8月15日 プラハへ・・・

 今日もいい天気だ。
 朝食は昨日食いきれなかったパン(いや、リンゴも残っているけど、さすがにもう・・・)。
 すでにドレスデンまであと40kmほどを残すばかりになっていますので、本日はとにかくドレスデンを目指しましょう。そこからは鉄道でチェコはプラハを目指そうとか考えているのですが、それはとりあえずドレスデンに着いてから考えるということで。
 村を出るまでは、旧東ドイツの村にありがちな古きままの石畳の道。これをこちらはロードレーサーで走ろうというのですからハナっから無茶といえば無茶。パンクさせないようにさせないようにと進むと、自ずと速度は時速8km/hとのろのろ運転。・・・ロードレーサーで走っている意味ないじゃ〜ん。  


 ドレスデンへの道は、ひたすら、農地。右を見ても左を見ても、農地。ただ、これまでよりも丘が多め。上ったり下りたりが多くなる。ちょっと大きめの美瑛(北海道)って感じ。・・・ってちょっと大きめの美瑛ってことは、もうすさまじいである、というぐらい壮観な眺めで、幾重にも連なる丘、そして丘の上にある村、教会、丘の向こうにはさらに丘、その向こうにも丘、といった感じでとおーくとおーくまで連なっています。そう言えば大地讃憧・・・だっけか?そんな曲あったよなぁ。ドイツの曲だっけか?よくわかんないけどそんな曲を作っちゃう気分はわかるなぁ。毎日毎日、果てしなく広がる大地を見続け、いいかげん麻痺したと思っていたのだけれども、やはりその大きさ、広さ、雄大さに改めて圧倒されてしまう私。もうドイツでは何日も緑の丘(あるいは黄金色の丘)とお付き合いしてきたけれども、このザクセンの丘はとりわけ雄大で、眺めがいい。もし、0泊3日ドイツ弾丸サイクリングツアーを試みるなら、ザクセン地方をお勧めしたい。


 ドレスデンは山に囲まれた街なのか、街に入る前にちょっとばかしきっつい登りを強いられる。ああ、きっついなぁちくしょうめ、と思っていると、その後の下り坂はさらにきつく、ドレスデンから外に出ようとするとさらに辛そうである・・・ということを発見。ドレスデンもいかにも旧東独の大都市らしく、あっちゃこっちゃで道路工事、それも比較的大規模な工事が多い。まったく困るんだよね、こんなところで工事やられちゃあさ、ロードレーサーで走れないだろう?とかぶつぶつ言いながら、のろのろ運転。そして、工事区間を過ぎると、これまた旧東独の大都市らしく、道は石畳になる。まったく困るんだよね、こんなところに古き良き文化を残してもらっちゃあさ、ぷんぷん。
 ドレスデンはどういうわけか、街の中心街はこっちだよ・・・という他のたいていの都市にはあった案内標識が無い。今日はさ〜、中央駅に出たいんだからさ〜、無くっちゃ困るじゃないのさ。ドレスデンにはいくつかの駅があるのだけれど、チェコ方面への列車はおそらく中央駅から出るんじゃないのか?と思うので中央駅に行きたい。いつものように、人に聞きまくり、あっちへふらふら、こっちへふらふら。やっぱり土地勘のない都市で自転車で動くの大変だ、と、毎度のことではあるが、そう思う。駅には出るのだけど、中央駅にはさっぱり出ない。迷走に迷走を重ねてたどり着いたのは北駅。ちんたさん、ついにここでドレスデンにギブアップ、ということで自転車をあきらめ、北駅から自転車ごと中央駅に向かうことを決断。ま、いいか、そのまま乗せられるんだしさ。そんなわけで、北駅から中央駅まで一駅分、輪行。  


 ドレスデンの街は中央駅の前こそ、再開発が急ピッチで進んでいるものの、ガイドブックにも書いてあるとおり、あっちにもこっちにもボロボロになった建物がある。どうやら有名な大空爆でやられたらしいのだけれども、50年ほっといたんですか?という感じもするわけで、日本で言うと街にずらっと原爆ドームが並んでいるようなもので、いや別に、ドレスデンの場合、祈念碑にしているわけでもないのだけれど。この大都市にしてこの扱い、という旧社会主義政権下にあった都市もなかなかつらいものよのぉと感じる。  ドレスデンの中央駅に12時頃に着き(やっぱ鉄道は楽だね、ダイレクトで駅に着くもの)、一服する前にチェコへの切符をとりましょう。時刻がよくわかんないのでとりあえず、インフォメーションで調べてもらって旅程を作ってもらう。今日中にプラハに着けるようならこのまま列車に乗ってしまうし、無理ならばドレスデンで宿を探そうという寸法。実際に、ドレスデン〜プラハ間にはEC(優等列車ですね、正確にはベルリン〜プラハを走っている)がたくさん走っているのだけれども、「自転車を一緒に」という条件を付けると、ECには自転車を積めないためにいきなり旅程作成が難しくなってしまうらしい。インフォメーションのおばさんは時刻表のあっちをめくり、こっちをめくりで大奮闘の末、旅程表を打ち出してくれた。今度はこれを出札窓口に持っていって見せれば、その券を発行してもらえる。どうもECを避けて自転車を積める列車(たいていは普通電車)でプラハにたどり着こうとするために、本来の直通ルートからずいぶん迂回したローカル線巡りになってしまっているらしい。事前の情報からだいたい50〜60DMくらいかなぁ?と思っていたら、80DM近くとられてしまった。おまけに、ECなら3時間程度で着く道のりを、乗り換え待ち含みで9時間以上かける大旅行になってしまっている。う〜ん、こういうときは自転車を引っ張っているのはずいぶんハンデ。いや、本来、自転車でプラハに向かえばいいのだろうけど、「国境は山ばっか」と教えられたこともあって、すでにそんなところに足を延ばす度胸の無いちんたさんはそんなことハナっから頭にないである状態。  


 しかし、到着が9時過ぎかぁ・・・いくら日没の遅いヨーロッパの夏とはいえ真っ暗じゃん。宿探し・・・大丈夫かなぁ?プラハ中央駅にはインフォメーションがあるとのことだけれど、切符に書いてある到着駅は中央駅じゃないし。実は、ちんたさん、チェコはたぶん足を延ばすだろうと思って、前もって「地球の歩き方(中欧)」の該当ページをコピーしておいたのだけれども、それ、思いっきり麻布の自宅に置いて来ちゃっているわけで、それが無いこともあってさらに困っちゃってるわけだ。要は、初めての街、それもドイツほど融通は利きそうに無い街にガイドも無いまま日没後にたどり着こうというのであるから、海外旅行初体験のちんたには重すぎる課題である。ちんたさんただでさえ心配症の人なので、この時もまた小心者メーターはレッドゾーンである。小心者メーターを上げている理由は他にもあって、チェコ語がまったくわからないというのもある。会話集は持ってきて居るんだけど、チェコ語、難しすぎ。文字からして読めません系の言語なのでさらにだめ。車中の9時間はチェコ語の勉強に充てることにする。
 ドレスデンを出た列車はローカル線を走る。どうも、朝出た街も経由して行くらしく、丘越え、野を越え奮闘した午前中の奮闘40kmはすべてパーという実にうれしくない事実を突きつけられてしおしおになる。
 今回の旅で初めての本格的な鉄道での移動。ということは、思いっきり鉄道旅行初心者なわけであり、歩き方をはじめとする様々な付け焼き刃に頼るしか無い状態。やれ、「車中で寝てると置き引きが」とか、「鞄を開けると狙われる」とか。そんな注意を逐一忠実に守る、ある意味、歩き方のスーパー読者と言えなくも無いのだけれど、おそらくどっから見ても良いターゲットである。そうそう、「歩き方」なんかには「いかにも旅行者という風情でいると狙われる」みたいなことが書いてあるが、ドイツに居る日本人、それも実際に旅行している日本人が旅行者でないふりをするなんてそもそも不可能なんではないか?どうやっても無理、と思うのだけどどうだろう?  


 車窓を流れるはドイツの田舎。これまで自転車で走りながら眺めたのと同じく、その多くは農地であったり野原であったりするのだけれど、やはり鉄道の車窓と、自転車からみるそれではかなり趣が異なる。自転車(すなわち道路沿い)の風景は、それでも街と街(あるいは村と村)の間をつないでいるわけで、農地ばかりと言いつつもそれなりに人の営みの気配があるのだけれども、鉄道の場合、本当に何も無いところをばりばり走っている場合がある。何も手の入っていない森だとか湖だとか。そういうのが時折見られる。また、鉄橋の上だとか、谷あいだとか、あまり自転車からは見ることの無かったような視点で見ることができるのもこれはこれで楽しい。風景そのものは鉄道旅行の方が楽しいんではないか、ともちょっと思う。
 しかし、こののどかな風景の中、「寝るな」とか「注意していないと・・・」というのは拷問ではないか?(実際には寝ても何も起こらなかっただろうと思う・・・つーか、列車の中に他に誰もいなかった)
 2時間ほど揺られて、旅程表にある最初の乗換駅に着く。ここで今度は1時間半の乗り換え待ちらしい。まぁ、軽く町歩きをするにはちょうど良いか、と思い、駅を出て通りを歩いてみるのだけれども、あまりの暑さに耐えかねてすぐに駅に退散。何か飲み物〜、そうそう、チェコまでの長旅の分も含めて飲み物〜、とちょっとたっぷりめに大きなペットボトルの飲み物を買うが開けてみると単なる炭酸水で大失敗。これを1.5リットルも飲むのはちときついぞ。やはり冒険を避けてコーラとかにしておけば良かった。
 この駅での乗り換えはドイツ国鉄からチェコ国鉄に乗り換えることになるようで、つまり、この駅は国境の駅。人もあまり居なくて、強い日差しが降り注ぐ中、駅の中はしーんとしている。そういえば美濃太田(岐阜、昔住んでた)の駅も夏はこんな感じだったっけな。ちょっと懐かしいような気もする、ここはドイツの果て、国境の街。鉄道に関してはまさにこの駅が国境のようで、同じホームの左端がドイツ、右端がチェコらしく、間にはパスポートコントロールがある。日本の田舎の駅の改札のように、発車時刻が近づくとカラカラと窓口が開く。まずはドイツ側の出国審査、自転車を引っ張りながらパスポートを見せてOK。そして3mほど歩くとチェコ側の入国審査だ。こちらも特に問題なくOK。つーか、パスポートしかチェックされなかったんだけどいいのか?いいのか?パスポートのチェックはかなり厳重だったけれども(とくにチェコ)。  


 これまで見慣れた赤い色のドイツ国鉄の列車に変わり、緑色のチェコ国鉄の列車がやってきた。ああ、ここからいよいよチェコなんだなと強く感じる。所変われば作法も変わるもので、ドイツ国鉄では自転車をそのまま客車に乗せたのだけれど、チェコ国鉄では荷物車に預けることになるらしい。まずは、荷物車に自転車を放りあげ、その後は自分だけ客車の方へ。客車の方は思ったよりも客が多く、空いてる席を探すのに苦労するくらい。
 席に着くと同時に発車。どんどん山の中に入っていくのだけれども、行けば行くほど風景が枯れていく。国が変わるということはこういうことなのかなぁ。ちょくちょく小さな駅に止まっては人が大量に下り、そして同じだけ乗ってくる。制服姿の軍人も多い。
 最初にやってきたのは女性の車掌だった。チェコ語らしく何を言っているのかさっぱりわからなかったのだけれども、どうやら、荷物室に預けた自転車は別に荷物料が要るので払えという。180ck(チェココルナ)。ちょっと待て、コルナなんか持ってねぇってば、さっきまでドイツに居たんだからよ、駅にだって両替所なんか無かったじゃん、どうしろってのよ?お互いに言葉が通じないのでややこしい問題がさらにややこしくなる。すったもんだの末、一度引っ込んで、相談してきたのか、「マルク払いでいい」ということになり、5DMほど払う。
 次にやってきたのは検札。今度は男の車掌がやってくる。ま、検札は問題ないよね、切符ちゃんと買ってあるもの、と余裕で切符を見せたら、車掌、しげしげと切符を見つめ、やがてなにやら騒ぎ出した。なに?!なにごと!?どうやら、切符の券面に書いてある経路と今乗っている経路が違うとか言っているようだ。んなわけねぇだろ、ドレスデンの駅で出してもらった旅程表のままに切符発見してもらってんだからさ、ほら旅程表見てみ?これで良いって言われたんだから、俺、知らないよ?・・・・・って、よく見たら旅程表と券面に記載されたルートが微妙に違っている。

「あ、違ってる・・・・・・・」

 素直に認めるしか無いワタクシ。ドレスデンの出札係、何やってくれるんじゃ〜!!
 それからがまた大変。どうするんだ?俺はここで降ろされちゃうのか?ってこんな訳のわかんないチェコの端っこの山の中の駅で降ろされても困るぞ、つーか、あのなんにも無いドイツの国境の駅まで戻るのもいやだぞ。車掌さんが切符書き換えて変更してよ?できない?なんでよ?できない?む〜・・・。って、そのうちあーでもないこーでもない言っているうちに切符を書き換えてもらうことになった。できるんなら最初っからそうしろってば、こいつめ。

「変更分の400ck払え」

 だからコルナなんか持ってないんだってばよ〜、持っていない通貨と通じない言葉で問題はさらにややこしく。結局、この車掌も、一度戻ってまた来てマルク支払いOKとなった。ちなみに変更に20DM。ECで行っても60DMも払えば行けるドレスデン〜プラハ間を合計100DMも払ってローカル線大回りでプラハに向かうわたくし。なんだかもう、この一連の車掌達とのやりとりですっかり意気消沈。チェコってのはこれほどまでに言葉が通じないものか、ということを実感して、ちんたさんもうめそめそ君です。いや、ドイツでも大して通じていやしなかったけどさ、輪をかけて通じない。通じないということはこうまで心細いことなのか。道案内からホテル探し、トイレ探し、食事探し、ほとんど生活に関わるすべてを人に聞きながら進むしかなかったこれまでのことを思えば、もう、これは絶望的なんではないか?と思わされます。おまけによー、プラハに着くのは夜だしよ〜。  


 教えられたとおり、チェコの国境際のあたりはひたすら山の中。見ている限りはそれほど急峻な山にも見えなかったが、寄り添う道路を観察してみると、途中に店とかガソリンスタンドの類をいっこうに見かけない。やっぱ、自転車で走らなくて良かった。実際に自転車で走ればそうでもないのだろうか?まぁ、帰国した今になってもちんたの旅のスキルではプラハまで自転車で行くなんて無謀もいいところだったと思う。素直に列車にしておいて良かった。
 プラハまであと100kmあまりとなるウスチナラバの駅で乗り換え。旅程表によればこの駅で乗り換え。乗り換え待ちは2時間となっている。うえ〜2時間かよお、できることなら一刻も早くプラハ入りしたいんだけど・・・・。と、ホームを見回すとどうやら10分後にはプラハ行きの列車が到着するらしい。ベルリン発のECか?自転車を乗せられないあれか?たぶんそうだろう、でも1時間半近く早く行けたらおいしいな、だめもとでどうよ?ほとんど叫ぶようにそこらにいた駅員を捕まえて、発車案内板と切符、自転車を指さして「OK?OK?」と聞くとOKだと言う。ホントか?多少気迫で押しまくっちゃったのではないかとも思うが、OKなんだからありがたい。ほどなく滑り込んできた列車に自転車ごと押し込む。自転車は最後尾のデッキにくくりつける。お〜、小さな成功だ。乗り込んで発車した後も、さっきのことがあるので、「自転車はだめだ」とか言われるのではないかと検札など車掌がうろうろする度にひやひやしていたのだけれども、とりあえずおとがめなし。乗せちゃったもん勝ち?  


 とりあえず、これで20時ちょい過ぎにはプラハに到着できるようになった。明るいことは明るいのだろうけど日没寸前である。今日の宿は?大丈夫か?一向に下がる気配の無い小心者メーター。心配性というのはこういう時に大変不便、つーか、海外旅行ビギナーなことがより災いしてるか?プラハに着く1時間半の間、ずっとそんなこと(しかも心配しても何一つ事態は改善されないようなこと)でうにゃうにゃ悩みながら、それでも列車は進む。もうちょっと車窓に目を向けたりすればいいのに。確か、このあたり、寄り添うようにずっとドナウ川が並行していたのだけどれど、そんな車窓もあまり記憶になく・・・(もったいない)。  


 20時過ぎ、プラハのなんちゃら駅とかいう少なくとも中央駅ではない駅に列車が滑り込む。もう日没寸前だ。あまり人影の無い駅でツーリストインフォメーションも見あたらない。とりあえずホテルだ。街に出てホテルを探そう。通りを走っていればホテルくらいあるんじゃなかろうか・・・・と、自転車にまたがり通りを走るものの意に反してそれらしきものがまったく見えない。・・・おっかしーなー、プラハって首都だろう?観光都市なんだろう?ホテルはどこよ?ホテルはよ?
 ちなみにプラハ、大通りはともかくちょっと脇道に入るとほとんどすべてが石畳。おまけに道のそこここに大きな段差がしつらえてあって、これじゃあ車でさえ大変だよな、と思うがロードレーサーではさらに大変。急いでいるのにゆるゆるとしか走れない。
 ふらふらとさまよっていると、突如開けた大きな広場に出た。教会があってすでに薄暗くなった中でライトアップされている。広場中がとにかくすごい人、人、人。とりあえず、両替所を発見し、当座の現金を用意。あとはなにはともあれ宿を確保しなくては。  


 プラハはドイツなどに比べると宿泊が非常に安価だと聞いている。安宿だとおおむね200ck〜800ck(約500円〜2000円)。どケチちんたとしてはこの点だけは期待していいかもしれない、つーか、かなり期待している。が、まずはかんじんのホテルが見つからない。両替所のお姉さんに聞くと「あの通りをまっすぐ行った左側にあるわよ」とのことなんだが、プラハの道はとにかくややこし過ぎて、特に多くの通りが集まる広場なだけあって、どれが「あの通り」なんだか、どこで「左側」なのかわかりゃしない。200mも進まないうちに迷子になって、今度はレストランのウェイターに聞いてみる。一人目は「知らない」ということでアウト。別の店に移って聞いてみると、今度は「うちの隣だよ」とのこと。おおラッキー。ホントだ、確かに隣はホテルだ。

 「今日は満室だよ」

 そう答えたのはフロントに座る女将さんだった。あうあう。本日もまたホテルを求めて流浪の旅だ。しかし、ここでいったん握った芋蔓の端を手放してはいけない。他のホテルを紹介してもらおう。どうやら女将さんの知り合いのホテルがあるらしく、電話をかけて空室があることを確認してもらえた。そのホテルは近所にあるらしく、女将さん直々に「こっちだよ、ついておいで」と路地を二つほど曲がったところまで案内してくれる。あ、ありがとう。  


 とりあえず、もう今日はいろいろなことがありすぎて体力的にも精神的にもへとへとです。やっとホテルにありつけました。なんだか、ザクセンの丘を走っていたのがすごく昔のことみたい。

 「1泊4000ck、いや、負けて3000ckでいいわ」

 負けてくれたのね、ありがとう・・・って、3000ck!?(約9000円)プラハでは1000ckも出せば高級ホテルに泊まれるんじゃなかったのか?3000ck?9000円?そんなのベルリンでもそんな値段しなかったぞ!?

 「ここはプラハの中心街だからね、このあたりはどこもこんな値段だよ」

 価格表を見せてもらうと確かにその通りらしい。・・・う〜ん、負けました。ここにしましょう。なによりもへとへとです。プラハで3泊する予定だったけど変更して、この宿は1泊だけとする。明日また安宿を探し直そう。しかし、3000ck、3000ck・・・・。思いも寄らぬ大金を使う羽目になりショックから立ち直れぬちんた。どケチはこういう時に精神的にとても脆い。さすがに9000円となると、日本に居るときもこれくらいパチンコにつっこむとそろそろ頭が沸騰してきて前後見境なくなってくるくらいの金額である。でかい。でかすぎる。
 それでも、もう、他に選択肢も体力も残っていないところがだめだめのちんた。ホテルのボーイさんに案内されて、本日の自分の部屋、「8号室」へと案内される。その8号室は、迷路のように張り巡らされた廊下の一番奥にあるらしく、奥に入って右に曲がってさらに右にある階段に折り返して上って下がって、まっすぐ行って左に曲がってまっすぐ行った突き当たり・・・・だったっけな?そんな感じの所にあった。どんなやねん?いったん外に出て自室に戻ってこれるのだろうか?
 さらにグレイトだったのは8号室の中身だ。「この部屋だ」と案内してもらってドアを開けると最初に目に飛び込んでくるのは壁。壁?入ってみるとそれは廊下で右手に進んだ方にベッドルームがあるのだとか。って廊下ってなにーー?そんなに広いのか?入ってみると廊下どころかベッドルームは12畳間ほどもある広さの中に当然ベッドはツイン、さらにその隣にはベッドルームと同じ広さのリビングルームが。

 「?????」

 なんだなんだ?なんだかすごい部屋に来てしまったみたいだぞ?さらに歩き回ると、廊下を歩いた反対側にはトイレとバスが。当然のようにバス、トイレ別でそれぞれが4畳半くらいの広さがある。さらにさらにトイレから廊下を挟んだ反対側にはりっぱなりっぱなキッチンが・・・・。
 いわゆるスイートルームって奴っすか?これ?
 それが9000円というのもこれはこれでべらぼうな安さである。なんなんだこのホテルは。ちんた、暗闇の中をさまよい歩いているうちにとんでもないホテルにたどり着いてしまったようである。とにかく、部屋がでかい。どう使っても一人旅では使い切れないのが悔しい。  


 とりあえず、今回の旅、初となるバスタブ付きのシャワーでゆっくりとシャワー。そして飯。先ほどの広場に出てみると、夜の10時だというのに、広場にはこれでもかというくらいの人だかりで、プラハの歌舞伎町ダイヤモンド広場と名付ける。とにかく、ここは観光客が集まるところなのだと気が付いたのは、その広場に面したレストランに入り、メニューを広げた時。

 日本語のメニューがある!

 ベルリンでも見かけなかった日本語のメニュー。とりあえず、チェコ料理ものらしきものとビールを注文。先ほど3000ckを支払ったばかり(今日はそれだけでなく100DM(5000円)ほども使って切符も買っているのだ)なので、財政的には弱弱君なのでこれくらいがせめてもの贅沢。しかし、チェコのビールは一口飲んでびっくり。うまい、うますぎるうまひゃひゃひゃ・・・とかいうと、だれやらのパクリなのだけれども、思わず目を見張るうまさ。ピルスナーなんだけど軽くない、濃い芳醇な味のビール。水のようなのどごしなんだけどどっしりとした存在感のある味。な、なんなんだ、このビールは?疑いようもなく今まで飲んだ中でピカイチのビール。緊縮財政なんだけど、ついつい、もう一杯・・・・。
 ホテルに戻る頃には実にい〜気分。今日はなんかいろいろあって、しんどいばっかりだったけど、まぁいいや。ビール飲むと忘れちゃうってのはホントだな。それだけ根が単純なのか何なのか・・・・。  




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