≪F1界の構造(その4)≫

藤麿さん、その他読者の皆さん、長らくお待たせしました。
またまた、一週間ぶりの書き込みです。今回でシリーズ4回目になりますが、特に
「前回までのあらすじ」は書きません(笑)。
お暇な方は、興味があればバックナンバー?もご覧下さい。

さて、今回は「弱小チーム編パート2」となりますが、前回はジョーダンとザウバ
ーについてそれぞれのチームの成り立ちや内情を書きました。
なので、順番的にはミナルディになるんですが、今回は個々のチームについてでは
なく、F1における弱小チームの役割について書いてみたいと思います。
不本意ながら?話が逸れまくりの”超長文”になってしまったので、読んで頂ける
方は覚悟して(笑)、それ以外の方はきれいさっぱり無視して下さいね。

今年からF1を見始めた方や、琢磨に興味を持って最近F1の世界を知られた方は
特に、何故あれほどチームの格差あるのか、あるいは何故琢磨が競争力のない
ジョーダンで戦わなくてはならないのか、理解出来ないかと思います。
でも、F1というのは昔からそういうもので、一見凄く不公平に見えるのですが、
実は力のある者にはちゃんとチャンスが与えられる仕組みが存在します。
そして、この仕組みの極めて重要な部分を担っているのが、弱小チームなのです。

F1に乗りたがっている若いレーシングドライバーは、世界中に何百人も居ます。
そして、モーターレーシングの本場であるヨーロッパのレースにチャレンジして、
F1チーム関係者の目に留まるような具体的な結果を残せるドライバーも、毎年
10人以上は確実に出てきます。これに対して、F1シートは現在わずかに20
しかありません。そして、空きシートに至っては毎年3つ前後しか生まれません
から、たとえ弱小チームであっても、死に物狂いでF1シートを勝ち取る意思を
持った者でなければ、手に入れられるものではありません。
以前にも書きましたが、私は、何が何でもF1にこだわる者だけがF1に乗れば
良く、出来れば乗ってみたいなんていう人間は、例え日本人であっても決して乗る
べきではないと思っているんですが、それはこのような背景があるからです。

琢磨はそんな”世界レベルでの天才候補達”と鎬を削って、ヨーロッパで輝かしい
成果を上げて、最も正当な形でF1シート獲得しました。

このこと自体、今までの日本人ドライバーには考えられなかったことで、長くF1
を見ている私でも、その人柄も含めて彼には大きな夢を託してしまう所以なのです
が、そんな過程を経て琢磨が死に物狂いで勝ち取ったのが、”弱小チーム”ジョー
ダンのシートなのです。
そして、F1という厳格な”階級社会”では、弱小チームというのは色んな意味で
”ステップボード”の役割を果たしています。
日本語にすると”踏み台”になってしまって、なんか身も蓋もない感じですが、
琢磨のようにF1に新しく入ってくるルーキーは大抵の場合、弱小チームからF1
キャリアをスタートさせます。
もちろん、例外的に中堅チームやトップチーム(最近ではモントーヤがこのパター
ン)でデビューするルーキーも存在しますが、セナもシューマッハもハッキネンも
フィジケラも、みんな弱小チームからスタートしているんです。
そして、これは何もドライバーに限った話ではなく、実はエンジニアやデザイナー、
メカニックなども同じなんです。彼等に共通しているのは強烈な上昇志向、つまり、
F1という階級社会の中で自分の実力を証明し、より良い環境(チーム)に這い上
がっていこうという意思なんです。
そして実際に、力を示せば確実に道は開けます。
例えば、琢磨と同じ今年のルーキーであるウェバーは、平均的F1エンジンと比較
して50馬力は劣ると言われるミナルディのマシンで、いくつかの予選やレースで
印象的なパフォーマンスを示し、中堅チームであるジャガーに迎えられました。
また、昨年にはライコネンがザウバーチームから弱冠21歳でデビューを果たし、
そのデビューレースで初ポイントを上げたことを始め、シーズン前半に関係者に
強烈な印象を残し、見事マクラーレンのシートを勝ち取っています。

ちょっと話が逸れますが、今年のイタリアGPの予選で、そのライコネンがスロー
走行中にミラーを良く見ていなかったことが原因で、アタックラップに入っていた
琢磨を邪魔する形で両者がクラッシュしてしまったシーンがありました。
ここで彼は、エディに焚き付けられてマクラーレンのピットに抗議に行くのですが、
ここで琢磨を迎えたロン・デニス、琢磨の話を聞くとすかさず
「(クリアラップでも)どうせ遅いんだから、黙って譲りゃあいいんだよ!」
という暴言を吐いたそうです。
これは、その場に居合わせたある外国人ジャーナリストに聞いた話として、ある
日本人ジャーナリストが紹介していたもので、もちろん真実かどうかは分かりませ
ん。しかし、私は十分あり得る話だと思いました。

いえ、私だって「我らが琢磨に、何てこと言いやがる!」って気持ち、ありますよ。
でも、皆さんの気持ちを煽りたくてこんなこと書いてる訳ではもちろんなくて、
ロン・デニスを責めるためでもありません。
私には、彼の”暴言”は「悔しかったら、お前の力を見せてみろ!」と言っている
ようにも聞こえます。
そう、このフレーズこそは、全てのF1ルーキーに繰り返し突きつけられる剣であ
り、琢磨が1年間受け続けたプレッシャーの正体ではないかと、勝手に思っていま
す。ロン・デニスの為に少し言っておくと、彼は少し前にアイルトン・セナの事を、
「レーシングドライバーとしてだけでなく、人間的にも今までに接したドライバー
の中でベストだった。彼は、信じられないぐらい暖かい人間だったんだよ。」
と言っていました。
私自身も、彼は極めて優秀で知性あふれる経営者であり、立派な人格者だと思って
いますが、そんな彼が上に書いたようなことも口にする。
うまく言えませんが、これがF1界なんです。
つまり、一旦その人物の実力を認めれば、諸手を上げて賞賛することを惜しまない。
その一方で、認めない者には、極めて冷酷な仕打ちが待っている。
もちろん、以前に誰かが書かれていたように、多少は日本人に対する偏見とかもあ
るかもしれません。
でもね、こんな事でいちいち落ち込んだり、「暴言だ!」とか大騒ぎしていたら、
F1の世界では到底生き残れません。
静かにリベンジへの決意の炎をメラメラ燃え上がらせることで消化するのが、正し
い対処法だと思っています。
琢磨が「GO FOR IT」の中でこの件に触れながら、ロン・デニスの発言には一切
触れていなかったのを見て、彼が”正しく対処した”ことを確信して、
「琢磨、やるなあ」って勝手に感心してました(笑)。

話が横道に100キロぐらい逸れましたが、そういう訳で(どういう訳?)弱小
チームはF1に入ろうとするドライバーやエンジニアにとって、登竜門という重要
な役割を果たしているのですが、その弱小チームが今、存続の危機にあるのです。
これは、F1界の構造を壊してしまう極めて重大な問題であり、F1そのものの
存続を揺るがすことに繋がることなんです。考えてもみて下さい。
弱小チームあってのトップチームなんです。
もしF1が、フェラーリ、ウィリアムズ、マクラーレン、トヨタだけのグリッド、
8位までがポイント獲得(笑)できるレースになったら、誰か見たい人居ます?
私は絶対見ません。

では、超長文に付き合って頂き、ありがとうございました。
うー、2時間以上かかっちまった(汗)。次回は「番外編」になる予定ですが、
ひょっとすると「弱小チーム編パート3」かもしれません(笑)。
今回は書きたいことが色々あり過ぎて、うまくまとめられなくて、ごめんなさい。

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