに耳を引っ掛けました。
振り回したけれども、外ハズれませんでした。あんまりおかしくて、爺なは笑いました。
そうしたところで、「これは鶏ではない、人間だ」と言って、鬼達に叩タタかれたのです。
血みどろ気になって来ました。そしたら、婆がそれを知らないで、
「あら、俺の家の爺なは、赤い木綿モメン(着物のこと)を貰って来たのかい」」と言いま
した。まず、人の真似をするものではない。
 どっとはらえ。

[次へ進む] [バック]


33 良い燗カンとあっぷっぷ(花輪)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのです。
 山の中のお寺に、和尚さんと小坊コボウさんが二人居ました。和尚さんは欲張りヨクバリ
で、手前ばかり旨い物を仕舞シマって置いて、食ったり飲んだりしました。
 和尚さんは、正月になれば毎晩バンゲ、小坊達のことを先に寝かせて、手前ばかり餅モチ
を炙アブって、酒こを沸ワかして飲んでいました。和尚さんは、餅が炙れれば「あっぷっ
ぷ」、酒こが沸けば「良い燗カン、良い燗」と言いました。
 小坊さん達は何とかして、俺達も「餅を食ったり、酒こを飲みたいものだ」と思いま
した。それで和尚さんに頼んで、「あっぷっぷ」と「良い燗ヨイカン、良い燗ヨイカン」と名前
を付けて貰いました。
 
 また晩になって、和尚さんが一人こで餅を炙って、
「あっぷっぷ」
と言ったら、
「はい、和尚さん何か用こですか」
と一人の小坊さんが出て行きました。今度は、酒の燗こが付いたので、
「良い燗、良い燗」
と酒っこを飲む気になったら、もう一人の小坊さんが、
「はい、和尚さん何か用こですか」
と言って出て行きました。和尚さんは、仕方無しにそれからは何でも、みんなに分けて
やりました。
 どっとはらえ。

[次へ進む] [バック]


34 久保田の狐っこ(花輪)
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔昔、久保田クボタへ行く田圃道に、良くない狐が出張テハて、よく人のことを馬鹿にし
ました。暗くなってから提灯チョウチンこ下げて行くと、提灯にパァーと尾っぽをぶっつける
のですよ。提灯こはボダッと落ちて、灯ヒが消えて真暗闇ヤミになればね、狐こはめんこい
女オナゴに化けて、
「晩バンゲになったんですね」
と言って出張りました。
「俺オレも一緒に連れて行って下さい」
と、後ろからスタスタと付いて来るのです。
 
 お振舞フルマイのご馳走を沢山風呂敷に包クルんで、背中に背負っている人は、「これは狐
だな」と思っても、おっかなくて、おっかなくて、ぶるぶる震フルえながら歩くのです。
あんまりおっかないために、何処ドコをどのように歩いたか分からなくなって、気が付い
て見たら、田圃の真ん中に黙ダマって座っていました。
 頭の毛はボサボサ、着物は泥包ドロクルみ、手も足も傷だらけで、赤い血がダラダラ。履
物ハキモノは何処で脱ヌげたか、背中の風呂敷に何も無くなって、頭の上に朝日が高くなって
いました。
 この狐っこはね、男の人には、めんこい女に化けるし、女には綺麗キレイな小姓コショウにな
って出張るのですよ。
 おっかないや、おっかないや。どっとはらえ。

[次へ進む] [バック]


35 狐と川獺カワウソ
 
                 参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角のむかしっこ」
 
 昔、あったのです。
 ある処に、狐と川獺と居ました。狐は坊主負けズホウマケ・ジホマケ(嘘吐き)で、川獺は正
直でした。あるとき、狐が川獺に、
「川獺や、俺オレはお前の処へ、ご馳走なりに行きたいな。
と言いました。川獺は、
「ああ、来い、来い、俺は川の雑魚ジャッコを捕って待っている」
と言って、次の日、川へ行って、雑魚をいっぱい捕って来て、狐に腹いっぱいご馳走し
ました。狐は狡ズルくて、最後に残ったものまで、
「これ、貰モラって行く」
と、言って持って行きました。川獺は、
「狐よ、俺はお前の処へ明日、ご馳走なりに行く。お前の方だと山なので、雉キジでも兎
でも沢山あるだろうな」
と言いましたら、
「ああ、良いもなも、待っているから来い」
と言って、戻って行きました。次の日、川獺は「狐はどんなにか山の物を捕って待って
いるだろう」と思ってどんどん山道を走って、狐の家へ行きました。
 
 「狐や、俺は来たよ」
と、入って行ったら、狐は手胡座テアグラを構カいて、天井テンジョウを見たまま、パッと眼
マナグを開けて、黙ダマって上ばかり見ていました。
「狐、お前は坊主負けする気か。あれ位クライ約束したのに、何で黙っているのや」
と言っても、黙っていました。川獺は、呆アキれて戻ってしまいました。二、三日してし
まったら、狐はまた川獺の処へ来ました。今日キョウもまた、川獺から雑魚をご馳走になっ
て呉クれると思ったのでしょう。川獺は、
「狐、お前は何が気に合わないのだ。折角セッカク人が来たのに、騙ダマして」
と言ったら、
「川獺、今日はこの間の申し訳(お詫ワび)に来た。この間は家の神様に天井守りマブリせ
よと言われていたのだ。天井と言っても、まず、上を見て空守りをしていたのだ。今度
はご馳走するためにな」
「んだか、そんなら今日は折角来てお出でになったのだから、また川雑魚をご馳走する。
今度は騙すなよ」
と言って、またご馳走になって行きました。川獺は、今度こそ騙されないだろうと思っ
て、狐の家へ行って見たら、狐の野郎はまた、手胡座を構いて、じっと下を見て黙って
いました。「この野郎、何かぶっつけてやろう」と思って、
「狐、よくも騙したな」
と手柴テシバをぶっつけて、戻って来ました。
 
 狐がまた川獺の処へ来ました。川獺は「また来たか、よくも来たものだ」と思ってい
たら、
「川獺、この前は不調法ブジョホウした。丁度神様から土守りせよと言われて黙って下を向
いて拝んでいたのだ。今日はお前の家へ、ご馳走になりに来たのではない。雑魚の捕り
方を教えて貰いたくて来た」
「そうか、そうか、そんなことなら、なんぼでも教える。うんとしばれる日だと、しが
まこ(氷)が沢山流れるだろう。お前の大きい尾っぱこをその中に入れて待てば、どん
なにか雑魚が付くだろうに」
 
 狐は「そうだか」と言って、うんとしばれた日に川の中に尾っぱを入れて待っていま
した。そうしたら、しがまこがカラカラと流れる度タビに、尾っぱこにブルブルとぶっつ
かりました。
「これならどんなに付いたか分からない、雑魚はいっぱいついたろうな。尾っぱこが大
した重たくなった」
と少しばかり尾っぱこを揚げても、上がって来ませんでした。そこへまた、川獺が来て、
「狐、どんなにか雑魚が付いたろうな。ヤーンバセー。ヤーンバセー」
と囃子ハヤシました。其処へ、担カツぎ棒を担いで、川へ水汲みに来た男童子ワラシ達が居まし
た。見たら狐が尾っぱこを川に入れて、抜けないで、うるうるしている様ジャマを見て、
担ぎ棒で叩タタきに来ました。狐は狼狽ウロタえてボンボンと跳ねたら、尾っぱこが抜けて無
くなったそうです。
 そして、昔の狐は今の兎で、それで兎の尾っぱこは無いのです。
 どっとはらえ。

[次へ進む] [バック]