テストのコスト と ルノーの金曜日テスト参加

良い車を開発するには、良いドライバーを雇いテストをたくさんすれば良いことはお判りいただけると思いますが、なぜ、皆そうしないのか? 確かに良いドライバーの数は限られていますし、良いドライバーほど高額の契約金が必要なことも簡単に判ることですね。では、なぜ回数を増やさないのか? 昨年後半、ジョーダンはなぜテストを思うように出来なかったか? そう、コストがかかるからです。

以前からこのテストにかかるコストについていろいろ調べては見たものの、具体的な数字が手に入らなかったのですが、今月号のF1 Racingに最高のタイミングで出ていました。それによりますと、ブレーキ、タイヤ、ガソリン、エンジンなどの消耗品にかかるコストは走行距離1kmあたり、1000ドル(12万円)だといいます。たとえばバルセロナサーキットだと1周5000ドル(60万円)、ヘレス(距離から考えてバレンシアではないかと思いますが)で1周4000ドル(48万円)なのだそうです。

昨年11月にBARがバルセロナで行ったテストでは3日間で207周走行しましたから、1250万円ものコストが消耗品だけでかかった計算になります。それ以外にも、冬の間に限らずテストはスペインなど、地中海沿岸地域で行われることが多いですから(主に天候、気温による)、毎回50〜70人のピットクルーをはじめとするスタッフの旅費、宿泊費、食事代も馬鹿になりません。

また、サーキットを借りるのにも大金がかかります。具体的な数字は全くわかりません。比較の対象にもならないでしょうが、ロンドン市内にあるカート場を1時間貸し切りにするだけで、最低40万円かかりますから、本物のサーキットを一日借りると一体いくらかかるのか、想像も出来ません。フェラーリは自前で2つもテストコースを所有していますので賃貸料こそかかりませんが、維持費、人件費がかかりますね。ムジェロが1914年、フィオラノが1971年に建設されていますから建設費は償却されているでしょう。

テストとはいえ、危険がつき物ですから、コースマーシャルなどの人件費を含めたサーキット運営者側への支払は大変なものでしょう。合同テストでは各チームで割り勘にしますが、そうでなくてもテスト中はトラブルでコース上に止まってしまう事も多いため、マーシャルの数もレース並に必要ですし、度々中断されれば予定した周回数をこなすのも難しくなってきますから、合同テストが安いといっても良し悪しですね。

試験前の一夜漬けか、日々の予習復習か

今期話題の金曜日テストへの参加を試験前の一夜漬け、年間無制限のテストを日々の予習復習に喩えることが出来るのではないでしょうか。出題範囲が狭い場合は一夜漬けがかなりの効果を発揮しますね。しかし、これで実力がついているのか、学力が伸びるのかというと疑問が残りますね。日々の予習復習をしっかりやって試験前日はゆっくり落ち着いておく方が総合的には有利ではないでしょうか。

ただし、基礎学力が十分にあり、かつ、赤点すれすれの合格ラインを目標にする場合は、効率を考えて一夜漬け一本で挑むこともいいのかもしれません。実は今回多くの人を驚かせたルノーの金曜日テスト参加表明には、「割り切りと目標を大きく持つ」という、ルノーなりの深慮があった模様です。チームボスのフラビオ・ブリアトーレやデザイナーのマイク・ガスコインの話から、その全容があらわになってきました。

ガスコインがベネトンに移籍した直後の2001年夏、彼はベネトンの遺産である01年型マシンを「それなりに」改良して02年を戦うと同時に、彼オリジナルのマシンを同時開発して03年に備える方針を立てました。今期のマシンの開発は実に01年秋に始まっていたのです。ルノーの新車発表は1月20日の予定ですが、昨年11月のテスト解禁日にルノーが持ち込んだマシンは空力パーツ(カウル等)以外は完全な03年型で事実上のシェイクダウンだったそうです。

新型エンジンは前年同様111度バンクを採用し外観こそほとんど変らないが、一つの部品たりとも共通せず、新機構もふんだんに盛り込んだものであったため、ガスコインはテスト初日、大変心配していたそうです。が、このテストは大成功を収め、エンジントラブルが一回あっただけで、予定通りのテストを「満足な成果を得て」(ブリアトーレ)終えました。(新機構サスペンションはテスト見送り)

また、ブリアトーレによると、今期4位を維持するのに十分な実力は持っており、3位争いのみを目標とするそうです。しかし、04年以降、トップ争いに参加すべく、現在、04年型マシンの開発を続けており、05年型!の設計図を引き始めたとのことです。これらの話を総合すると、現時点での今期マシンの熟成度合いにある程度満足し、3位争いという現実的な目標を定めることで、シーズン内のテスト削減から浮いた資金を、04年、05年へ向けた開発に充てるという戦略に出たわけですね。

長期的戦略に基けば、純粋なコスト削減とは別の目的でこの金曜日のテストを利用することができると言う意味で、納得しました。中学生の受験勉強に喩えて言うと、高校受験はそれなりの高校を目指す代わりに、有名大学への受験に目標を置いて勉強を始めるようなものでしょうか。ただ、フェラーリのマシンの総合パフォーマンスはシーズン中に、10%程度向上すると言われますし、新技術が生み出されたりルール変更があったりと変化に富む世界でもあるわけですから、このルノーの長期戦略が吉と出るか凶と出るか、また一つ楽しみが増えたと私は思っています。

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