侯爵は、チェロを奏でる
乙女は、唄う
低く優しく響くストラディバリウスの調べに
六〇〇年の時を越えて
少女の澄んだ儚い歌声が重なる
それは……
遥かなる時空に別たれたふたりの
月夜に響くセレナーデ
耳を澄ませば
遥かな時のむこう
ほら……
唄っている声が聞こえる
あれは、あなたの声
あり得ない壁に別たれた
出会えないふたりが
起こり得ない出来事を心から信じ
届かない想いを
ただ、こころの調べに乗せて
唄う夜
そんな時……
奇跡は起きるのかもしれない
貴公は遥か、彼方……
どこに消えるの
月夜に響く唄
ふたりすごした儚い時を
思い出して
心から
想いを調べに乗せて
月に囁くよな
私の唄は
とどくの?
嗚呼……
我が想いよ
どうか
貴公にとどけ
我が想いは貴方の……
彼の想いは我の……
想いと生る
想いは
調べに乗せ
悠久の彼方へ
想いを
調べに乗せ
全ての心へ
想いは
調べに乗り
全てを凌駕せしものと成る
時空を超える術は
まだ
見つからない。
……だが
たとえ二人は未だ出会えずとも
互い想いだけは
躰よりも一足先に
六〇〇年の
遥かなる時空を超えて……
今
確実に
ここにめぐりあった
静かで……幻想的で……
微かに切ない……不思議な空間……
世界が突然切り替わったというのに不思議と何の疑問も抱かず、
自然にそれを受け入れていた。
そして、誰もいない……霞がかったような静かな空間の中で
彼の瞳に映ったのは……
一〇Mほど離れたところで
向かい合って彼を見つめている……
少女
夢と現の狭間で
僕を見詰める
あなたの幻、夢じゃなかった
時の壁を越えて
いつか、また逢えるよね
――でも怖くはない。
あの人は約束してくれたから
いつの日か、私を迎えに来てくれると
あの日、ふたりは約束を交わしたから……
遥かな時のむこう
想い、重ねて
やっとこの場所でふたり出逢えた
時の壁を越えて
いつか、迎えに来て
瞳、閉じれば
いつも僕を支えてくれる――
哀しい夜にも
きっと私を抱いてくれる――
あの声……