司馬遼太郎
『世に棲む日々(一)』 司馬遼太郎(文春文庫) |
笑い0点 涙0.5点 恐怖0点 総合3.5点 |
長州藩の吉田松陰は幼くして養父を亡くし、5歳で吉田家の当主となる。さらに、家学である山鹿流兵法の後継者として、
ゆくゆくは藩の兵学教授にならなければいけなかった。そのため、5歳から徹底したスパルタ教育を受ける。
成長した松陰は、江戸へ留学し、様々な学問を吸収、多くの友に出会う。ある日、松陰は、その友人と旅行の約束をする。
友人との約束を重んじた松陰は、藩命にそむき勝手に出発してしまう。脱藩の大罪をおかした松陰は、国を追われ浪人となってしまう。
そんな時期、浦賀に黒船が姿を現す。
長州藩の吉田松陰と高杉晋作にスポットをあてた歴史小説。ただし、一巻では高杉晋作は登場しない。
幕末を舞台にした小説をいくつか読んだが、松陰の印象は薄かった。松下村塾で多くの人物を輩出し、安政の大獄で
死罪になった、というくらいの知識しか残っていない。本書を読んで、どうして印象が薄いかわかった。松陰は、おく手で、
真面目で、学者肌なので、表舞台に立ち戦って生きる派手さもしくは華やかさがないように思うのだ。続きを読めば、その評価は変わる
かもしれないが。
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『世に棲む日々(二)』 司馬遼太郎(文春文庫) |
笑い0点 涙1.0点 恐怖0点 総合3.5点 |
松陰は世界を知るために、死罪覚悟で海外渡航という大禁を犯す。しかし、あえなく失敗し、罪人として、郷里・萩郊外の松本村に
蟄居させられる。そこで松陰は、松下村塾を開き、久坂玄瑞・品川弥二郎・高杉晋作その他多くの若者に影響を及ぼしていく。
だが、そんな松陰も、安政の大獄で死罪に処せられてしまうのだった。
本書に、幕末を理解する上で、非常に参考になる一節があったので引用する。
<革命の初動期は詩人的な予言者があらわれ、「偏癖」の言動をとって世から追いつめられ、かならず非業に死ぬ。松陰がそれにあたるであろう。
革命の中期には卓抜な行動家があらわれ、奇策縦横の行動をもって雷電風雨のような行動をとる。高杉晋作、坂本竜馬らが、それに相当し、
この危険な事業家もまた多くは死ぬ。それらの果実を採って先駆者の理想を容赦なくすて、処理可能なかたちで革命の世をつくり、
大いに栄達するのが処理家たちのしごとである。伊藤博文がそれにあたる。>
松下村塾には、上記三種類の人間がそろっていたのだ。
晋作や竜馬とは革命における役割が違うからしかたないが、松陰の印象は結局最後まで薄いままだった。
幕末に必要不可欠な人物とはいえ、やはり思想家であるため、同じ命を張るにしても剣をとって戦った男たちと比べると、
僕のなかでは魅力に欠ける人物だった。
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『世に棲む日々(三)』 司馬遼太郎(文春文庫) |
笑い0点 涙0.5点 恐怖0点 総合4.0点 |
幕府を倒し、新生日本を生み出すためには、長州藩を幕府と心中させるしかない、と考えた高杉晋作らは、
英国公使館を焼き打ちするなど、過激な攘夷を展開していく。その流れの中、晋作は身分を問わない「奇兵隊」を
結成する。しかし、その反動により、英仏米蘭の四カ国艦隊に攻め込まれ、幕府は長州征伐を決行するという
未曾有の危機を迎える。
英国公使館焼き打ち、下関で外国船砲撃、奇兵隊結成、蛤御門の変、四国連合艦隊による下関砲撃、長州征伐
などなど、長州藩に関係する歴史的事件が山盛りの第三巻である。これだけ多くの事件があったにもかかわらず、
読んで最も印象に残ったのは、「現代と変わらない役人の体質」である。
本書に書いてあるのだが、当時はローニン(攘夷浪士)とヤクニンという言葉は国際語になっていたそうだ。
ヤクニンの特徴は、極度に事なかれ主義で、何事も自分の責任では決定したがらず、明快な答えを避け、
危機意識に乏しく、自らの保身を第一に考える。現代の役人のイメージ(実像?)と全く変わらない。
この体質は、倒幕直後の明治には遺伝しなかったものの、大正時代から濃厚になり、昭和には顕著になったそうだ。
そういう体質の人が役人になるのか、それとも役人になるとそういう体質になってしまうのかわからないが、
結局、今後何年たっても変わることはないということだ。
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『世に棲む日々(四)』 司馬遼太郎(文春文庫) |
笑い0点 涙1.5点 恐怖0点 総合4.0点 |
現状を打開するためには藩内クーデターを断行するしかない。高杉晋作は、そのために奇兵隊を動かそうとするが、晋作が抜けたあとの
軍監・山県狂介らの説得に失敗する。結局、行動で示すしか動かす道がないと、わずか80人で挙兵する。その後、なんとか
奇兵隊が動き、クーデターはかろうじて成功する。勢いに乗った長州藩は、その後、幕府の征長軍もしりぞける。しかし、その時、
晋作の身体は病魔に冒されていた・・・。
高杉晋作は、明治維新を目前にしながら、1867年に、27年と8ヶ月の生涯を終えた。坂本竜馬といい、吉田松陰といい、
20代30代の若者たちが原動力となって、明治維新という大革命を成功させたことに今さらながら驚かされる。やはり世の中を
変えるには、若いチカラを結束させるしかないのだろう。それには、カリスマ性や聡明さ、先見性、行動力などを持った
リーダーの出現が不可欠のようだ。さて、この現代、竜馬や松陰、晋作、西郷のような若者はいるのだろうか。
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『この国のかたち1』 司馬遼太郎(文春文庫) |
笑い0点 涙0点 恐怖0点 総合3.5点 |
日本の歴史から様々な人物や出来事にスポットをあて、数多くの作品を残された司馬氏が、「文藝春秋」で連載していた
随筆をまとめた作品集。
自ら、小説には書けないと認めている「昭和の戦争時代」について、”あんな時代は日本ではない”と怒りをあらわにしている。
僕は近代史に関する小説は読んだことがないので、近代史については教科書レベルの知識しかない。本書を読んで、日本人として、
やはり過去の過ちである戦争について、もっと知っておくべきだなと痛感した。
ほかにも、「日本人と仏教」「尊王攘夷」「孫文と日本」「信長と独裁」など、幅広い時代を題材に、興味深いエッセイを
たくさん書いている。少し難解だが、本書を読むと歴史・時代小説をより深く、より面白く読むことができる気がする。
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