★トキワ署ピカピカ日記★

〜第4章 祭りの後もピカピカ〜

 パトカーとワゴンが大きな音を立てて横転する。歪んだドアをどうにかこうにか押し開け、ワゴンの中からロケット団トリオが這い出してきた。どうやら彼らは大した怪我を負ってはいないようだ。だが・・・

 グリーンがふらりと歩き出す。パトカーがワゴンの前方を塞ぎに突き進んできた時、ちらりとだがグリーンは確かにシゲルの姿を見た。この衝突事故で運転していたシゲルは無傷では済まないだろう。やはり、生意気な口をきいていてもシゲルはグリーンにとって可愛い弟なのだろう。普段の冷静な彼からは想像も出来ないほど蒼白な顔が痛々しい。

「シゲルー!!」

 シゲルに置いていかれたサトシがレッドの自転車を飛ばしてやってくる。レッドがタケシの車に乗り込んでいたためにたまたま自転車置き場に放置されていたものを署内を駆けずり回っていたサトシが発見して無断借用したのだ。

 遅れて現場に駆けつけてきたサトシはグリーンたちにもロケット団にも目もくれずに自転車を放り出して車両の陰にかがみこんだ。

「無事?」

 何を呑気な・・しかし、意外なことに普段と変わりないシゲルの声が平然と返事を返したではないか!

「仕立てたばかりのスーツがパァだよ。」

 車両の向こうからひょいとシゲルが顔を出した。声だけでなく、表情も顔色も普段と何ら変わりない。あまりにも平然としたその様子にグリーンたちは呆気に取られた。

「そういや兄さん、さっき僕のこと呼ばなかった?」

「いや・・呼んだが・・怪我はないのか・・?」

 拍子抜けしたグリーンは途切れ途切れにしか言葉が出てこなかった。

「ああ、心配してくれたの?見ての通りぴんぴんしてるよ。」

そうだ、シゲルは昔からこういう奴だった。散々周りを振り回しておいて、平然とした顔で悪びれもせずに飄々としている所があるのだ。小さい頃から何度もシゲルに振り回されてきたではないか。今回も例外ではなかったのだ!!

「紛らわしいことしないでよね!大体、何であの状態で無事なのよ!?」

 ブルーが息をまきながら横転している車両を指差す。ひとまず安心したグリーンも一体あの状況下でシゲルがどのように身を守ったのか不思議でならなかった。確かに、見かけよりはタフな弟ではあるが・・それにしたって限度というものがある!

「ああ、先に飛び降りたからね。ボクの車には最新鋭のオート機能がついてるんだよ。ブレーキぐらいかけてくれるさ。それに、あっちの車がいやでも止めてくれたしね。」

「だからって、飛び降りて無傷で済む筈がないでしょうが!!」

「クッションになってもらったから。」

 そう言ってシゲルはモンスターボールをブルーの目の前に突き出した。いつの間に掠め取ったのか、ブルーのメタモンがボールの中でのびていた。

「あたしのメタちゃ〜ん!!なんてことすんのよあんたぁ!!」

「急所は外したから大丈夫。」

「あんた、私に喧嘩売ってんの!?(−−#)」

「あーやだね、これだからヒステリー女は。」

「誰が・・」

「ねぇ、逃げるよ?」

 ブルーの言葉を遮ってサトシが言った。彼が指差している先にはようやく衝突事故の衝撃から開放されて今にも逃げ出そうとしているロケット団トリオの姿があった。

「ばっ・・」

「それなら心配ない。」

 慌てて後を追おうとしたブルーはここでも邪魔が入った。グリーンの言葉通り、ムサシとコジロウはレッドとタケシに取り押さえられ、ニャースもグリーンのヒトカゲの"かえんほうしゃ"をくらってのびていた。

「ヤな感じ〜・・」

 こんな状況下にあってもいつものセリフが出てくる辺りはいかにもロケット団トリオらしい。

「よくやった。」

 グリーンがヒトカゲを撫でてやるとヒトカゲは喜んで、誇らしげに胸を張った。

「だがこれは没収だ。」

 グリーンにラジコンヘリを取り上げられてしまうと、ヒトカゲは一転してしょげ返ったのだった。

「何だかヒトカゲ可哀想だな。」

「仕方ないよ。やり過ぎたのは確かだしね。」

 あのホームページがやりすぎで済むのかどうかは意見の分かれるところだろう。

「あっ!ピカ、お前・・!」

「ピ!」

「まさか本当にピカチュウが犯人だったとはな。最近のポケモンは油断も隙もないというか・・」

 "ドドすけ"の中からピカとパソコンを取り出したレッドとタケシはどう反応したら良いのか分からず、当惑のため息を漏らしたのだった。

「何のことですか?」

「プロバイダーに問い合わせたら、あのアドレスで契約してるのはレッドだったんだ。でもこいつはホームページなんか作ってないって言うし、管理人のアドレスはピカのために取った無料のメルアドだって言うし・・」

「何でピカにメルアドなんかあげたのよ?」

 ブルーがレッドに詰め寄る。写真を撮っていたのがピカたちだったとしても、ホームページを作ったのがピカたちだとは信じられないのだ。いくらピカチュウの知能が高いといっても、そう簡単に信じられないのは当然のことだろう。

「ホラ、オレ仕事柄飛び回ってるからさ。ピカもいつも休園させるってわけにはいかないし。淋しいだろうな〜って思って、連絡とるのにパソコンとメルアドとってやったんだ。幼稚園でも必要だって言ってたし・・」

「本っ当にあんたって非常識!!」

 本当に想い人なのかどうかは定かではないが、トキワ署でも屈指の美人警官のブルーである。美人にあからさまな拒絶反応を示されれば面白くはない。警察官である前にレッドも一人の青年なのだ。やはり美人とは仲良くしたいのである。

「・・でも、銀行とかの写真はどうやって撮ったんでしょう・・行内や署内でラジコンが飛んでたら不自然ですし・・」

「多分これだろうな。」

 イエローが不思議そうに首を傾げているとタケシがピカチュウから幼稚園鞄を取り上げた。

「ピ!?」

 サトシとシゲルが買ってきて縫い付けてくれたお気に入りのワッペンがついている大事な鞄である。いかに顔見知りのタケシでも、取り上げられてピカチュウは慌てふためいた。その慌てぶりには、他にも理由があるのだが。

「ああ、それで・・」

 ピカチュウの鞄のワッペンに真ん中から、よく見ると小型カメラのレンズが覗いている。

「これで撮ってたのか。」

 ため息交じりにグリーンが言った。

「しかし、ポケモンじゃなぁ・・人間が作ったページなら本人に注意なり警告なりすりゃいいが、ポケモンの犯罪法はないからな。まぁ、お前たちからちゃんと叱っておけよ。」

 ポケモンが犯罪に絡む時はそのポケモンのトレーナーの命令によって動いているのが常だった。つまり、ポケモンが悪いことをするのはトレーナーが悪いから・・という至極単純明快な法規が定められているのだ。ポケモンに罪なし。全てはトレーナーの悪事に帰結すると言うのが法の定める所だった。

「勿論だ。ホームページもお終いだぞ。」

 タケシに応えて言うグリーンの言葉にピカチュウトリオとヒトカゲは揃ってしょんぼりとうなだれたのだった・・・。

「どうして幼稚園でパソコンとメルアドが必要なんでしょう?」

「幼稚園の課題にインターネットがあるんだとさ。だから、ピカなんか時々パソコン担いで登園してたけど、気付かなかった?ま、まさかあんなホームページ作ってるとは・・」

 イエローの素朴な疑問に応えていたレッドは途中で言葉を切ってぽかんと口を開けてぼんやりとしてしまった。

 今になって振り返ってみればピカたちがあのホームページを作っていることを暗示している事実がなんと多かったことか。そして、それ以上にピカチュウが犯人だと分かってからも今まで気付かずにいた根本的な疑問点に今はじめてレッドたちは気付いた。そもそも何故ピカチュウ達はあんなホームページを作る気になったのか

「じゃあ何?幼稚園の方ではあのホームページのこと知ってたってこと!?」

「そういうことになるな。」

「あいつめ〜(−−+)」

 わなわなと怒りに震えてブルーが拳を握り締める。不幸にもその表情を見てしまったピィが恐怖のあまり辺り構わず放電しまくった。シゲルがあえてそれを止めなかったのは言うまでもない。

「はぁ・・今日もお茶が美味しいなぁ。」

 マサキがほっこりとお茶を飲んでいるとどやどやと乱れた足音が廊下をやってきた。

「なんや、騒がしいなぁ。」

 マサキは元々はポケモン評論家なのだが、現在は訳あってこのポケモン幼稚園で保育士をしているのだ。

「マサキ〜!!(−−#)」

 ものすごい剣幕でブルーがポケモン職員室のドアを開け放す。続いて、仕事もそこそこに怒りに任せるまま抜け出してきたトキワ署の面々がなだれ込み、一斉にマサキに飛び掛っていった。

「あらあら、まぁ。何の騒ぎ?」

 幼稚園の保険医をしているオーキド・ナナミが騒ぎを聞きつけてやってきた時には、既にマサキに姿はおびただしい警察官の制服の群れの中に飲み込まれていた。

「わぁ〜(@@)!?なんや、なんや〜!!?」

「あんたが変な課題出すから、こっちはえらい目にあったじゃないの!!あんなホームページを平気で公開させといて、警察に喧嘩売ってるわけ!?」

「いい度胸してるじゃないか、お前!!」

「わ〜!!」

 その日、幼稚園でもみくちゃにされたマサキの悲鳴が空高くトキワシティ中に響いたのだった。

 ブルーたちが幼稚園を襲撃している頃、目立ちたがりやのシゲルはトキワ署の取調室でロケット団の調書を作るというきわめて地味、かつ重要な仕事に珍しく進んで就いていた。

「バカなことしたよね。あんな珍しいニャース連れてればすぐ足がつくのにさ。本当、救いようのないバカ。」

「ちょっとあんた!さっきから大人しくしてりゃバカバカって人のことコケにしてくれちゃってさ、何様のつもりなわけよ!?大体、すぐ足がつくったって、今日まで捕まえられなかったあんたたちはどうなのさ!」

「ヂュ〜(><)」

 シゲルの挑発に乗ってくってかかったムサシにピィの電撃が炸裂する。

「驚かさないでくれるかな。僕のポケモン、デリケートなんだから。全く反省の色無しだね。そもそも最初から僕が捜査に当たってたらすぐにとっ捕まえられたのにさ。上も頭が固いからねー。」

「くぁ〜!可愛くないガキね!!大体ね、あたしらをふっ飛ばしてくれたのはあんたのポケモンでしょうが!それになんだって仕事中にポケモンと戯れてんのよ!!」

 大きな四つ角を立ててわめき散らすムサシにまたもやピィの電撃が容赦なく襲い掛かる。

「あれ、知らなかった?1ポケ1警官制度。勤務中の警察官に最低一匹は警察ポケモンをってね。トキワシティはそのテストケースだけど?それにしても君タフだね。体は小さいけどピィの電撃って相当な威力だよー?」

「何が警察ポケモンよ!!警察用のポケモンはガーディって相場か決まってんじゃない!!」

「ついでに学習能力ナシ、と。だからテストケースって言ったじゃん。ガーディ以外のポケモンの登用の可能性も模索してるんだよ。と言っても、もう聞こえてないか。」

 懲りずにがなりたてるムサシが再びピィの電撃を食らっている横でシゲルは調書とは別に用意しておいたメモ帳に書き付けながら言った。

「シゲルってさ、時々悪趣味だよね。」

「罪人に人権なし。」

「・・オレ、シゲルがトキワに回されたの何となく分かる気がする(−−;)」

 本署に戻れない理由もね。心の中でサトシは付け加えた。

 シゲルの検挙率はトキワ署内、いやカントー内でもトップクラスだ。その代わり始末書も多い。トキワ署に転属となってからというもの、それは減少するどころか増加傾向を辿っている。

「ま、冗談だけどさ。悪びれてないと僕としてもムカツクってことさ。僕だって人間だからね。」

「その気持ちは分からなくもないけど・・」

 念のために言っておくが、サトシとシゲルは仲が悪いということはない。その逆である。幼い頃から二人でつるんで遊んだり、グリーンやレッドの後をついて回ったりと、いつでも二人一緒に行動するほど仲が良いのだ。

 さて。 二人に取調べを受けているムサシはというと、さすがに3度の電撃で撃沈されていた。コジロウも別の取調室でタケシにこってりと絞られてへろへろになっていたのだった。

To be continued


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