8月25日 −ライン川を離れて・・・−

 今日(25日)から3日間は自転車操業は完全にお休み。

 F1ベルギーGPである。

 全然「ツーリング日記」じゃないじゃん!?という感じもするが、まぁそれはそれ。ベルギーGPなのである。実際、金が無く、出会う人々と比べてもカリスマケチの域に近づきつつあるちんただったりして、このF1のチケット1万8000円近く・・・というのはめまいがしそうな金額なわけで、よっぽど同日にロッテルダムで開催される自転車レースの観戦(←これはタダ)に流れてしまおうかとも思ったのだけど、やはり、ここまで来たなら行かなくてはウソだろうということで予定通りGPへ。なによりもベルギーGP、スパ・フランコルシャンサーキットなのである。F1を見続けて10数年になるが、多くの人が「スパはいい、スパはいい」と言う。ファンだけでなくドライバーやライター、カメラマンなどプロの皆様もそう口をそろえるスパ・フランコルシャンサーキット。中でも、急坂を登りながら曲がっていくオー・ルージュというコーナーは絶品・・・だとか。そんなことを10数年ずっと聞かされてきたのである。ちんたにとっては聖地も同然な場所。
 朝食をとって、昨日出会ったセニョールと一緒にリエージュの駅へ。セニョールに誘導されて行ってみたら、昨日までにちんたが目星をつけていた駅は中央駅ではなく、列車も格段に少ないことが判明した。やっぱり、旅慣れている人が一緒だとなにかと便利で楽ちんで有意義だ。 


 リエージュからは電車でスパへ。そこからバスでフランコルシャンサーキットへ、という道のりだ。ベルギー国鉄で発券される切符は近距離切符であっても航空券みたいにばかでかい。字も大きくて高齢者等の弱者に非常に優しいつくり・・・ではあるがおそらく環境には非常に厳しいつくり・・・なんだろうな。ちんたは日本だとよくポケットの中で切符を行方不明にして自動改札機の前であたふたすることが多いのだけれども、さすがにベルギー国鉄並に大きければそれはないだろうなぁとは思う。
 途中で一回乗り換えてスパへ向かう。列車に乗っている人は明らかにF1見に行くんだろうな、とはわかるものの、それにしてはこの列車、異様に人が少ない。ちなみにちんたの頭の中にあるF1GP(つーか鈴鹿の日本GP)は列車なんかどれに乗っても大混雑だし、最寄り駅からサーキットまではひっきりなしにバスがピストン輸送されていて、それでも何本かバス待ちをしたりと、駅前はそりゃあもう大騒ぎさって感じで、それがF1であった。が、今、列車に乗っている人の数はそれからはほど遠い様相。2両しかないローカル線電車にまばらに座っているF1組。10数人くらい・・・?ちなみにこの10数人くらいの中に自分も含めて日本人が5,6人とやたらに日本人率が高い。恐らくはこの人達もこの閑散っぷりに面食らっているのではないだろうか。
 しかしそれ以上に面食らったのはスパ駅を下りてからだった。ここからはバス。それに乗れば20分程度でサーキットに着く予定である。今、10時過ぎなので11時前までにはサーキットに着くんじゃないか?そうすると第一回目のフリー走行には間に合うんじゃないか?という感じ。が、だがしかし。

 バスが来ない。

 バスが来ないのである。どうも列車が着く10分前に出てしまった模様。さらに次のバスまで2時間待ちなのである。なに!?臨時便はどうした?ピストン輸送はどうした?今日はF1開催日だろ?鈴鹿での常識を世界の常識としてかけらも疑っていなかった日本人組はそれぞれに唖然。そもそもスパに来るまでの列車が1時間に1本しか無く、ひとつも増発されていないところから今思い返せば妖しかったのであるが、まさか3時間に1本しかバスが出ないとは。
 とりあえず、待っていては今日はこのまま午後のフリー走行にも間に合わなくなってしまう。急遽、日本人組は団結、駅からタクシーに相乗りして少しでも頭数多くしてなんとか行こうと方針変更。おお、さすが旅慣れたセニョールがいると臨機応変、ちょっと困ってもばっちりだね。が、だがしかし。

 タクシーも来ない。

 まったく来ないのだ。先ほど列の先頭にいたアメリカ人?を載せてタクシーが出て行ってから次のタクシーがさっぱり来ない。これってどゆこと?待てど暮らせどタクシーが来ない。もうそろそろサーキットから戻ってきても良い頃だろうと言う頃になっても戻ってこない。つーかこの辺りのタクシーは1台しかないのかよ?あ、通りの向こうからタクシーが、OKOKやっと乗れるぞ・・・と思ったら自分達が待っている駅に着く前にそのタクシーは通りで別の人にインターセプトされてしまった。悲鳴のような声を上げる日本人組。列車を降りてから1時間半経過、それでもタクシー、バス、ともに来ません。
 救いの神が現れたのは2時間ほど待ち続けた後、1台の大型ワゴンがやってきた時でした。どうやら白タクのようです。しかしここは背に腹は代えられない・・・ということで全員の思惑が一致。セニョールが交渉を買って出て、運転手と交渉、8人載せて総額6000BEF(約18000円)ということで交渉成立。偉いぞセニョール。全員わらわらと乗車。大型ワゴンは恐ろしい勢いですっ飛ばしていきます。メーター見ると140km/hくらいだしてやがんの。 


 そんなわけでサーキットに着いたのはほぼ正午。もうちょっとしたら2回目のフリー走行が始まってしまいそうです。急がねば。しかし、急ぐ前に肝心なことをしなくてはいけません。セニョールも僕もチケットを持っていないのです。まず、それを買わねば。さすがというか、なんというか、この場でもセニョール大活躍。ゲートの前にたくさんいるダフ屋に声をかけて価格交渉。いや、別にダフ屋から買うつもりは、貧乏旅行の二人ですからハナっから無かったりするわけで、目の前に公式チケットオフィスがあることもあってあんまり意味がないかな、と思っていたところ、なんとダフ屋価格の方が公式チケットより安いんでやんの。定価7000BEFのところ6500BEFと日本円にして約1250円分のダンピング・・・もしかして、ニセチケット?と二人で顔を見合わせたが、「まぁ大丈夫だろう」とあまりはっきりしない根拠で二人とも納得、チケット購入となりました。もちろん本物でちゃんと入場できました。ちなみにこのダフ屋価格、翌日からは公式チケットが売り切れとなってしまったため一気に急騰、定価の2倍近い価格がついていたそうで。
レコンブ?だっけ?スタートライン直後のヘアピンの方から入って奥へ奥へ。僕らの買ったブロンズチケットは言うなれば自由席券、一番安いグレードのチケット(それで、17,000円ってどうよ?)。スタート直後のあたりの席はすべてゴールドやシルバーのチケットを持っていないと入れず、どの席の入り口にも怖そうなガードマンが構えていますから、我々貧乏人は自由席のある奥の方奥の方へと少々ハイキングをしなければなりません。ま、鈴鹿サーキットでもスプーンやらバックストレートに行く時は森を抜け谷を渡り・・・という感じで、ここらへんは妙に似ているかも。さすが両方とも森の中に作ったサーキット。
 入り口ゲートからしばらく歩くと、

 おお、オー・ルージュだ。

 聖地。ある種、F1を見始めてからずっと一度は見たいと焦がれていた場所、オー・ルージュ。普段の日はこのコーナーは一般道路。世界中の人を魅了する名所もレーシングカーが走らなければ単なる急坂でましてや自転車でこんな所なんて見たくも無い、という感じなんだけれども、今、ここはグランプリ。だからここは聖地なのです。後から現地で出会った日本人に聞くとやはりみんなここにあこがれているのか、ゴールドの中でも最も高い席となるオー・ルージュの近くに席を取っている人が多かった・・・つーかわざわざ日本から来てるのにびんぼくさいブロンズなんかで入場してたのちんたとセニョールくらいだったお。 


森の中を抜けてたどり着いた自由席。席と言ってもこの辺りはまぁ崖を開放するからお好きにすわってちょ・・・と言うだけの場所なのだけれども、まぁそこら辺は鈴鹿サーキットで崖の中腹に座ったり、富士スピードウェイで草木を切り開いて観戦席を開墾したりという観戦を繰り返してきたちんたにはお手のものである。適当にその辺の岩の上に腰掛ける。
 セニョールは自分の鞄からパンとハムを取り出してお食事。「もうこれ以上は日保ちしそうにないから」ということでお裾分けをもらう。あ〜、パンとハムだけでも十分おいしい。今までもそうすれば良かったかなぁ、と今までどちらかというとレストラン派だったちんたは改めて思う。
 本日はフリー走行のみ。なので、まぁ走行中の話は割愛。つーか、目の前を走っていくのはわかるんだけれど、誰がトップタイムだとかそういうことは一切わからなかった。セニョールもわからないらしい。会場ではアナウンサーがフランス語でなにやらまくしたてているみたいだけどさっぱり。近くにいたイギリス人?に聞いてみたら「俺もわからん」と言われてしまい、結局、この日の結果を知ったのは翌日の朝刊で・・・。 


 リエージュの駅にたどり着いたのは夕方5時前(すげーはしょり方だな)。実は今日、重要なことを片づけなくてはいけない。航空券のリコンファームだ。もうJALとかの良い航空会社を使うと必要の無い制度らしいけど、ちんたの持っているチケットでは必要なのだ。とりあえず30日に乗るわけで、その72時間前は27日の午後2時がリミットになるのだけど、とりあえずそれより余裕を見て二日前にリコンファーム・・・と思って電話をかけたところ、出たのは応答テープ。

「本日の営業は終了いたしました。なお、土曜日、日曜日はお休みとさせていただきます」

 って、おい、土日休みだとリコンファームできないじゃん!
 さぁちんた、再びピンチである。リコンファームできなくて帰りのフライトを失ってしまったりしたら最悪だ。帰りの飛行機どころか、帰国後の再就職先まで失ってしまいかねない。大ピンチ。新たにフライトチケットを買うにしても何日かは遅れてしまうだろう、つーか、それを買うのに10数万円の出費?無職のちんたさんには気の遠くなりそうな出費になりかねない。ただでさえ気の小さいちんたさん、すでに心臓を鷲掴みにされたような気分でおろおろ。
 しかし、開いてないものはもう開いてないし、明日になっても開かないものは開かないのだ。しかしここは一休さんちんた、考えた。

 「ホノルルにかけよう」

 ホノルルならばまだ金曜日の朝。ばりばりに営業してるじゃん。おお、まるで一休さんのように賢いわたくし。つーか、なぜかホノルル事務所は土日も営業するらしい。国際電話がちょっと高めだけれども背に腹は代えられない。しかし、中華航空のホノルル事務所、これがまた使えない。

 「ただいま、混み合っております、そのままお待ちください」

 国際電話で待てるかぼけー!

 結局、この日はリコンファームを取ることができず、悶々と過ごす。昨日と同じようにセニョールと連れだってケバブを食いに行くものの、どうも頭の片隅でそれが気になって仕方がない。う〜ん、俺、ちゃんと帰れるのかな〜。深夜になってもう一度電話でトライしてみるもだめ。さらにだめ。ちんたさん思わぬ所から大ピンチ。悶々と夜は更けていくのでした。  


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