8月28日 −オランダ、再び−

 起床。このリエージュのYHは教会が隣にあって、さらに部屋の前が運悪く鐘楼なので朝6時に一発で目が覚める。セニョールも石川からの大学生君もともに部屋にいた。結局他の客は入っては来なかったようである。なんだかんだで、3人がこの部屋にいたわけだけど、正規にこの部屋でブッキングしてるのはちんただけである。ま、そんな恩(?)もあったのかセニョールは僕のかなり多めにあまったテレホンカードを買い取ってくれた。

 そう、もう、ベルギーも今日で出ちゃうんだよな。

 YHで朝食を取るのは久しぶりだ(ここ何日かは早起きで食堂が開く前にYHを出てたから)。シリアルにドライフルーツをたっぷりと入れて牛乳をかける。朝食もセニョールと一緒だったのだけど、思えばずいぶん長い?つきあいだったような。少なくともちんたの旅の中でこれだけ長い間一緒だった人はいなかったしね。
 お名残惜しいながらも行かなくては。今日は比較的長距離なのでもたもたしていらんない。久しぶりにリアに荷物をくくりつけ、さぁ出発!と、思ったら。

 靴が割れている。

 割れているというか、靴底がぺろんとはがれてしまっている。足を持ち上げるたびに左足がぱっくりと口を開く。なんじゃこりゃ〜?!さすがに昨日の大雨の中、じゃぶじゃぶと水たまりの中を突進したのがまずかったのか。とにかく自転車の靴は裏にビンディングが仕込んであって、これでペダルと靴を固定して漕ぐことになっているわけで、これでは漕ぎにくくてしょうがない。正確には、まだ、なんとか漕げるのだけど、早晩だめになることは見え見え。どちらかというと自転車漕ぐよりも歩行の方が困難になってしまっている。ま、しょうがない、とりあえず漕いで、途中の自転車屋さんでも見つけたら何とかしましょう。 


 リエージュを出るにはやっぱり。とにかくひたらすら長〜い。日本の感覚だと長い坂って言うのは必然的にくねくねしているものなんだけれども、なぜかここはずっとまっすぐなサンフランシスコのような。えっちらおっちら。朝一発目から苦労して登ったと思ったらよく見てみると朝一発目からいきなりミスコースで、今までの登りは全部無駄であったことに気が付く。坂を下って正しい道へ。
 それにしても今日はやたらに調子がいい。巡航時に28〜30km/hもでてるなんて、この一ヶ月の感覚では考えられなかったことが。何日か自転車がお休みだったので体調が良くなってしまったのだろうか?す〜いすい。  相変わらず、ベルギーは気候と景色は最高なんだけれども道路がね〜とぼやきたくなるような道路事情なのは変わらない。それが突然、道そのものがパッと明るくなったような感じになり、いきなり自転車道が現れた。・・・それがオランダとの国境だったらしい。相変わらずEU加盟国間の国境越えは看板の一つもない素っ気なさでいつ越えたのかさっぱりわからないのだけど、道路だけは雄弁にオランダを主張していた。帰ってきたぜオランダ!約一ヶ月ぶり。いよいよ最終コースなのであるなぁということを改めて思う。
 オランダで入ったのはマーストリヒトという街。ベルギーに角のようにはみ出した部分の先っちょの街である。とりあえずはオランダギルダーのキャッシュを用意しなくては。ふ〜らふ〜らと自転車を漕いでいくと、ありました、銀行。なぜかATMは無かったので窓口で残ったベルギーフランを全部ギルダーに替えてもらう。ついでなので自転車屋の場所も聞いてそちらに向かう。
 自転車屋でぱっくりと口を開いた靴を指さし「直したいんだけど」とお願いするとガムテープが出てきた。お代はいらないって。大ラッキー。「新しいのを買わないか?」とも言われるがそれはちょっと勘弁、もう日本に着いて落ち着いてから買うですよ。とりあえず左の靴に黒いガムテープをぐるぐるに巻いて固定。荒っぽく子供だましのような直し方だけれども意外とがっちりと固定されるものだ。ご満悦。さすがに見かけはこれ以上ないほどにみすぼらしくなってしまったけど。いいよ、もうあと2日だし。 


 マーストリヒトからは少し鉄道に日和ることにする。なんだか地図を見るともう一度ベルギーに再入国して40kmほど走ってまたオランダに再入国するようなルートになっていて(もう一方のオランダづたいに行くとやたらに距離がある)、気分的にも「もうベルギーは勘弁」という感じもあり、またちょっと時間的、距離的に押していたので鉄道に。ちなみにオランダの国鉄、どうやら自転車載せるのには金を取られるようです。12Gほど。金さえ払ってしまえば自転車専用車にそのまま乗せられるのだけれども、ちょっと高くないっすか?ドイツは無料だったのに・・・。
 1時間ほど列車に揺られてアイントホーフェンの街に。駅の中のスタンドでハンバーガーで昼食を取るが、店の選択がまずかったのかあまりうまくない。ドイツはどこに行ってもInbisが幸せな食事を提供してくれたのだけれど、オランダの場合はそれと比べると若干ジャンクフード環境がプア。ジャンクフードそのものがプアな食事ではあるけれど。
 アイントホーフェンからあとは一路アムステルダムに向けてGO!もちろん今日一日でアムステルダムは無理だろうけど、その30kmくらい手前のユトレヒトまでは頑張れば行けるんじゃないかな?とにかく行こう行こう。  走り始めて改めて実感するのはオランダの自転車道の見事っぷり。前に走った時には海外初走行=オランダだったのでありがたみもよくわからなかったのだけれども、旧東独やベルギーを回ってきた今となっては、もうありがたいの3乗といった感じで、こんなにブラボーな国だったのかと改めて感激。市街地の中は若干走りにくさもあるものの、それでも旧東独の一般道に比べて全然楽ちん。さらに郊外に出るとオランダの自転車道は極上のサイクリングを味わわせてくれる。ラッキーなことに天気も良く、青空が続き、風も若干ながら追い風。オランダの自転車道は道中のあちこちに標識があって道に迷うこともない。今まで各地でこれに悩んできた悩みの種が軽減されるのだからもう肩の荷が下りたというか、爽快気分でサイクリング。 


 ちなみに、この日もやっぱりやることはやっています、ミスコース。ちょうどゼルトゲンボスの市街地に入って、いまいち標識があやふやになったところでやっぱりやりました。お約束のようなミスコース。あっちへ行ったりこっちへ行ったり、あの人に聞いたり、この人に聞いたり・・・・。何で迷ったって、オランダにはこのパターンが多いのだけど、ゼルトゲンボスも街を出るには川を渡らなくてはいけない。この川がまた橋がないんだこれが。橋(それも自転車が通れる橋)を探すのに四苦八苦。やっとのことでユトレヒト方面への道をキャッチ。そういったパターンはもう一回あって、ゼルトゲンボスを出て1時間近く走ったところの小さな村(この村は教会前の広場を中心としたこじんまりとしたとても雰囲気のいい村だった)からさらにユトレヒトに向かう時も立ちはだかるのは川。この時は標識に従って走っていたら川に出てしまった、しかし見渡してもどこにも橋がありそうにない。しかし、標識は「ユトレヒトはこっち」と対岸を指している・・・そりゃそうだけどよ(^^;)。よくわかんないのでそこら辺にいるおばさんに聞いてみるとこの自転車道でユトレヒトに行くにはここで渡し船に乗らなくては行けないんだそうだ。って、サイクリングロードに渡し船(^^;)。そんなのありぃ?と何度もおばさんに聞き直してしまった。よく見ると向こうの方から確かに渡し船がこちらにやってくる。ドイツ・ライン川で渡った渡し船と同じようにかなり手を抜いたフェリーといった感じ。デッキのみ屋根無し。ちょうど教えてくれたおばさん(←ちょっと美人)も同乗していたので川を渡る間いろいろとお話。
 川を渡り上陸して気づいたのだけれども、どうもこの辺り、少し前に雨が降っていたらしい。道路が濡れている。雲の様子から見てもちょうど雨雲が通過した後にたどり着いたようだ。ラッキー。あとは10数km先のユトレヒトまで一気だ。 


 ユトレヒトに着いたのは午後5時頃。ヨーロッパの夏は日が長いのでまだまだ夕方という雰囲気ではなく外は明るい。このまま30km先のアムステルダムまで走っていってしまうのも良いけど、まぁ腹八分目というか足を知るというか、ここら辺で切り上げましょう。どっちにしろ、これから難関のホテル探し。ユトレヒト市街にはYHが無いので今日は予約等は取っていない。とりあえずユトレヒトの駅構内(もう駅構内を自転車引きつつ+サイクルジャージでいるのも抵抗無くなった。旅の恥はかきすてってホントやね)をうろついてみるものの、構内には案内所は無いとのこと。傍らにコンピューター応答の観光案内があったので、それでいくらかのホテル情報を引き出しておく(ちなみにオランダ版観光案内所VVVは駅の外にあると教えてもらった、が、行ってみるともう閉まってやんの。一日目もそうだったけどVVV使えないことこの上なし(^^;))。ホテル情報だから当たり前なんだけど、おおむねシングルで5000円〜7000円が相場らしい。まぁユトレヒトは結構大きな街なので当然といえば当然のお値段。ちんたのお財布的には爆裂高価なのだけれども、ま、もう最後だしいいか、という気分もある。とりあえずは一番安いホテルにとりあえず行ってみる。駅からも近くて非常に便利なところで道に迷うこともなくあっさりホテル発見。だがしかし、この旅はそんなにすんなりとは収まってくれないのが常。

 「悪いな、満員なんだ。」

 ・・・うう、そう来ましたか。とりあえず今のところは予約でいっぱいで、夜11時頃になればキャンセルがはっきりするから一つ二つ開くかもしれない、とのこと。いくらなんでも11時までは待てまっせ〜ん。フロントのお兄ちゃんはとてもフレンドリーな人で、「うちは無理だけど他のホテル(一泊6000円級)なら紹介するぜ。」と言ってくれたのだけれども、とりあえず、もう一軒だけ情報を得ている安宿にあたってみてから考えようと、のーさんきゅーということで、再度自転車にまたがってユトレヒトの街をふらりふらり。しかし、住所まではしっかり押さえてあるのになかなかそこにたどり着けない。結局、1時間近くうろうろしても見つけられなかったへたれなちんたさん、しょうがなく6000円でも良いから先ほどのホテルのお兄ちゃんに渡りを付けてもらおうと先ほど訪ねたホテルに逆戻り。恥を忍んで「他のホテル紹介してもらえませんか?」とお願い。すると、

 「お前はラッキーだな、さっき一人分キャンセルが出たんだ、お前を泊めてやる。」

 うぉぉぉぉぉ大ラッキー。予想もしなかった展開に感激。何よりも本日の宿泊料金が25G(約1250円)で収まるのがうれしい。妙にフレンドリーなこの宿はチェックインカードの記入も食堂に案内されて、さらにコーヒーなんかサービスしてもらっちゃって雑談しながらペンを進める。

 「自転車で来たんだろ?さっきの大雨には降られたのか?降られてない?そりゃ、ラッキーだな。今日はお前はラッキーデーだ、二つもラッキーが重なってる、雨に降られなかったことと、ここに泊まれたことと・・・」

 あはは、確かにそうだ。

 このホテルは値段が値段なだけにドミトリー。割り当てられた部屋に入るとだいたい12くらいのベッド。今日の寝床はその一番隅っこの下段。ちなみにこのドミトリーも男女同室のようで女性が二人ほど入っていた。女性といってもこの日は金髪の若貴兄弟みたいな二人組だけだったけど。
 隣のベッドにはイタリアから来た若者二人組。ちんたのサイクルジャージ姿を見るとやたら興味を示し、すげーすげーと感嘆している。やはりどこやらで聞いたようにイタリア人は自転車乗りにリスペクトしまくりらしい、なにやら「パンターニ、パンターニ」とか言っているので、この一ヶ月間、坂、峠の類を避けまくったちんたとしては気恥ずかしさ満点。いちおうゆっといたけどね、「パンターニのようには走れないよ(^^;)」

 しかし、へたれなりにもそれなりに走りまくった一ヶ月、それも明日が最後である。  


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