貿易会社社長の真榊は、邸宅中の壁に百人一首の大和絵を飾り、膨大な数の百人一首専門書を所有していた。そんな彼が正月のある日、
何者かに殺害された。そしてその手に一枚の札が握られていた。ダイイング・メッセージとも思えるその札は、果たして何を表しているのか?
事件の真相とともに、百人一首に秘められた謎が解き明かされる。
第9回メフィスト賞受賞作。これは「小説現代増刊号 メフィスト」という年3回発刊されている辞書ほど厚みのあるミステリ雑誌が
主宰する賞である。どれほど知名度があるか分からないが、ミステリファンならほとんど知っていると思う。
誰もが一度はやったことがあるであろう百人一首に、これほど大がかりでそして興味深い謎が秘められているとは思わなかった。
仮説の一つにすぎないとはいえ、正直、事件の真相よりも、百人一首の謎の方に驚いた。藤原定家が残した仕掛けに比べたら、
殺人事件なんて非常に些細なことに思えた。とはいえ、事件の真相の方も「そんなのあり?」と思わないではないが、非常にうまくできていて
面白かった。百人一首に興味ない人でも、長めのうんちくに我慢できれば、充分にこの面白さを堪能できると思う。
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