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歴史・時代小説


『アーネスト・サトウ伝』 B・M・アレン(平凡社東洋文庫)
笑い0点 涙0点 恐怖0点 総合3.0点
 ロンドンに生まれたサトウは、青年期にある一冊の本に出会う。それは、日本や中国といった極東の生活を描いた挿絵入りの本で、 それを読んだサトウは、神秘の国・日本に強いあこがれを抱く。
 1861年、18歳のサトウは、通訳生の試験を首席で合格し、念願の日本における領事部門の通訳生となる。
 1862年9月、ついに江戸に到着するのだが、その時日本は、生麦事件や英公使館焼き打ちなど、攘夷運動がさかんな幕末だった。 そんな中でも、日本語を学び、その親しみやすい人柄で、伊藤博文や井上馨らと親交を深めていく。
 その後彼が、日清・日露戦争を体験し、1929年(昭和4年)に86歳の長寿を全うするまでの小伝である。

 司馬遼太郎の『世に棲む日日』を読んでいて、そこに登場するアーネスト・サトウという人物に興味を抱いたので、 図書館で借りてみた。
 アーネスト・サトウという名前で、日本語に長けていることから、ハーフなのかと思っていた。ところが、SATOではなく SATOWという、両親とも外国人でロンドン生まれの完全な外国人だった。面白い偶然もあるものだ。そんな彼は、ただの通訳ではなく 一流の外交官だったようである。
 この本は、1933年に出版された原書を訳出したものだ。自伝ではなく、資料などをもとにした伝記なので、当時の心境などに 触れられておらず、ただ彼の生涯を表面的になぞっただけという印象の本だった。しかし、アーネスト・サトウという人の生涯を簡潔に まとめてあるという点では、まあまあよかった。


『天海』 堀 和久(新人物往来社)
笑い1.0点 涙1.5点 恐怖0点 総合4.5点
 陸奥国大沼郡高田郷(現在の会津高田町)に生まれた船木兵太郎は、8歳の時、賊に襲われ父を殺される。1546年(11歳)、 父の遺志を継ぎ、龍興寺で得度式を行い出家する。随風という法名で修行をはじめる。1553年(18歳)で天台宗総本山・延暦寺に入り、 僧の堕落・腐敗に嘆きつつ、修行に励む。1555年(20歳)で下山し、南都七大寺を巡り、他宗の教理を吸収し、国学、歌学、陰陽道なども 学ぶ。一通り学んだ後、いったん会津へ戻る。1560年(25歳)に足利学校に入学し、4年間勉学に励む。その後、善昌寺の住職を しばらくつとめる。
 1570年(35歳)、再び延暦寺を目指すが、比叡山は信長群に包囲されていたため断念。この間、明智光秀の居城でしばらく 世話になる。延暦寺焼き打ち・本能寺の変などを経て、転々としたのち1588年(53歳)、川越・無量寿寺北院(現・喜多院)の 豪海の弟子となり、「天海」と改名する。1599年(64歳)に北院の第27世の法統を継ぐ。
 1607年(72歳)、徳川家康に延暦寺再興を命じられる。その後、家康・秀忠・家光の三代将軍の「心の相談役」をつとめ、 1643年10月2日、上野寛永寺で108歳の生涯を終える。

 『QED 東照宮の怨』を読み、南光坊天海という人物に興味を抱いたのでこの本を読んでみた。
 こうして彼の生涯を見てみると、怪僧とか黒衣の宰相とか超人といったイメージはなくなった。身長180センチで108歳まで生きたというのは 確かに驚きだが、博識で努力家で親しみやすい人柄の立派なお坊さんだったようだ。
 時代小説ファンならずとも、おすすめの一冊である。


『鹿鳴館の肖像』 東 秀紀(新人物往来社)
笑い0点 涙1.5点 恐怖0点 総合4.0点
 「鹿鳴館の肖像」:鹿鳴館を設計した英国人建築家のジョサイア・コンドルの物語。
 「軽躁の気味あり」:越前藩の最高実力者・松平春獄に蟄居を命ぜられ4年間も 外部との交渉を遮断されてきた三岡八郎のもとに、土佐浪人・坂本龍馬がやってきた。大政奉還を成功させた竜馬は、 三岡に新政府の財政責任者になるよう頼みに来たのだった。
 「銀座煉瓦始末」:三岡八郎こと由利公正は東京府知事として、銀座の耐火性を高めるため、 煉瓦街にすることを計画する。しかし、大久保利通の謀略により罷免されてしまう。その後、府知事となった大久保一翁の 物語。
 「はたとせのちに」:エリーゼとの恋をモデルにした『舞姫』を書いてから、長い間 軍医として生活した森鴎外が、40代後半になってから再び執筆をはじめることになるまでのいきさつ。

 歴史文学賞を受賞した表題作をはじめ計4作からなる短編集。
 すべて明治時代の物語である。たった数年の違いでも幕末を明治は大きく社会が変わっているのがよく分かる。 また倒幕を目標に志士が団結していた幕末と違って、維新後は裏切りや権力の奪い合いなどドロドロした部分が顕著になって、 少々がっかりする。
 小説としては、現在と過去が前後して書かれていたりして、事件の経過がちょっとわかりにくかった。 しかし、珍しい題材で、非常に興味深かった。


『血の日本史』 安部龍太郎(新潮文庫)
笑い0点 涙3.5点 恐怖1.0点 総合5.0点
「蘇我氏滅亡」:舒明天皇の後継者決定に際し、蘇我入鹿は聖徳太子の嫡男である山背大兄皇子を 自殺に追い込み、事件を握った。そして、645年その事件は起こった。
「応天門放火」:鷹取は、応天門が放火されたその時、伴善男の息子が現場から走り去るのを目撃した。 報復を恐れた鷹取は、目撃したこと訴えるのを躊躇していた。その間に、伴善男は源信に放火の罪を着せ追い落とそうとしていた。
「鎮西八郎見参」:1156年、後白河天皇と崇徳上皇の間が臨戦状態になる。のちに保元の乱と 呼ばれるその合戦で、弓の名手・源為朝は崇徳上皇の側についた。
「沈黙の利休」:秀吉に、娘を側室として差し出せと迫られた千利休は、その申し出を拒絶した。その顛末。
「男伊達」:町奴の頭・幡随院長兵衛と旗本奴の頭・水野十郎左右衛門の物語。
「俺たちの維新」:西郷隆盛を西南戦争に導いた背景と、彼の友であり敵でもある大久保利通の苦悩。
以上のほか、反乱・暗殺・裏切り・虐殺・謀略などの観点から、大和時代〜明治維新までの日本通史を46の短編にまとめた短編集。

 長屋王の変、前九年・後三年の役、平治の乱、承久の乱、蒙古襲来、大阪の陣、大塩平八郎の乱、龍馬暗殺などといった教科書に載っているような よく知られた大事件から、高校の授業でも習わないような知られざる事件まで幅広い短編が読める。
 いつの時代も人間は欲に弱いんだなぁと痛感する。自分の利益のためはもちろん、一族を繁栄させ長らえるために兄弟をも殺し、 謀略で敵対勢力を陥れ、暗殺してしまう。子孫を残すのは生物の本能ではあるが、ここまでするのは獣以下の所行だと思う。 しかしそういったそういった醜い争いに、大多数の庶民は為す術もなく巻き込まれ、貧困にあえぐ日々を送っているのだ。 この図式は、いまも本質的にあまり変わっていないのではないか。
 タイトルに偽りなく、全体的に気が滅入るほど「」に満ちている。こういった歴史の闇ばかり読むと、日本が誇れる国かわからなくなるので 注意が必要だ。


『人は権力を握ると何をするか』歴史探検隊(文春文庫)
笑い2.0点 涙1.0点 恐怖1.0点 総合3.5点
 ジュリアス・シーザー、カリグラら古代の権力者から、イメルダ・マルコス、ポル・ポト、フセインら現代の権力者まで 幅広い人物の権力にまつわるエピソードが満載の読み物。もちろん秀吉、信長、家康など日本の武将や呂后、則天武后、西太后ら 中国の三大悪女などアジアの権力者のエピソードも満載である。

 この本を書いた「歴史探検隊」というのは、”女性を中心とした、好奇心旺盛な歴史好きのグループ”だそうだ。女性中心の グループのせいか、女性の権力者についてのエピソードが割と多い。
 本書は、「権力を手に入れるまで」「権力の使い方一」「権力の使い方二」「すべてを失うとき」の4つの章にわけて 書かれている。本書で著者は、これといった結論を書いてはいない。あとがきによれば、ただ「権力の恐ろしさ」を感じて いただければ充分だという。確かに、これを読めば権力の恐ろしさ、権力の魔力を痛感する。権力を握れば、たいていの欲望は 満たすことができるから、権力欲というのはあらゆる欲望に優先するという。だから、歴史上の大物だけではなく、 社長や議員、監督など規模は小さくても、一度権力を握るとその魔力にとりつかれてしまうようだ。


『「元禄」を見てきた』風野真知雄(朝日ソノラマ)
笑い1.5点 涙0点 恐怖0点 総合3.0点
 平凡なサラリーマンのわたしは、ある日、隣のマッドサイエンティストが稼働させた自作タイムマシンの巻き添えをくって、元禄 十四年三月十四日に飛ばされた。ちょうどその日は、浅野内匠頭が吉良上野介を松の廊下で斬りつけるという事件が発生した日だった。 この日から、わたしはマッドサイエンティストとともに、元禄時代の江戸に住み、本物の忠臣蔵を見ることになるのだった。

 設定がなんともお粗末である。つっこみたい所が山ほどあったがそこをグッとこらえて読んでみた。
 現代人が過去にタイムトラベルし、その時代でしばらく暮らし、歴史的事件を眼にするという大筋は、宮部みゆき著『蒲生邸事件』に 似ている。しかし、似ているのは大筋だけで、面白さと出来の良さは『蒲生邸事件』が段違いに上だ。本書はその足元にも及んでいない。
 本書は、時代小説というより、小説の形を取っている元禄時代雑学集といった感じがする。元禄時代の江戸には、食べ物屋は少なかったとか、 生類憐れみの令があっても庶民は隠れて初鰹を食べていたとか、長屋といってもいろいろタイプがあって、中には上等な長屋もあった とか、多くの豆知識を教えてくれている。このように雑学集として読めば評価できるが、小説として読むとちょっとつらい。 小説にするならもう少し中身を濃くして、説得力のある設定にして欲しい。隣人がタイムマシンを作って、一緒に飛ばされ、 元禄時代で一年以上も暮らすなんてSFとしても稚拙な感じは否めない。


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