≪F1界の構造(その14)≫

今年のF1界は、レギュレーションの変更を中心とした大きな変化の中にあり、既に開幕まで
あと2週間となった今現在でも、不明瞭な部分が数多くあります。開幕戦で大きな混乱を招か
なければ良いのですが、長年F1を見ている私でも、今年はちょっと心配になります。

前回は、冬のテストなどで見えてきたトップ4チームの状況について書きましたので、今回は
本来なら中堅チームについて同様のことを書こうと思っていたのですが、今週は様々な動きが
あったことと私の気まぐれな性格も手伝って(笑)、急遽予定を変更して気になる話題を中心
に書くことにしました。超長文になってしまいましたが、シーズン開幕までのオフシーズン
企画として始めたこのシリーズも次回が最終回。ラストスパートとご理解下さい(笑)。

★ウィリアムズの失速?
前回に書いた、ウィリアムズの新車FW25の「スピード不足」について、今週、BMWのタ
イセン博士が、チーム内でも大きな問題として認識していることを、公式に認めるような発言
をしましたね。今年もしウィリアムズが失速してしまうと、色々な意味で新たな動きを呼び起
こすような気がしてなりません。

ウィリアムズは、97年を最後にコンストラクターズタイトルから遠ざかっていますが、実は
このチーム、80年に初めてタイトルを獲得して以来21年間、5年以上連続してタイトルを
取り逃したことがないという、凄いチームなんです。ところが、昨年初めてその輝かしい
”伝統”に傷をつけてしまったのですから、今年は是が非でも、タイトルに向けて勢いに乗り
たいというのが本音でしょう。しかも、ここ2年間はF1界最高と言われるBMWパワーにも
助けられて、確実に上昇気流に乗りつつあったはずなんです。

一方、BMWとの契約は04年で切れるのですが、BMWは以前よりシャシーも含めたオール
BMWチームを立ち上げることに興味を持っており、もしウィリアムズとの4年目のシーズン
が失望に終わった場合、この動きが早まる可能性が出てきます。そしてそれは、フェラーリ、
トヨタ、ルノー、ジャガーに続く5つ目の完全なメーカーチームの誕生を意味します。その時、
プライベートチームの雄・ウィリアムズはどうなるのか・・・。


★トヨタの成功がもたらすもの
既に様々なメディアを通じて、今年のトヨタの躍進が予想されていますが、マクラーレンの
ロン・デニスは、トヨタのF1計画が明らかになった当初より、彼等が大きな成功を納めるこ
とを危惧してきました。というのも、トヨタは既存のF1チームと組んでエンジンを供給する
のではなく、また既存チームを買収するのでもなく、自動車メーカーとしての資金力と技術力
をフルに使って、全くのゼロからF1チームを作り上げて参戦してきたからです。(ルノーも
ジャガーもホンダも、既存チームがその母体でした)

このやり方が成功すると、当然他の自動車メーカーのF1戦略にも影響してくるでしょう。
現在のF1チームの規模がいかに大きく、いかに優れた技術を保有していたとしても、自動車
メーカーが持てる資金と技術を何年間にも渡ってフルに投入し続ければ、いかなマクラーレン、
ウィリアムズと言えど、勝てるものではありません。そもそも、タバコ広告が欧州で禁止され
る06年以降、F1界を支えるのは自動車メーカーの資金だとさえ言われているのですから、
プライベートチームはすべからく自動車メーカーと組んでエンジンや資金を供給してもらう形
でしか、生き残れない構図になっているのです。

しかし、トヨタのように自チームを立ち上げて参戦する形にこだわるメーカーばかりになれば、
プライベートチームはメーカーに買収される以外に、残された道はないのです。優秀な経営者
であるデニスでなくとも、この状況を危惧するのは当然のことであり、どうやら現実はその方
向に動き出しつつあるようです。


★金曜日テストに揺れるチーム
以前にこのシリーズでも書きましたが、昨年の12/15の時点で年間10日のテスト制限を
受け入れて、GPウィーク金曜日のテストを希望したのは、ルノー、ジョーダン、ミナルディ
の3チームでした。ところが、ここに来てジャガーも金曜日のテストを希望、さらにザウバー
も申し込んでいるという噂まで出てくる始末。

Bakuさんの講座で、金曜日のテストでのメリットを前向き且つ長期的展望に立って捉えた、
ルノーの戦略が紹介されていますが、実はこのルノーには最近になって、テスト制限を放棄す
るのではという噂が出てきました。ルノーもメリットとデメリットを計りにかけて、揺れてい
るのでしょう。

いかな自動車メーカーとは言っても、F1に青天井の予算をつぎ込めるところは限られており、
なるべく少ない予算で大きな成果を上げたいのは、どこも同じでしょう。そして今のF1は、
既に自動車メーカーにとっても、そこから得られるものに対して明らかにコストがかかり過ぎ
なのです。例えば、チームの平均年間予算が300億円としても、10チーム合計で3000
億円。F1の興行収益のチームへの分配金がいくらなのか全く想像がつきませんが、これが
1000億円あったとしても、残りの2000億円の大部分を、7つの自動車メーカーと5つ
のタバコ会社が捻出していることになるのです。

これは、いかに巨大企業であったとしても、普通に広告・宣伝費として捻出できるレベルを
とっくに通り越しています。まして、勝てれば宣伝効果も大きいでしょうが、今のところ勝て
る可能性があるのはわずかに2〜3メーカーだけです。1、2年ならまだしも、何年にも渡っ
て続けられる体力があるところは少ないでしょうし、撤退を考えるメーカーが出てきても全く
不思議ではありません。


★危惧されるジャガーの撤退
今年、期待される成果を上げらなかった場合、撤退の可能性が噂されているのがジャガー
(フォード)です。彼等もホンダと同じく、参戦を始めて今年で4年目。これまでの3年間、
見るべき成果が上がっていないのもホンダと同じです。そして、ここは毎年のようにフォード
本社から資金縮小や撤退が噂に上がっており、今年は本当に正念場となりますが、それだけに
シーズン半ばに低迷しているようだと、いよいよ大ナタが振られる気がしてしまうのです。

ホンダの場合は、成果を残さずに撤退することはあり得ないと思っていますが、どんな会社で
もちゃんとした成果を上げないまま何年も予算を浪費していれば、その部門なり活動のあり方
が再考されるのは当然の成り行きです。その意味では、ホンダはもとよりジャガーにも頑張っ
て欲しいのですが・・・。

気になる話題を書いていくうちに、シリーズ最長の長文になってしまいましたが、最後までお
付き合い頂き、ありがとうございました。ではまた、次回をお楽しみに。

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