志ん朝さんや小さんさんが亡くなったとき、 「これで本物の噺家がいなくなった」と言った人がいたが、 文朝さんの高座を見た上で言っていたのだろうか。 文朝さんは、 芸が優れているのはもちろんだが、 何より芸人らしいたたずまいがいい。 子供の頃から寄席に出ていただけあって、 末広亭のような古風な造りの高座によく似合う。 それに、東京には噺家は何百人もいるが、 文朝さんのように「するってえと何かい」とか「いやだよお前さん、 何がってそうじゃないか」 なんていう日常会話ではまず聞かれないセリフを口にして全然違和感がない人は、 そう多くない。寄席で聞くのは「寄合酒」「居酒屋」などの軽いネタが多いが、 大ネタでも小ネタでも、 どこにも力が入っていないようなのに、 面白いように手玉にとられてしまう。 でもたまには、 エンジン全開でがんばっている文朝さんも見たいものだ。 (2002-07-04) |