8月6日 自転車のお祭りの日

■自転車ロードW杯
 話は前夜のことに少し戻ります。
 心の中全泣き状態の中、川を渡ってハンブルグ市街に入ったちんたさん。この川っぺりには、遠くからも見える高い高い建物のホテルが見えます。さすがにこのホテルは無理目過ぎだろうということでハナっからカウント外だったりしたわけですが、このホテルの前を通ると、駐車場にはたくさんの色とりどりのトレーラーが。そしてそのトレーラーの脇ではこれまたおびただしい数の自転車−ロードレーサー−が並べられていて、その間をくるくるとせわしなく行き来している人達がいました。トレーラーには”Lampre”とか”Deutshe Telecom”などの文字。

 ヨーロッパのプロロードレーサー御一行様です。
 明けて8月6日、日曜日。今日のハンブルグはワールドカップの日です。自転車ロードレースW杯第6戦HEWサイクラシックカップが行われるのです。自転車のワールドカップは年間を通じてヨーロッパ各地を転戦し、年間チャンピオンを争う形式です。F1みたいなやり方ですね。以前は日本の宇都宮とかでもそのうちの1戦が行われたりして、日本の今中がポイントを取ってみたりとかしていたのですが、近年はW杯そのものの規約が変わって、開催地は欧州に限る・・・ということになってしまいました。もう、日本では見られないわけです。


■会場下見
 朝7時。そろそろ定着した感のある早起きさんです。とりあえず、せっかくW杯の日にその開催地にいるのですから観戦しない手はないでしょう。実際の所は渡欧以来4日間走り続けたのでそろそろ足に疲労も溜まっちゃってます。そんなわけで漕ぐのはお休みにして本日は観る自転車の日といたします。
 とりあえず、「スタート&ゴールは街の中心部らしい」くらいの情報しか持っておらず、まずはその場所を探すことから始めなくてはいけません。つーか、自分の泊まっているホテルが街のどのあたりに位置しているのかさえ把握できていないのです。朝の散歩がてら会場探しです。
 歩いてみると町の中心部(=ハンブルグ中央駅)は意外に近いところにあり、歩いて10分ほどの所にありました。ありゃりゃ、こんなに近いところにあるなら昨日はもうちょっと頑張っても良かったかな?とも思いますが、まぁそれはそれ、置いておきましょう。駅を越えてさらに歩いていくと、なにやらそれっぽい人達が見えてきました。「それっぽい」というのはレーサージャージに身を包み、ロードレーサーにまたがっている人達です。どうやらプロのレースと同時にアマチュアレースも行われるようです。F1で言うところのCIVICレースみたいなもんでしょうか?とりあえず、その草レーサー達の集まる方集まる方にふらふら付いていってみると、あ、ありました、街の中心の商店街のようなところ、その真ん中にスタート&ゴールが立てられています。


■市民レース
 まだ、朝早いせいか(そもそもW杯エリートクラスのスタートは11時頃らしいとこの時知る)、人影はまばら。カメラのセッティングを行うカメラクルー、マイクテストを繰り返すアナウンサー、そしてスタート時に良い位置からスタートしたい草レーサーは早くも場所取りが始まっています。  そんな、まだ閑散としたメインスタンドでぼーっとしていると、おや?なにやら目の前にどこかで見たような顔が。この厳つい顔は・・・ビャルヌ・リースじゃん!ロードレースのプロレーサーの名前など10指に余るほど、それも顔と一致するレーサーなんてほぼ数人のちんたでも知っている有名人、ツールドフランスでマイヨジョーヌも取ったことのあるあのリース!!もう引退したとは聞いていたけど、こんなところで何やっとんじゃ、リース〜〜〜?

 どうやらリースさん、アマチュアレースにオープン参加の模様です。エリートクラスに先駆けて朝9時にアマチュアのレースがスタートします。アマチュアといっても170kmもレースするんです。そのアマチュアレーサーの先頭に立って走り出して行くリース。そしてその後に続く人、人、人・・・。なんでこんなに参加者がいるの〜〜〜?スタート地点はもう青梅マラソン状態です。自転車レースのスタートといえばせいぜい百人程度のものしか見たことの無かったちんたさん、口あんぐり。翌日の新聞発表では多分に大本営発表のような様相もあるけど1万人以上がレースに参加していたのだとか。うひ〜。


上写真中央のこちらを向いているのがリース。リースを先頭にアマチュアレースのスタートです。


■エリートクラス
 一旦、ホテルに戻り、チェックアウト、そして中央駅に荷物を預けて再度スタート地点に戻ります。エリートクラスのスタート時間が近づいているせいか、先ほどとは打って変わって観客の波、波・・・。スタート地点前の仮設スタンドは人の山、2カ所ほどに設置されている大型ビジョンの前はさらに大きな人の山です。レースのスポンサー、チームのスポンサー各社がチーム名の入った帽子やら、応援グッズやらを配り歩いています。自転車観戦、観戦がタダなだけでなく、おまけにいろいろなものまでタダでもらえてしまいます。応援グッズの鳴り物をもらった人達はさっそくぴ〜ひゃらと鳴らしまくります。いよいよ上がる会場のテンション。そんな頃にエリートクラスの選手達が現れ、出走サインをしていきます。
 エリートクラスの自転車レースの前には、出走サインという「儀式」があります。各チーム毎にステージに登り、一人ずつ出走リストにサインをしていきます。その間にアナウンサーが選手紹介をしたり、インタビューをしたり。その度に鳴り物はいっそう鳴り渡るわけですが、中でもドイツ人選手、とりわけウルリッヒ、ツァベルのドイツテレコムの選手が紹介されると、観客の鳴り物はターボかけて響きわたります。大人気なんやね、自転車選手。

エリートクラスのスタートの頃はもう黒山の人だかりでまともに近づけません。何枚か撮った中で最もまともに取れているスタートの写真でさえこのありさま。


■街は自転車で大騒ぎ
 さて、エリートクラスはスタートしてしまうとしばらく戻ってきません。次にこの広場に戻ってくるのは120km以上の旅路を終えた後、15時以降です。それまでの間はアマチュアレーサー達がくるくると回っているのですが、これを見てるときりがないし、というか町中がコースになっているのでどこにいてもイヤでも目に入ります。観客も誰が通ろうとも大騒ぎ、ホーンを鳴らして大盛り上がり・・・つーか、お前らもう酔っぱらってるだろう!?
本日ハンブルグ、街のどこに行ってもロードレーサーが走っています。街歩きには明らかに不便ですが、自転車のお祭りの日だから良いのです。ハンブルグ中央駅を走るアマチュアレーサー達。
 その間、ちんたは街歩きを兼ねてふらふら。YHに行って今晩の部屋を確保してみたり、中央の広場で屋台を冷やかしたり。なんだか、ハンブルグの街、レースやってるだけでなくって、それにかこつけてお祭りです。食べ物の屋台やらどこから引っぱり出してきたのかバンジージャンプやら。自転車関連の出店もたくさん。概ね25%引きで自転車を売っていたりします。お祭りの雰囲気に押されてか、もう酔っぱらっちゃってアレなのか、ついつい転んで財布をとりだしている人も多数。とにかく、ハンブルグ、今日は自転車のお祭りです。なんだかこういう日のこの街に自転車で来てるってのが自分的にはちょっと誇らしい気分もあり。そんなわけでお祭りを楽しみましょう。


 しかし、相変わらず、レースの模様を流している大型ビジョンの前は黒山の人だかり。タダでさえがたいのいいドイツ人が佃煮のように固まっているのですからどこに潜り込んでもさっぱり映像が見えません。会場に流れるアナウンスもドイツ語ということでさっぱりわかりません、ちんたさん、未だドイツ語は「トイレはどこですか?」しか覚えていないのです。W杯生観戦といいながら、実はさっぱりレースが見えていないところのちんた。今、誰がトップやねん?


■自転車レースのコンボイ
 まもなく、エリートクラスが戻って来るという頃、ちんたは有力チーム・ドイツテレコムの大型バスの上に作られた観覧エリアにいました。無料です。ドイツテレコムさん太っ腹。だがしかしやはり競争が激しく。ちんたさんすでに1時間半近くこの場所に立ちっぱなしです。
 エリートクラスが戻ってくるときには、それに先駆けて各スポンサーのコンボイが通過します。各社のノベルティーグッズを配ったり(つーか、まいたり)、鳴り物を配ったり(つーか、放り投げてまき散らしたり)して走っていきます。スポンサーの中にはミネラルウォーターの会社もあるのですが、そこはタンクを背負った男達が沿道に並ぶ観客に水をぶっかけまくって走っていってしまいました。う〜ん、そのままというか、なんというか。


■ゴールスプリント
 エリートクラスが戻ってきました。ここからは市街地周回コースを3周しますので、全部で3回、あと2回は戻ってくることになります。最初の1回目はどこやらチームのなんちゃらいう選手が一人猛烈アタック独走状態で帰ってきました(いったいわたしは何を観戦しているのだ?)。その後に4,5人の第二集団があり、残り100人近くの選手は一本棒になって帰ってきました。まだまだ誰もが優勝をねらえる位置にいます。


こんな風に街の真ん中に戻ってきます。
 話は飛んで、最終ゴール(その間、広場でビール飲んだり、屋台ひやかしたりしてさっぱり見てなかったのよん)。さすがに観戦ポイント場所取り争いもさらに激しく、ちんたさんもゴール30分以上前から場所取り&待機。ゴール手前100m、道路沿いリングサイドに陣取ります。周囲はもう黒山の人だかりでもみくちゃ。各スポンサーは「まだそんなに持ってたんかい!?」というような鳴り物・ノベルティーグッズを在庫一斉セールで。ばらまきまくります
 最後の最後、通りの向こうの方から「ごうっ」とも何とも付かない歓声がやってきます。エリートクラスがゴールに向けて最終スプリントに入っています。どうやら先頭は二人、マッチレースです。あ、やってきたやってきた、観客はもう走ってきたのがだれあろうともホーンは肺活量いっぱい、鳴り物は腕がちぎれんばかりにぶん回しています、もちろんちんたも。要は騒ぎたいんだな?みんな?
 ちょうどちんたの目の前、ゴール前100mの地点から、紫色のジャージを着たLampreの誰やら選手がぐいっぐいっと最後の一延び、そしてトップでゴールで入っていきました。そしてその後続々とゴールする選手達。ドイツ人な皆様はツァベルが4位に入り、シリーズランキングトップを維持したことで驚喜乱舞


■トーマス君
 お祭りの後の寂しさを漂わせるハンブルグ市街中心部を離れ、中央駅に預けた荷物をピックアップしてYHに向かいます。う〜ん、昼間のウチに宿を確保していると言うことがこれほどまでに気楽で安心感あることなのか。実際、ハンブルグのYH、夕方に再度訪れてみたら受付は黒山の人だかり。予約を取っていなかったらちょっとやばかったかも知れない。
 自室に入り(このYHはカードキー式で、部屋の中にバス・トイレ、近代的だ〜)、シャワーを浴びて荷物をほどく。割り当てられたベッドは二段式の上の方。すると、新たに一人入って来た。

「ハイ!」

 入ってきたのは年の頃同じくらいのドイツ人。気さくな奴だ。

「俺はトーマス、ドイツの南の方のコンスタンツという街から来てるんだ」  とのこと。時間も時間だし、飯でも一緒に食おうよということになり、二人で外出。YHの近くがハンブルグの歌舞伎町、飾り窓もあるらしいサンクト・パウリ地区。モデルガンショップなのか実銃ショップなのかそういうお店がやたらに多い界隈。他はやっぱりカジノとかヌードショーとか。
 そんな中、トーマスと適当なレストランのオープンテラスに腰をかけ、ビールと肉料理のセットを注文。
 このトーマスはドイツの南の端から北の端に向けて車で旅をしているんだそう。自転車から見るとドイツは車が速くってこえーよー、と水を向けると、「ドイツでは150km/h位で走るのはごくごく普通のことだからねー」と笑っていた。日本なんか高速道路の制限速度が100kmだぜ、と教えてやると「そりゃあ、だめだ、そんなスピードじゃあ寝ちゃうよ」・・・・ああ、そうかも、俺も高速道路で運転してると眠くなるんだよね、ってそりゃ違うか(^^;)。
 トーマスは英語がぺらぺら。というかちんたから見るとぺらぺらなんだけど彼に言わせると「英語は難しいよなぁ」とのこと。ドイツも英語教育は盛んなんだけど、文法、文法、文法ばかりであまり英会話はできるようにならないんだとか。どこの国でも同じようなこと言ってるなぁ、日本でも割とそうよ。  「日本人とかアジアの人は大変だよな、ドイツ語は英語とある程度文法が似ているけど、日本語とかはぜんぜん違うんだろ?そういう国の人が英語を習うのって大変だろうな、と思うぜ」  うーん、欧米から見るとそういう感じなのかな?聞きようによっては「日本人は英語が下手っぴで当然だ」みたいにも聞こえるんだけれども、逆にそれが「ああ、日本人は英語下手っぴでも変ではないんだ」とも思われて、以降、ちんたさん下手っぴな英語をぶんぶん振り回してヨーロッパを渡り歩くことになります。ヨーロッパで出会った皆様には迷惑この上なかったかも知れませんが、これは全部トーマスのせいということで、ひとつ(^^;)




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