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宮部みゆき


『龍は眠る』宮部みゆき(新潮文庫)
興奮★★★★☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★★★ 総合★★★★★
 嵐の夜、車を走らせていた雑誌記者の高坂は、稲村慎司という不思議な感じの少年に出会う。そして彼らは、道中、なぜかふたが外されているマンホールを見つける。 そして、不運にもそのマンホールに落ちて行方不明になっている男の子がいることを知る。高坂や警察が、その子を探している中、慎司は「もうその子は死んでいる」 「マンホールのふたを外したのは、赤いポルシェに乗った若い男だ」などと口走る。さらに、慎司は、高坂に、自分は超能力者で、人の記憶や考えていることさらには、物に残存する 記憶すら読みとれる能力を持っていると告白する。にわかには信じられない高坂だが、慎司の語ることは、ことごとく的中していく。そして、ここから高坂はこの不思議な能力を持つ 少年と運命を共にある事件に巻き込まれていく。

 超能力をテーマにしているにもかかわらず、変にSFチックにならず、それどころか生まれながら超能力を持ってしまった少年の苦悩・悲しみ・葛藤などがとても鮮やかに書かれている。 ただ、少々、事件の展開が遅い気もするが、そこは宮部さんの絶妙な表現力と個性あふれるキャラクターなどの活躍により、厚さも気にせず読み込める。


『魔術はささやく』宮部みゆき(新潮文庫)
興奮★★★★☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★★★ 総合★★★★★
 どうやら僕は、すっかり宮部ワールドに入り込んでしまったようだ。

 何かから逃げるように、ビルから飛び降り、電車に飛び込み、道路に飛び出し、3人の女性が死んだ。両親を失った少年・日下守は、この自殺に疑問を抱き、調べているうちに真相へと近づいていく。 そして、一見、何の共通点も見あたらない3つの自殺は、しだいにある一点に凝縮されていく。しかし、その時、守のまわりでも、不可解な事件が起こり始める。

 はっきり言って、ルール違反ギリギリのトリックだと思う。でも、宮部作品は、トリックを暴くというよりも、そのトリックに至るまでの過程が重要なような気がする。 そう考えると、トリックに至るまでの、少年・守の苦しみ、葛藤、成長などを通した人間ドラマ的な部分が、この本の醍醐味なのではないだろうか。そして、トリックが判明した後、 少年が裁く側にまわるラストは、もう圧巻だ。
 ぜひ読むベシ。


『レベル7』宮部みゆき(新潮文庫)
興奮★★★★☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★★☆ 総合★★★★★
 東京のとあるアパートの一室で、すべての記憶を失って目覚めた若い男女。彼らの部屋には、血の染み込んだタオル・拳銃・大金が入ったカバンがあった。 そして、彼らの腕には「Level 7」という謎の文字が刻み込まれていた。一方同じ頃「レベル7まで行ったら戻れない」という謎の言葉を残し失踪した女子校生がいた。 その女子校生の行方を探す女性カウンセラーと、自分たちの記憶を取り戻そうとする二人。全く無関係に見える2つの出来事が、とある残酷な殺人事件へと終着していく。

 たった4日間の出来事の話なのだが、非常に中身が濃く、手に汗握る展開の目白押しなのだ。さらに、ラストには予想も付かないどんでん返しが待っていて、もう 最後まで気を抜けなかった。しかも、単なるミステリーではなく、事件の背景には、過労死で夫を亡くした女性の心境や、自分を好きになれない女子校生、 仕事に明け暮れ家庭を顧みない父親など、人間臭さも織り交ぜられている。
 660ページ弱という、かなりの厚さなのだが、全くその厚さが気にならないほど入り込んでしまった。


『寂しい狩人』宮部みゆき(新潮文庫)
興奮★★★☆☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★☆☆☆ 総合★★★☆☆
 「六月は名ばかりの月」「黙って逝った」「詫びない年月」「うそつき喇叭」「歪んだ鏡」「寂しい狩人」の全6作からなる短編集。東京下町にあるこじんまりとした古書店・田辺書店。この店は、イワさんという初老の店主とその孫である稔が切り盛りしている。こんなありふれた古書店を舞台に様々な事件が発生するのだ。
「歪んだ鏡」は、ある平凡なOLが、通勤途中の電車の中で、1冊の文庫本を見つけるところから始まる。その本には、1枚の名刺が栞がわりに挟まれており、無造作に網棚の上に置かれていたのだ。OLはその本を読むうちに、その名刺の人に会おうと決心する。タイトルにもなっている 「寂しい狩人」は、ある推理小説家が、未完のまま失踪してしまい残された家族が、その未完の小説を未完のまま発行したことから事件が発生する。1人の熱烈なファンが「自分は未完の小説の続きを書ける」とか、「それを証明してみせる」などといったハガキを送ってくる。そして そうしているうちに、未完の小説の中で書かれている殺人事件と同じ事件が発生する。

 全体的におとなしめの作品だ。各話には、殺人事件が起こるものの、重要な役割を担っている田辺書店の雰囲気がのほほんとしているためなんとなく、拍子抜けしてしまう。ただ、ハートウォーミングな小説を読みたいと思って読んだのなら評価も高かったかもしれない。だから、 ちょっとした感動を味わいたい人は、読んでみたらどうだろうか。


『鳩笛草』宮部みゆき(光文社カッパノベルズ)
興奮★★★★☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★☆☆ 総合★★★★☆
 「朽ちてゆくまで」「燔祭」「鳩笛草」の計3作からなる短編集。
 「朽ちてゆくまで」:麻生智子は、8歳の頃交通事故で両親を亡くし、同乗していた彼女は、命は助かったもののそれまでの記憶を失ってしまった。数年後さらに一緒に暮らしてきた祖母を亡くしたことにより、彼女は独りぼっちになってしまった。 祖母の死により、身辺整理をせざるを得なくなった彼女は、不思議なビデオテープを発見する。そのビデオテープには、彼女が記憶をなくす前にある超能力を持っていたことを物語っていた。
 「燔祭」:妹を殺された多田一樹は、犯人を探し復讐することを誓う。そんな彼のもとに、一人の女性が現れ「わたしは多田さんの武器になれる」と言った。彼女は、人も殺せる超能力を持っていたのだ。
 「鳩笛草」:人に触れるとその人の心の内を読むことができる超能力を持つ本田貴子は、駆け出しの女性刑事だ。彼女は、その能力を使い、捜査に役立てていた。しかしある時、彼女は自分の能力が 衰え始めていることに気が付く。そんな時、ある誘拐事件が発生した。

 宮部さんは、超能力者を扱わせたら日本一だ。それも、決して幸福ではない超能力者。普通、超能力を持った人を主人公にしたら、その能力を前面に押し出し、派手に事件を解決させたりするだろう。 でも、宮部さんは、超能力者の苦しみ・悲しみなど普通の人間としての内面を重視しつつも、念力放火能力(パイロキネシス)や、予知能力、透視能力など、面白い超能力を取り扱っている。  今回、僕がこの本を読んだのは、最近発売された『クロスファイア』(宮部みゆき)という本の解説に、ぜひとも先に「鳩笛草」、とくに「燔祭」を読んでくれと書いてあったからだ。 『クロスファイア』も「燔祭」も、パイロキネシスを持った人物の話なのだ。しかし、パイロキネシスっていう言葉は、初めて聞いた。こんな能力持った人、実際いるのだろうか。いたら会ってみたいなぁ。


『クロスファイア』(上)宮部みゆき(光文社カッパノベルズ)
興奮★★★★★ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★☆☆☆ 総合★★★★☆
 青木淳子は、自分の”力”を解放するため定期的に、深夜の廃工場を訪れていた。そんなある日、彼女が力を解放しようとしたとき、3人の男が、瀕死の若者を連れてその廃工場にやってきた。彼らはその瀕死の若者を捨てに来ていたのだ。 それを目撃した淳子は、迷うことなく”力”を解放した。1人は逃走したものの、2人の男は、みるみる炎に包まれ、一瞬にして炭化してしまった。その後、瀕死の若者から、連れ去られた恋人を救出する事を頼まれた淳子は、逃走した主犯格の 男を探すことになる。

 『鳩笛草』の中の「燔祭」という話で初登場した念力放火能力(パイロキネシス)者・青木淳子が主人公の長編小説だ。「燔祭」では、その正義の鉄槌を振るうシーンは少なかったが、今回は、至る所でその能力を 使いまくっている。さらに上巻では、念力放火能力者の存在を疑い始めた女性刑事や、ガーディアンと名乗る謎の組織と淳子との接触があったりする。何となく下巻では、宮部さんの今までの超能力者物にないような展開になりそうな雰囲気だ。 今のところ確かに面白いのだが、あまりの殺戮ぶりに、「ちょっとやり過ぎ」じゃないのかなぁとか、ホントに青木淳子が正義なのかなぁなんて思ったりしてしまう。何はともあれ、一刻も早く下巻が読みたい。


『クロスファイア』(下)宮部みゆき(光文社カッパノベルズ)
興奮★★★★★ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★★☆ 総合★★★★★
 念力放火能力者の存在を疑い始めた石津刑事と牧原刑事は、ついに青木淳子という人物が、今回の事件にかかわっていることを突き止める。そんな時、彼らは身辺で謎のぼや騒ぎが続いている少女と出会う。 一方の青木淳子は、「ガーディアン」と名乗る謎の組織から、勧誘を受けていた。この組織は、法律のでは裁けない凶悪犯に制裁を加える自警集団だったのだ。そんな組織にとっては、淳子の能力は必要不可欠だったのだが・・・。

 総合評価を★4つにするか5つにするか迷った。確かに、ラストは、感動的で時間を忘れるほど引き込まれてしまうストーリーではあったのだが、宮部さんの同じく超能力を題材にした『龍は眠る』に比べると ちょっとランクは下かなとも思ったのだ。だから、しいて厳密にランク付けるなら今回は★4.5だ。
 下巻になると、とたんに淳子の殺戮ぶりにブレーキが掛かり始め、人間らしい生き方に目覚め始めてくる。この本を読むと「正義とは何か」ということを考えさせられてしまう。確かに「ガーディアン」の主張する 正義も分からないではないが、ちょっと異を唱えたくなる気もする。皆さんも、『クロスファイア』を読んで、正義とは何か、について考えてみてはいかがでしょうか?


『返事はいらない』 宮部みゆき(新潮文庫)
笑い★★☆☆☆ 涙★★★☆☆ 恐怖★★☆☆☆ 総合★★★★☆
「返事はいらない」「ドルシネアにようこそ」「言わずにおいて」「聞こえていますか」「裏切らないで」「私はついていない」の計5作からなる短編集。
 「返事はいらない」:失恋のショックにより、自殺を考えた羽田千賀子。しかし、自殺をすべく上ったマンションの屋上には先客がいた。先客である同じマンションに住む森永夫妻は、自殺などしないである犯罪の手伝いをしてくれないかと彼女に頼む。 それは、大手銀行を相手取った大胆なコンピュータ犯罪だった。
 「ドルシネアにようこそ」:一級速記士の資格を取るべく東京の専門学校に通っている篠原伸治。あまりパッとしない彼が毎日欠かさずやっていることがあった。地下鉄の駅にある掲示板に一言「ドルシネアで待つ 伸治」と書くことだった。 「ドルシネア」とは、若者に人気の高級なディスコのことで、パッとしない彼とは全く縁のない場所であった。だからその伝言も誰かに向けたメッセージではなく、存在しない相手に向けた存在しない約束なのであった。そんな彼が、ある日いつものように掲示板を見るとそこには 「ドルシネアにあなたはいなかったわね」というメッセージが書いてあったのだ。
 「聞こえていますか」:親の都合で否応なく引っ越しをさせられた勉(ツトム)。彼が引っ越した家には、前に住んでいた人が使っていた古い電話があった。勉は、新居に引っ越したその夜、廊下に立つ白い影を見た。 その影を見たと同時にその古い電話がけたたましい音をたて鳴り出したのであった。

 宮部ワールド全開な短編集だ。ハートウォーミングで切なくてでも、読んだ後はなんかサッパリした気分になる。でもこれは男性よりも女性に受ける短編集ではないだろうか。「裏切らないで」「私はついていない」などはまさに 女性の影の部分を描いているようにも思える。この短編は読む時期によってはなんか、大泣きできそうな気もするけど、今回僕は特に涙は出なかった。しかし、確実に泣ける部類の本だと思うので、泣きたい人はぜひ読んでみて下さい。


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