Fire, walk with me.
さあ、行くわよ





CHAPTER XXXV
「お前は、何かを目撃したか」
SESSION・136 『ただ走りまわるだけで』
SESSION・137 『豊饒の香り』
SESSION・138 『神にその存在を許されなかったもの』
SESSION・139 『お前は、何かを目撃したか』
SESSION・140 『カウント・ダウン』



SESSION・136
『ただ走りまわるだけで』


アメリカ合衆国 バージニア州
ACC司令部 ラングレー空軍基地


 ――深夜。
 夜のしじまを切り裂く突然の爆発音に、マルグレット・ヴェイヴェルス中佐は目を覚ました。
 訓練で慣らされた身体は瞬時にベッドから跳ね起き、ドアから飛び出す。既にその感覚器は研ぎ澄まされ、現在の状況を素早く確認しようとしていた。

 基地全体に、甲高い警報が怒涛の如く鳴り響いている。そしてそれに負けないほどの強烈な爆発音の連続。耳を劈く轟音とはこのことだろう。
 おまけに地鳴りだろうか、地震のような大きな振動が断続的に伝わってきていた。
 もしかしたらという予感がありはしたので、タンクトップと下は制服のまま休んでいたのが幸した。
 敵襲なのは分かっている。だが、本当にあれなのか。もしそうだとすれば――
「どこだ。何処が被害を受けている」
 彼女は慌しく基地内を走り回る兵士のうちの一人を捕まえて、状況を確認する。最終的な狙いは、この航空戦闘軍団ACC司令部の壊滅か? それともワシントンの各行政機関本部か? 大都市ニューヨークか?
「敵襲であります。突然現われました。高速で……凄まじい速度で未確認の何かが暴れまわっています。残影すら未だ確認できておりません」
「突然……」思考は一瞬だった。「なんでもいい、とにかく動かせるだけ動かせ。この基地内から死んでも出すなよ」
 ヴェイヴェルス中佐は走りながらその兵士に命じた。背後で彼が敬礼と共に返答を返しているのが窺えたが、そんなものに関わりあっている暇はない。とにかく外に出て、直接状況を確認しないことには指示の出しようもないのだ。

 ――しかし、何処から現われた?
 この爆発音の連続から考えても、警報が鳴り出したのが遅すぎる。そう、轟音と振動で自分が目覚めた後にようやく警報が鳴り出した。これは明らかにおかしい。
 この基地は今夜は特に、厳しい警戒態勢を敷いていたはずだ。レーダーに何かが掠りでもした時点で、報告を遣すようにと厳命もしてある。なのに、なぜ敵が入りこんでからようやく警報が鳴った?

 可能性は、どれも常識を超えたものしか残されていない。彼女にとって、その全てが非現実的に思えた。
 が、それでもどれかが真実なのだろう。レーダーやソナーが軒並み故障し、機能を停止していたか。  或いは警報が何らかのトラブルを起こし、そのせいで鳴り出すのが遅れたか。基地中の兵士たちが、皆申し合わせていたかのように命令に背き、居眠りでもしていたか。
 それとも――それとも、敵がレーダーでは捉えることのできない、空気のような恐るべき超ステルスの存在であったか。
「な、なんだこれは……」
 ドアを蹴り開いて施設内から屋外に走り出た彼女は、その光景に驚愕した。
 常軌を逸したあまり惨状に、言葉を失う。それは、まるで嵐だった。
 何かが――こんな陳腐な表現が許されるなら――高速で動き回っているのが分かる。
 ただ、先ほどの兵士の言うようにその姿は全く見えない。人間の目では捉えきれないのだ。
 スポットライトが基地施設を夜闇から浮き上がらせ、擬似的に真昼のような状態を作り上げているにもかかわらず、まるで見えない。射線すら、残影すら。

 時速二〇〇マイルで走るフォーミュラ・レーサーでも人間はその目に捉える事ができる。
 なのに、地上を走りまわっているそれがなんなのか、今彼女は視覚的に確認することができないのだ。
 戦闘機が超低空を飛行していくのをその間近で見ているように、凄まじい轟音と風圧、そして何者かの強烈な存在感を感じはするのだが……

 恐らく、音速を軽く超えているに違いない。
 ハリケーンかトルネードの直撃を受けたかのような、いや、それ以上の突風、烈風、衝撃波が施設や戦闘機を根こそぎ破壊していき、その後に雷鳴のような爆音がついてくる。
 既に基地は半壊していた。
 あちこちから黒煙が上がり、そして今なお各施設が次々と倒壊していっている。戦闘機は爆発し、炎上し、格納庫や周囲の倉庫をも巻き込み更に被害を広げていく。崩壊は留まることなく、いやむしろ連鎖的に、そして急速に進んでいった。
 そんな中、無謀にも数十人の兵士がアサルトライフルやサブマシンガン、ショットガン等を持って闇雲に発砲しているのが遠目に何とか分かった。
 だが、そんなささやかな抵抗を続ける彼らも、次の瞬間襲ってくるソニックブームに周辺施設と同様身体を叩き潰され、美しい鮮血の霧と化していくだけだ。
「バカどもが。そんなオモチャが効く相手か」
 遠くの惨劇に彼女は思わず悪態を吐く。
 あんな速度で動き回られては、周囲にばら撒かれる衝撃波だけで弾道は歪められてしまう。当然ながら生身の人間など近付くことすらできない。
 だが考えてみれば、彼らが取っている戦法の他に有効と思われるやり方は一つしかないことに気付く。敵のあの動きでは、基地の迎撃装備が依存する照準システムでは敵を捉えきれないだろう。
 かといって、戦闘機で空中から包囲、ミサイルとマシンキャノンのよる一斉射撃で殲滅を試みても、直撃は疑わしいし基地の被害も甚大なものになる。

「しかし、このままではどの道壊滅か」
 基地は並の空港より広大だが、あの調子ではすぐに自分のいる周辺施設もやられるだろう。時間がない。最終的な決定を下すのはジェネラルだが、幸い自分は有効と思われる一策の提言が許されるだけの地位にある。
 遠くで爆発音が響いた。
 徐々に近づいてきているのか、熱を帯びた強い風が中佐を煽っていく。密かに自慢としているブルネットがまるで生き物のように踊り出した。
 その爆風が通り過ぎると、中佐は再び走りはじめた。そして素早く考えを纏める。
 半分以上の施設と兵器がやられている以上、ここに留まって敵と戦うのは諦めた方がいい。と言うより、もう戦えるだけの状態にない。
 それに――根拠と問われれば勘と応えるより他ないが――アレは並のやり方で勝てる相手じゃない気がする。
 起き出してから外に出るまで三分かかっていないはず。その間に基地はほぼ壊滅していた。たった三分で空軍の司令部一つを壊滅させたのだ。
 しかもミサイル一発すら撃たず、もちろんBC兵器も使わずに、ただ走りまわるだけで、だ。

 もしかしたら、自分はこの上なくラッキーなのかもしれない。彼女はふとそう思う。
 運良く離れた施設から攻撃を仕掛けてきてくれたおかげで、こうして状況を確認してなお生きていられる。こうして思考できる。
 アレを見た、アレを体験した、アレと出会って生き延びたという事実は、多分、今後の財産となる。重要な意味合いをもつ気がする。
 ならば、生きている兵はここで死なせるわけにはいかない。
 基地は再建すれば良い。司令部は別の基地に移せば良い。だが、その時アレを経験した兵士がいなくては意味はないのだ。
「……やむを得んか」
 一般兵には極秘となっている事実だが、この基地の地下には六個のN2地雷と連動した自爆システムがある。
 全兵を退避させ、これを発動させる。これであの化物を倒し、データと経験を残して、後の戦略と戦術に組み込む。
「まさか、この基地を失うことになろうとは」

 ――その日、アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ南部に降下・着陸したエンディミオン三騎は、一路東部へ向けて進撃。
 一夜のうちに、アメリカ航空戦闘軍団司令部・ラングレー基地を含む四三の軍事施設を壊滅。遂にワシントンDCに襲来するかと思われた地点で、忽然と姿を消した。
 これとほぼ同時期に、サタナエル第二のインペリアルガード <ビ'エモス> が軌道衛星上からネヴァダ州に襲来。NERVアメリカ第二支部を中心とする、半径八九キロメートルを消滅させた。
 言うまでもなく、アメリカ合衆国政府――いや、USAだけにとどまらず、周辺の国家は有史以来、最大にして最悪の恐怖と混乱のどん底に叩き落された。
 ここ北米大陸においても、遂にラグナロクは開幕したのである。



SESSION・137
『豊饒の香り』


「――茶番だな、サタナエルの飼い犬よ」
 朧に揺れる立体映像から発せられたその言葉に、塩化した入り口より表れた親善大使を自称するスーツ姿の麗人 <レヴィテス> は目を細める。
 そして彼女は、ゆっくりと室内の奥に向かって歩き出しながら言った。
「そう邪険にするな、人間」
 ブレーメン郊外にあるエンクィスト財団の迎賓館。緊急会合の場として用意されたその大広間には、七つの立体映像と二人の生身の人間が集っていた。
 財団最高幹部会ゼーレの面々である。
「立場をわきまえることだな」
 レヴィテスは音もなく空席となっている上座の席に向かい、流れるような動作でそこに腰を落とす。それは、財団――延いては裏世界に君臨する王。エンクィスト財団理事長の席であった。
「何用か、大海原を統べる者よ」
 皺の中に埋もれたという表現が実に適当な老人が、かすれる声で言った。中南米を代表する幹部のひとりだ。もちろん、立体映像による参加者だった。
「そう怯えるな、人間。私は、ただ交渉に来ただけだ」
 見惚れるほどに美しい脚線美をさらしながら、レヴィテスは優雅に足を組むと言った。
 淡い青色をしたフォーマルなスーツに身を包んだ彼女は、その気品、威圧感、そして圧倒的な存在感と、どれをとってもその財団トップの椅子に相応しい風格を備えている。
 少なくとも、その静かな一言のために世界の支配者として君臨してきたゼーレの男たちが口を噤ませるには充分過ぎた。
「交渉……?」
「我が主、魔皇サタナエルは貴様等と違い地球人類の支配などに興味はない。無論、この財団の存在にも、だ。主は――お前たちの表現から近しいものを選べば、そう、合理的なお方だ」
 レヴィテスはその凍てついた紅の視線を、静まり返った聴衆の間で一周させる。そしておもむろに言った。
「エンディミオンを一つの大陸につき一〇組。合計、一八〇騎貸そう」
 大広間は、騒然となった。
 驚愕する者。隣席同士、忙しく囁き声を交し合う者。ただただ目を見開く者。
 反応は様々だったが、皆一様に衝撃を受けたことに間違いはなかった。「エンディミオン『ゼロ』『アスク』『エンブラ』。この三位一体の戦闘兵士が六〇組。世界を武力制圧するには、十分過ぎる。……欲しかろう?」
 レヴィテスにしてみれば、彼等の反応は当然予測の範囲内にあった。
 いや、既にこの取引の最終的結末すら既に見えている。魔皇は、インペリアルガードは、人間のように結論の出ない会合など行わない。

 サタナエルは、今回エンディミオン9機を地球に降下させただけで、地球をどうこうできるとは考えていなかった。第三新東京市にはおいては、ガルムが介入してくるのも予測済みだし、いずれ9機全てが何らかの形で殲滅されるであろうこともシナリオの内に入っている。
 ただ、これは性能を試すためのテスト。そして、今回リヴァイアサンに行わせている『交渉』をやり易くするための、布石だったのだ。

 ――少なくとも、人間は『エンディミオンに勝利できない』。
 その現実をエンクィスト財団の幹部たちにシッカリと教えてやる。認識させてやる。そのための降下作戦であり、事実、対G.O.D.戦に完全勝利したことで、この企ては成功している。
 サタナエルにしてみれば今回の交渉が成功さえすれば、御の字というわけだ。
「……条件を、聞かせていただこう」
 正装をした初老の男がフランス語で言った。もちろん、フランス代表だ。大方先祖代々、このゼーレの一席を受け継いできたのだろう。「条件は、我等に対する不干渉とNERVの切り捨て。この二点だ。確約されれば、我等が監視機構を倒した暁には一八〇騎のエンディミオンを貸し出そう。武力であろうが、経済力であろうが、好きに世界の覇権を握るが良い」
 サタナエルにしてみれば、人類が勝手に自滅してくれればこれほどありがたい話はない。勝手に戦争を起こして、勝手に殺しあって、勝手に自滅していく。
 そうなればわざわざ人類抹殺に乗り出すまでもなく、監視機構との全面衝突のみに集中できる。
 財団の方針でNERVに新兵器を開発させたり、魔皇ヘルに働きかけてエンディミオンに抗ったりと、無意味な抵抗をされては迷惑かつ面倒なのだ。そこで、この申し出である。

 レヴィテスの要求は、簡単に言うと……
 1.サタナエルのすることの邪魔をするな。
 2.NERVを見捨てて、エンディミオンに手を出す者を排除しろ。
 ――となる。

 この要求を飲むことによって、財団が受ける恩恵は……
 1.人類支配に邪魔な超越者『人類監視機構』を、サタナエルが倒してくれる。
 2.この戦争が終わったら、エンディミオンを貸してくれる(→財団の軍事力が超強力化)。
 3.人類支配に興味のないサタナエルが、事実上財団による地球圏掌握のバックアップにつく。
 ――と、この三点だ。

 この話は、だから正直、エンクィスト財団の面々には非常に魅力的なものであった。まともに戦ってもまず勝ち目のない『監視機構』をサタナエルが倒してくれ、しかも、それが成功すればエンディミオンを貸してくれるという。そうなれば、邪魔となる超越者も対抗馬もなくなるというわけだ。
 財団による人類支配はより強固に、より完全なものとなる。メリットは計り知れない上、デメリットと思わしきものが一つもない。大きすぎる取引だった。
 つまり、これは事実上サタナエルとエンクィスト財団の『同盟関係』を築くための申し出なのだ。
「監視機構のAncient Onesは、お前たちにとっても邪魔な存在だろう。これがただ黙っていればいなくなる上に、プラスお前たちに忠実な最強の兵『エンディミオン』を独占的に入手できる。悪い取引ではあるまい。……返答を、聞かせて頂きたいものだな?」
 聞かずとも、返答は知れている。この者たちにとって『支配』とは何にも勝る芳情の香り。利権に取り憑かれた亡者たちに、この申し出を蹴ることなどできようものか。

 レヴィテスは表情を変えず、冷たく微笑んだ。



SESSION・138
『神にその存在を許されなかったもの』


 ――第三新東京市 ジオフロント NERV本部

「消滅?」
 最低限と表現するにも無理がありそうなほどに、その広大な空間を照らし出す光源は弱々しかった。
 天と地に大きく描かれた、幾何学模様にも似たセフィロトの木が、一際異質な空間を演出するのにまた一役買っている。見る者によっては、魔方陣を使った黒魔術の儀式を行うための部屋のようにも映るだろう。
「確かに第二支部が消滅したんだな?」
 異様とも言える装飾の施されたNERV総帥の執務室、すなわちプレジデント・ルームに冬月コウゾウの声が木霊する。
 総帥・碇ゲンドウは、受話器の向こう側から送られてくる報告に耳を傾けるその彼を、重厚な趣のデスクに両手を組んだポーズのまま、静かに見つめていた。
「分かった。すぐに行く」
 そう言うと、冬月はコードレスの受話器をフックに戻し、ゲンドウに目を向ける。「……聞いての通りだ、碇。ネバダの第二支部が消滅したそうだ」


 ――一五分後
 NERV本部 第八分析室


 その部屋もまた、NERV本部の他の施設との調和を見事に保っていた。
 つまり無意味に広く、照明が必要最低限にすら及ばないほどに弱々しいのである。
 いやこの場合、完全な闇の中にあると言っても過言ではないだろう。何故ならその広大な室内には、たった一点を除いて光を放つ物体は存在しないからだ。

 その唯一の光源が、床一面を支配する長方形の巨大なモニターであった。
 映画館のスクリーンをそのまま床に埋め込んだ……と考えれば、ほぼ正確なイメージを得ることが可能だろう。
 その足元のモニターを取り囲むように、五人の人間がその場に集っていた。
 総帥・碇ゲンドウ、その副官・冬月コウゾウ、技術部主任・赤木リツコ、そして息吹マヤと青葉シゲルのオペレーター二人組みである。
 この解析室に一同が集ったのは、NERVアメリカ第二支部「消滅」の事実を確認するためである。
 いきなり消滅しました、などと報告を受けても「はい、そうですか」と静かに受け入れられる内容ではない。
 NERVが組織を形成している以上、その事実を受け入れるにもそれなりの手順を踏む必要があった。
「――はじめてくれ」
「了解。カウント・ダウン、スタート。−10セコンド」
 冬月の要請に、マヤが小さく頷き秒読みを開始する。
 同時に五人が見守る中、高々度の衛星軌道から撮影された『消滅映像』がモニターに映し出された。
「……04、03、02、01」
 伊吹マヤのカウントダウンと共に、モニターに表示された【COUNTDOWN】の下方に示された数字が一つずつ減っていく。確実に、そして正確に減少していくその数値は、−10からやがて±0へ到達した。
「コンタクト」
 マヤの小さなその言葉と共に、画面上、突如それは現われた。モニター中央から波紋のように広がっていく、それは闇。いや、人類が初めて目にする本物の『無』だった。
 まるで、ブラックホールのような黒い染み。光すらも閉じ込めてしまうその銀河の特異点が、まるでこの大地に突然現われたかのように、全てが闇に閉ざされていく。
 コンタクトから僅か+六秒。それはモニター画面全体に行き渡り、ただノイズだけが後に残った。それから更に数秒後、『VANISHING NERV−02』の表示と共に、映像は唐突に終わった。
 重苦しい沈黙が場を支配する。

「これは……一体どう言うことかね?」
 沈黙を最初に破ったのは、冬月副司令だった。何時も変わらぬ鉄火面のような表情に微かな混乱の色を浮かべて、彼は技術部の人間たちに視線を巡らせる。「黒い何かに、基地が飲みこまれていったように見えたが?」
「ガデス・オブ・デスティニー試作二号機『ベルダンディ』ならびに、半径八九キロ圏内の関連研究・開発施設は全て完全に消滅しました」
 マヤが報告する。バインダを見つめながら語る彼女の姿は、モニターから投げかけられる薄い光に闇の中から浮かび上がって見えた。
「……爆発ではなく、完全な消滅」
 白衣のポケットに両手を突っ込んだまま、赤木女史が補足するように言った。
「よりと正確に言えば、『無』に還元されたわけです」
「無に還元? その無とはなにかね」
 冬月が怪訝な表情で問いかける。先ほどまで映し出されていた、あの消滅映像――  あれが真実の光景なら、人間の仕業ではありえないように思える。
 勿論、結論は出ていた。
「説明は困難です。それにあれが本当に『無』であるか、確認する手段もありません。存在しないものを観測することは不可能、いえ、それ以前に存在しないが故に認識も定義付けも全てが無意味。成り立たなくなりますから」
「分からんな」
 冬月は少しの遠慮もなく、リツコの言葉に即座にそう応えた。
「存在そのものがゼロになったと考えてください。もし神様が実在したとして、この世の全てはその神の認可を受けることではじめて、この世に存在できるものと仮定します。この時、無とはすなわち神にその存在を許されなかったものです。定義、観測手段、意味はもちろん概念だとか存在そのものが、この世からあらゆる意味で抹消されると言ったところでしょうか。――それでも分かり難ければ、ネヴァダの存在は、そう、私たちの夢の産物だったと考えてみてもいいでしょう。夢から醒めれば、それは存在しなかった。ああ、あれは自分が夢の中であると信じていた幻だったのだ、と。
 無はあらゆるモノや存在を、夢が作り出した幻にしてしまう、最強にして最凶のゴク潰し。もはや、これは哲学だとかそのあたりの問題です。我々の科学ではそういうものがあると仮想するくらいでしか扱いきれません」

 赤木女史は、淡々とそう語った。自分の言葉を、半分も信じていないままに。結局、言葉で表そうとすること自体が無駄な試みであることを彼女は知っていた。
 何故なら、それは虚無。全てにおいて存在しないもの。だから、それを表現する言葉もまた無。存在しないのだ。
 それ故に言葉に表そうと人間が努めだした瞬間、その表現の対象は『無』ではなくなる。
 なんにしても無意味で無駄な、つまらない話だ。

「……それで、結局その『無』とやらに侵食されるとどうなるわけかね?」
 この言葉で、冬月が無の本質をまだ曖昧にしか理解しきれていないことが赤木女史には分かった。
「無くなります。全てが。空間も、熱エントロピーも、原子も素粒子も、質量もエネルギーも。文字通り何も存在しない状態……いえ、状態すらも失われます。もはや、無に還元されたあの場所は見ることも、感じることも、立ち入ることもできません。一種、完全に閉鎖された場ですね。恐らく天使の防御結界などより、数ランク強固な強固な壁です。
 ですからある意味、あの『無』というものは人間と同じようなものだとも言えます。本当はそれそのものを知る術がないから……だから、外側からイメージと云う名の衣を被せて、浮き上がってきた輪郭からその形状を想像するしかない。そう言う意味では、『無』と『人間』は面白いほど似通った存在であると言えるように思えます」
 あの無が、今後自分たちの属する世界にどう扱われていくのか……
 世界がどう受け入れるのかは、彼女にすら予想がつかなかった。或いは永遠に消失したままなのか。それとも、徐々に空間に満たされていき、いつかはその存在を別の形で復元するのか。
「……フム」
 冬月は渋い表情で呟く。ちなみに、碇ゲンドウは一言も発さず微動だにしないまま、彫像のようにただ立ち尽くしていた。
「まあ、それはいいとして、その消滅のそもそもの原因はなんなのかね?」
「それに関しては現在調査中ですが、いくつかのデータと物証から、恐らく真実に近いであろう仮説は立っています。まず、これを見てください」
 冬月の言葉に青葉が逸早く応え、一同の視線を足元のモニターへと導いた。その質問は予め予想されていたし、それに対する解答と報告の準備もできていた。だから間髪入れず、すぐにモニターに新たな画像が浮かび上がった。
「これは、ネヴァダ消滅の模様を別の衛星から撮影した映像です」
 彼の言うとおり、モニターに映し出されたのは、北米を中心とした地球を宇宙から映し出したものだった。
 宇宙に上がることで、ある意味初めて知ることができる美しき母なる惑星。だが、漆黒の闇に浮かび上がる青き星より、見る者の目を強烈に引き寄せる別の物体が、そこにはあった。

「これは……」
 思わず冬月も身を乗り出す。ゲンドウさえも、僅かにその表情を変えた。
 それは、巨大な黒い翼をもったバケモノだった。もっとも近しいと思われるものを挙げれば、太古のこの地を支配していた肉食恐竜だろう。そいつの禍禍しい形状をした闇色の翼が四枚、モニタを覆い尽くすかのように広がる。
 大きい。凄まじい巨体である。
「MAGIシステムは、これを魔皇のインペリアルガード <ビ'エモス> と予測しています」
 滴る鮮血を思わせる深紅の双眸。特異点と同じ色をしたその巨躯。旧約聖書にも登場する、大地を支配する偉大なる竜王。
「ベヒーモス……バハムートか」
 思わず零れた冬月の呟きに応えるかの如く、モニター上の黒竜はその首を軽く捻り、そして次の瞬間、その巨大な口から漆黒のプレスを吐き出した。その恐るべき暗黒の奔流は、真っ直ぐ青き星地球に向けて放たれ、やがて大地を打つ。
 ――ネヴァダ、消滅。
 北米大陸南西部に小さな闇色の染みが現われ、全ては終わった。

「これが」冬月が青白い顔をあげる。「これが、ネヴァダ消滅の真相か。このバケモノのたった一吹きの吐息でネヴァダ支部および直径一七八キロの大地がこの世から消滅したというのかね」
「その通りです。冬月副司令。これが魔皇に仕えるインペリアルガードの力と言うことです。あれほどのモノが出てくれば、G.O.D.などでは――人類如きでは対処のしようがありません」
 あれは神の国の生き物なのだ。ふと浮かんできたそんな言葉に、赤木女史はフッと微笑んだ。ここまでくると、もう恐怖も沸いてこない。
 馬鹿馬鹿しいほどに力の差がありすぎる。及ばぬ鯉の滝登りとでも言おうか。抵抗を考える自分が滑稽にすら思えてくる。
 冷静に状況を判断できるものならば分かるだろう。これはコメディなのだ。ユーモアすら感じてしまえるほどの、これが現状なのだ。



SESSION・139
『お前は、何かを目撃したか』


 さながら七〇年前の大戦時に見られた大空襲を受けた後の焼け野原のように、局地的にではあるが、その街は無残に崩壊していた。特に歴史のある中世からの建造物は衝撃に弱かったらしく、ほとんど壊滅状態である。
 それに、もともと欧州は地震の少ない場所であるから、アジアのように耐震性などを考慮した頑強な作りの建築物は少ない。予想だにしなかったであろう神災の襲来に、耐えられるはずも無かった。
 瓦礫と化したそんなルーアンの街を、ひとりの若い女性が歩いていた。
 倒壊した家屋の下敷きとなった者を救出すべく、団結する付近の住人。サイレンを甲高く響かせて通りを走りまわるレスキュー・カー。家を失い、煤けた顔で呆然と立ちすくむ女。
 黒煙を上げながら燃えていく木造の建物の消火に当たる男たち。怪我でもしたのか、泣き止まない子供。一歩、歩を進める度に新たな別の悲劇を目撃できる。
 その全てが、碇シンジの生み出したものだった。
「或いは、これが本質か」
 深紅の瞳。銀色の髪。碇シンジをベースとしているだけあって、ほんの微かにその面影が窺がえるが、でも明らかな別人。氷のように冷たい美しさを秘めた女――  魔皇ヘルは、呟く。

 ――結局、アランソン侯の不完全な覚醒がこれをもたらしたわけだ。一見、碇シンジとジャン・ダランソンの融合は完全に果たされ、二者は統一されたかに見えた。が、やはりここにきてその不完全さが露呈されたというわけだ。
 本来目覚めるはずの無かった、いや、存在すらするはずのなかったジャン・ダランソンの記憶。いささか、彼は無茶をしすぎた。大人しく消え去っていれば、こんな事態に陥ることも無かったはず。
「不完全な覚醒。そんな状態で、侯は私に勝利したと言うのか」
 それは逆に、ジャン・ダランソンの強烈さを何より物語る。いや、違う。強烈なのはジャン・ダランソンの後ろに控える者だ。
 多分、魔皇ヘルを実力で退けたのは、ジャン・ダランソンでも碇シンジでもない。恐らく、それを取り巻く何か、なのであろう。総体とでも言おうか。
 ジャン・ダランソンを強力にせしめている何かが……  何者かが、いる。存在する。
 弱くて、脆くて、不安定な人間の精神。儚いほどに繊細なジャン・ダランソンの精神を、魔皇の存在すら退けるまでに高めている存在。それがなにか。
 それが何者なのか、知りたい。
 中途半端な覚醒状態ですら、魔皇ヘルを凌駕する力をこの男に注ぎ込んでいるのは『何者』なのか。現在における、ヘル最大の関心事である。正直、サタナエルや監視機構の問題などは彼女にとってどうでも良かった。
「カオス……我が半身よ。お前は、何かを目撃したか」
 ヘルは、次元に隔たれたもうひとりの己に問い掛けた。
 カオスは、どちらかと言えばサタナエルよりヘルに近い性質を持っている。大魔皇 <ルシュフェル> の中に別人格として同居していた頃も、同じマトリックスを共有することが多かった。だからある意味、カオスが唯一の存在なのだ。
 他のエンシェント・エンジェルすらも務まらなかった、ヘルの理解者は。
「お前ならば、何かを識っているはずだ。カオス」
 宇宙の裏側から、圧倒的な存在感が伝わってくる。次元の壁を隔ててさえ感じられる……
 次元の壁でさえ抑えきれないほどの、その存在感。
 間違いない。近づいてきているのだ。魔皇カオスが。
 己の半身の放つ、その壊滅的なまでに強大なプレッシャーを、最近ヘルは常に身近に感じていた。彼女には分かる。世界が悲鳴を上げる用意をしているのが。
?……無理もない。『この世』という存在が持ち得るイマジネーションでは、遥かに捉えきれない存在。 <魔界>を統べる支配者にして超越者、神に最も近く、神の対極に位置する者、即ち『魔皇三体』。それが遂に三騎、同じ時空連続体の中、一同に集うのだから。
 それは即ち、かつて『明星』とまで呼ばれた最強のエンシェント・エンジェルであり――
 堕天後、魔界の創造主『大魔皇』となった、あの <ルシュフェル>がこの世に降臨するに等しい。そう。この宇宙に、魔神が実体化するといって過言ではない出来事なのだ。

 現状で、魔皇サタナエルだけが完全な復活を迎えていないため、完全なルシュフェルの降臨とは言い難いが……これも、放置しておけばタブリスが勝手に解決するだろう。あの自由天使が『切り札』として隠している企て、それはサタナエル完全覚醒の大いなる助けとなるはずである。
 そして今のタブリスなら、迷わずサタナエルに助力と協力を申し出るだろう。無論、サタナエルはそれを受け入れる。その時こそ、サタナエルは本来の『最速の魔皇』の姿を取り戻し、インペリアルガードを含めれば、かつての大魔皇ルシュフェルを遥かに凌ぐ戦力が結集することとなる。
 そして、この予測は間違い無く的中する。ヘルは確信していた。そうなれば――

 彼女のインペリアルガード『ガルム=ヴァナルガンド』は、純粋なパワーの出力だけなら既に魔皇に比肩し得る位置にある。これにサタナエルの使役する大地と大海原の竜王、カオスが使役する最強の戦乙女が二騎。
 既に、無茶な話では……ない。

 人間たちの用いる時の尺度を用いて、そう、あと数時間といったところか。別次元へと繋がるゲートは開き、カオス=リバースは降臨するだろう。混沌の化身、リリア・シグルドリーヴァ。
 彼女たちが全てを運んでくるはずだ。その時、サタナエルばかりでなく、このジャン・ダランソンも真の覚醒を向かえるだろう。そしてそのジャン・ダランソンならば、或いは魔皇ヘルの力も自在に行使できるやも知れぬ。
 魔皇を退ける意志が、魔皇の力を操るようになった時……
 それが如何な存在となるか。ヘルの予測能力を以ってすら、まったくの未知だ。
「来れ、混沌。私は、其を見たいのだ」
 この変化。予測の外殻で起こる死と誕生。それに対する畏怖。つまり、

 ―― <ケイオス>

 大天使どもは、これから逃げ出している。
 ルシュフェルはそれに気がついた。だから、大天使で在り続けることを拒絶した。監視機構に変化をもたらした。
「あの……」
 突然の――人間であればそう感じたであろう――その声帯の振動に、ヘルは思考を中断した。
 ゆっくりと、振り返る。碇シンジの胸の辺りまでにしか及ばない、小さな肉体。人間の、幼い、男、がそこにいはいた。
 恐らく、まだローティーンの少年だろう。頬や鼻の頭にソバカスを散らした、小さな生き物だ。おどおどとした弱者の視線で、ヘルを見上げている。
「何用か」
 ヘルは、律儀にフランス語で応えてやった。
 が、本来、訊くまでもない。既に、その人間の脳の走査は完了済み。彼が今抱いている感情も、次に発する言葉も、ヘルに対する用件も、全て読み取った後だ。
「……よこせ」
 ヘルはスッと手を差し出した。その手は、透き通るような白い肌に覆われ、細い指先は綺麗に整っていた。視覚的な美に関心を寄せる全ての女性たちが、理想として思い描くであろう美しい手と指だ。
「え……!」
 少年はビクリと身体を震わせた。観察眼に優れたものならば、ズボンの生地に隠された彼の膝が微かに震えているのが分かっただろう。もちろん、少年が感じているは『恐怖』である。
 本来、ヘルの存在を感知した時点で、人間は即座に『精神崩壊』を起こす。その原理は、 <クトゥルー神話>を通して人間が考え出した理由と、ほぼ同じだ。つまり魔皇の存在を人間の精神が許容できずに、破壊されてしまうのだ。
 だからヘルは、そうならないように努めて自分の存在感、プレッシャーというようなものを消そうと試みている。そうでもしないと、即座に地球人類が死滅するはめになるからだ。
 地球の裏側からでも、魔皇の存在はすぐ隣に感じられるほどに強いわけだから、これは仕方がない。しかしそうは言っても、人間にすれば『気配を消す』というような状態を常にキープしておかねばならないわけである。ヘルにしてみれば、なかなかに不愉快な状態であった。
 だが、彼女がそこまでするにもかかわらず、それでさえもやはり抑えきれない威圧感というものがある。あまつさえ、この少年は魔皇と直に向き合い、その瞳を合わせてしまったのだ。本能が恐怖を感じ、身体が震え出すのは仕方のないことであった。
「文を遣わされたのであろう、よこせと言っている」
 彼はマインド・コントロールを受けているわけではない。だが、何者かから『手紙』を手渡され、それをヘルに渡して来いと頼まれている。更に記憶と脳内をトレースしてその『依頼人』が何者かを探ろうとしたが、それらに関するデータは見事なまでに抹消されていた。
 ヘルの能力を以ってしても、そこから先は窺い知ることはできない。予測能力も働かなかった。それはつまり、明らかに魔皇クラスの超越者が後ろに控えていることを示している。
 だが、サタナエルの仕業ではない。まして、まだこの次元に実体化していないカオスでもない。では、それは何者なのか。
「あ、は、はい! これです!」
 ヘルの氷のような声音に自分に与えられた役割を思い出したか、少年は1通の白い封筒をヘルに手渡すと、脱兎の如く駆け去って行った。
 本来なら、受け取るまでも無かった。それを手にし、封筒を破り、中に収められた手紙を取り出すまでも無く、その内容のトレースは完了している。
 先ほどの少年の思考を先読みしたのと同じ要領だ。
 わざわざ手間隙掛けてまで手紙を受け取ったのは、後で意識を取り戻した碇シンジに現物を見せてやるためだ。彼も人間、物理的な形で確認しないと安心できないという非合理性を内包している。
 だが、それももはや些細な問題であった。今やヘルの関心は、その手紙の内容に向けられている。それには、日本語の文章で短くこうあった。

 我、魔皇ジャン・ダランソンとの会見を望むもの也



SESSION・140
『カウント・ダウン』



「――また君に借りができたな」
 NERV本部プレジデント・ルームの薄闇の中で、ゲンドウは受話器を手に低く言った。ここ数日、NERV総帥である彼自らが受話器を取る機会が異様なほどに多い。それは、今、世界中が突如現われた『超越者』の存在に大震撼している事実を如実に証明していた。
『返すつもりもないんでしょ?……まぁ、今回の件は僕の監督問題なのかもしれませんから、何も言えませんけどね』
 歌うような声が返る。先のサタナエルによるメディア・ジャックの影響か、すこし音声にノイズが混じってはいるが、それでも識別の容易な特徴のある声。
 渚カヲルである。つまりその電話は、フランスのNERV支部に繋がっていた。
『どうします?……聞きましたよ。アメリカは完全に大敗。そちらも表層都市は完全壊滅だそうで』
 言葉の内容の割には、緊張感のない口調である。きっと彼は今も、いつもの微笑をその口元に浮かべているに違いない。
「問題ない。第二支部とベルダンディの消滅は、確かにこちらのシナリオを逸脱する出来事だ。だが、ベルダンディ一騎で北米のエンディミオン迎撃を行わせたところで、結局は大破で終わっていただろう。これはアメリカにとって、その鼻っ柱を叩き折られて自らを省みる良い機会だよ。NERVとしても、北米はしばらく静観だ」

『……ではこちらは? たしか、ヨーロッパでは量産型――コードネーム <ダッシュ・シリーズ> でしたか。それが、五騎くらいは建造されていたでしょう。あれを早速動かしますか? いきなりの実戦投入なんて無茶な話ですが、NERVっぽくていいと思うんですけど』
 もちろん、彼らが話題としているのは北海に落ちたエンディミオン3機だ。第三新東京市に襲来した分はガルムによって殲滅されたが、世界にはまだ6機のエンディミオンが無傷で残存している。NERVは、その対応に追われていた。
「例の話はどうなっている?」
『切り札、ですか。安心してください。予定通り来ますよ。今なら、時間も正確に分かります。ええとですね――』
 腕時計でも見て確認したのか、一瞬の間の後カヲルは言った。
『五時間二四分〇六秒。一秒の狂いもなく、これだけの時間待てば彼らは到着します。座標はフランスのルーアンですね』
「今、エンディミオンは何処に?」

 受話器を挟んだ会話では、やはりカヲルは多弁に、ゲンドウは余計に淡々と喋るしかない。必然的にカヲルが一方的に話しかけ、ゲンドウが一言でそれに応える。と、そんなやりとりが続いていた。
『完全なステルスなので、フランス支部の方でも正確には掴みきれていません。ですが、まだイングランドにいるようですよ。ウェールズの基地が壊滅したとかいう悲鳴をさっき聞きましたから。少なくともここに到達するまでには、間に合うでしょう。やはり、こちらで処理しますか』
「――頼む」
『僕も久しぶりに戦闘で役に立てるんで楽しみですよ。J.A.は少し退屈でしたからね。新型には期待しているんです』
 カヲルは微かに笑い声を上げながら、言った。
『それで、彼女の方はどうします? どうせ戦うのは本体のほうです。僕は手が空きますよ。なんならそっちも僕が手を打ちますが』
「いや、君の報告を聞く限りその必要はないだろう。彼女もそれなりの考えがあっての行動だろうからな。やりたいようにやらせればいい。個人の問題だ」
 ゲンドウもアスカが消えたと言う話を聞いた時は少し驚いたが、それほど騒ぐほどの問題ではないと考えている。所詮は大事の前の小事。
 世界中で戦争が勃発しようとしている今、少女ひとりの暴走に付き合わせる人員はない。
「惣流博士には、こちらから伝えよう。ドイツの方にも、一応指示は出しておく。君は、例の計画に専念してくれればそれでいい」
『では、シナリオ通りに――』


to be continued...


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