F1の場合、車を開発していかなくてはいけない。各チームそれぞれオリジナルのものを作っていかなくてはいけない
琢磨選手がNHKのサンデースポーツで言った言葉です。この、車を作っていくという過程で最も重要な作業がテストです。市販車に乗り慣れている我々にとって「車を作る」と言うのはなかなか想像できない事柄ですが、文字通り一から作っていくことを意味しています。F1の場合、ブレーキやタイヤなどごく一部の部品を除き、ほとんど全ての部品を自分達で製作し組み上げます。従って各部品の耐久性が設計どおりになっているかどうかも、テストでの重要なチェック項目の一つです。
余談になりますが、市販車の場合は生産性を上げるため多くの部品を鋳造します。しかし鋳物はもろいうえ、複雑な形状にすることが困難(軽くするために必要なケースがある)ですので、F1には不向きです。そこで削り出し、と言って金属隗を削って希望の形に仕上げるという大変もったいない作り方をします。この際活躍するのが数値制御装置(NC装置)付き工作機械ですが、日本企業の独壇場ですね。ジョーダンのファクトリーにもたくさん置いてありました。
車の基本設計や各部品はチームのデザイナーや設計者達がコンピューター上のシミュレーションや模型による風洞実験結果から図面を引いて作成しています。この時点で最も有効な組み合わせであろう部品群が取捨選択されます。しかし、それでもあくまでも机上の空論からの産物でしかありません。テストで候補の部品を何万通りも組み合わせて試し、初めて理想の組み合わせが判ります。
というのも、F1マシンは「自然」の中で走るものだからです。風洞実験はベルトコンベアで実際の走行状態に限りなく近い形にして行いますが、ベルトコンベア上はまっ平らですし、風も正面からだけしか吹いてきません。レーストラックは程度の差こそあれ、一般にデコボコしていますし、風も進行方向以外からの風と合わさった形で車にあたりますから、こういった「状況」はテストでしか判りません。
今期前半、琢磨選手がよく「ピッチング(車体の前後方向の小刻みな揺れ)がひどくてどうにもならない」と言っていました。ピッチングが起こるとダウンフォースが絶えず変化したり、ブレーキの効きに影響があったりして走行が不安定になります。したがってドライバーは車を信頼して思い切り運転できなくなる訳ですが、こういった現象がはっきりするのも、それを押えるのもテストです。
またまた余談になりますが、今期当初ジャガーは「風洞実験データの入力ミス」により設計通りのダウンフォースが得られないとんでもない車を作ってしまい、シーズン中に設計をやり直すという大失態を演じていますね。
「理論上」出来上がった車を実際にサーキットで走らせて改良していくのがテストですので、シーズン開幕までに車を完璧な状態にすることができれば理想的なのですが、そう簡単にはいきません。通常、テストは走るごとにテーマを決めて走ります。今回はタイヤテスト、次は新しい空力パーツといった具合にです。その理由は一度にあれもこれも変更して走ると、どの部品が有効で、どれが足を引っ張っていたのか問題の切り分けが難しくなるからです。従ってとにかくたくさん周回数を重ねなくてはならず、時間がかかるので開幕に間に合うケースは稀です。実際、今期開幕数戦はあのフェラーリでさえ「信頼性に若干の問題がある」といって前年度仕様のマシンでレースをしていましたね。
また、F1の場合、完璧な状態というのはありえません。常に進化させていくことが肝心で、シーズン中にも数多くの新しい試みがテストを中心に行われ、有効な手段は積極的に本戦で取り入れるようになっています。ですから先のフェラーリの例でも「前年度仕様のマシン」とはいえ、基本コンセプトが前年度仕様なのであって、実際には前年最終戦で使用されたマシンを大幅に改良したものであったはずです。
このように絶えず進化させ続けていくためにはテスト回数が物を言います。フェラーリはシーズン中でも週2〜3回ものテストを繰り返しています。一方でジョーダンはシーズン後半、合同テストにさえもまともに参加できませんでしたから、新パーツのテストは本戦直前、金曜日のフリー走行などで試してみて、大きな効果がありそうなら本戦でも使用してみるといったことしかできなかったようです。このような状態では車の進化が遅々として進まず、トップチームからどんどん置いていかれますし、だいいち琢磨選手の経験値向上にもなりません。
来期はBARでこの両面を大いに期待したいので、今話題になっているテスト無制限組にBARが入っていることを切に願っています。レース直前の金曜日午前中2時間では予選やレースのセッティングを見つけるのには有効かもしれませんが、長い目での開発、進化という意味ではとても足りません。また、今期のジャガーのように設計を根本から間違えてしまった場合、1年間を完全に棒に振ることになってしまいます。
あまり長くなっても眠くなるだけですから(笑)今回はこれくらいにして、次回もう少しテストについて掘り下げようかと思っております。乞うご期待!
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