8月10日 今日もやっぱり農地なわけで・・

■森の中の小雨の朝
  グラボウのYH、森の中の朝。どうやらガキどものまき散らす騒音にも負けず、きっちり眠れたようである。
 だがしかし、本日少々小雨模様。
 ありゃまぁ。また足止め?また延泊かえ?こんなに何にも無いところで延泊もきつい。
 7時頃に食堂に下りてみると自転車で旅行しているドイツ人が二人。朝食を同席させてもらう。

 「雨だねぇ」
 「雨だなぁ」

 なんて話しながら、雨だけどどうすんの?と聞いてみると、やっぱり雨では身動きがとれないとか。が彼によれば「この雨なら、もうすぐ上がるんじゃないか?」とのこと。おおジモティー(といってもドイツ人というだけだけど)がそういうのならそうかもしれないな。少し希望がわく。
 同じテーブルについた4人の内、一人が英語がしゃべれるらしい。雨が上がるまでの暇つぶしと長い朝食を兼ねながら雑談。「今日はどこに行くんすか?」みたいな話を。


■ツーリング用地図
  彼が見せてくれたのは青い表紙のドイツサイクリング協会かなんかの公式と銘打った自転車用の地図。開けてみると道路が色分けされている。

 「この赤点線の道はサイクリングに適した道ということだ」

 とのこと。赤点線が最も良く、次点が赤実線、オレンジ点線、、、黒網掛けと5色くらいにランク付けされているらしい。おおお、この地図は便利だ便利すぎる。彼によれば大きな書店で売ってるよ、とのこと(が、その後、GS、書店に入るたびに探してみるもののついぞ見つからず)。値段もサイズも自動車ドライブ用の地図と変わりない(12.5DM)。どうれどれ、本日の予定、ベルリンへのB5線はどうじゃいな?と探してみたら、最下位ランクの黒網掛け。

 「This color means bad for cycling」

 横からわざわざ教えてくれるおじさん。どうやら、前日に体験した、狭い道、すぐ脇を抜けていく大型車とやたらにぶっ飛ばすベンツ…という図式がそのまま続くらしい。「俺達は今日はこの道を行くんだ」と教えてくれた道は赤点線(最上級)。ちんたさんもなんだかそっちに心奪われ気味(つーか、B5線の辛さに嫌気がさしていたんですね)。ちょっとばかり悩む。が、彼らに言わせると、「俺達と同じルートをたどるには(毎日100km走る)おまえにはちょっと距離が短いかもしれないよ、ベルリンに向かった方がいいよ」とのこと。そんなもんかなぁ。


■ドイツ語読み方講座
  雨が上がらないので、コーヒーを何杯もお代わりしながら長い朝食は続く。
 「日本人から見るとさぁ、ドイツの地名は読み方からわかんなくって」みたいな話をしたら、やおら地名読み方講座になってしまった。地図を指し示しながら「ここは?」と聞くと、読んで正しい発音を教えてくれる。1週間前に泊まったRhaineの街が「ライネ」と発音するのだと言うことも初めて知った。また、ドイツ人はミュンヘンは「ミュニック」だし、プラハは「プラーク」というそうな。さらに、ベルリンはLとRの発音をきっちり分けないと全然通じないということもお勉強。

 「ベルリンの後はどうするんだ?」

 さらにおじさんに尋ねられる。う〜ん、実はこれを聞かれるのがちょっと辛い。正直なところあまり考えていないからだ。しかし「実はまだ決めてなくって、これから考える」というのがうまく伝えられているのか伝えられていないのかいまいち自信が無く、「たぶん、プラハに行って、ミュンヘンに行って…」なんて半分ホント半分嘘の話をする。YHが使えないミュンヘンはできれば避けたいんだよな…。おじさんに寄ると、チェコに向かうなら国境の手前、ドレスデンまでは平坦な道だという。が、ドイツ・チェコ国境は、

 「There are big mountains」

 とのこと。ちんたさんの行く気を削るには十分すぎるほどのお言葉。じゃあ、チェコのお隣、ポーランドは?と聞くと、こちらは泥棒が多く、自転車なんかで行くと速攻自転車をやられるぞ、とのこと。うーむ、山以上にこれは辛いへたれなちんたさん…ってどこに行くにもだめじゃん。彼が言うには「チェコに入るときと出るときは鉄道で行ったらどうか?優等列車でなければ自転車も乗せられるはずだし、だいたい50DMくらいだと思うぜ」とのこと。そうしようかなぁ…。水は低きに流れるが如く、ちんたさんも楽な方へ楽な方へと流れ気味。自転車に乗りたくてわざわざロードレーサーを引っ張ってきながら、楽はしたいというかなり矛盾した感情を持つへたれサイクリスト全開である。


■何でも無くす人
 ま、何はともあれ、とりあえずはベルリンだ。
 長い長い朝食(実に2時間半)を終える頃、雨が止んできた。行っちゃいましょう、ロード・トゥ・ベルリン。本日は10時に出発。
 出発してから20kmほど走った時点で気がついた、痛恨事。「あ、チェーンロック忘れた」。自転車を固定するあのチェーンである。どうも出る前にはずした時に、そのまま放り投げて忘れてきてしまったらしい。かといって、今更取りに帰るのもなぁ…。とりあえず、もう一本、ロックはあるからまぁ行っちゃうか。しかしどこかで買わなくちゃいけないだろうなぁ、また出費かぁ…。どうもこの旅、やはり慣れない海外旅行で地に足がついていないのか忘れ物の類が非常に多い。既にカシオペアのダミーカード、クック時刻表、エアインフレーター、南京錠等々。どれもがシャレにならず、新たな出費を呼んでいるところが痛い。まるで犬が小便で自分の足跡を残すが如く、自分の持ち物を各所に置いてきてしまうちんたである(ちなみにプラハ(チェコ)のガイドは自宅に忘れてくるという念の入れようである)。

本日も左右に広がるはこんな景色。ずっと。ずっと。


■ロングラン一本橋
 本日のコースもひたすらB5線。相変わらず自転車道は無く、ヨーロッパ感覚で言えば交通量も多い(日本の感覚だと北海道亜幹線くらい)。路肩なんかこれ以上狭くできるか、くらいに狭く、白線の外側は10cmもあればいい方だ。そうか、そうくるか、旧東ドイツ。日本で鍛えた路肩走行を見せてやる〜。数10cmの幅の中に全神経を集中して走るちんた。


■ドイツ、なんでも車両でかすぎ
 ドイツでは自動車がただでさえ高速でかっ飛ばしてって怖い、というのもあるのだけど、もうひとつ、普通の自家用車の後ろにトレーラーを引っ張っている車が多い。キャンピングトレーラーだったり、馬小屋?だったり。図体が大きいこれらの牽引車はあまり対向車線に出ていくこともできないので、どうしても自転車の近くを走らざるを得なくなっている…のでちんたさん、結構怖かったりする。
 が、何が怖いって、もっと怖いのはトラクターだ。農地が無駄に広いだけあって、トラクターもべらぼうにでかい。運転席なんて2階にあるような感じで、タイヤも身長を軽く超える位のでかさである。こいつがさらに後ろにトレーラー荷台を引っ張ってこれでもかとばかりに牧草満載で向かってくるから迫力満点。前からでも後ろからでも、こいつが横をすり抜けるときなんて思わず素直に「ごめんなさい〜〜」と謝ってしまう。
 ドイツの道も敵が多いのである。


■ジャンクフード天国
 お昼ご飯はケバブ。またかい。すっかりドイツのジャンクフードにお世話になりっぱなしのちんたさん。3DM(150円)も出せば超満腹なのだからありがたい。このケバブ、「そんなに入れるの?」というくらい羊肉を削って詰め込んでくれる。これ一つ食べれば、もう他のサイドオーダーなど要らないというか入らない。日本でも渋谷や六本木にケバブの屋台が出ることあるけど、500円くらいでもっと小さいもんな、どれだけぼっているかがよくわかった(でも、ドイツに行くまでは「500円でこんなにボリュームあってうれしいなぁ」とか思っていた)。  


■本日もひたすら農地
 本日のコースも概ね周囲は農地、農地、農地。ただ、やはりというかなんというか、比べるのもなんなんだろうけど、旧西独圏に比べてあまり手が入っていないところも多く、農地と荒れ地の境界線上にあるようなところも少なくない。沿道にある家などを見ても、旧西独では茶色やオレンジ色を主体としたヨーロッパ風の建物ながらも「ぴしっ」とした感じがあったのだけれども、旧東独圏では「昔の技術で建ってます」と言ったような、いまいちまっすぐのようでまっすぐでは無いラインを持った家が多い。それでもカーテンや調度品は新しそうだったり、庭は綺麗に手入れされていたりするのは、そういう住まい方の文化なのか、それとも統一のささやかな恩恵なのか。  


■本日も苦悩、宿探し
 農地に始まり農地に終わる。ヨーロッパの夏は日本のそれに比べて格段に日が長いのだけれども、日が差している時間が長いと言うよりは夕方が長いという印象。午後4時くらいから空に少しずつオレンジ色がかかってくるのは日本と変わらない。が、そこからのいわゆる薄暮時が午後8時過ぎまでずっと続く。決して日中の明るさが日没2時間前まであるというわけではないので、日没が遅いからといって余裕をかましていると結構暗くなってしまう。曇天だったりするとさらに暗い。とにかく夕方が長いのだ。
 そんなドイツの長い夕方。広い広〜い農地にオレンジ色の日が差して黄金色に輝いています。だがしかし、見とれてばかりもいられません。西の方からは怪しげな黒い雲。3日目に食らった夕立の記憶もまだ生々しく、早々に切り上げましょうと頭の中でサイレンが鳴る。幸いにして街道沿いに「ホテルあるよん」という看板があり、B5線から小さな村に向かう道に入る。
 看板に従ってたどり着いたペンションは「満員だよ」とのこと。ちんたさん、もう1軒目が駄目なくらいではへこたれません。近くのホテルへの道を教えてもらってそちらを目指します。が、その2軒目もだめ、満員。こうなるとちんたさん少々めそめそ君です。だってあまりにも小さな村でそれほどホテルがありそうには見えないんだもの。とりあえず、さらに別のホテルを教えてもらってGO。「この道を道なりに行けば大きな建物が見える、そこがホテルだ」と教えられたのですが、その大きな建物が見える前に、小さなペンションの看板が掛かった家がありました。ええい、どうせだからここにあたってからにしましょう。  

怪しげな天気になってきちゃいました

ノイシュタットのペンション。おそらく「歩き方」に載ることも永久にないでせう。


■田舎のペンションにて
 ドアを叩くとハイジに出てくるアルムおんじのような風貌のおじいさんが。「部屋はあるか?」と聞くとOKだという。ラッキー。部屋が確保できるとなるとものすげーほっとする。「自転車はこっちに持って来い」と言われてついていった先は、中庭に面した納屋。鶏小屋の前に自転車を置く。本日の走行距離は110km。
 しかし、ここからが大奮闘。さすが旧東独圏と言うべきか、ちんたの語学力を憂うべきか、英語がさっぱり通じない。かといって、向こうの言うドイツ語もさっぱり分からない。「一泊35DM、朝食付き、朝食は7時〜8時の間に部屋まで持ってくる」これだけの事を確認するのに、身振り手振り、会話集を指さしながら15分もかかってしまった。国際交流とはげに難しきものよ

これが1泊35DM(約1750円)の部屋。ひろ〜い。


  それにしても、これが35DMの部屋かいな。ものすげー広い部屋。ツインルームのシングルユース。バスもトイレもめっちゃ広い。テレビもやたらに大きい。大きなソファーとテーブルもある。これがハンブルグのYHのドミトリーと変わらない値段だって言うんだからブラボーな話だ。早速シャワーと恒例の洗濯ターイム。
 ちょうど、シャワーを浴びている間に雨が降ったらしく、メシを食おうと表に出たら路面が濡れていた。おお、なんていいタイミングで宿に入ったんだ。ここはノイシュタットという小さな小さな村。通り一本でほぼ村が完結してしまうような村である。たまに馬車が走っていたりするが、これが観光用とかでなくてマジで日常の足にしてそうだからびびる。通りには小さなビアパブとイタリアンレストランが一軒ずつ。それ以外には何もなさそうなので本日の夕食はイタメシで。あいかわらず付け合わせの芋とキャベツは山盛りで。
 ビールをしこたま飲んで酔っぱらい気味でペンションに戻る。とりあえず本日はトラブルフリーで終えることができた。こんな日もなかなか珍しいな、とのんびりとした気分で一日を終えたのでした(酔っぱらいだからチェーンロックを忘れてきたことは無かったことになっている)。めでたしめでたし。

ノイシュタットの町並み




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