根性の曲がった人間を演じる扇辰さんがいい。 たとえば「大工調べ」の大家。 この噺では私は基本的には「大家派」だ。 自分のミスを棚に上げて相手の過去をほじくり返す棟梁にはあまり感心しない。 それでも扇辰さんで聞くと棟梁の味方になってしまう。 大家があまりにも意地悪で憎たらしいので、 あれだけイヤな奴だったらタンカ切りたくなるよなあと納得してしまうのだ。 そういえば落語には、 冷静に考えると変だなと思う噺が少なくない。 しかし演者の腕が確かなら、 聞いている間は疑問を感じない。 落語では話の首尾一貫性や時代考証より 「いかにもそれらしい」ことのほうが重要だ。 早い話、 うまく騙してほしいのだ。 扇辰さんの高座は、 古典落語らしい雰囲気をとても大切にしているように見える。 演じ方はオーソドックスだが語り口に独特の渋みがある。 意地悪な人間だけでなく職人もいいし、 色っぽい女性も意外に上手い。 真打になって九ヶ月、 だいぶ貫禄がついてきた。 これからも誠心誠意、 心をこめて私たちを騙していってほしい。 (2002-12-30)
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