ダンテは言った。
愛は魂すら動かす、と
MEDIEVAL IV
「綾波レイ」
RETURN TO THE:21
『さ迷いの星海原』
シグルズを巡る攻防戦の決着は、残酷なまでに明白に着いた。
シグルズを襲った武装集団ラクライムは、死神シグルドリーヴァの獅子奮迅たる働きによって壊滅。正門突破を図ろうとした首領を含む八〇の兵は全員が斬殺された。
また、館の西側に配置された伏兵二〇にはシグルズ守備兵隊三〇が応戦し、これを見事に打ち破った。
ラクライム側の死者は九二人。生き残り、捕虜となった者が七名。
対して、シグルズ守備兵隊の死者は〇。重軽傷四名。シグルズ側の完勝であった。
因みに、愛人であるリリアひとりを前線にやって、へっぴり腰で後方に控えていたクレス・シグルドーヴァは、結局戦闘に参加することは無かったという。
これに対する本人のコメントは以下の通りである。
「オレが情けないんじゃなくて、リリアが反則的に強すぎるんだ」
些か負け惜しみ染みているが、これは一面の真実を語ってもいる言葉だった。
蒼く光る大鎌を振り屈強の兵士達を次々と葬るその姿は、まさに死神。
ラクライム本隊を叩いたのが彼女なら、西側に配備された伏兵の存在を予測し的確な布陣を敷いたのも彼女。今回のシグルズ側の勝利は、リリア・シグルドリーヴァひとりがもたらしたものと言って過言ではない。
彼女の存在が無ければ、この度の戦は全く逆の結果となり、シグルズはあっけなく陥落していたはずだった。
一人だけ完全に戦術の通用しない、この死神の存在は、敵側にとっては確かに反則とも言えるものであろう。が、公式の記録にはシグルズ防衛戦の参加者に彼女の名前が記されることはなかった。
一〇〇人からなるラクライムを撃退したのは、驚異的な働きを見せたシグルズ守備隊三〇だということになっている。
リリア個人としては、 <死神> としての異名が先行しすぎるのを歓迎していないし、倒したのが守備隊であると思わせた方が領主側に対する民の信頼が高まる。
絶対的信頼の置ける英雄ひとりの存在より、自らを支配するシステムそのものに対する安心感の方が、長い目で見た場合、政治的価値があるのだ。
何はともあれ、シグルズがその存亡の危機を乗り越えたことに間違いはない。
攻防戦の勝利祝う宴も終わり後始末が一段落着くと、クレスとリリアは再びシグルズを離れた。
クレア女伯は息子夫婦の旅立ちを惜しんだが、彼らはまだ若い。田舎に引っ込むにはまだ早過ぎる。それに、父の祖国であるフランスが事実上消滅しようと言う時に、シグルズでのんびり遊んでいるわけにもいくまい。そんな思いもあったのだろう。必要以上に引き止める様子は見せなかった。
かくして二月一七日、彼らは船上の人となった。
これは、ヴォークルールにおいてラ・ピュセルが守備隊長ボードリクールと初の会見をはたした頃である。
「――なあ、リリア。大陸に戻ったらどうする?」
北海を横断する旅船の甲板上、手すりに凭れ、潮風を浴びながらクレスが言った。
艶やかな長い黒髪が生命を持ったかのようになびき、踊る。青い瞳は心地よさそうに細められていた。
その傍らにはリリアが静かに控えている。彼女はクレスとは対照的に、完璧な無表情を頑なに守っていた。
「ブリテン・ブルゴーニュ連合と王軍との戦いはまだ続いてるんだろう?」
暴れる髪を掻き分けながらクレスが続けた。
「今は連合優性だって聞くが、まだ趨勢が決したわけでもないしな。飯のネタには事欠かない。またどこぞに雇われて傭兵稼業でもやるか? 各地を転戦しながらさ」
傭兵とは、騎士のように特定の組織に専属する兵士などとは異なり、戦闘行為そのものを生業とするプロフェッショナルのことだ。
つまり思想や大義のためではなく、純粋に金の為に組織に雇われて戦うのである。
ただ、これは一般的な定義であり、クレスやリリアのように思想や戦いの意志を持ちながら如何なる組織にも属することのない人間が、社会を変えるために傭兵として戦に加わるというケースも稀に存在する。傭兵としてどの陣営に所属して戦うかを選択するのは彼ら自身なのだ。
田舎貴族とはいえ、スウェーデンで爵位継承権さえ持つクレスが、何故フランスで傭兵などをしているのか、その理由を知る者は少ない。
だが王太子派に雇われ、 <ラ・イール> と仇名される戦友と共にヴェルマンドワ、ラン、ロレーヌ、ボージェなどを転戦していた過去があることだけは確かな事実である。
そんなクレスが、生涯の伴侶となるリリアと出逢ったのは二年前のことだ。
シグルズに帰郷した際に、彼は緑と金色の瞳を持つ不思議な女性と偶然巡り会った。それから複雑な経緯を経て、結局クレスはリリアを連れてフランスへ帰り、その戦場で共に生きるようになったらしい。
クレスのような自堕落的なグータラ傭兵が、何故、どこぞの亡国の姫君とも噂されるリリアの心を射止めることができたのか、傭兵社会では最大の謎ともされている。
そのクレスの愛人、リリア・シグルドリーヴァは、実に謎多き女性として知られている。
まずクレスからして、彼女がどこで生まれたのか、出会う前は何をしていたのか、どうやって戦闘技術を習得したのかといった過去のプロフィールを、全くと言って良いほど把握していない。
また、彼女はクレスよりも腕の立つ戦士であるが、その驚異的な戦闘能力というのが、また常軌を逸して甚だしい。しかも、魔法のような力さえも彼女は操るのだ。
彼女を守る金色の壁は砲弾さえ跳ね返すし、不可思議に光り輝く巨大な死鎌は、鋼鉄の鎧をバターの様に易々と両断する。
どちらかと言えば現実主義者で、信心深いとは決して言い難いクレスではあるが、リリアが或いは本物の魔女ではあるまいかと疑ってしまうことも稀ではない。
また、際立っているのは兵士としての腕だけでなく、その美貌にしても同様である。
彼女が北欧神話に登場するワルキューレではないかとか、滅びた某王国の姫君であるとかと実しやかに噂されるのも、異常なまでに整った相貌と理想を絵に描いたようなプロポーション故である。
だからして当然、彼女が傭兵として戦に参加するなどと言っても最初は一笑に付された。
が、手合わせした屈強の傭兵達が一瞬で組み伏される様を見ると、決まって掌を返したように歓迎された。一対一の戦闘ならば、デスクレセントを装備するまでも無く、彼女は通常兵器で傭兵達に勝利してみせる。彼女のその圧倒的な戦闘能力は、彼らにとって大いにありがたいものだ。
何故なら、強い兵士が味方にいればそれだけ自分の死の確率が下がるからである。
だが実際のところ、リリアの様に戦場において女性が剣を取ることは、僅かな例外を除いてほとんどない。
まして、純粋に傭兵として戦に参加するというケースは極めて異例と言えよう。
女性が戦に参加する例外的な事態とは、自分の住む故郷の街が、侵略者の手にいよいよ落ちようかという瀬戸際に立たされた時だけだ。
確かに、爵位を持つ騎士や司令官が妻帯者であった場合は、遠征などに妻や恋人を連れていくことはある。だが、それ以外に戦に付いて回る女性は娼婦がほとんどだ。
もっとも、彼女たち娼婦が戦闘に参加することなどあり得ないが。
「最近は戦争が多いからなあ」
クレスがポンヤリと海面を見詰めながら言った。
「傭兵としてなら、今が稼ぎ時かもしれないな」
「そうですね」リリアは小さく頷いた。彼は誰と話す時も非常に丁寧な言葉を使う。「確かに、しばらく傭兵家業は続けるべきだと思います」
クレスの傍らにひっそりと立つ彼女は、アップにしていた髪を解き、婦人の服を着ていた。
さらさらと潮風になびく彼女の金髪は、肩のあたりで軽くカールしている。戦場以外で見せる彼女の普段の姿は、貴婦人と見紛うばかりに美しく、淑やかだ。
共に北欧のヴァイキングの血を引く彼らは海がとても好きだった。リリアも珍しく穏やかな表情をしている。もっとも、その微妙な表情の違いを見分けることができるのは、船上にただひとり、クレスしかいなかったが。
「来月中に、ひとりの少女がシノンに現われるはずです」
「シノン?」
唐突な話題の転換に、クレスは怪訝そうな顔をする。
「シノンって、確か今、王太子が逗留してるんじゃなかったか」
「そうです。その少女は、王太子シャルル・ド・ヴァロワ七世に会いに行くのです」
「なんのために」
「彼女は、貴方のお父様の祖国を救うのだそうです」
「はあ?」クレスはあらかさまに眉を顰めた。
国を救うという目的は分かるが、それと王太子との謁見とどう関係があるのだろうか。第一、少女ひとりが国を救うと言って、具体的に何をするつもりなのか。様々な疑問が渦巻く。
まさか剣をとって戦うわけにもいくまい。仮にそのつもりだとしても、一瞬で殺されるのがオチだ。何にせよ、クレスにはまったく理解できない話だった。
「で、その少女というのは?」
「ラ・ピュセル。彼女は自らをそう名乗っています」
「ピュセル。乙女って意味のか?」
「そうです」リリアは表情無く首肯して見せた。
この時代、貴族や著名な兵士に通り名やふたつ名が与えられることは珍しくない。たとえば王太子の父親は精神に異常が見られたことから <狂王シャルル> と呼ばれたし、さらにその先代は <賢王シャルル> 、百年戦争前期の英雄エドワード・オヴ・ウッドストックは <黒太子> として良く知られている。他にもイングランド王リチャードの <獅子心王> 、ブルターニュ公家の <赤毛公> 、 <豪胆公> 、 <単純公> 、 <無畏公> など枚挙に暇ない。憤怒や修羅を意味する <ラ・イール> もそうであるし、だとすれば <ラ・ピュセル> もその一例なのだろう。
女性にそうした愛称が与えられることは比較的少ないが、よくよく考えればリリアもフランスの傭兵社会で死神を意味する <ラ・モルト> なる通称をいただいている。
「――にしても、よく分からないな。リリアはそのシノンに行くべきだと思ってるのか」
「はい」
「理由は?」
クレスのその問いに、リリアは悲しげに柳眉を顰めて俯いた。
「また、例の極秘事項か」
クレスの声のトーンも些か落ちる。気まずい沈黙が二人の間を支配した。
既に明らかなように、リリアにはクレスにさえも明かされていない謎や秘密が数多くある。
未だ本人の口から語られることのない、彼女の素性。彼女が、何らかの目的を持って、クレスには理解できない法則のもと、何らかの活動を行っているらしいこと。
その中でも最大の謎が、彼女が戦場で時折見せる金色に光る八角形の壁や、デスクレセントといったヒトのものとは思えぬ特殊能力。
しかも驚くべきことに、クレスが彼女と出会って以来、彼自身にも徐々にこの特殊能力が身に付きつつあるのだ。リリアの言うところによると、彼女と男女の意味合いで最初に契った者は、やがて彼女と同質の能力を身に付けることが可能になるらしい。
それだけではなく――二人の間だけに限定されはするが――両者の間では言葉を交わすこと無く意志の疎通を図ることができるようになっていた。
思ったことが <声> となって相手の心に直接届く。いわゆるテレパシーのようなものだ。
彼女は何者なのか?
クレスは、リリアと出会って以来そのことに頭を悩まし続けていた。
「またオレは蚊帳の外か?」攻めるような口調になるのを押さえ切れない。
「ごめんなさい。今は、まだ貴方に話すことはできません」
リリアは苦しげにそう言った。
「オレはさ」クレスは、彼女から目を外し再び大海原に顔を向けた。「理想だって分かってるけど、できるだけ相手のことを知っておきたいと思ってる。命を預けることがあるような間柄ならなおさらそうだ」
リリアは、それに返す言葉を持たない。
「君が何も話してくれないのは正直苦痛だし、頭にもくる。だけど全てを話すことができたら、どれだけ楽になるか。そう思っているのは、リリアの方なんだろう? 苦痛を感じているのはオレだけじゃないってことだ。違うか」
横目で反応を求めるが、リリアは応えない。
「リリアがなんで何も教えてはくれないのかは知らない。もっと賢かったら察してやれることなのかもしれないけど、オレの頭はそんなに上等じゃないからさっぱり分からない。だけど、話せないことに何かの理由があることくらいは理解できる。ただ、ひとつだけ確認しておきたい」
クレスは、再びリリアに視線を戻した。
その言葉に彼女がそっと顔を上げる。二人の視線が絡み合う。
「リリアは正しいのか?」
何が正しいのか、何が過ちであるのかは己が決めるべきことだ。少なくともクレスはそう考えている。
ただ、その判断基準は全て己の中のみに在り、社会通念や倫理、道徳といったようなものは全く頼ることはない。
人は時に自分の社会的な立場と、己の意志との間で板挟みになり苦しむことがある。できるなら自分の意志を貫きたいが、そうすれば社会に生きるものとして大多数に迷惑をかける――そういう事態に遭遇することがあるからだ。
だが、クレス・シグルドリーヴァに限っては、そういった事はない。社会という基盤に頼らず、自分の身の周りの者は自分の力で守り、手にすべきものは自分の命の保証も含めて自力で勝ち取る。
そのかわりに、社会的立場を問われることを拒絶する。自分本意と言われようと構わない。
だから、リリアが今自分の知らない所で活動していることが、たとえ社会に――世界に、背徳だと非難される行為であったとしても、彼の正義に合致する行為であるのならば彼はそれを許すだろうし、喜んで手を貸すだろう。
「リリアがやろうとしていることは、自分に恥じることのないことか。伴侶として、オレも胸を張れる行いなのか」
クレスは、再度問うた。
「私は」しばらくの沈黙の後、リリアはゆっくりと口を開いた。「――私のとった選択は神への裏切りともされる行為でしょう。許されざる罪でしょう。しかし、それを後悔はしません」
クレスは、厳しい表情でそれを聞いている。
「あなたと会ったことで、自分の中に変化が生じたことは自覚にあります。しかし、それを正邪や是非といった尺度ではかる気はありません。何であろうと、それを血肉としてやっていくだけです」
一言一言を噛み締めるように、ゆっくりとリリアは言う。
「できるならこの先もあなたと在りたい。添い遂げて、私の中に生じたその変化の行く末を見届けたい。そのために、今の自分の行いは必要である。あなたにならって、感情でそう判断しました」
リリアの緑と金色の瞳が、真っ直ぐクレスに向けられる。その色に迷いはない。
「クレス。どうか、私を想ってくれるのならば信じて下さい」
「当たり前だ」
クレスはようやくかすかに笑みを浮かべた。
「万事に納得がいったわけじゃないが、そこまで言われちゃ信じないわけにはいかねえだろう」
「私は、自分の過去と――彼らとの関係に決着を付けなくてはならない」
毅然として彼女は言った。
「それで、全てが終わった時、オレは君と一緒にいられるのか?」
呟くようにクレスは訊く。それは、自問にもとれた。
「はい」彼女は力強く答えた。「その時、全てをお話します」
「分かった。リリアを信じよう。だから、今は何も訊かずにおく」
緊張を解いて、クレスはそう言うとリリアを安心させた。
「ありがとう。クレス」彼女は、ようやく微笑んでみせてくれた。
「ときに、リリア君」
幾分、口調をおどけたものに変えて、クレスはリリアに顔を寄せた。
「はい。なんでしょうか」
「さっき、彼らとの関係がどうとか言ってたよな。今まで男に大した興味を持ったことなかったなんて言っておきながら、まさかその彼とかいうのは昔の……しかも複数?」
「――クレス」リリアは呆れたように言った。
「さっき、私を信じてくれると言ったのはなんだったんですか」
「それはそれ、これはこれだ」
「安心して下さい。私の中に愛情だとか恋愛だとか、そういった人間的な概念は植え付けなければ芽生えようがないんです。それに、私のいう彼らというのはたとえるなら父親のようなものですから」
「そうか」
肉親との決着。やはり、彼女は辛い戦いをせねばならないのだろう。そう思うと、自然とクレスの表情は翳る。
だが、これは彼女個人の問題なのだ。自分はただ見守るしかない。ただ、どんな結果に終わろうともそのとき彼女の支えになれるよう、強くなろう。クレスはそう思った。
何かに我が侭に生きるためには、強さが必要なことを、彼は知っていた。
RETURN TO THE:22
届かない、願い
――今夜も、いるかな?
僕は、城内寝静まった深夜、奇麗に手入れの行き届いた庭園に足を運んだ。
シノン城自体が殺風景とも言えるから、これはせめてもの配慮なのだろう。
見上げた夜空に浮かぶ月は、半月の丁度半分くらいの大きさだ。今夜は雲がないから、星空のパノラマが美しく広がっている。
昨夜は……、彼女に冷たい視線を投げられた。
神を信じないと言う僕の言葉が気に障ったんだろう。
何しろ、神を否定するということは彼女の行動を支える理念を根本から否定することと同義であるから。
彼女にとっては許し難い冒涜だったんだろうな、きっと。
だけど、彼女の行く末を見届けるためにここに来た以上、彼女との関係をギクシャクしたまま放置しておくのは問題があるし、気も済まない。それに、彼女には馬をあげると約束をした。
約束は守らないといけないよな。うん。
しかも、彼女は明日になれば、高位の聖職者達に更なる審問を受させるため、ポワティエに移動させられる。今夜しか機会はないんだ。
本当は、人間関係を積極的にどうこうするのは苦手なんだけど……。
僕は、なんとか理由を見つけ出して自分を納得させると、彼女と昨夜出会った場所に足を向けた。
――はたして、彼女はそこにいた。
昨日と同じように、透き通るような美しい声で唄っていた。月を見上げながら。
心に染み入るようなその歌。
決して技術や音感、センスに頼るのではなくその歌に込める想いで人の心を動かす。
僕が、音楽に求めたものと同じだ。
想いは調べにのせて、だったかな。まさに、その歌の名の通りだ。
僕は昨夜と同じく、彼女が唄い終えるまで目を閉じて待つと、気付かれるようにわざと足音を立てて彼女に近寄った。
昨日の今日であるから、彼女が僕を見てどんな顔をするのか正直不安だ。もし、分かれ際に見せたあの冷たい目で見られたらどうしよう。いや、僕の姿を見た途端立ち去ってしまうことだってあり得る。
そうなった時、僕ははたして彼女を引き止めることができるだろうか?
足音に気付いたらしく、彼女は僕に振り返った。ここまでは、昨夜と全く変わらない。
「あの」やはり、彼女の赤い瞳で見詰められると動悸する。
「想いは調べにのせて、だったよね。その歌」
僕の問いにしばらく間をおくと、彼女はコクリと頷いて答えた。
「とっても良い歌だね。今度、アランソンに帰ったらチェロで弾いていいかなその曲?」
良かった……。喋りながらも、僕は安堵にその胸を撫で下ろす思いだった。
機嫌が良いとは言わないけれど、とりあえず会話することぐらいは許されるみたいだ。
でも、これじゃどっちが貴族だか分からないよ。確か、身分の上では僕の方がかなり上だったはずなんだけど。これが、人間としての格の違いと云うものなのかな?
それとも彼女は、そういった俗世の身分や制度を超越した場所にいるのか。
「ええ」そんな僕の思惑を知ってか知らずか、彼女は冷静にそう答えた。
「そう。ありがとう」この時点で、僕は予めイメージトレーニングしてきたにも関わらず、用意しておいた話題をすっかり忘れていた。
(え……っと、なんだっけ、なんだっけ……)焦る一方で、まったく思い出せない。
彼女はそんな僕をただひたすら見詰めていた。
僕は何とか話題を作ろうとする努力を放棄すると、開き直って沈黙を受け入れることにした。
昨夜と同じように彼女の傍らに腰を落とすと、両手を体の後ろに付いて、星空を仰ぐ。
一連の動作の間も、彼女は僕から視線を外さなかった。
そして今も、僕の横顔をじっと見詰めている。
「――昨日はごめん」
夜空に浮かぶ三日月の柔かで優しい光を浴びていると、心が不思議と落ち着く。
そうすると、何故か自然と言葉が出た。
「なに?」彼女には何のことだか理解できなかったようだ。
昨夜のことを気にしてはいないのだろうか?
「いや、ほら、昨夜、僕……神様を信じないって言ったよね。あれ、気に障ったみたいだから」
「」
彼女の表情は、僕の予想に反して変化はなかった。
僕は彼女の反応を気にするのは止めて、勝手に話すことにした。
「――君に神を信じられないのかって訊かれた時、最初に戦に出た時のことが脳裏に蘇った。
僕は14の時、初めて戦に出た。父と兄が死んで、僕がアランソンの軍司令になったから、仕方が無かったんだ。でも本当は恐くて、不安で……逃げ出したかった。
結局、僕は震えて何もできなかったんだ。戦場に響く兵士達の怒号がまるで悪魔の嘲笑みたいに聞こえて、雷鳴のような大砲の発射音が聞こえる度にびくびくしてた。情けない話だけど」
ピュセルはなんの返事も相槌も返さなかったが、話はちゃんと聞いているようだ。
「あの戦場フィールドでは、自分の力だけが全てなんだよ。守りたい人がいるならば、それは自分が守ってあげないといけないんだ。相手の力が自分のよりも上であれば、大事なものは奪われてしまう。自分の命も……ね。
君は神の加護というけれど、戦場という狂気の世界では必ず人は死ぬんだ。どんなに祈っても、どんなに願っても、戦場で人が死なないことなんてないんだ。それを思うと、僕は神の加護など信じる気にはなれない」
「神を信じて逝った者は、神の手により天に導かれるわ」
ピュセルは、落ち着いた声音でそう言った。
「それが、戦場に散り逝く兵士達の慰めになると?」
僕の問いに、彼女はゆっくりと頷いた。
「――悪いけど、僕にはとてもそうは思えないよ」
とんだ戯れ言に思えた。彼女は戦場というものを知らないから、そんな奇麗事が言えるのだと。
「僕の父、アランソン侯一世は一三年前のアザンクールの会戦でイングランド軍に殺された。
母上があんなに神に祈ったのに。無事に帰還されることをあんなに一途に願っていたというのに……。
なのに、父上は帰ってはこなかった。父が死んだことを知った時、母上は心が壊れてしまうくらい哀しんでたよ。見ているこっちが心を抉られるような痛みをおぼえるくらいに哀しんでいた」
あの優しくて奇麗だった母の憔悴した表情。
僕ら子供の前では気丈に振る舞っていたけれど――ひとりひっそりと泣いているのを偶然見たことがあった。 とても見ていられなかった、母の泣き顔。
彼女に話すうちに脳裏に蘇ったそれらの記憶に、感情が昂ぶっていく。
「母も父も、僕ら家族皆が天国など望んでいなかった。ただ、生ある世界で一緒にいたかったんだ。死んだ後のことなんかどうでも良かった。家族が一緒に、幸せに暮らせたなら、死した後の神の国なんて、天国なんていらなかったんだ!」
叩き付けるように彼女に叫んだ。ピュセルは、激情を露にした僕に些か面食らったような表情をしている。
「天国なんてあるならば、あの時……僕らにとってはあの時が、家族みんなが幸せに笑っていられたあの時、あの空間こそが天国だったんだ!」
最後の方は、酷く掠れた声になった。込み上げてくる熱いものを押さえつけると、僕は続けた。
「信仰なんて、たとえ自分の直面する現実に折り合いを付けることができたとしても、自分は救われたとしても――結局、好きな人を守る力なんてない」
「だから、貴方は神を否定するの?」
ピュセルの声音には、昨夜のような蔑むような冷たさは無かった。
「否定はしないよ。信じるのは個人の自由だと思う。だけど、神との関係よりも自分の周りにいる人たちとの絆の方が大切だと思う」
「」ピュセルは僕から視線を外すと、穏やかな夜風にそよぐ芝に目を落とした。
その表情からは、彼女が何を思っているのかを推し量ることはできない。
だけど、どことなく寂しげで儚い印象を受けた。
「――ピュセル。一緒に着いてきて」
僕は一旦その重い空気を振り払うため、話題を変えることにした。
「?」
「昨日約束したよね。君に馬をあげるって。スレイプニールを紹介するよ。だから、馬屋に着いてきて欲しいんだ」
彼女が僕の声に小さく頷くのを確認すると、僕は立ち上がった。
庭園から納屋までは比較的近い。夜道は暗いけれど、月明かりのおかげでどうにか辿り着けるだろう。
「明日、ポワティエに行くんだよね?」
「ええ」彼女は遠慮しているのか、僕のやや後ろを歩きながら着いてくる。
もしかしたら、ただ単に馬屋の場所を知らないだけかも知れないけど。
「君にとってはもどかしい話かも知れないけれど、為政者っていうのは事を慎重に運ばなければいけないんだ。自分の判断や選択に、そのまま国民の命や戦の明暗がかかってくる。これでも、僕も一応アランソンの支配者だからね。――ホントは、教育係の受け売りだけれど」
シノン城にある馬屋は、僕の目からすればあまりいい施設ではなかった。木製の掘っ建て小屋というイメージが強い。
馬は繊細な動物だ。ストレスを感じない様に、それなりの環境を整えてあげなければならないのに、ここの馬屋はその合格ラインには届いていないだろう。
僕は、ここに来るまでの途中で、かがり火から抜いてきた松明を掲げながら馬屋の戸を開いた。
中から藁のいい香りがしてくる。
向かって3番目に繋がれている一際大きな黒い駿馬が、スレイプニールだ。
やはり、標準的な馬と比べて毛並みや肉付きが数段格上だということが、こうして普通の馬と並べられていると良く分かる。
手に持っていた松明の火をランプに燈すと、僕はピュセルにスレイプニールを紹介した。
「彼女が、スレイプニールだよ。今まで僕がアランソンで育ててきたんだ」
スレイプニールは、そのつぶらな瞳に僕の姿を認めると、擦り寄ってきた。
「やあ、スレイプニール。……ゴメン。ここはちょっと狭すぎるよね」
僕はその鼻を撫でてそれに答えると、柵を解いて彼女を馬屋から連れ出した。
ピュセルは、壁際に立ってじっとスレイプニールを見詰めている。
その目は柔かに細められていた。母親が子を見守るような優しい瞳だ。
「こんな時間だけど、乗ってみる?」
スレイプニールに鞍を取り付けながら、ピュセルに問う。
「命令なら、そうするわ」思わぬピュセルの返答に、僕は面食らった。
「あの、ピュセル?」その声に、きょとんとした表情で僕を見た。
「僕は、君を同年代の、その友達みたいなものだと、そう思っていたんだけど。君は違うの」
「何故? 貴方は第一級の爵位を持つ貴族。私はその命に従う義務があるわ」
彼女は淡々とそう言った。
確かに、それはそうなのだが――そんな目で見られていたのは、少し悲しい。
僕の話に付き合っていたのも、僕の身分を考慮してのことだったのだろうか? もしそうなら、僕はとんだ道化を演じていたことになる。そこで、僕はあることに思い至った。
――僕は、彼女の名前を知らないぞ?
ピュセルとは、乙女を意味する言わば敬称であり、名前ではない。
名前も知らないのに、友達も何もあったものではないではないか。
「ピュセル。君の名前、まだ聞いていなかった」些か愕然としながら、僕は言った。
「私は、ピュセル。それ以前の名は捨てたわ」
「でも……あったんでしょう? それ以前の名前が」
ピュセルはそれには答えなかった。僕は、じっと彼女が続けるのを待った。
ピュセルは、しばらくの間その真意を探ろうと言うのか、僕をじっと見詰めていた。
だが、僕も今度ばかりは、なけなしの勇気を振り絞って、彼女の赤い瞳を真っ直ぐに見詰め返した。
食い下がる僕に、観念したのか、やがて彼女はゆっくりと口を開いた。
RETURN TO THE:23
REI−T
彼女は思い出していた。
何時だったか、過去、ただ一度だけ見たことのある夢。
その中で、彼女は白く広大な空間にいた。天も、地も、あたりの情景も、全てがぼんやりと白く見える、不思議な空間。頭上を仰いでも、そこには天井も見慣れたはずの蒼穹も見えない。周囲に視線を巡らせれば、限りのない地平線が広がるその場所で、彼女はひとり歩いていた。
何故か、神秘なる存在に導かれるように、夢遊病者のような頼りない足取りで、ふらふらと。
――私は何処へ。何処へ行くのだろう。
答えはなかったが、彼女の足はひたすらに歩を進めるのを止めようとはしない。
体が勝手に動くのだ。まるで、何者かに操られているかのように。
その時、何処からか声が聞こえた。
何時も彼女に命を与える神の“声”ではなく、優しく、柔かな声。
その声は、何かを慈しむような色を帯びて、何度も同じ言葉を繰り返した。意味は分からないし、聞き覚えのない言葉ではあったが、それが自分を呼ぶ声であると彼女は思った。何故かそう分かったのである。
だから、彼女はその声の主を探した。意志とは関係なく動いていた足も、自然とその歩みを止めていた。
……な‥
今度は幾分はっきりとした声が、背後から聞こえた。
……やな‥
彼女は自由になった身体ごと、その声に振り返った。
瞬間、強烈な閃光が眼前に広がり、彼女は思わず眼を閉じる。
何とか目を開けると、そこには、ひとりの少年がいた。
優しい微笑みを湛えた少年。何度も夢の中で見た、あの少年。
――碇 シンジ
彼女は動けなかった。
夢の中でしか出会えなかった彼が、いま目の前に、手を伸ばせば届く直ぐそこいる。
しかも、幼馴染の少女にではなく、まさしくピュセル自身に慈しむようなその微笑みを向けている。
今、自分は、彼と出逢っているのだ。
「あやなみ」彼は彼女に呼びかけた。とても優しく。「綾波」
言葉とともに、彼は一歩彼女に近付いた。そして、ゆっくりと右手を彼女に差し出す。
「行こう」
ピュセルは歓喜と共に、恐怖を感じていた。
「一緒に行こう」
「私は、ピュセル」
彼女は、思い通りに動かない唇で、ようやくそれだけ答えることができた。
「ちがうよ、ピュセルは名前じゃない」彼はきっぱりとそう言った。
「君は、綾波だよ。――綾波レイになるんだ」
確かに聖なる乙女は名ではない。
故郷のドン・レミの村では、ジャネットの愛称で呼ばれたこともある。
が、綾波レイという言葉は聞いたことすらない。
――では何故彼の声を聞いた時、自分を呼ぶ声だと思った?
「行こう」彼は、柔かな微笑みと共に繰り返した。
「何故」
彼女が口を開いた途端、突然、彼の姿が光に混じってぼやけはじめた。
彼女に呼びかける、その優しい声も細く、消えていく。
――消えてしまう!
そう悟った瞬間、自分でも信じられないほどの声が出ていた。
「まって!」
自分のその声で夢から醒めた。
目覚めてはじめて気付く。また、自分は夢を見ていたのだと。
あの碇シンジと夢の中で会っていたのだと。
そして、今、その碇シンジと同じ波動を放つアランソン侯が自分に名を問うている。
ならば、答えるべき名はひとつしかないではないか。
……だから、彼女は言った。
「綾波――レイ――」
「ア……アヤナ……ミ……レイ」
アランソン侯は、たどたどしく繰り返した。
母国語に似たような発音がないので、上手く口にできないのだ。
「レイ……アヤ‥ナ……ミ……レイ」
彼は何度も口の中で、教えてもらった彼女の名を繰り返し発音する。
――そこで、はっと気付いた。
リッシュモン元帥と初めてはじめて出会った時、彼も綾波レイという名を口にしていたことを。
そう、異国の名さ。渚カヲル。
綾波レイ、もしくはピュセルと同じく人類監視機構に仕組まれた者。タブリス。
君は僕を渚カヲルと呼ぶように、ラ・ピュセルを綾波レイと呼ぶようになるだろう。
……それが、君の願いであるはずだ。
確か、彼はそう言ったのだ。
国王軍大元帥、アルテュール・ド・リッシュモン。彼は、何故ピュセルの名を知っていたのだろうか。
「ねえ、ピュセル。リッシュモン元帥と面識はある?」
「いえ」
彼女は表情を変えること無く、そう答えた。隠し事をしているようにも、嘘を付いているようにも見えない。どうやら、本当に知らない様だ。
それも当然だろう。アルテュール・ド・リッシュモン大元帥といえば、前代のブルターニュ大公の第二公子。大貴族である。一介の村娘と、面識が在る方がおかしい。
「じゃあ、僕以外に君のその名前――綾波レイという名を誰かに教えたことはある?」
「いえ」
「ということは、その名前を知っているのは故郷の村の人と、家族だけなのか」
「違うわ」
「えっ?」
「知っているのは、この世で貴方だけ」
意外な言葉に、アランソン侯は着いていけない。
「でも、綾波レイって両親か誰かが付けた君の名前なんだよね?」
「いえ」彼女は、ゆっくりと首を左右する。そして、改めて侯に赤い瞳を向けるとこう続けた。
「付けたのは、あなた」
ピュセルの訳の分からない受け答えに、更に混乱するアランソン侯。
確かに、綾波レイなどと母国語にもない発音の名が、この国の民に付けられるはずもないが――
「あの、どういうこと?」
ピュセルはしばらく沈黙したが、「分からない」と、短く答えた。
分からないのは、アランソン侯も同じである。質問する度に疑問が倍増しになって返ってくるような感覚に、アランソン侯は戸惑うしかない。
「はぁ」溜め息を禁じ得ないのも、仕方がないというものだ。
これ以上、ピュセルから何かを聞き出すのは不可能と判断したアランソン侯は、気分を変えて乗馬を楽しむことにした。とりあえず、鞍付けの終えたスレイプニールの手綱をピュセルに渡すと、自分の愛馬に向かい準備をはじめる。
アランソン侯の愛馬も、スレイプニールと同じく牝馬である。足も速く、利口で扱い易い牝馬ではあるが、如何せん戦場で脅えるケースが非常に多い。これが原因で、優秀ではあるが軍馬として利用されることは少ないのだ。
だから、戦場で使える牝馬といえば、貴族に長い時間をかけて戦に慣らされたものか、或いはこのスレイプニールのような、例外的に勇敢な逸材のみに限定される。
ちなみに、アランソン侯の愛馬イグドラシルの名は、北欧神話に伝わる世界樹に由来する。大地に深く根を張った世界樹のような、安定した強靭な足腰を持つ彼女には、イグドラシルのが相応しいと思われたからだ。
その牝馬イグドラシルは、スレイプニールに負けず劣らず堂々とした風格を備える駿馬で、毛色は正反対の白馬である。
乗馬すると言っても、夜中である以上、城外に遠出するわけにはいかなかった。
第一、ピュセルは明日ポワティエに出立するのだ。いくら彼女の了承を得たとは言え、なるべく早くに床に就かせた方がいい。
とりあえず、慣らし程度に城内を一周するに止めておいた方がいいだろう。そう判断して、アランソン侯はその旨を伝えようとピュセルに目を向ける。
そこには優しい目をして、スレイプニールの毛並みを撫でているピュセルの姿があった。
夜の闇の中、かがり火の金色の光に照らし出されるその姿は、まるで聖母のような慈愛に満ち溢れていた。アランソン侯は、その優しい光景に暫し目を奪われていた。
ピュセルは彼の視線に気付くと、その手を止め、彼を見詰め返してくる。
「あの、城外出るにはちょっと遅すぎるから、城の中を一周してみよう?」
彼女の赤い視線に、我に返った彼は、慌ててそう言った。
「ええ」短く返事を返すと、ピュセルは軽い身のこなしでスレイプニールに跨った。
侯はそれを見届けると、自らもイグドラシルに飛び乗りピュセルを先導するように馬を進めはじめた。
抑えられた蹄の音が、なんとも耳に心地良い。
心通い合う愛馬の背に揺られると、自然と気持ちも落ち着いてくる。
そうあって、アランソン侯はあることに気付いた。彼と隣り合って進むスレイプニールに跨るピュセル。
月明かりの加減のせいかもしれないが、その蒼銀の髪の色が、昨夜逢った時とは微妙に違って見えるのだ。不思議に思った侯は、思わず彼女を呼び止めた。
「あの、ピュセル?」質問の内容が内容なので、少し遠慮がちな声となる。
「何?」
「髪の色が、何となく昨夜と違って見えるんだけど……僕の気のせいかな?」
アランソン侯は、そう言ってしまった後、馬鹿なことを訊いてしまったと後悔した。
髪の色がころころと変わるなど、あり得るわけがないではないか。
――だが、予想に反して、ピュセルは侯の言葉に明らかな驚愕の表情で応えた。
「貴方、気付いたの?」
「えっ?」意外な反応に、アランソン侯は素っ頓狂な声をあげた。
「私のこの髪の色は、月の満ち欠けに呼応して変化する」
確かに彼女の美しい蒼銀の髪の色は、微妙にではあるが自然に変質する。
新月の時は銀が強調され、ほとんどプラチナに近く、満月の時はその蒼が強く出てアイスブルーに変わる。ただ、毎日少しずつ、ゆっくりと変化していくため、家族でも気付いたのは母と、妹――女性だけだ。出会ってから数日という短時間で、このことに気付いたのは、アランソン侯がはじめてである。
「へえ。やっぱり、気のせいじゃなかったんだ。すごいなぁ、月の満ち欠けと共に色が変わるなんて」
ピュセルは知っていた。このことを知った者、いや、自分の髪や瞳を見た者が、その言葉の次にどんな反応を示すかを。そう。決まって、顔を顰めるのだ。そして、呪詛の言葉を吐く。
まるで人ではない生物を見るような、拒絶と嫌悪の冷たい視線を自分に向けて。
「ふーん。何だか不思議だよね。うん。不思議だよ」
しきりに感心したり唸ったりしながら、侯爵は続ける。
「神秘的って言うのかな。お洒落だよね。綺麗だし。どういう仕組みになってるのかな」
アランソン侯はやっぱり、ピュセルって不思議なところがあるよね等と心の中で付け加えながら、のほほんとそう告げた。
だが、その言葉がピュセルに齎した効果は劇的とも言えるものだった。
その小さな唇を小さく開け、目を見開いて硬直している。
彼女のその容姿は、何時如何なる時でも嫌悪と拒絶の象徴でしかなかった。――そのはずだった。
彼女がその姿で生まれてきた時、その赤い瞳を見て、立ち会った人々は悪魔が生まれたと騒ぎ立てた。そして、彼女を即刻殺そうとした。無知で中途半端に信心深い農民達にとって、その真紅の瞳は禍々しい魔性の証でしかなかったのだ。
もし、ピュセルの一家が敬虔なキリスト教徒として知られてはおらず、父が村の長としてある程度の権力を有していなければ、彼女は恐らく、悪魔の子としてその時に殺されていたであろう。
王太子が早々に結論を出さず、ポワティエに送り出してまで彼女を聖職者達に審問させようとするのも、彼女のその容姿のせいに他ならないのだ。
その容姿を肯定的に、しかも神秘的だのお洒落だのとまで言ったのは、アランソン侯が初めてだ。
そして、きっと最後の人間となるだろう。
そんなアランソン候は、ピュセルの心中にも全く気付くこと無く、気持ち良さそうに瞳を閉じて、馬の背に揺られている。
その無邪気とも言える、何も考えていなさそうな表情からは、彼が世辞を言ったようにもピュセルに気を使ったようにも思えない。彼は本心で言ったのだ。間違いなく。
それを確認した時、彼女はかつて経験したことのない感覚に襲われた。
何故だろうか……温かい感じがして、心が弾む。
初めて感じる、心の抱擁ともいうべきものに彼女は戸惑った。
――でも、嫌な感じじゃない。
それは、天の“声”によっては得たことのないものであった。
もしかしたら……彼女は、ふと思う。
人間という存在は、人と触れ合うことでしか絶対に手に入れることができない何かを、心の何処かで探し求めているのかもしれない。
自分は、一瞬ではあるが、その何かをアランソン侯の中に見出したのではあるまいか?
今まで、自分は拒絶の対象でしかなかった。人とは明らかに違う容姿をし、明らかに異なる力を持ち、悪魔の子と冷たい視線に苛まされて育ってきた。だから自分は、人という生物には決して受け入れられることのない存在であると信じ込んでいた。故に人を超えるもの神に縋るしかなかったのだ。
神ならば。全ての創造主たる神ならば、きっと自分を全て受け入れてくれるであろうと。
この人あらざる、蒼銀の髪も、白すぎる肌も、真っ赤な瞳でさえも……
父なる主であれば、愛してくれるかもしれないと。ただ、それだけを信じて、それだけに願いを託して、彼女は信徒となった。
彼女は、その日から人との関わりを捨ていた。自ら孤独を選らび、心を閉ざした。
だけど。アランソン侯は――碇シンジは――
「一緒に行こう」と、「奇麗だ」と、そう言ってくれた。自分を受け入れてくれた。
これは、奇跡だろうか?
いや。知らなかっただけで、人という存在の中にも、自分の居場所はあったのかもしれない。
人という存在と、絆を結べる可能性もあったのかもしれない。
少なくとも、この純朴なアランソン侯という青年との間には、それを期待してしまうような何かがあった。
彼女は生まれて初めて、この世に生を受けてきた喜びを知った。
そして、ピュセル自身は遂に気付くことはなかったが――
その時彼女は、間違いなく、微笑んでいた。
RETURN TO THE:24
その名を、ラ・ピュセル
――翌日、一四二九年三月一一日。
ピュセルは、王太子の命により、更なる審問を受けるためポワティエへ出立。
彼女には、王家より彼女の素行を監査する密命を受けた婦人達が数人同行した。
ポワティエは、シノンの街の南約七〇KMに位置する聖職者の街で、これは馬の足でなら一日で行ける距離にある。
そのポワティエには審問のための専門家による法廷を構成すべく、高位聖職者達が集められていた。
ピュセルはこのポワティエにて、三週間に渡る審問を受けることになった。
以下は、ピュセル審問会の責任者である、スガン老師が王太子に宛てた報告書の記述である。
●神学者ギヨーム・ぺリエの質問
「ピュセル。そなたのいう“声”は神のそれだという。そして、その神の“声”が我が国を災厄からお救い下さると、そうおっしゃったのであれば、そなたが、国王陛下(王太子)に要請している兵団などは、必要ないのではないのか?」
●対する、ピュセルの返答
「神の御名において、兵士が戦うことにより、神は勝利を授けられるのです」
この返答を聞くと、ギヨーム師は満足げであった……と、報告書にはある。
●スガン老師の質問
「その“声”とは如何な話され方をしたのか?」
●対する、ピュセルの返答
「貴方よりも、玲瓏な声で」
確かに、スガンの言葉はリムーザン訛りが酷い。
●スガン老師の質問
「神を信じているか?」
●対する、ピュセルの返答
「貴方よりも、強く」
●スガン老師の質問
「ピュセルよ、そなたが神の使い……使徒を自称してはいても、それはそなたの弁。それを示す客観的な証無くしては、国王陛下も兵を貸し与えはしないだろう。これについては、如何か?」
●対する、ピュセルの返答
「私はポワティエへ証を示しに来たわけではありません。私を、兵と共にオルレアンへ。証はそこで示しましょう」
――このように、高位の聖職者達は揃いも揃って、一七歳の少女に手玉に取られている。
が、彼らはそれを屈辱としていない。いや、提出された報告書からは、彼ら一同は彼女一流の諧謔の槍玉にあげられているのを寧ろ喜んでいた節さえ感じられたという。
その光景まるでは、老人達が、賢く育った自分の孫娘との問答を心から楽しんでいるような、そんな微笑ましいものであった。
様々な問答を繰り返す内、彼女の物怖じせぬ態度、天衣無縫で賢明な回答、そして内から感じられる高潔さが彼らの心を捕らえていったのである。
審問者の集団から、賛嘆者の集いへ。ポワティエには、ちょっとしたピュセル・ファンクラブが出来上がってしまったわけだ。
……そして、報告書の最終項には、このように記されていた。
「彼女に対し審問を行うも、ピュセルは高度な教育を受けたものの如く慎重で、機智に富んでおり、それはかの聖カトリーヌを彷彿とさせる程のものである。
我々は彼女のその素性を考慮すれば、そこに神々しいものさえ見出せる。結果として、彼女に関し悪しきもの、カトリック信仰に反するものは一切見受けられず。国王陛下には、彼女を起用するように要請されたい」
――さて、我らがアランソン侯だが、彼は残念ながらこのポワティエでの審問には立ち会うことはできなかった。王太子からの要請により、その義母である、シチリア王妃ヨランドのもとへ資金援助の要請のために派遣されたからだ。
シチリア王国は、イタリアの南東に浮かぶ小さな島国である。フランスからシチリアへは、遥々地中海を縦断していかなければならない。戦禍の最中、これはかなりの大旅行と言えた。
そのシチリア王国のヨランド王妃は、予てからフランスの行く末を案じ、ピュセルの登場以後は、彼女に多大な期待を寄せその後援者となっている。
娘夫婦の王家とイングランド=ブルゴーニュ連合との戦争において、彼女はこれまでも多額の資金援助を行っていた。今や、王太子にとって彼女の存在は、財政面での生命線ともなっていたのである。
一方、スウェーデン王国辺境シグルズからフランスへ舞い戻ったリリアとクレスは、やはり傭兵としてこの戦争に参加することにした。無論、アルマニャック=王太子派に付いてだ。
フランスに上陸した彼らは、一旦別行動をとることになった。
クレスは、旧友ラ・イールが、オルレアン攻防戦に参加する予定であることを知り彼のもとへ向かった。
一方、リリアの方は行き先を告げず、彼の前から消えた。
――四月二日
ポワティエでの審問をこれ以上ないという形でパスしたピュセルは、シノンへの帰路にあった。
現在、フランスの勢力分布は、王国を南北に分断するような形で形成されており、その南側を陣取っているのがフランス側であった。対して、ロワールの大河を挟んで北側が連合の勢力下というわけだ。
ヴォークルールからシノンへ、この北側を突っ切ってきたあの危険な旅からすれば、王太子派勢力圏内のポワティエ〜シノン間の旅は、ピュセルにとって敵に襲われる危険性を考えずにすむ、実に穏やかなものだったと言える。
既にこの時点で、ピュセルは王国上層部にその信憑性を確認されて、オルレアンへ派遣されることはほぼ決定事項となっていた。
ここにきて尚、王室がピュセルを認めないのであれば、教会の権威を否定することになるからである。
カトリックの教義が国家を支える思想の根本として成り立っている以上、教会批判はそのまま王家の自己批判にもなり兼ねない。王太子の慎重策が、逆にピュセルの扱いに対する逃げ口上を失う結果となったわけだ。
オルレアン出撃に際して、彼女がどのようなポジションに置かれるかは不明だが、とにかく念願かなってオルレアン攻防戦に参加できるのだ。ピュセルの想いは既に、来る(イングランド=ブルゴーニュ)連合との決戦の地オルレアンに飛んでいた。
そんな事情から、シノンに帰り着くと、彼女はすぐさまトゥールという街へ旅立つことになった。
トゥールは、王国の中央部を流れるロワール川の川沿いをオルレアン方面へ四〇KMの場所にある大都市で、この地方一帯の中心都市でもあった。
ピュセルはこの街で戦場で必要とされる武具を調達することになったのである。
そこで用意されたのは、まず彼女の体に合わせた甲冑。
戦場に大砲という火器が登場すると共に生まれた鋼鉄板の甲冑が、スタンダードな装備として認識されるようになってから一〇〇年が経っていたが、その細かな技術は着実に進歩していて、両手・両足をはじめ全身の関節が自由に動き、彼女の控えめな胸の双丘にそって膨らみをもたせるなど、女性用ではあるが、かなりの格式ある甲冑が彼女には与えられた。
それに、甲冑とはある意味独立した防具として捕らえられる兜もサラッドと呼ばれるヴァリエーションをはじめ、数種類作られた。
他にも、鎧の下に着るチョッキの裏側に、鋼鉄を薄板を貼り付けたブリガンディーヌと呼ばれる一種の鎖帷子。更には、“声”の指示に従い、ピュセル自らがデザインした軍旗も用意された。
それは大き目の3角形の吹き流しの旗で、王家の紋章である百合の花を手にした天使の姿が描かれていた。
これら彼女の装備は、全て純白で統一されており、それを纏った彼女はまさに神の遣わした救国の乙女に相応しい、神聖で堂々たる風格を漂わせていた。
この、ピュセル専用の装備一式にかけられた金額は、トゥール貨100リーヴル――ひとりの兵士の一〜二年分の給金に相当する莫大なものだったという。
またピュセルには、この武装一式の他にも、専属の武官、つまり副官が配属されることとなった。また、小姓も二人与えられた。更には、伝令使が二人。
(この伝令使というのは、見ればそれと分かるシンボルを身に付けた使い番で、公的な役職と見なされており、宛先の人物――国王、公爵、司令官などのところへ伝言や、情報、密書などを届けるのがその主な役割である。彼らは、戦場においては慣習と騎士道精神において、その身柄の安全を保障されている存在だった)
小姓はまだしも、専属の副官、及び伝令使二人を意のままに扱えるということは、国王が彼女を貴族出身の他の軍司令官と同格の権限を認めたということになる。
当然、ピュセル懐疑派は、せめて軍のマスコット的な存在として止め、実権は与えるべきでないと主張したが、この意見は王室顧問情報局のリジュ卿の裏工作により、抑えこまれた。
――準備は整った。
ついに、王室認定の軍司令官となったピュセルはオルレアンの戦場へ向かうのである。
これから数日の内に、フランス延いてはヨーロッパ大陸中を一つの噂が駆け巡った。
その内容は、以下のようなものであった。
自らの祖国を救うべく、ひとりの少女が国王軍を率いて、オルレアンへ向け出陣した。
その名を、ラ・ピュセル。
神に遣わされた、神聖なる救世主である。
RETURN TO THE:25
ファースト・ステージ
深夜、川沿いのなだらかな道を、馬車が1台ひた走る。
なだらかとは言っても、それは相対的にという話であって、獣道と比べればマシ程度のものである。この時代、道路は舗装されている方が珍しいかったことは言うまでもない。
何処に向かっているのかは定かではないが、夜、視界が利かないことを考えれば、馬車は危険な速度を出していた。時々車輪が石を踏みつけては、車体が大きく揺れている。
「――恋人は元気かい?」
御者台に座った男が、器用に手綱を操りながら後ろの客席に声をかける。
アランソン侯の片腕、リジュ伯カージェスである。
伯爵位を持つ彼は、本来御者をみずから買って出なくてはならないような身分ではない。
ただ、馬車というのは、盗聴の恐れがない。つまり、これは内密の話をするための、装いであった。
無論、移動しながら話せるという利点も、この場合考慮されている。
「ええ。でも、あなたと一緒にいると、きっと彼は嫉妬するでしょう」
客車から、澄んだ美しい女性の声が返った。御者を務めるリジュ卿からは、当然その女性の姿は見えないが、彼女が女神もかくやというほどの美貌の持ち主であることは知っていた。
「ほう、クレスとかいったかな。彼はそんなに嫉妬深いのかい?」
「ええ。私が他の男性と話すと直ぐに機嫌が悪くなるんです」
「まぁ、気持ちは分からないではないが」リジュ卿は、小さく呟いた。
今、彼の話の相手をしている女性は、決して社交的とは言い難い性の人だ。必要以外の人間との交流は極力避けているとも言える。たまに喋っても、交わされる言葉は単語におまけが付いた程度。まともな会話をする相手を数えるとなると、片手で足りるだろう。
リジュ卿はその稀少な一人であるが、彼女との関係は完全にビジネスだ。
プレイべートでも、とリジュ卿としては歓迎しているのだが、彼女はまったく取り合わない。
彼女にとって、男性とはクレス・シグルドリーヴァただひとりなのだ。
そんな彼女であれば、例外的に男性と話しているのを見ると、恋人として気になるのもやむ無しというものだ。特に、彼女ほどの麗人ならば尚更。
「ところで……調査の結果、聞かせてくれるかい?」
真顔に戻ると、揺れる御者席からリジュ卿はそう声をかけた。
「大した収穫はありません。シノンで提供した情報に付け加えるようなものは皆無と言っていいくらいです」
「ピュセルの身の上は、真っ白ってことか」リジュ卿は、彼女の言葉に誰とはなく呟く。
「予測されていた結果です」
リジュ卿は、少し宙に視線を泳がせると、再び口を開いた。
「リッシュモン元帥のほうは?」
「資料としては、不審点は全くありません。諜報活動を行っている様子もないですし、監視機構との接点もありません」
「ふむ」
「ただ――」しばらく間を置くと、女性はゆっくりと付け加えた。
リジュ卿は無言で先を促す。
「実際彼と会ったことはないので、まだはっきりしたことは言えませんが、彼の容姿は使徒の特徴を備えています」
「赤い瞳に……シルバーブロンド、か」
「――はい」
「確かに。君もそうだが、天使の容姿は随分と神秘的と言うか特徴的と言うか」
リジュ卿は、何度かリッシュモン元帥をその目で見たことがある。
ピュセルのように、真紅というわけではないが、茶色がかった赤い瞳に、銀色の髪。
そして、病的と言えるほど白い肌。普通では、ちょっと考えられないような容姿である。
「君は、如何考えている?」
「ただの憶測になりますが、彼から監視機構の話が出てきたのならば、使徒である可能性は高いと思われます。無論、仮にそうであるとして、彼が監視機構からどんな任務を命じられてきたかは、全く予測できませんが」
「ピュセルは? 彼女の容姿も、十分変わってると思うが?」
「我々使徒は、歴史に積極的介入することは厳重に禁止されています。積極介入したとしても、裏工作が精々です。もし使徒であるならば、彼女――ピュセルのように堂々と能動的介入をすることはないと思われます」
女性の声は、あくまで落ち着いている。
「だが、君はその使徒でありながら積極的介入を果たした」リジュ卿の声色が、気のせいか微妙に変化した。
「――はい」彼女は、静かにそれを肯定した。
「まず、人間との能動的接触は禁じられてるにもかかわらず、クレス・シグルドリーヴァという人間の男と交わった。更には、個人の恣意により歴史に介入。スウェーデンのシグルズで、約80の人間を相手に戦っている。これによって、若干ではあるが、歴史が変わる可能性が出てきたわけだ。
これは当然、監視機構にとってはマイナス。味方によっては裏切り行為だ」
「」女性は、何も答えない。が、時に沈黙は雄弁にものを語る。
「無論、君のことだ。情報操作で監視機構の目に触れないよう隠蔽はしたが、これ以上は」
「――分かっています」遮るように、女性は言った。
声音に変化はないが、彼女が深刻な問題を抱えていることは容易に窺い知れる。
「シグルズの件は隠蔽できても、クレスの中に育ちつつ在る使徒の力。これを隠し通すことは不可能です」
彼女は、重々しく言い放った。
「人類監視機構は、すでに君の恋人の変化を察知しつつある。近い内に、粛清のため使徒が送り込まれてくる可能性が極めて高い。オレは監視機構に直接接触しているわけじゃないから、君たちの使徒のことは詳しくは知らないが」
リジュ卿はそこで、言葉を切る。全てを言い切らずとも、この聡明な女性には意は伝わるのだ。
「――あなたの予測は、正しいと思われます」彼女は静かに口を開いた。
「できれば、私個人で決着を付けようとやってみたのですが。やはり、クレスを巻き込むことになってしまいそうですね」
「天使と天使の対決、か」リジュ卿は、空を仰いで小さく言った。
連合と乙女の決戦、そして、天使と天使の決戦のファースト・ステージ――オルレアン。
馬車は、速度を落とすことなく一路東に向かい、やがて夜の闇に消えた。
to be continued...
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