作者別一覧
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百瀬しのぶ
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森博嗣
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SHINOBU MOMOSE
百瀬しのぶ
「TRICK the novel」
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
短編連作
出版
角川文庫
値段
¥600
初版
2001-12-25
総合
−
ストーリィ
☆
技術
−
本書は2000年07月07日から同年09月15日まで、全10回放送されたテレビ朝日系連続ドラマ「トリック」を元にしたノヴェライズ――つまり小説版。
ドラマで演出を手がけた堤幸彦が監修、蒔田光治と林誠人の脚本を百瀬しのぶが小説化した模様。調べてみたのだが、百瀬女史はNHK朝の連続ドラマ「ほんまもん」、TBS系ドラマ「ビューティフルライフ」などの小説化なども手がけているようだ。
2000年10月に角川書店より単行本として出版された。本書はその文庫版。監修の堤幸彦は演出家・映画監督・映像作家で、代表作にTVドラマ「ケイゾク」「金田一少年の事件簿」「さよならニッポン!」などが挙げられる模様。
このドラマ「トリック」は、売れないマジシャン山田奈緒子と若手物理学者である上田次郎がコミカルに活躍するミステリタッチの物語。
主人公の山田奈緒子は、結構な美人なのに意固地でお調子者な性格が災いする奇妙な女性として描かれる。会う人から胸が小さいことを指摘されることと、マジシャンとして全く売れないため極貧生活が続くことが悩みの種。
もう一人の主人公である上田次郎は自分のキャリアを自慢することが好きな、鼻持ちならいナルシスト。しかし極端に気が弱いという側面もあり、超常現象や怪奇現象を見た瞬間、ショックで気を失ってしまうような小心者として描かれている。
この珍妙な二人がふとした切っ掛けで出会い、様々な自称「霊能力者」と対決しそのインチキ・トリックを見破っていくというのが、全話に共通された大筋。
どちらかというと、本格ミステリ風ドラマとして楽しむよりかは、全篇に散りばめられた山田と上田の可笑しなやりとりや、怪しげなギャグ、それらの雰囲気を楽しむドラマだと思う。
肝心の小説化の出来だが、これは及第点をやれると思う。再現性が高いというか、それなりに上手くドラマを活字に変換できていると思う。――ただ、やっぱりドラマを見たほうが良い。それを補完する意味合いで読むのが、一番楽しめるだろう。
「母之泉」「まるごと消えた村」「パントマイムで人を殺す女」「千里眼の男」「黒門島」の5編収録。
2004/01/16
HIROSHI MORI
森博嗣
「すべてがFになる」THE PERFECT INSIDER
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
講談社
値段
¥714
初版
1998-12-15
総合
☆
ストーリィ
☆
技術
☆
第1回メフィスト賞受賞作。1996年04月、講談社ノベルス(新書版)として刊行されている。
発表当時はわりと斬新だった、理工学系の研究員(大学生、院生、教員)たちが形成する独特の雰囲気を描いた作品。「理系ミステリ」などと呼ばれもした。主人公は工学部建築学科の犀川助教授と、彼を慕う学生の西之園萌絵の師弟コンビ。彼らを主役としたシリーズは全10作存在するため、「犀川と萌絵シリーズ」などと呼ばれることも珍しくない。本書はその第1作目。
孤島に建てられたインテリジェント・ビルで、天才工学博士である真賀田四季がウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された姿で発見された。強固なセキュリティシステムに守られた密室の中で、彼女は一体誰に如何様にして殺害されたのか。おりしもゼミ旅行のキャンプで島を訪れていた犀川と萌絵はこの難解な密室殺人に巻き込まれていく――というのが大体のアウトライン。
タイトルの「F」の意味は、まあ理系の人間なら普通に気付くだろう。もちろん、本編中でタネ明かしがされる前に。それほど重要な意味がある問題でもないので、別に気付けなくても何ら問題はないのだが。
ミステリとしてはいわゆる「本格」に分類され、小説としてはライトノヴェルに分類される作品だと思う。講談社はそういう傾向の本が多い。
何にしても色々と今までの小説とは雰囲気やなにやらが違う、新しいタイプの描写が特徴的な本である。謎解きうんぬんを別にして、そこを愉しむことも可能だろう。人によっては衝撃めいたものを受けるかもしれない。お勧め。
2003/12/01
「冷たい密室と博士たち」DOCTORS IN ISOLATED ROOM
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
講談社
値段
¥629
初版
2003-03-15
総合
−
ストーリィ
−
技術
−
犀川助教授と西之園萌絵の師弟が活躍するシリーズ第2段。1996年07月に講談社ノベルス(新書版)が刊行されている。上のデータは文庫版のそれ。
今回は衆人環境かつ密室状態の低温度実験室で、男女ふたりの大学院生が殺害される。その実験室というのが主人公たちの大学の施設だったことから、犀川と萌絵は再び殺人事件に首を突っ込むになるわけなのだが……1作目と比較すると面白くない。目玉となるはずの事件も地味だし、後味がよろしくないこともある。
本作の最大の見所は、シリーズ屈指の個性派キャラクターである国枝桃子の結婚である(断言)。アンドロイドのように冷徹で無愛想な彼女から、生涯の伴侶を見つけたと報告された時の周囲の反応が面白い。正直、何年か前に読んだ本なので内容は殆ど忘れてしまっているが、この印象的なシーンだけは未だに記憶の中にある。ここだけ楽しめれば、もうあとはどうでも良いんじゃないか?
2003/12/01
「笑わない数学者」MATHETICAL GOODBYE
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
講談社
値段
¥695
初版
1999-07-15
総合
−
ストーリィ
−
技術
−
犀川と萌絵シリーズの3作目。新書版は1996年09月。前作の2ヶ月後の発刊……早い。著者はどうも相当に筆が早いようで、コツコツと着実に書き溜めていけるタイプらしい。
今回の事件は、天才数学者である天王寺翔蔵博士の住居「三ツ星館」で起こる。同館のパーティの席上、博士は庭の巨大オリオン像を忽然と消して見せるのだが、翌朝オリオン像が戻った時、2つの死体が同時に見つかる。またもや偶然、事件現場に居合わせた主人公師弟が事件に乗り出す――というのがあらすじ。
個人的には、オリオン像のトリックを即座に解いてしまって少し鬱になった話。
2003/12/01
「そして二人だけになった」
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
新潮文庫
値段
¥705
初版
20032-12-01
総合
−
ストーリィ
−
技術
−
タイトルからして既に明らかだが、アガサ・クリスティの
「そして誰もいなくなった」
のパロディともいえる長編ミステリ。
外界から隔絶された孤島で、パーティに招待された人々が次々に惨殺されていく。ひとり、また一人と死んでいく異様な状況下のなか、逃げ場を失った登場人物は必死に己の身を守り、犯人を探し出そうとする。果たして生き残るのは誰か、犯人は? その目的は。
クリスティの「そして誰もいなくなった」は大体このような内容のサスペンス・ミステリなのだが、1939年にこれが発表されるやこれがひとつのジャンルの発明と解釈され、同系統の作品が一種のブームとなって量産された。のちにそのシチュエーションから「孤島もの」「雪の山荘もの」と呼ばれるようになった作品群がそれである。
無線や電話、ネット接続が断たれ、また悪天候や土砂災害などで交通面でも外と切り離されてしまった閉鎖的環境。そこで起こる凄惨な連続殺人。クリスティの考案したこのふたつの要素さえ備えておけば、誰にでも相応に面白い話はかける。
いかにも思われがちなことであるし、実際、ある一面においてそれは正しいのかもしれない。
だが、クリスティの「そして誰もいなくなった」を超えうる作品は、いまだかつて書かれただろうか。
森博嗣がそれに挑戦したかは定かでないが、これも敢えて分類するなら、やはり「そして誰もいなくなった」から連なる「孤島もの」に属する作品ということになるだろう。
舞台は、全長4000メートルの海峡大橋を支える巨大なコンクリートの塔。その内部に極秘に設けられた要人用のシェルター、通称 <バイブ> に、若くして天才とたたえられる盲目の科学者をはじめ、その秘書、医者、建築家など6名の男女が集められた。
プログラムの異常と何者かの破壊工作によって、外部との通信手段を断たれた <バイブ> のなかで、やがて発生する連続殺人。つぎつぎと人が死んでいき、その度に絞られていくことになる犯人像が生き残りたちを精神的に追い詰めていく。
シチュエーションから展開にいたるまで、「そして誰もいなくなった」が強く意識された作品に仕上がっている。
オリジナルの要素としては、主人公格である盲目の天才学者とその助手に「双子」という設定がつけくわえられていることが挙げられる。学者にも助手にも一卵性の兄弟がおり、彼らは戯れに互いの立場を入れ替えて <バルブ> へと乗り込んだのである。
つまり偽の天才学者、偽の助手が本物であるよう振る舞いながら、殺人事件に巻き込まれていく。この「双子」「入替わり」という要素がどのようにストーリィに活かされるかは、実際に読んで確かめていただきたい。
個人的には、用意された結末にいささか驚いた。同時に、オチのつけかたとしては「まさに森作品」といった感想を持った。このあたり、あまり良い期待の裏切られ方ではなかったのかもしれない。
途中までは正統派の本格ミステリとして楽しめただけに、最後のトリッキィな展開は少し残念――と思う人もあれば、森作品はこうでなくては、と手を叩く読者もあると思われる。とにかく読み手を選ぶ小説だと言えるだろう。
06/04/25
I N D E X