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宮部みゆき


『理由』 宮部みゆき(朝日新聞社)
笑い0点 涙2.0点 恐怖0.5点 総合4.0点
 バブル期に建設されたヴァンダール千住北ニューシティの高層マンション。6月2日、そのマンションの一室で、 のちに”荒川の一家四人殺し”として記憶されるようになった殺人事件が発生した。
 事件の当事者やその周辺の人々のインタビューなどから次第に明らかになる事件の全貌。事件は なぜ起こったのか。殺されたのは「誰」で、「誰」が殺人者であったのか。そして、事件の前には何があり、後には 何が残ったのか。

 直木賞を受賞した社会派ミステリ。
 直木賞をのがした『火車』がカード破産を題材にしていたのに対し、本書は、バブル崩壊にともなう ローン破産、そして債権詐欺を題材にしている。
 ある記者が書いた「荒川の一家四人殺し」事件のルポルタージュ・記録小説といった形式であるため、 全体的に客観的で飾り気のない文章になっている。また事件後に書かれたという形式のためか、 緊迫感もしくはライブ感に欠けるように思えた。
 事件を中心にして、多くの人物が登場してくるのだが、彼らを見ていると、人間の嫌なところ― たとえば、金銭欲、虚栄心、身勝手さなど―がよく目に付いた。でも、そんな嫌な人ばかり というわけではなく、宮部作品らしい優しい心を持った人も出てくるので、バランスはとれていると思う。


『模倣犯(上・下)』 宮部みゆき(小学館)
笑い0点 涙3.0点 恐怖1.5点 総合4.5点
東京のとある公園のゴミ箱から、女性のものと思われる切断された片腕が発見される。警察やマスコミは「バラバラ殺人事件」だと 色めきたつが、それは「人間狩り」を楽しむ犯人からの最初のメッセージにすぎなかった。そしてこの日から、遺族の感情を弄び、 マスコミを騒がせ、警察を嘲笑うかのような猟奇殺人事件の幕が開く。

 ハードカバー上下巻からなる3551枚の大長編。持つ手にズッシリとくる本自体の重量感は相当なものだが、 本の内容はそれ以上に重く、苦しいものだった。
 事件のあらましを綴る第一部。加害者の側から事件を見た第二部。事件がひとまず一段落したあとの騒動を綴る第三部 の三部構成になっている。一部、二部では残忍な犯人に対する純粋な怒り、そして第三部では、真相を知る読者として、 どうすることもできない歯がゆさをともなった怒りを感じながら読んだ。
 ここまでの嫌悪感と血の沸き立つような怒りを抱かせる悪人は、今までの宮部作品にはいなかった。 『理由』や『スナーク狩り』やほかの小説にも許しがたい悪人はいたが、彼らはまだ、理解の範疇にいた ように思う。育った環境が悪いとか、親が悪いとか、学校が悪い、社会が悪い、そういった一般論・正論では片付けられない、 理解を超えた凶悪さと非道さを秘めている本書のような悪人は初めてだと思う。
 そんな悪人が出る話をこれほど長々と読まされると、怒るのにも疲れ、精神的にも参ってしまう。本書出版前に、 宮部さんが”この本は売れないだろう”と公言していたのも、何となくわかるような気がした。 宮部みゆきの書く「やさしさ」が霞むくらいの「不愉快さ」に満ちているし、この読後感を得るにしては、少々長すぎる
 しかし、心に傷を負いながらも頑張りつづける17歳の塚田真一や、孫娘を殺されながらも強く現実に立ち向かう老人・ 有馬義男など、好人物も少なからず登場する。その点が、本書が宮部さんの小説なんだと実感できるところであった。 また、描写力、表現力、驚くほどのリアリティなどは今更言うまでもないくらい素晴らしかった。


『ドリームバスター』 宮部みゆき(e-novels)
笑い2.0点 涙2.5点 恐怖1.5点 総合4.0点
 時間軸が異なった太陽系のどこかにある惑星・テーラ。94%が海に覆われており、 人間が生きるには厳しい自然環境なため、人口が増えず働き手も少ない。そこでテーラの科学者たちは、 ”意識と知識と知能と思考”そして”人格”を肉体から切り離し、マシーンに移し替えるという「不死化」の 技術を開発した。その最初の人体実験台として死刑囚を使うことにした。ところが、実験機が暴走し、研究所もろとも 大爆発を起こしたのだった。

 宮部みゆきがe-novelsで初めて出版した小説。
 360円で170ページ弱という中編小説なので、あまりアラスジが書けない。上記の後に、意外な方向に話が進んで いくのだが、それを書けないのがもどかしい。
 アラスジを読んでもわかるとおり、本書は完全なSF小説である。『蒲生邸事件』のようにタイムトラベルというSFの要素が 含まれているという小説とは違い、宮部オリジナル(?)のSF要素(ミーム・マシーン、DB、DPなど)がたっぷり詰まったSF小説 なのである。
 一人称で語られる本書は、”これが『模倣犯』と同じ著者の小説なのか”と驚いてしまうほど作風が異なっている。ただ、後半は 少々様子が変わり、宮部みゆきらしい小説だな、と思えるようにはなった。


『R.P.G.』 宮部みゆき(集英社文庫)
笑い0.5点 涙2.0点 恐怖0点 総合4.0点
 ネット上の疑似家族。その”お父さん”が刺殺された。犯行現場には、3日前に女性が絞殺された現場にあったのと 同じ遺留品が落ちていた。いったい誰が彼らを殺害したのか・・・?

 宮部みゆきにとって初の試みである「文庫書き下ろし」。そんな本書には、『模倣犯』の武上刑事・秋津刑事・鳥居刑事さらに 『クロスファイア』の石津刑事が登場する。既刊の小説の登場人物が、別の作品でこれほど大きな役割を担うというのも 初の試みではないだろうか。そういう意味では、これは珍しい小説だと思う。
 「R.P.G.」というタイトルと、”ネット上の疑似家族”が出てくるというアラスジを読んだときは、ネット上が 主な舞台で話が進んでいくのかと思っていた。しかし実際は少し異なり、アッと驚く展開や宮部みゆきならではのあたたかさ、優しさなど 味わえたものの、読了してみると、割と普通のミステリだったなぁ、というのが正直な感想だ。決して出来が悪いわけではないが、 新刊を待ちこがれている間に、僕の中で期待が高まりすぎてしまったためにこういう感想になったのだろう。
 そういえば、数ヶ月前、某掲示板に”宮部みゆき”を名乗る人物が書き込みをして、一部で騒ぎというか話題になったことがあったが、 やはりあれはこの小説を執筆するための取材だったのだろうか。とするとあれは宮部みゆき本人だったのだろうか。気になる・・・。


『秘密の手紙箱−女性ミステリー作家傑作選3山前譲・編(光文社文庫)
笑い0.5点 涙1.5点 恐怖1.0点 総合3.5点
「傷自慢」(新津きよみ):本宮春樹の体には数々の”名誉の負傷の跡”が残っていた。その中に一つだけ、 春樹が語りたがらない傷があった。
「灰色の手袋」(仁木悦子):ある日悦子がなじみのクリーニング店にいくと、店の窓ガラスが割られ 中には店員の死体が横たわっていた。その驚くべき真相。
「津軽に舞い飛んだ女」(乃南アサ):占い師に「運命の人は北にいる」と言われ、東京からはるばる 津軽までやってきた文女は、わけもわからないうちにトラブルに巻き込まれていた。
「弓子の後悔」(宮部みゆき):久しぶりのクラス会に出席した弓子は、高3のクリスマスイブに弓子が 振った牧村孝史が、今は売れっ子のシナリオ・ライターになっていることを知り、激しく後悔するのだが・・・。
「憎しみの回路」(山村美紗):婚約したばかりの夫を殺された朝子は、彼が死の間際に残した 「電話・・・03・・・」という言葉を手がかりに独りで犯人探し始めた。
 以上のほか藤木靖子、皆川博子、山崎洋子、若竹七海の短編も含む計9編からなる短編集。

 すべて女性作家。そして中心となる人物もすべて女性。
 豪華な顔ぶれが揃っているが、ほとんど三角関係、駆け落ち、嫉妬などドロドロした愛憎劇が背景にあったりして、 読後感も良くない小説が大半だった。少しはさわやか・ほのぼの・ハートウォーミングなどの短編も入れれば良かったのに と思う。でも、山前さんは意図的に似たようなテーマのを選んだのかもしれない。
 本書は、宮部さんの短編が読みたくて買ったのだが、宮部さんの短編もいまひとつだった。後半の唐突な展開には驚いたが、 それは「この話の流れでそう来るか」という驚きであって、その要素自体はさほど目新しいというものではなかった。


『ドリームバスター』 宮部みゆき(徳間書店)
笑い1.5点 涙2.5点 恐怖1.5点 総合4.0点
「プロローグ JACK IN」:道子が8才のとき、近所で火事があった。彼女はその焼け跡で奇妙な 踊りを踊る人影を見た。それから年月が経ち、道子の娘が8才になったある日、道子は娘と同じ悪夢を見た。その夢にはあの日道子が 見た踊る人影が現れたのだ。
「D.Bたちの”穴(ピット)”」:”D.B”(ドリームバスター)たちが集まる ”抜け穴”近くにある飲食店に、一人の女性が来店した。彼女はカルという若いD.Bを探しているという。そしてその夜、店の近所で 相次いで殺人事件が発生した。
 以上のほか「First Contact」を含む3篇からなる連作中編集。

 「e-novels」と『SF JAPAN』に掲載されていた2篇に、書下ろしの1篇を加えた、SFファンタジー巨編の第1弾。
 今後の展開が非常に楽しみになってきた。ひょっとすると宮部さんのライフワークになるくらいの超大巨編にもなりうる 感じがする。
 それにしても宮部さんという人は、ほんとに器用で非凡な作家だなぁ。現在・過去・未来とどんな時代設定の小説も 書けてしまうのだからほんとに驚きだ。
 とにかく早く続きが読みたい。


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