13 歌枕考
 
                       参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
 
〈歌枕とは〉
「源氏物語 二十二玉蔓」
 よろずのさうし歌まくらよくあないしり見つくして、そのうちのことばをとりいづる
に、よみつきたるすぢこそは、つようはかはらざるべけれ
 
「花鳥餘情 十二玉蔓」
 歌枕とは、名所の歌をあつめたるをいへり、能因法師の五代集の歌枕のごとし、
 
「作歌故実 一」
 門人(小山田與清門人)篠原資重が説に、歌枕といふは、名所のことしるせる書にか
ぎらず、すべて歌詞の注釋書の名なるべし、そは今傳はれる能因歌枕といふものも詞の
注にて、名所の事もしるしたれど、これは眞偽さだかならずとて、いひもけつべし、公
任卿の歌枕、能因の歌まくらとて、古書にひきたるに、名所の事にかぎらぬをもてしる
べし、源氏の注釋どもの説はうけがたし、歌枕は歌詞のことゝ心得たるがよしといへる
は、げにいはれたる説とすべし
 
「松の落葉 三」歌まくら
 ふる歌によめる天のしたの名どころを世の人の歌まくらといふは、歌よみのまくらご
とゝするこゝろにやあらん、源氏物語桐壷の卷に、やまと言のはをも、もろこしの歌を
も、たゞそのすぢをぞまくらごとにせさせたまふと見えて、まくらごとゝは、つねのこ
とぐさをいふよしにおもはるればなり、又おもふに、しかにはあらで、まくら詞のたぐ
ひにて、よむうたのたすけに名どころをするこゝろにやあらん、いひはじめたるこゝろ
は、さだかにしりえがたけれど、名どころを歌まくらといふことは、ものにも見えつ(
中略)ふるくもいひつることになん
 
「笈埃随筆 七」歌枕
 昔より名所勝景を探る事を歌枕といふ、近くは元禄年中難波契冲阿闍梨の勝地吐懐編
に曰、「和歌之有名所、猶寝之有枕、因枕夢熟、因名所而佳句成、歌枕之稱蓋如是」と
云々
 
「長明無名抄」
 名所をとるに故實有、國々の歌枕かずもしらずおほかれど、その歌の姿にしたがひて、
よむべき所のある也、たとへば、山水を作るに、松をうふべき所にはいはをたて、池を
ほり水をまかすべき地には、山をつき眺望をなすごとく、その所の名によりて歌のすが
たをかざるべし、これらいみじき口傳なり、もし歌の姿と名所と、かけあはずなりぬれ
ば、事たがひたるやうにて、いみじき風情あれど、やぶれてきこゆる也
 
「大鏡 五太政大臣伊尹」
 殿上の人々扇どもしてまゐらするに、こと人々は(中略)えもいはぬかみどもに、人
のなべて知らぬ歌や詩や、又六十餘國の歌枕に、名あがりたるところどころなどをかき
つゝまゐらするに(下略)
 
「十訓抄 十」
 大納言行成卿、いまだ殿上人にておはしける時、實方中将いかなる憤か有けん、殿上
に参會て、いふ事もなく行成の冠を打落て、小庭になげ捨てけり(中略)實方をば、中
将をめして、歌枕見て参れとて、陸奥國にながしつかはされける
 
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歌枕蘇生
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