8月20日 −悪いことの後には良いこと−

 き、今日こそは走るのじゃー。
 それほど自転車ジャンキーでないと思っていたのだけれおども、正味5日間乗ってないようなものですからね。さすがにいい加減走りたくなってくるですよ。

 昨日盗難などにあってとほほなちんたさんですが、今回の旅は悪いことがあれば必ず帳尻をあわせるようにいいことがおきます(問題はその後にまた悪いことがおこることだ)

とりあえずフランクフルトの澄みきった空はその一つでしょうか。フランクフルト、本日は晴れ。きれいな青空が広がっています。  


 旅もいよいよ後半戦に突入。あとはひたすら北西にあるアムステルダムに向かって走って行くばかりです。とりあえず、これから2,3日はライン川に沿って北上。期せずしてツーリングとライン川下りの景色を同時に楽しんでしまおうという贅沢な一日になります。

 YHを出る際に玄関でいろいろと自転車をいじっていたら、昨日の学生がぞろぞろと。

 「わー、本当に自転車なんですねぇ」

 ジャージにレーパンといういかにもな自転車装備のちんたがあまりにも昨日のちんたの格好とかけ離れていて別人に見えるんだそうです。そ、そうかなぁ。サングラスの分だけ怪しく見えるとか・・・・。ちなみにこの朝、この日でフランクフルトから日本に戻るという女の子にお風呂セットをもらいました。ちょうど欲しいと思ってたところで・・・つーか、そんなもん年下の女の子にもらわずにさくっと町中で買えよおっさん、というとほほ感でいっぱいなのですが、とりあえずもらいもののカネボウ・ナイーブでおじさんしばらく桃の香りです(^^;)。すてきな奥さんへの第一歩はケチから始まるのです(奥さんになるのか?)。しかし、かなりいいタイミングでお風呂セットを手に入れてちんたさんごきげん。これもまた不運の後のちょっといいことなのか? 


 失ったメーター、ライト類を買ってから街を出ようかとも思いましたが、日曜日なせいもあってどの店も開店時間が遅く、それを待ってるくらいならまぁいいやということで、なんにもなしのままスタート。案の定、フランクフルトから出る時にはあっちゃこっちゃと迷いながら、進む道を見失いながらの道です。スピードはかなり出てかなり進んでいるはずなのにさっぱり行程が進みません。土地勘がないというのはつらいな〜。しかし、どの道にもたいがい自転車道があり、やはり「西側」に戻ってきたのだな、ということをしみじみと実感する。ずいぶん不安少ないんだよね。やっぱさ。

 頭上をばんばん飛行機が通過していくフランクフルト郊外を抜け、道に迷いつつ、人に聞きつつ、なんとかマインツにたどりついたのがちょうどお昼。ここから本格的にライン川に沿って走ることになります。

 ここで画期的な出来事が一つ。とりあえず正午までにマインツ。プラン的にはかなり順調。そこで今日は、さらに80kmほど進んだところにあるコブレンツの街まで一気に走ってしまうことに決定。そこで、コブレンツのYHを電話予約することにしました。ここまでの道中で1軒を除いてほとんどのYH、ホテルでは英語が通じました。・・・つーか、旅を始めて3週間、この辺りにたどり着いてやっとそうなのだと言うことに気がつきました。英語が通じるならね、とりあえずホテルの予約なら何とかなりそうです。

 「今夜部屋あります?」
 「あるよ」
 「泊まりたいです、名前はちんたです。」
 「待ってます、ありがとう。」

 だいたいこんな感じの会話でしょうか。これくらいなら偏差値39からの英会話でもなんとかなります。で、これだけやっておくだけで、毎日苦労の連続だった宿探しから解放されるのだから、これはもう効果大。この日からこれができるようになってから、実にスムーズにコトが運ぶようになりました。まず、YHの取りっぱぐれがないので、「満員だよ」とか言われて泣く泣く高いホテルに泊まるようなコトがなくなりました。これはでかいです。基本的に自転車旅は食い物と宿代しか金がかからないので、この宿代が安くあがると実に出費が少なくて済みます。一日70DM(約3500円)くらいでなんとかなっちゃう感じです。その代わり新たな出費としてはテレホンカードが必携となります。ま、微々たるものだけれども。ドイツは日本で言うグレ電のような通信ができる電話はまず見かけませんが、公衆電話は日本よりもたやすく見つかります。  


 さ、何はともあれ、宿は確保できました。とにかくそこまでは行かなくてはいけません。ライン川沿いにある街なので今日はずっとライン川に張り付いていればいいようです。
 ライン川はドイツにあるんだから当然、日本の多摩川サイクリングロードのように川沿いには自転車道があるんだろう、と適当に予想を付けて探していたのですが、やはりありました、川沿い自転車道。しかし、悲しいかな、この自転車道、未舗装です。かなり踏みしめられていて、状態の悪い舗装道路よりはよっぽどタイヤに優しいのですが、やはり未舗装は未舗装。チューブラタイヤには厳しい道のりです。しかも悪いことに、前輪タイヤがどうも元気がないんだよなぁ・・・・。ちょっとスローパンクチャーっぽくて、いっぱいに空気を入れても1時間くらいで半分になって見るからに元気がなくなってしまうような感じ。それでも、変に時間をとられるのがいやなので、とりあえず前へ前へ。そんなこともあってできれば未舗装道路は避けたいところです。
 実はよ〜く探すと最も川沿いにある道は未舗装、そしてもう一本内陸側?川を離れたところに舗装道路があるということに気がついたのはずいぶん後のことでした。ちょうど、その時に通りかかったロードレーサー乗りのおじさんに道を聞いたところ「この道をまっすぐ行けばロードレーサーのお前にも快適な道が続いてるさ」とありがたいお告げ。やはり蛇の道は蛇、ロードの道はローディーがよく知っています。ありがとうありがとう、ダンケダンケ。赤いジャージも鮮やかなそのおじさん曰く「俺も前に日本に住んでたんだぜ」とのこと。どうやら赤坂の辺りに住んでいたようで、ありゃま港区ですか。

 「僕は麻布に住んでるんだ」
 「おお、麻布か、よく知ってるよ、お隣さんだな」

 妙なところで海を越えたご近所さん(←意味不明)に出会ってしまった。今回のヨーロッパ旅行中、日本人も含めて最もご近所さん大賞はこのおじさんであった。
 言われたとおりに進むと、やはり言われたとおりにきれいな舗装された道。日曜日なせいもあって、自転車ツーリング中の人に、特に家族連れとよくすれ違います。多摩川サイクリングロードに比べればぐっと少ないのだけれども、ドイツの中で考える分には、これまでで最も多くのサイクリストを見かける日になっているわけで、やはりドイツ人も川沿いが好きなのではあるまいかと推測。ちなみに多摩川や荒川だと途中に茶屋があったりするのだけれども、やはりライン川沿いにもありました。茶屋というより明らかにビール屋。店の前には大量の自転車が駐車中。
 朝、走り始めたときにはあれほど晴れていた天気だったのですが、ライン川に沿うあたりからだんだん天気が怪しくなってきました。ポツポツと来たり止んでみたり。天気が悪くなると言うよりは、良くなったり悪くなったり変動が激しいです。30分ごとに天気がくるくると変化するような感じです。しかも、ライン川は両岸を急峻な山で囲まれていることが多いので、西の空を見て天候を予想することが難しい・・・つーか、できません。ま、なるようにしかならないよね、天気だもんね。
 舗装されたサイクリングロードをすーいすいと気持ちよく走っていたのですが、いきなり、道が途切れてしまいました。あれれれ?なんだか船着き場のような所に出てしまいました。車がたくさん並んでいます。よーく見てみると、ライン川の渡し船の船着き場のようで、対岸を見ると今しも向こう岸を出たフェリーがこちらに向かってきています。なんだかよくわからないけど、サイクリングロードが途切れている(ように見えた)ので、ちんたも向こう岸に渡ってしまいましょう。この渡し船はフェリーなんてちゃんとしたものではなく、確かに車もそのまま向こう岸に渡しているのでフェリーといえばフェリーなのですが、屋根のない単なる平たい甲板に車も自転車も歩行者もどやどやとそのまま乗っていきます。特にイスとかがあるわけでもないのでみんなそのままです。川を横断しきるのには5分くらいしかかからないようなのでこれで十分なのかもしれません。ちなみに運賃は1DM(約50円)とりあえず、ちんたさん左岸から右岸に移ってみます。左岸から見てるとなんとなく向こう岸の方が快適そうに見えたからです。
 しかし、これはかな〜り見込み違いでした。右岸に渡ってからしばらくは自転車道らしきものがあったのですが、そのうち自転車道が消えてしまいました。自転車道が無いととたんに日本以上に自転車に冷たい道路になるのがドイツ流。いきなり自分の走れるスペースは幅20cmもないところに押し込められてしまいます。おまけに車道もそれほど広くないので、脇を抜かしていく車もそれほど避けてはくれません。おっかねーのなんのって。旧東独圏と同じようなものなのですが、こちらは交通量が半端なく多い分だけ始末が悪いです。こえーのなんの。
 怖いのを避けて、脇道にぬけると、今度は川岸まで迫った急峻な山がお出迎えです。ふもととはいえ結構な高さまで登らされてしまいます。わー、いい景色〜・・・ってそりゃライン川の眺めを高いところから見るのはきれいだろうけど、そのための労働力も半端じゃありません。山肌のブドウ畑の間をえっちらおっちら。 


 ところで。

 ライン川。ちんたが高校生まで過ごした岐阜には日本ライン下りという川下り船が出ています。その名の通り、川下りの船から見る景色がライン川に似ているからとか。たしかに川岸からいきなり急峻な山に立ち上がる岩肌、川岸の随所に見られる奇岩の数々などはクリソツ(死語)という感じがします。ちょうど坂祝〜鵜沼の景色とかなり似ています・・・と10人くらいしかわかる人いないだろうな、みたいなことを思ってみたり。しかし、根本的に違うのは日本ライン下りは急流を下っていく結構スリルのある川下り。一方本家ライン川の方は大きな観光船や輸送船がゆったりと行く大きな川。そもそもライン川はライン下りではありません、川上へ上っている船も多いのです。
 ライン川の眺めはいいのですが、いい加減、怖くて狭い道や山肌を登る道には辟易としてきました。ちょうど通りかかったサイクリストに「あの辺りから対岸への船が出るぜ」と教えてもらったこともあり、再度川渡しのフェリーで右岸に帰還。「あの船で渡ったところからコブレンツまでは快適なサイクリングロードがあるよ」とのお告げにすがることにしましょう。しかし、橋がほとんどなく、川を渡るときはたいていが渡し船。右岸も左岸もそれなりに街が発展しているように見えるのだけど、橋を渡していつでも行き来できるようにしよう・・・みたいな発想はないみたい。
 山を登ってみたり、川を渡ってみたりしているので、夕方までにコブレンツにたどり着けるかかなり微妙です。きりきり走りましょう。スピードメーターがないので正確なところはわかりませんが、ほとんど30km/hオーバーのファストランツーリング。今日はここまでほとんど休憩を取っていないこともあり、なんだかトレーニングのような様相。道に迷って地図を広げている時を除けば、渡し船に乗っている5分間×2回ぐらいしか休憩を取っていません。あんまり休憩したいとかも思わないせいもあるのだけれど。
 サンクト・ゴア(←ライン川沿いのちょっとしたリゾート地みたいな街)の辺りで、よわよわになっていたタイヤがついにギブアップ。しょうがないのでタイヤ交換。渡欧以来2本目のスペア使用。補充をしていないので手持ちのスペアはラスト1になってしまいました。パンク即タイヤ交換となるチューブラタイヤはきっついすね。サンクト・ゴアの辺りから天候は小雨がちになってきました。このままで保ってくれれば行けるし、これ以上、雨足が強くなるようならちょっと辛いです。サンクト・ゴアからコブレンツまでは40kmくらい、この間にYHはなく、コブレンツの手前で最後のYHのある街がサンクト・ゴアです。このサンクト・ゴアで切り上げてしまうという手もあるにはあるわけで、ちょっと判断の分かれ目。正直なところ天候の予想がつかなさすぎ。結局はまぁ「今日はもっと走りたい」というのが優先して、当初の予定通りコブレンツへ。
 しかし、天気の方はだんだん悪くなってきます。やべえな。時折見える西の空にはさらに黒い雲があったりして。いよいよ急がなくては、という雰囲気になってきます。
 ライン川沿いの自転車道は所々が細切れに切れるところが少々たちが悪い。自転車道が無くなると幅50cmくらいの路肩しかなくなったりするわけで、これですれ違う自転車が向かってきたりすると、ほぼ完全停止みたいにならないとすれ違うことができません。なんというか、中途半端に自転車道が整備してあるのでかえってうざい感じ(なければないで最初っから開き直って車道を走るのだけれども、なまじ自転車道がいくらかあるだけに、「車道は走ってはいけないんではないか?」みたいな気分になる)。

   天気の方も相変わらずはっきりしません。ぽつぽつときたり、日がさしたりを繰り返す。雨といってもそれほどは降らないのでまぁ雨具はいいかと。こんなふうに雨に悩まされていると「悪いことの後には・・」の法則だとYHに着く頃はすげー良い天気で一日を労ってくれるんだぜ、きっと、と根拠のない願望。とりあえずスピードアップ。

 コブレンツに着いたのは夕方6時過ぎ。雨雲に覆われていることもあってかなり暗くなってきてて、リアのフラッシャーが無いまま走るのは非常にこわかったりするのだけれども、YHまではあと少しです。YHはどこじゃいな?「歩き方」には「YHは丘の上にある」と書かれています。いつものように「道は人に聞け」。しかし、学生風のお兄ちゃんが「あれ」と指差したのはもう見える所にあるのはいいのだけれども、実に高〜い高〜い上の方を指さすからたまらない。

 「あ、あれを登るの〜?」

 あれは「丘」なのか?山じゃないのか?本日の最終コースはちょっと試練になりそうです。もうあと少しだというのに間に合わなかったか、雨がいきなり土砂降りに。
 まで鳴り始めちゃってなんだかもうとんでもない天気になってきました。あっという間に全身、荷物すべてびちょ濡れ。坂の方はYHに近づくにつれどんどん傾斜がきつくなる。
 よわぞうちんたさん、伝家の宝刀28Tもむなしく、ついに「押し」。土砂降りの中を押す。頭を巡る音楽はドナドナ。わーん、今日はこんな惨めな終わり方なのか「悪いことの・・・」の法則意味ないじゃん。

 散々なヒルクライム、かなりみじめな様相でYHのある広場着。その時、

 「うわ!」

 まじで大声。目の前に開けた光景は、丘の上から一望するライン川と広がるコブレンツの街並み。行き交う船、コゲ茶色の屋根屋根屋根。

 しばらく、濡れるのも忘れて立ちつくしてしまいました。
 やはり、今回の旅、悪いことのあとには良いことがセットされているようです。  


 土砂降りにやられて、全身泥だらけのちんた(顔まで泥が飛んでいた)。チェックインの後、自室で荷物の整理もそこそこにまずはシャワー、とにかくシャワー。もうどうせ濡れちゃってるんだからと、シャワールームにジャージから下着から一切合切持ち込んで大お洗濯大会です。毎日それなりに洗濯タイムがあるのですが、持参した衣類を全部洗うほどの大洗濯大会はそれほどありません。ジャージやレーパンなどごしごしとやればやるほど泥が流れ続けます。改めてすげー雨だったと。

 チェックインが7時過ぎだったためにYHでの夕食はとれないとのこと。さすがに丘を下りてまで食事をとるのは勘弁という感じだったんだけれども(また登ってこなくちゃいけないから)、うろうろしていると宿泊者らしいおばさんに、「城壁の内側の広場の反対側にレストランがあるわよ」と教えてもらう。ラッキー、実際、メシ抜きも覚悟していた。
 レストランは城壁を使ったとても雰囲気のいいレストラン。窓際の席やオープンテラスの席だったら、下界の眺めがさぞかし良かろうと思うのだけど、どちらの席も確保できず(つーかオープンテラスの席は雨なので・・・)。でも、とにかく、なんでもいいや、もう、雨に打たれてボロボロよ、という風情のちんたさん、ちゃんと食事がとれるならいいですいいです。今日は、結構走ったし頑張ったなので、自分への御褒美としてビール(でも走って無い日も結局は毎日飲んでる)。何かしらの達成感があったからか、豪雨の後でさっぱりして気分が良かったからなのか、一口飲んだ、

「っくあ〜〜〜〜〜〜〜〜んまい。」

 いや〜、うまいのなんの。味だけならプラハのなんちゃらビールの方が上なんだろうけれども、でもやっぱりうまい。やっぱ自転車に乗った後の方がおいしいんだよ、ビールはさ。満足満足。いまいちメニューが読めなくって、適当に頼んでみたら、苦手なレバーソテーだったという不運はあったけれども、まぁここまで肝臓をかなり酷使しているので、それもまた良しとして食べる。
 レストランを出るともうすっかり暗くなっていて、眼下にはコブレンツ市街の夜景。パチンコ屋とかがないですからね、夜景がとてもきれい。雨もあがっていたので、ふーらふーらと広場を歩く。
 すると、前方からなにか見覚えのある人影が歩いてくる。少し小さい女の子っぽい。

 「あれ?」

 向こうも気がついたみたい。近寄ってみると、あ、昨日の先生じゃん!あれ?なんで?デュイスブルグ直行じゃなかったの?え?船?え?
 昨日のフランクフルトでは全然行き先が決まってなかったふうなので、まさか再会するとは思ってなかった。つーか、こっちは自転車だし、向こうは鉄道&船だし、かみあうなんて考えても見なかった。

 「結局、高速船でライン川下りしてんねん」

 大阪弁ばりばりの彼女は、YHを出た後、迷ったあげく(←この時点でまだ決まっていなかったらしい)、マインツまでふらふらして、そこから高速船に乗ったのだとか。乗ったのはお昼過ぎだけど、それから2時間程度でコブレンツに到着したらしく、ちんた、途中で思いっきり抜かれている。川沿いのサイクリングロードを走る俺見えた?って見えるわきゃねーか。天気はいまいちだったけど、早い時間にYHに着いてるのでちんたのように大雨かぶるようなことはなかったらしい。

 「なんかな、このユース、やる気無いねん」

 夕方4時頃にたどり着いた時には玄関を叩いても誰も出てこなかったんだそうな。ちんたの時にずぶぬれになったあげく、玄関叩いても無反応だったら、もう泣いちゃうなぁ。
 彼女はタクシーでYHまでたどり着いたそうなのだけれども、やっぱり鉄道旅行の人にとっても、この丘の上のYHは厳しいらしい。

 「これな、終わってまってん」

 見ると、昨日すでにやばそうだったサンダルが緒が切れて完全に終わっている。明日は朝一番で靴屋へ行くのだとか。う〜ん、ちんたも明日は朝一で自転車屋くさいしな。
 自室に戻ると、本日の同宿者が入っていた。でも今日は一人だけ。ずいぶん広い部屋なんだけれども、まぁ、いい感じ。
 そのもう一人の宿泊者もサイクリスト、アメリカ人。ちんたのようなへたれとは違って、こちらはルートも期間もハイパワー。もう1年近く、10000kmほどヨーロッパを走り続けているようで、これでもう通算3年走り続けているのだそうだ。

 「どういうルートで走ってるんですか?」

 と聞くと、ちんただったら、この近辺の20万分の1、まぁ全体でも200万分の1の地図を広げて説明・・・となるのだけど、この人の場合、まず世界地図を取り出して、そこから説明が始まる。文字通りスケールがそもそも違うのだ。この人はどちらかというと山好きのようで、ヨーロッパを走るときもわざわざ山を選んで走っているらしい。明日にはフランクフルトの方に向かうらしいが、ちんたのようにライン川をトレースするのではなく、わざわざ東側の丘陵地帯を縦断するのだそうだ。う〜む〜。

 「この旅を書いて、本が出せればいいんだけどね」

 そんなことも言っていた。1年もの旅を書くのは大変だろうなぁ、と今、これを書きながら記憶の風化と戦うちんたは思う。彼にヨーロッパで走ってて一番どこが良かった?と聞くとイタリアだという。

 「イタリア人はさ、みんな自転車乗りをすごく尊敬してるんだよ。だから、峠なんかを登るだろ?それで登り切ると周りで見てた奴がみんな拍手してくれるんだぜ。」

 おお、そりゃ、すげーや。楽しそう。詳しそうなので、ここから先の道のこととかいろいろと聞きまくる。フランスなんかも自転車で走るとかなり楽しいそうで、今回、どうもフランスへは行けなさそうなところが少々残念。
 なんだかんだお互いの旅の話をしながら1時間近く。コブレンツの夜は自転車談義で更けていくのでした。  


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