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宮部みゆき


『かまいたち』宮部みゆき(新潮文庫)
笑い1.5点 涙3.0点 恐怖2.0点 総合4.5点
「かまいたち」「師走の客」「迷い鳩」「騒ぐ刀」の計4篇からなる短編集。
 「かまいたち」:近頃、市中を騒がせている辻斬り――通称「かまいたち」が、人を 殺めた現場をおようは目撃してしまった。数日後、おようの向かいの家に、一人の男が引っ越してきた。その男こそ、 おようが見た「かまいたち」だったのだ。
 「師走の客」:竹蔵夫婦が営む小さな旅籠「梅屋」に一人の商人が泊まりにきた。 毎年来るその商人は、翌年の干支をモチーフにした金細工で宿賃を払っていたのだが・・・。
 「迷い鳩」:ろうそく問屋である柏屋の女主人の袖口に、血が付いているのをお初は見た。 しかし、それはお初にしか見えない幻だとわかる。その後も柏屋にかかわる不吉な幻を次々と見たお初は、単身、柏屋に向かった。
 「騒ぐ刀」:他人に見えないものが見える特殊な力を持ったお初。彼女の兄で岡っ引きの 六蔵が夜になるとうめき声をあげるという脇差しを預かった。しかし、お初にはうめき声ではなく、はっきりと「虎が 暴れている」という脇差しの叫び声が聞こえていた。

 再読。
 ずいぶん前に読んだのだが、やはり再読しても面白かった。宮部みゆきの初期の短編をまとめた短編集で、のちに シリーズとなるお初も初登場している。初期に書かれたと聞くと、そういえば作家になりたて、という感じが しないでもない。
 茂七親分のシリーズと違って、お初のシリーズは人情よりもエンタテイメントの割合が大きい。だから 時代小説はちょっと苦手という人でも「迷い鳩」や「騒ぐ刀」は充分に楽しめるはずだ。


『本所深川ふしぎ草紙』宮部みゆき(新潮文庫)
興奮★★☆☆☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★★★ 総合★★★★☆
 「片葉の芦」「置いてけ堀」など深川七不思議を題材にした短編時代小説。どれもが下町で起こった事件と、それを取り巻く人間の愛憎、あさましさなどを扱い、その中に、深川の七不思議を織り交ぜていくという形を取っている。
それにしても、宮部さんはすごい。現代に生きる超能力者の苦悩を書いたと思えば、こんな下町人情あるれる感動的な物語を書いてしまうとは。
 まあ、読んで損なし。


『居眠り心中』宮部みゆき(角川書店)
興奮★★☆☆☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★☆☆☆ 総合★★★☆☆
 これも角川書店から出ている『季刊 怪 第参号』に収められている作品だ。しかもたった20ページほどなので、僕の文章力では、あらすじも書けない。 ジャンルでいえば、時代・怪奇・恋愛小説ものとでも言ったらいいのか。ただ、 やはり全体的に短いためかちょっと物足りない。でも30分くらいで宮部ワールドが体験できるという点では満足だ。


『震える岩−霊験お初捕物控−』宮部みゆき(講談社文庫)
興奮★★★☆☆ 笑い★☆☆☆☆ 涙★★★☆☆ 総合★★★★☆
 江戸の深川に住む男・吉次は、ある朝心臓発作で死んだ。しかし、その葬儀中、死人憑きに憑かれ蘇る。その後吉次は、何事もなかったように 仕事に戻る。常人には見えないものが見える霊力の持ち主・お初は、その深川の「死人憑き騒ぎ」を調べはじめる。そんな中、江戸の町では 幼い子供を殺し、遺棄する事件が連続して発生する。そして、調べていくうちに死人憑きと、幼い子供殺人事件とさらには、100年前に起こったあの赤穂浪士 の討ち入りの意外な関係が浮かび上がってくる。

 宮部みゆき、時代小説短編集『かまいたち』で、初登場した「お初」が 今度は長編小説として登場した。お初は、江戸に住む女の子で、人には見えないものが見え、人には聞こえないものが聞こえるという不思議な能力の持ち主だ。 そしてその能力は、江戸に起こる不思議な事件をたびたび解決する。やはり宮部みゆきの超能力モノは、面白い。現代小説ではなく、設定を江戸時代にしたというのも 新鮮で面白い。捜査技術が発達していない江戸時代だから、お初の超能力が光るのだと思う。


『幻色江戸ごよみ』宮部みゆき(新潮文庫)
笑い0点 涙3.0点 恐怖1.0点 総合4.0点
 「鬼子母火」:新年を三日後に控えた夜、伊丹屋で小火があった。神棚のしめ縄が火元らしく、 調べてみるとしめ縄には、髪の毛が挟んであった。
 「紅の玉」:病弱の妻を持つ飾り職人・佐吉。彼のもとを一人の侍が訪ねてきて、銀のかんざしを 作って欲しいと依頼した。贅沢を禁ずる法令を破り、佐吉は誇りをかけて最高のかんざしを作ることにしたのだが・・・。
 「器量のぞみ」:自分でも認めざるを得ないほど器量が悪い大女のお信。ある日彼女は、評判の 美男子に求婚された。それも、お信の器量が気に入ってのことだという。
 「庄助の夜着」:古着屋で夜着を買って以来、庄助は毎日幸せそうな笑みを浮かべていた。 ところが、庄助は日に日に痩せていった。不審に思った五郎兵衛が庄助を問いただしてみると・・・。
 「神無月」:年に一度、神無月にたった一度だけ盗みを働く盗人がいる。そんな 盗人と彼を追う一人の岡っ引きの哀しい物語。
 「侘助の花」:看板屋の要助は、二八そば屋などに使う、看板を兼ねた掛け行灯を作るとき、 必ず侘助の花を描いていた。ある日、侘助を描く理由を聞かれた要助は、嘘の作り話を語った。しかし、それが思わぬやっかい事を 招くことになる。
 以上のほか「春花秋燈」「まひごのしるべ」「だるま猫」「小袖の手」「首吊り御本尊」「紙吹雪」の計12話からなる 短編集。

 再読。
 江戸の四季を1月からたどった12編の短編集。
 初めて読んだときは、それほど面白いとは思わなかった。が、再読してこの本の良さがわかった。どれも短いながらも、 江戸の人情と怪異がギュッと濃縮されているのだ。
 「鬼子母火」「庄助の夜着」「神無月」は、ホロリとくる短編。「紅の玉」「まひごのしるべ」「侘助の花」などは 切なくやるせない気持ちになる短編。ほかにも「春花秋燈」「小袖の手」のように完全な独白だけで書かれている珍しい 短編があったり、とまさに四季のように宮部みゆきのいろいろな面がうかがえる小説だと思う。


『初ものがたり』 宮部みゆき(PHP文庫)
興奮★★☆☆☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★☆☆☆ 総合★★★☆☆
 「お勢殺し」「白魚の目」「鰹千両」「太郎柿次郎柿」「凍る月」「遺恨の桜」の全6作からなる短編集。本所深川の岡っ引き・茂七親分が、江戸の下町で起こる摩訶不思議な事件に立ち向かう。 茂七親分は、事件に行き詰まったり悩みがあったりすると、必ず深川富岡橋のたもとにある稲荷寿司屋の屋台で、1杯飲む。その屋台の親父が、出す料理や、何気ない一言が事件解決の糸口になったりするのだ。

 超能力を持っていると評判の拝み屋の少年・日道さまや、正体不明の稲荷寿司屋の親父、その屋台の親父にはなぜか手を出さないやくざ者の勝蔵など、個性的な人物はたくさん出てくるのだが、 面白さは今一つだった。ストーリーも、季節感と人情味にあふれる捕り物小説で申し分はないが、どこか物足りなさを感じてしまった。


『運命の剣 のきばしら』 宮部みゆき他(PHP文庫)
笑い1.0点 涙2.5点 恐怖1.5点 総合4.0点
 一本の名刀”のきばしら”の流転をテーマに7人の作家が書き継ぐ、リレー形式の時代小説である。
 「敢えて銘を刻まず」(中村隆資):鎌倉末期、備前の刀工・助平は、一人の若侍のため自分のすべてを賭して 一本の名刀を生んだ。しかし、考えるところあって銘を刻まなかった。その後、その刀は、”のきばしら”と名付けられた。
 「あかね転生」(宮部みゆき):享保8年、江戸の町は大暴風雨に襲われ、多くの死者を出した。 この水害で孤児となった「あかね」は、子供好きの質屋夫婦の養女となった。しかし、「あかね」は口がきけなかった。しかし、ある時 その質屋に質入れされた刀を見ると、異様な顔になり「のきばしら」と叫んだのだった。
 「斬奸刀」(安部龍太郎):尊皇攘夷運動が活発になった幕末。岡田以蔵は、ある男の暗殺を命じられるが、 気弱な性格が災いして暗殺に失敗してしまう。傷心の以蔵は、ある日、刀屋で一本の刀に目を奪われた。その刀こそ「のきばしら」であり、 その刀を手に入れてから、以蔵は冷血な殺人者「人斬り以蔵」へと変貌していくのだった。

 上記の他、室町・戦国・明治・昭和を「のきばしら」が流転していく。その執筆陣は、上記の他、鳴海丈・火坂雅志・宮本昌孝・東郷隆 の計7人である。

 一本の刀が、鎌倉から昭和まで様々な人の手に渡っていく、というリレー小説にうってつけのテーマであり、それぞれの作家の 持ち味が十分発揮された一冊だと思う。とはいえ、僕が知っているのは、宮部みゆきしかいないのだが・・・。ひいき目なしに読んでも、 宮部みゆきの作品が一番よかったと思う。時代小説でありながら、感動的であり、さらに怪異の要素も含まれている。そしてなによりも、 リレーのバトンの受け方がとても上手く、最後には、次の作家へきちんとバトンを渡して終わっている。
 リレー小説という珍しい形式の小説、皆さんも一度読んでみては?


『ぼんくら』 宮部みゆき(講談社)
笑い3.0点 涙3.0点 恐怖1.0点 総合5.0点
 「殺し屋」「博打うち」「通い番頭」「ひさぐ女」「拝む男」「幽霊」の6篇の短編と、中編「長い影」の計7篇から なる連作集。

 「殺し屋」:深川北町にある通称・鉄瓶長屋。その長屋で八百屋を営んでいた太助が殺された。 彼の妹のお露に聞くと、殺し屋が来て兄を殺していったのだという。果たして真相は?
 「長い影」:太助殺しを契機に差配人も代わり、それからの一連の騒動で、次々と店子が消えていく 鉄瓶長屋。その長屋の背後に大きな陰謀の存在を感じた同心・井筒平四郎は、聡明な甥の弓之助とともに真相究明に乗り出す。

 時代もの、江戸人情ものの傑作。とにかく、荒んだ日本人の心を癒すほのぼのとした心暖まる小説。それは「ぼんくら」という ひらがなのタイトルにも現れていると思う。作中、殺人や血生臭い事件も発生するが、それがより一層、江戸人情を際立たせているように思われる。
 本書は、シリーズ化が望まれるほど個性的なキャラクターに満ちている。面倒くさがりの同心・平四郎、平四郎の甥で 測量マニアの弓之助。平四郎が立ち寄る煮売屋のお徳。鉄瓶長屋の若き差配人・佐吉。人間テープレコーダー・おでこ。その他にも 魅力的な登場人物がたくさんいる。それと、『初ものがたり』『本所深川ふしぎ草紙』の主役・回向院の茂七親分も登場する。 といっても彼はもう米寿を迎え動きが鈍ってきているので、彼の代理である政五郎が活躍する。つまり茂七親分は、名前だけの登場なのだ。 だから、大きく見れば、江戸深川を舞台にしたシリーズものの一作ともいえる。
 時代小説が苦手な人も歴史嫌いな人も、是非一読してみて下さい。


『堪忍箱』 宮部みゆき(新人物往来社)
笑い1.0点 涙3.5点 恐怖0点 総合4.5点
 「堪忍箱」「かどかわし」「敵持ち」「十六夜髑髏」「お墓の下まで」「謀りごと」「てんびんばかり」「砂村新田」の計8編からなる 短編集。
 「かどかわし」:夕暮れ時、畳屋の箕吉のもとに一人の少年がやってきてこう言った、 「おいらをかどかわしちゃくれないかい?」と。そして、父親から百両を取ってほしいという。つまり、今で言う身代金誘拐してくれ と頼んできたのだった。
 「敵持ち」:最近、加助は誰かに命を狙われていた。いよいよ心配になった加助夫婦は、同じ長屋に住む 頼りなさげな浪人を用心棒に雇った。そして雇ったその夜、加助が帰宅しているとき事件は起こった。

 決して裕福ではないけど、一生懸命に生きる江戸の人々の悲しみや内に秘めた思いなどがたくさん詰まっている短編集。
 同じ長屋に住む人同士が助け合い、親は子を思い、子は親を思う。と、今の都会にはない人情または隣人愛といったものを強く感じる。 これは深川に育ち、江戸人情に触れて成長したであろう宮部みゆきだからこそ書けた時代ものだと思う。
 どの短編もそれぞれ面白いが中でも「お墓の下まで」「てんびんばかり」は逸品だと思う。こういう読後感が味わえるのは、宮部さんの だけではないかと思う。


『天狗風 霊験お初捕物控<二> 宮部みゆき(新人物往来社)
笑い3.0点 涙2.0点 恐怖1.5点 総合4.5点
 江戸深川で下駄屋を営んでいる政吉の一人娘が、政吉の目の前で真紅の朝焼けの中、突風とともに姿を消した。 南町奉行所の根岸肥前守は、この神隠しの真相解明をお初と吉沢右京之介に命じた。人には見えないものが見え、 人には聞こえないものが聞こえる不思議な能力を持つお初が調査を始めて間もなく、新たな神隠しが発生する。 そして彼女は神隠しの背後に「天狗」と呼ばれる邪悪な存在があることを知る。

 2段組ではないとはいえ、474ページと結構な厚さのある本書だが、それも全く苦にならず、むしろ もっと読みたいと思うくらい面白かった。冒頭の数ページは、この厚い小説の世界に読者を引き込むのに、 十分の効果があった。
 シリーズ2作目となる今回も、前作と同じ人情味あふれるレギュラーメンバーが登場する。それに加えて 今回は、重要な役割を担う”鉄”というキャラクターが出てくる。その彼がとてもいい味を出していて、 ほのぼのとした笑いを本書に加えている。
 ストーリーは、普通の時代ミステリとはちょっと違い、著者がゲーム好きという一面を持っていることをうかがわせるような ものになっている。つまり、お初という主人公が、仲間や情報を集め、アイテムを入手し、最後にボスキャラを 倒す、というロールプレイングゲームのようなストーリーになっているのだ。(著者がRPGを意識したとは思わないが)
 とにかく傑作時代ミステリなので、一度読んでみてはいかがでしょうか。


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