≪F1界の構造(その5)≫

皆さん、しばらくぶりです。藤麿編集員、原稿が遅くなり申し訳ありません(笑)。
さて、今回でシリーズ5回目になりますが、ちょっと予告とは異なり「琢磨BAR
入り記念特別編」として、私なりの応援歌(演説?)をお送りしたいと思います。
書いてる途中から、かなり琢磨への想い入れが入ってしまったんで、またまた超長
文になってしまいましたが、私が決して長文マニアではないことは、皆さんもご存
知の通りです(爆)。いつものように、覚悟するか無視して下さいね。

来年、琢磨がレースで走るのを見られない事を、おそらく多くの方がとても残念に
思っておられることと思います。私自身も、このような形になる確率がかなり高い
とは予想していましたが、やはりこうやって決まってしまうと、琢磨の走りを来年
も見たいという想いは打ち消せません。ただ、私は「琢磨みたいな凄いドライバー
が、何でF1に乗れないんだ」とか「琢磨はF1に乗れて当然なのに、日本企業が
ちゃんと支援しないから乗れなかったんだ」などとは、実は全く思っていません。

今年からF1を見始めた方は特にそうだと思いますが、日本に居ると、F1に乗る
ことがいかに難しく、そのために越えるべきハードルがいかに多くあるかが、とて
も見えにくいと私は思ってます。(かくいう私自身、海外での生活経験がある訳で
はないんですが)少し前に放映されたNHKの「今、裸にしたい男たち」は、琢磨
のこれまでの軌跡をとても上手にまとめてあって、私もとても楽しめましたが、
冷静に見てみるとF1の本当の凄さや、日本人とF1の距離感みたいなものは、
全く伝わらなかったようにも感じました。いえ、不特定多数の方が見る90分程度
のテレビ番組では、それを表現すること自体に無理があるんです。

私は、F1以外にもマイナースポーツを含めて色々見ますが、どちらかというと
国内スポーツよりも国際的な大会、つまり世界選手権やW杯、オリンピックなどを
好んで見ます。それは、狭い島国の中での日本人同士の戦いではなく、世界の表舞
台で”世界基準”の実力を持つ天才達と、彼等と伍して戦う日本人選手を見ていた
いという気持ちが強いからに他なりません。そして、そこでいつも思うのは、
「日本人が世界の中でやっていくのは、本当に大変な事だ」ということなんです。

例えばテニス、伊達公子選手(M・クルム選手の奥さんでしたね)が全盛期に、
確か世界ランク5位ぐらいまで行ったと記憶してますが、彼女以外に世界ランク
20位以内で長く活躍した選手って、他に居たでしょうか?ワールドテニスは男子
と比較すると、女子は比較的選手層が薄いと言われているんですが、それでも世界
ランク20位以内というのは、何十年にも及ぶ日本人のテニスの歴史の中で、彼女
以外の誰も住めなかった世界なんです。ましてや男子になると、世界ランク50位
以内に居続けることさえ遠くかなわず、現実はとても厳しいことが分かります。

皆さんが比較的知っているはずの野球やサッカーでも、同じことが言えます。
サッカーではここ数年、中田英寿選手を始め多くの選手がヨーロッパに渡り、それ
なりに活躍していますが、例えばサッカー選手に世界ランキングがあったとして、
果たして20位以内に日本人選手が入れるでしょうか?ロナウドやベッカム、
バティストゥータなどと伍して、世界の人々から「彼は絶対20位以内に入って
いる」と言われる選手が居るでしょうか。野球は決して世界選手権ではありません
が、世界20位以内に入る可能性があるとしたら唯一、イチローだけでしょうね。

相撲や柔道などの国技を別にすれば、世界のメジャースポーツの中で世界ランク
20位以内というのは、元々日本人にとっては極めて高いハードルであり、多くの
種目で「前人未踏」の領域なんです。レーシングドライバーの世界には、各カテゴ
リーでのシリーズランキングこそありますが、もちろん世界ランキングは存在しま
せん。しかし、F1に乗るということは、多くのF1関係者に「実力で世界20位
以内」であることを認めてもらうことに他なりません。以前にも書きましたが、
日本の中で1位であることは、世界で20位以内に入っていることの証明には、
全くなりません。言うまでもなく、この評価はF1関係者によるものでなければ、
全く意味が無いからです。

もちろん現実には、F1のシートはスポンサーにも左右されますが、それは多くの
場合、弱小チームの2ndドライバーシートに限った話です。そう、F1界の誰か
らも「世界で10位以内の実力」であると認められれば、最低でも中堅チームの
1stドライバーシートが約束されるのです。そして、世界6位以内ならトップ
チームに・・・。
琢磨が目指している頂上、それはここにあります。

今の琢磨の評価は、F1関係者の中では世界15〜25位あたりを、行ったり来た
りしているのかもしれません。でも、何度も言いますが、琢磨がこの場所に立って
いること自体、本当に素晴らしいことなんです。ポイントを何点とったとか、表彰
台に上がったとかの表面的な事ではなくて、今琢磨が立っている場所は既に日本人
にとっての最高峰、ここから彼が進む場所は間違いなく日本人にとって前人未踏の
世界です。そして、琢磨がこれからどうやってF1界で”出世”していくかはもち
ろん分かりませんが、これからおそらく当分の間、彼を越える日本人ドライバーは
出てこないでしょう。
これは、F1を20年以上見てきた私の、偽らざる気持ちです。

私達は、同じ時代に生きる者として、そんな琢磨を来年も再来年もずっと応援
できる。これって、とても幸せなことだと思いませんか?

では、毎度のことながら超長文に付き合って頂き、ありがとうございました。
尚、次回は本題に戻るつもりですが、内容は未定です。ネタが切れなければ、
総集編の放映までには現れると思われます。

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