テストのテーマと目的、そしてタイム

B・A・Rの新車でのテストがいよいよ始まりました。これから琢磨選手の「仕事」が本格的に始まるわけですね。1年間、走りに走って車を開発していくのと同時に、経験もさらに積み上げていってもらいたいですね。

さて、テストといっても非公式にではありますが、各ドライバーのタイムが報道されます。タイムが出る以上、上下がつきますし、そうするとファンの心理としてもその結果に一喜一憂してしまいがちですが、その必要はありません。公式掲示板では久しぶりということもあって、初回テストのタイムを紹介しましたが、このタイムは全くと言って良いほど意味のないものなのです。なぜ、そのタイムに意味がないのかを、テスト内容の種類を例に挙げながら説明していきたいと思います。

テストには必ずそのテーマと目的が存在します。テーマによっては車の状態が全く違いますし、場合によってはとても乗りにくい車かもしれません。また、目的によってもドライバーに要求される走りは異なったものになります。そのテーマと目的に従ってテストは行われるため、単純に速さを競って走るわけではないのです。特に開幕までまだ時間がある内はその傾向が強く出ます。もっとも、未だにスポンサー獲得に苦労しているチームなどは、異常に軽い車体で(テストでは重量制限がない)無理にでもタイムを出して「今期のマシンの戦闘力」をアピールし、スポンサーの説得に利用することが無いわけではありませんが。マーチン・ブランドルによると、通常のテス トにおいては、自分と車の能力の98%の力を安定的に引き出して運転するのが、一流のドライバーだと言っています。わずか2%を差し引く方が難しいと思いますが、行き過ぎて102%となってはいけないからでしょう。

テストのテーマは無数にありますが、主なものに

タイヤ、ブレーキ、サスペンション、エンジン、ギアボックス、空力、電子制御用ソフトウエア

などがあり、それぞれについて

開発テスト(不具合の発見、改良)、最適化(セットアップ)、耐久力テスト

などの目的があります。これらは当然のことながらチームごとに異なりますし、またチーム内でもドライバーによって担当が異なる場合がほとんどで、日によっても異なります。

例えばタイヤテストですが、磨耗初期の特性を探るために、短い周回数で次々と新タイヤに履き替えながら走りつづける場合、その逆で磨耗したタイヤに次々と履き替えて周回を重ねる場合、1セットのタイヤで走り続ける耐久テストなど、目的が違えばタイムの出方も大きく異なりますね。色々なコンパウンド(組成)のタイヤをテストする場合などは、履き替えるごとにハンドリングが大きく異り、スピードを出そうにも出せないこともあるでしょう。

エンジンテストなどではわざと負荷をかけたり、燃料噴射濃度を変える、回転数の上限を上げ下げするなど、データ取得目的で走っている場合もあるかもしれません。また、フェラーリは今期の初数戦で、信頼性の問題から2002年型の車で戦うかもしれないと明言していますが、02年型のエンジンは形状から03年型の車に乗せられないため、両方の車を同時開発しています。そのため、両車の比較目的で同時に走らせてデータ比較をしている模様ですので、この差も影響してくるでしょう。

マクラーレンは昨年11月のテストで新しいタイヤコンパウンドとブレーキ素材の研究を徹底的に行って、いいものを見つけたと言っていますからこの際も、コースの出るたびにタイムが大きく違ったであろうと想像できます。また、ルノーはフロントサスペンションの新機構を現在テストしていますので、機能チェックなどでタイムなどは無視した走りになっているはずです。今年のイギリスグランプリ以降禁止されることなっているオートマチックデバイスも、依然テストされています。それまでのレースではやはり重要な要素となりますので、ハード、ソフト両面での最適化は各チーム力を入れているでしょう。

開幕戦が近づくに連れ、セッティングを煮詰めるテスト内容になっていくためスピード重視になりますが、この場合でもフルタンクでレース向けセットアップをするチームもあれば、予選をシミュレーションして少量の燃料積載でのセッティングをしている場合もありますので、やはりタイムの単純比較は適切ではありません。加えて、冬の間、スペインと言えど結構寒いのですが、日々の温度差が5度以上になることも珍しくありません。一般に気温が低いとエンジンの吸気効率が良くなるため馬力が高くなり、一説には数%もの違いが出て来るそうで、これによってもタイムは大きく影響されてきます。

以上のように、テスト走行時のタイムはチーム間、ドライバー間、前日比など如何なる比較も適当ではないのです。従って、テストでは常に良いタイムを出していたのに本戦では良い結果が出ていないとか、テスト時のタイムが悪かったのに好成績を収める例など、毎年開幕後に必ず見られるものですね。

なお、ご参考までに、来週、再来週のB・A・Rのテスト予定をご紹介しておきましょう。

1月28日〜31日 4日間 バレンシア

2月 3日〜 4日 2日間 バルセロナ

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