風祭文庫・人魚変身の館






「狙われた乙姫」
【第55話:乙姫との再会】


作・風祭玲

Vol.582





キィィィン…

頭部だけとなったモビルスーツがゆっくりと宇宙港へ近づいてゆく、

カナ(櫂)が操縦するこのモビルスーツは

本体部分をザケンナーが操縦する白いモビルスーツとの戦いで失ったものの、

しかし、操縦者が搭乗する頭部が本体から分離できるセパレートタイプである上に、

さらに、頭部のみとなっても運用を続けることが出来るので、

カナが蒙った痛手はある程度カバーできるものであった。

『えっと…

 うん、ここだな…』

モノアイから映し出される映像を見ながら

カナは一足先に着陸しているブラックタイガー機の隙間に

モビルスーツの頭部を着陸させようとしていると、

『!!!!っ』

一瞬何かを感じ取った。

『櫂さん?』

カナのその表情を意味をオギンは尋ねるが、

『マナ…』

操縦桿を握り締めながらカナは呟くと、

クルッ!

グイッ

操縦桿を握り、頭部を前へと進ませる。

『あの…

 櫂さん?』

カナの取る行動にオギンは不信そうに見つめるが、

しかし、カナはそんなオギンに構うことなく

前へ…管制塔へと進んでいく、

『え?

 あっ

 ちょっちょと…

 このまま行くと…

 その…ぶつかりますよ…』

次第に迫ってくる管制塔の姿を見てオギンは声をあげるが、

『マナ…

 待ってろ…

 いま、行くからな…』

まるで何かに憑り付かれているかのようにカナは呟き、

徐々にスピードをあげ始めた。

『え?

 え?

 ここで加速…ですか?

 ちょっちょっとぉ

 櫂さん、しっかりしてください。

 どーなっちゃたんですか?

 どこかで頭をぶつけましたか?

 ねぇ

 お願い。

 しょっ

 正気にもどってくださぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!』

見る見る迫ってくる管制塔にオギンは悲鳴をあげ、

パン!!

パン!!

パン!!

その翼でカナの頬を2・3回張り倒すが、

ボゥ…

そのときカナたちが搭乗するコクピットの内装が淡く輝くと、

『マナぁぁぁ!!!』

カナはマナの名前を叫びながら更に加速をかけた。



そのとき、

「ねぇ…あれ何かしら?」

管制塔に居残り、ザケンナーが戻ってくるのを阻止していたおかっぱ頭と、

ピンク色のトンガリお団子頭をした二人の美少女戦士達は迫ってくる飛行物体に気が付いていた。

「んーと、

 え?

 なに?」

おかっぱ頭のその声にトンガリお団子頭が背伸びして窓から覗くと、

「なっなに?

 顔?」

と迫ってくる飛行物体が顔であることを指摘する。

「どっどうしよう!!」

「どうしようって…」

予想外の飛行物体の登場に二人はうろたえていると

キラッ…

飛行物体から光り輝く物体が振り撒かれている様子が目に入った。

「え?

 何かしらアレ…」

それに気がついたおかっぱ頭の美少女戦士が指摘をすると、

「え?

 なになに?」

その指摘にトンガリお団子頭の美少女戦士が乗り出す。

しかし、そのときには飛行物体は直前に迫り、

ギンッ!!

その中央部で不気味に輝くモノアイが二人を睨み付けた。

「ひゃぁぁぁぁ!!!」

「きゃぁぁぁぁ!!!」

それを見た二人が同時に頭を引っ込めると、

ゴゴゴゴゴゴ!!!!!

管制塔を爆音が包み込み、

そして、

ドガン!!!!

ついに飛行物体が激突したのか、

管制塔の建物が大きく振動をすると、

「いやぁぁぁぁ!!!!」

管制機器やパネルが崩れ落ちる中、

美少女戦士の二人は互いに抱きしめ会っていた。



ゴワァァァ!!

カナが一気にバーニヤを噴かしたモビルスーツの頭部は呆然とダッシュをすると、

『うひゃぁぁぁぁぁ!!!

 ぶつかりますぅぅぅぅ!!!』

オギンの悲鳴と共に、

バリィィン!!!

管制塔の正面玄関に突撃し、

ゴゴゴゴゴゴ!!!!

天井を崩し、壁を打ち壊しながら

待合所になっている1階ロビーのソファやテーブルなどを蹴散し

真っ直ぐエレベータホールへと突き進んでいく。

『ひゃぁぁぁぁぁ!!!!』

激しく揺れるコクピットの中でオギンはカナにしがみつくが、

しかし、このような事態になってもカナは操縦桿から手を離すことはなく、

ドガァァアン!!!

バキバキバキバキ!!!

ついにエレベータホールに突っ込むと、

クルッ!

カナは操縦桿を下に向け、

今度はエレベータの縦孔に沿って下降を始めだした。

ズゴゴゴゴゴ!!!

バキバキバキ!!!

縦孔を破壊しながらモビルスーツの頭部は一直線に降下してゆく、

『めっめちゃくちゃですぅぅぅ』

”強引”と表現した方が良いか、

”切れた”と表現するべきなのか、

まさにそのような雰囲気の中、

オギンは翼で頭を抱えていると、

ズドォォォン!!!

再び衝撃がコクピットを襲った。

『こんっ今度はなんですか?』

その衝撃にオギンは恐る恐る顔を上げると、

『ニヤッ…』

オギンから見て見上げる位置にあるカナの口元に

微かに笑みが浮かび上がる。

『ヒィ!!!!』

その笑みを見たオギンは言い様もない恐怖感に駆られるが、

しかし、すでに時は遅かった。

『!!!っ

 マナ…っ

 そこかっ!!!!』

フワッ…

胸の竜玉を輝かせながら、

カナはマナの気配を感じ取ると、

クルッ!!

操縦桿を動かし、モビルスーツの頭部を前へと進ませ始めた。

そして、

『えぇいっ

 じゃまだぁぁぁ!!!』

前に立ちはだかる壁に向かって、トリガーを引くと、

キュォォン!!

シャッ!

ズシャァァアン!!

頭部の口に備え付けられているビーム砲・メガ粒子砲が火を噴いた。



ズズ−−−−ン!!!

「なっなんだ?」

響き渡る振動に桂たちが腰をあげると、

「くっ小癪な…」

自席に座る五十里は小さく呟く。

「ん?

 いま何か言ったか?」

その言葉を聞き漏らさなかった夏目が聞き返すと、

「いっ五十里さんっ

 ポートからのエレベータを巨大物体が破壊しながら登ってきています」

と浮城を貫くエレベータを破壊しながら登ってくる物体があることを報告した。

「なんだ、その巨大物体とは?」

報告の一部に曖昧なところがあることを桂が指摘すると、

「そっそれが…

 これはなんと言ったら…」

相沢は困惑する表情になる。

「何といったらって?

 あん、見せてみろ」

その相沢の姿を見かねて夏目が覗き込むと、

クワッ!

「なっなんじゃこれは!!!」

目を剥き声を張り上げた。

「おいっ

 驚いてないでパネルに廻せっ

 判らないだろうが」

そんな二人に桂はそう指示をすると、

「はっはいっ」

相沢は慌てながらエレベータの縦孔に設置してあるカメラの映像をパネルに廻した。

その途端。

「なんだ、これは!!!!」

桂の口から驚きの声があがる一方で、

「(ふっ)」

五十里はいつものポーズは崩さなかった。

「あの中に居るパイロットは何を考えているのでしょうか?」

「何をって…言われてもなぁ…」

「直接本人に聞いたほうが早いんじゃないか?」

縦孔を破壊しながらよじ登ってくるモビルスーツの顔を見上げながら、

相沢・夏目・桂の3人は呆然とする。

すると、

「そんなことよりも、

 あの3人組が敗れた…」

真奈美たちの戦いをモニターしていた五十里は小さく呟く、

「え?、

 負けちゃったのですか?

 あの3人組…」

「そんなに強いのか?」

「どうするつもりだ?」

五十里の言葉に皆が驚くと、

「………」

五十里は相変わらずポーズを崩すことなく沈黙をし、

そして、

スッ

手を上げると、

「マイクを…」

と声をあげた。



「へ?

 ここが、新しい竜宮?

 なの…

 うっそぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

黒ゼンタイ3人組が合体した魔人を倒し、

変身を解いた真奈美は乙姫より

いま自分がいる浮城が乙姫が織姫に発注した新しい竜宮であるという

衝撃の事実を告げられ、

それに驚いた真奈美の叫び声が浮城の中に響き渡って行った。

「うーん、

 すっかり忘れていました…」

そんな真奈美に対して乙姫は申し訳なさそうにすると、

「はぁ…

 じゃっじゃっじゃっ

 あたし達何のために戦ってきたの?」

真奈美は乙姫に迫る。

「うーん…

 それは…」

真奈美の質問に乙姫は困惑していると、

『人魚諸君…』

大広間に五十里の声が響き渡った。

「あっこの声は!!」

五十里の声に真奈美が振り返ると、

『ふっふっふっ、

 どうかね?

 私からのプレゼントを倒した気分は…

 さぞかし晴れ晴れしいであろう』

と皮肉をこめた台詞を伝える。

「何が晴れ晴れしいよっ

 あんた、ココって竜宮じゃないのよっ

 一体、何様のつもりでこんなことをするのよっ

 もぅ、さっさと返してよ」

天井を見上げながら真奈美は怒鳴り返した。

すると、

『ほぅ…そうかねっ

 いや知らなかったな…

 わたしはただ大マゼランの惑星で放射能除去装置を受け取った姫君より、

 地球に行くのならこれを持ち帰って欲しい。

 と頼まれただけだよ』

真奈美の質問に返事をする。

「大マゼラン雲の姫君って?

 あんたたち、

 そんなところに行っていたの…」

五十里の返事に真奈美はキョトンとしていると、

「あの…

 まさか、織姫には何もしていないでしょうね」

今度は乙姫が声を張り上げた。

『ふははは…

 何も…とは?』

「だから…」

『具体的に説明してもらいましょうか、

 乙姫殿?』

「そっそんな事いっても…

 具体的に言えるわけないでしょう?」

五十里の問いかけに乙姫は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「ちょちょっと、乙姫様?

 何を…想像しているのですか?」

そんな乙姫の姿に真奈美は額に冷汗を流しながら尋ねると、

「マナまで…

 もぅ、エッチ!!!」

一人勝手に盛り上がりながら乙姫は真奈美の肩を叩く。

「あの……乙姫様…

(乙姫様こそ…ちょっと問題があるのでは?)」

ジト目になりながら真奈美は乙姫を見ていると、

『オホン!!!

 ふんっ、お前達が妄想するようなことは何も起きていない。

 我々はあくまでビジネスで向かったまでだ』

と咳払いの後、五十里はそう言いきった。

そのとき、

ズズン!!!

比較的近いところで爆発が起きると、

バラバラバラ…

広間の天井より砂が落ちてきた。

「きゃっ!」

降ってきた砂に真奈美は驚くと、

『……ナミ…』

真奈美の耳に櫂の声が微かに聞こえる。

「え?

 櫂?」

耳に響いたその声に真奈美は周囲を見ると、

「確かに…いま櫂さんの声が聞こえましたよね」

乙姫もソワソワしながら周囲を見渡した。




キィィィン!!!

「ちょぉっとぉ!!!

 スピード落としなさいって!!

 制限速度210ってあるでしょう」

浮城の中を血管のように張り巡らされているチューブの中を、

鈴なりの人を乗せたエアカーが赤い車体を輝かせながら爆走する。

「うるせーっ!!!

 ブラックバードは300で走っているんだ。

 こんな二階建て新幹線程度のスピードじゃ、

 この峠は勝てないんだよ」

水姫の警告に海人はそう言い返すと更にアクセルを踏み込む。

「ちょちょっとぉ…」

「あたし達…どうなるの…」

メータの針が300と書かれているエリアに近づいていくのを見ながら、

後部座席にしがみついている夜莉子とバニー1号は顔を青ざめる。

「もぅ…」

そんな後部座席のことはお構いなしに水姫はナビケーションシステムを立ち上げ、

「えーと、

 その先を右…って

 こらっ、

 左に行くんじゃない!!!」

手元のオトヒメレーダーを元にナビを始めるが、

しかし、

「横でゴチャゴチャ言っているんじゃない。

 俺は本能の赴くままに走るだけだ!!!」

更にヒートアップした海人はエアカーを爆走させる。

「ったくぅ…

 話にならん…」

そんな状況に藤一郎はため息をつくと、

「どうも、こいつにハンドルを持たせたのが間違ったみたいですね」

と水姫に向かって冷静に話し掛けた。 

「どうしましょう…」

暴走する海人を横目に見ながら水姫は困惑すると、

「ここは、先手先手を打ってコイツを誘導するしかありません」

「そうですね…でも」

「僕にいい考えがあります、

 この先を…左ですね」

困惑する水姫に藤一郎はあくまで冷静に話し掛けると、

「はっはい…」

水姫は反射的に返事をした。

すると、

「おいっ!」

ハンドルを握る海人に藤一郎は声をかけ、

「なんだよっ」

「何時までチンタラ走っているだ。

 さっさとあのチューブのインターに入らないか!」

文句をいう海人に藤一郎は左側に迫ってきたチューブを指差して怒鳴ると、

「てめぇ!!

 言ってくれるじゃないかっ」

その声に楯突くように海人は見えてきたインターで左に進路を変える。

「すげーっ」

ものの見事に海人を操縦して見せた藤一郎の言葉裁きに皆が驚くと、

「ふんっ

 もぅコイツとは何年付き合っていると思うんだ」

藤一郎はそう呟いた。



ズドォォォン!!

ガコン!!

真奈美たちの気配を探りながらモビルスーツの頭部を進めていたカナ(櫂)は

次第にその気配が強くなってきていることを感じ取っていた。

『この先に…

 マナがいる…』

目を廻して倒れているオギンに目もくれずにカナはマナのいるところまで、

あと僅かの位置にきていることを感じ取ると、

『うぉぉぉぉぉぉぉっ

 行けぇぇぇぇぇぇ!!!!』

の叫び声をあげ、

クルン!!

操縦桿を思いっきり引いた。

すると、

ギンッ!!

管制塔に突入以来、

アチコチぶつけまくり、

満身傷だらけになってしまったモビルスーツの頭部に

モノアイの光が勢いよく輝くと、

ズゴゴゴゴゴゴ!!!

天井を崩し、

壁を破壊し、

もうもうと砂埃を吹き上げながら突き進みだした。

『待ってろ、

 マナっ

 いま行く!!!』

もはやカナを止めるものはこの浮城には誰もいなかった。

ただ一人、人魚・マナである真奈美を除いて…



「なっ何かな…」

「さっさぁ?」

爆発音のあと、

次第に近づいてくる騒音にバニー姿の真奈美と乙姫は抱き合うと、

「ちょっと、

 今度はなによっ

 また変なモノを出す気?」

キッ!

真上を見上げながら真奈美は声を張り上げた。

しかし、

『………』

その問いに対しての五十里からの返答はなく、

ゴゴゴゴゴゴゴ…

この場に迫りくる音のみが辺りを支配していた。

「まっ真奈美さん」

「はいっ」

「変身しましょう!!」

青いコミューンを取り出して乙姫が変身を促すと、

「えぇ」

追って真奈美も赤いコミューンを取り出した。

そのとき、

『マナぁぁぁぁぁ!!!』

真奈美の耳に櫂の声がはっきり聞こえてくると、

「!!!っ

 櫂!!」

その声に真奈美は返事をする。

「櫂さん!!

 いっ一体どこに」

乙姫にも聞こえた櫂の声に向かって聞き返すと、

『マナぁぁぁぁ!!!』

再び櫂の叫び声が響き渡った。

すると、

ゴゴゴゴゴゴゴ!!!

広間を揺する振動は更に大きくなり、

そして、

ギンッ!!!

広間の向うにオレンジ色の輝きが大きく光った。

「なっ何かしら…」

「さぁ…」

ズドドドドドドドドド!!!!

大音響と共に迫ってくるオレンジ色の輝きを真奈美と乙姫は呆然と見ていると、

ズドォォォン!!!

再び爆発が起こり、

「きゃぁぁぁ!!!」

思わず真奈美は目を閉じ、悲鳴をあげる。

そして、

ゴワァァァァ!!!

ブワァァァァァァァンン!!!!!

猛烈な風と、ブロワー音と共に何かが真奈美の真横を通り過ぎると

ゴゴゴゴゴッ…

ブシュゥゥゥゥゥゥ!!!!

それは真奈美たちのいる場所から少し行った先で停止した。

「………なに?」

音が止まったことに真奈美は目を開け、

恐る恐る顔を上げると、

「んなっ!!!」

自分の目の前に傷だらけの巨大な顔が聳え立ち、

ギンッ!!

その顔の中央部でオレンジ色の光が輝いていた。

「なっなに…これぇぇぇ!!!」

高さ5m以上はあると思われる巨大な顔に

真奈美は髪の毛を逆立てながら悲鳴をあげると、

『マナッ!!!

 乙姫様!!!』

中より櫂の声が響き渡った。

「え?

 櫂?

 櫂なの?」

その声に真奈美は驚きの表情を見せながら聞き返すと、

ガコンッ!!

傷だらけの顔の上部でハッチが開き、

バシャッ!!!

その中から勢いよく水が吹き出すと、

キラッ!!!

中より朱色の鱗を輝かせる人魚が飛び出してきた。

「カナ…」

人魚を見た瞬間、真奈美は人魚としての櫂の名前を小さく叫び、

続いて、

「カナァァァァァ!!!!!」

大きく叫びながら飛び降りてきたカナを抱きしめた。

『遅くなってごめん!!』

「ずっと待っていたんだから!!!」

泣きながら二人は抱きしめあい、

そして、その間に真奈美の身体も人魚へと変身する。

「…カナ…

 よく迎えにきてくれましたね」

そんな二人の姿を見ながら乙姫は優しく声をかけると、

『乙姫様…』

カナは顔を上げて乙姫を見た。

『はいっ』

その顔に乙姫は満足そうに頷いたとき、

『…乙姫……』

再び乙姫の頭にあの声が響いた。

『!!』

その声に乙姫が振り返ると、

『どうかなされましたか?』

カナとマナが理由を尋ねた。

『いえ…

 この声は…確か…』

頭に響いた声に乙姫は

スッ

静かに目を閉じ、そして気持ちを落ち着ける。

すると、

『…乙姫……

 あなたは…乙姫なのですか…』

声は再び響いた。

『…誰?

 あなたは、誰なのですか?』

声に向かって乙姫は尋ねると、

『…わたしは…

 …あなた達に命を分け与えたもの……ウールー』

と声は返事をする。

『(ウールー…?

  まさか、始まりの星・ウールー?

  それがなぜココに…)』

その返事に乙姫は言い伝えで聞かされていたウールーからの声と思うと、

目を開け、

『カナ…

 私達は始まりの星ウールーにいるのですか?』

と尋ねた。

『あっはいっ』

乙姫からの突然の問いかけにカナは驚きながら、

あのN2超時空振動弾炸裂以降のことを説明をした。

『うそっ

 そんなことになっているだなんて…』

説明を聞いたマナが驚くと、

『判りました、

 私達には時間が無いみたいですね。

 じゃぁ、行きましょうか…』

乙姫はそう言うと天井を見上げた。



「五十里っ」

「くっ」

櫂と真奈美・乙姫の再会シーンをモニターで見ながら五十里は臍をかむと、

「五十里さんっ

 どうしましょうか?」

不安そうな面持ちで相沢が善後策を尋ねた。

「決まっているだろう!!

 ザケンナーを向かわせろ」

相沢の問いに五十里は櫂達の足止め要員としてザケンナーの出動を命じるが、

「五十里っ

 ザケンナーの制御システムが止められた!!

 さっき下で分かれた連中が突き止めたみたいだ!」

と桂の声が響いた。

「なにっ!!」

「全ザケンナーが休止モードに入っているっ

 クソっ」

ダァァン!!

全てのザケンナーを止められたことに桂は悔しがるようにして机を叩くと、

「ふっ所詮は操り人形か…」

悟ったように五十里は呟いた。

そして、

チャッ!

一旦仕舞って置いた拳銃を取り出すと、

「いざとなれば…

 ふんっ

 たかが人魚3匹じゃないか…

 3発あれば足りる」

と拳銃を見つめながら呟く。



シュォォン!!

ピッ

ピッ

「しかし…なかなか捕まりませんね…」

「えぇ、

 乙姫様達もあっちこっち動いているみたい。

 どうも、あのザケンナーとか言うやつと戦っているみたいね」

チューブの中を爆走するエアカーの中、

後部座席より覗き込む藤一郎の言葉に

助手席に座る水姫はオトヒメレーダーとエアカーのカーナビとを交互に見ながらそういうと、

「おいっ、

 右に傾いているぞ…

 もぅ少し左によってくれ、

 壁に接触する」

ハンドルを握る海人は後部座席にしがみつく藤一郎たちに注意をする。

「判っている。

 しかし、これが精一杯なんだよ」

海人の声にすかさず藤一郎が反論をすると、

ガクン!!

エアカーが大きく揺れた。

「うわぁぁぁ!!!」

「きゃぁぁ!!」

その揺れにバニー1号や雉沼メイド隊の美麗が悲鳴を上げると、

「こらぁ、ご婦人達も乗っているんだ

 もっと、慎重に運転しないか!!」

藤一郎が怒鳴り声を上げた。

「うるせーっ

 こっちも精一杯なんだよ」

「なんだとぉ」

「やるか?」

「面白い!」

「ちょちょっと、海人っ

 よそ見しないで、

 ハンドルハンドル!!」

いつものパターンの喧騒は始まると、

「ねぇ、沙夜ちゃん…」

風に巫女装束をはためかせる夜莉子が尋ねた。

「なぁに?」

「あのさっ

 海人さんって普通免許持っていないんでしょう?」

「うん、そうよね…

 高校2年生って言っていたから…」

「じゃぁさっ

 これって無免許運転なのかな?」

「はぁ?」

「やっぱ、問題あるよね」

「いやっ

 別に良いんじゃないかな?

 ここは日本じゃないし…

 それに、教習所にはエアカーなんて置いてないし…」

「そう…それなら良いんだけど」

ワイワイ騒いでいる海人たちを他所に、

考え込む夜莉子の表情はどこか暗かったが、

「(って言うか…

  こんなこと、何で問題にするのかな?)」

沙夜子はこんなことで考え込んでいる夜莉子の価値観が判らなかった。



『乙姫さまっ

 マナっ』

マナと人魚姿になった乙姫と共にカナはモビルスーツのコクピットに座ると、

二人に声をかける。

『はいっ』

『えぇっ』

その声に二人は返事をすると、

『行きますっ』

カナはそう叫ぶと、

クルン!!

操縦桿を上へと向ける。

すると、

ゴゴゴゴゴゴ!!!!

ブワッ!!!

バーニアが一斉に吹き上げ、

モビルスーツの頭部を五十里達がいるコントロールルームへと飛び上がって行く。

竜宮出撃時には鋭く輝いていた左右両側の角も無くなり、

また、至る所に凹みや傷を万面無く刻み込んだ満身相違の姿で頭部は飛び、

そして、コントロールルームの壁に激突をすると、

バキバキバキ!!!

その壁を突き崩した。

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

『!!!っ

 五十里!!!!』

ひな壇状にレイアウトされたコントロールルームに頭部が突っ込むと、

その上に座っていた五十里の姿がコクピットのモニターに映し出された。

「くっくっ

 待っていたよ、人魚…」

パネルスクリーンが掛かる壁を突き崩して現れたモビルスーツの頭部に

五十里は慌てることなく悠然と立ち上がると、

チャッ

机に出していた拳銃を握り締める。

「いっ五十里さん」

「うろたえるなっ

 お前達はそこのDとマークしてあるところに立っていろ」

相沢たちに向かって五十里はそう申し付け、

一歩

また一歩と前に出る。

すると、

キィ…

頭部のハッチが開き、

バシャッ!!!

その中より水が噴出すと、

シュルッ!!!

噴出した水を衣のように身体に巻きつけ、

3体の人魚、カナ・乙姫・マナが姿を見せた。

「ほぅ…

 これはこれは…

 人魚の姫君御自らの登場ですか…」

3人の人魚を見据えながら五十里は余裕の素振りをして見せると、

『五十里さん…』

真中に立つ乙姫が話し掛ける。

「なんでしょうか?」

『私は…

 このたび竜宮を離れ色々なことを見て、

 そして勉強をさせられました』

「ほほぅ…」

『地上のこと、

 学校のこと、

 人々のこと…いっぱい教えてもらいました』

「で?

 それを報告にわざわざ私のところに?」

『えぇ…

 ただ、その中で一番心に残っているのは、

 あの宇宙戦艦ヤマモトのバーチャル艦長ヤマモトさんでした。

 人間でも、精霊でもない、

 いわば人間の手で作り出されたヤマモトさんは最後まで戦うことで、

 自分の存在を認めてもらおうとしていたのです。

 判りますか?

 なぜ、そこまでしてヤマモトさんが戦おうとしたのか?』

「さぁ?

 わたしには機械の気持ちがわかりませんからなぁ」

『そうですか、

 あなたならそう言うと思いました。

 あの土星での戦いにまるでゴミを捨てるかのように

 ご自分の船をいとも簡単に犠牲にしたのですから…』

「はっはっはっ

 何を言い出すのかと思えば、

 そのことですか。

 はははは…面白いことを言う。

 しかし、アレはゲーム、

 ゲームなのだよ。

 人間、誰一人の血も流さないただのゲーム。

 お互い恨みっこなしのゲーム…

 それが何か?」

『あなたって人は…』

「ふふふっ

 ゲームだから思いっきり遊ぶことが出来るのですよ、

 もっとも、ビジネスと言う名のゲームでは、

 多少人の血も流れますけどね…」

驚く乙姫に向かって五十里はニヤリと笑ってみせると、

『お前!!!』

シャキッ!!

話を聞いていたカナが竜牙の件を抜いて飛び出した。

が、その途端。

パンッ!!

コントロールルームに銃声の音が響き渡ると。

『!!!!』

カナの肩からうっすらと血が滲んでいく。

『カナ!!』

それを見たマナが叫び声を上げると、

「うーん、残念、

 外したか」

構えた銃口より煙を上げながら五十里はそう呟く、

『貴様…』

血が滲む肩を押さえながらカナが五十里をにらみつけると、

「動くなっ

 剣と銃、

 この場ではどっちが優れているかは判るだろう?

 いま動けば次の標的は乙姫だ」

五十里は冷静にそう言うと、

銃口を乙姫に向ける。

『なんてヤツなの!!』

「ふん何とでもいえ」

顔を真っ赤にして怒るマナに五十里はそう言うと、

「ふふっ

 乙姫様のお説、ごもっとも…

 とでも、お返事申し上げたらいいのかな?

 しかし、残念ながら私にはその考えが理解できません。

 それでも…

 と仰るのなら、

 どちらかが消えるまでのことでしょうか?」

と乙姫に言って聞かせた。

『あなた…』

五十里の言葉に乙姫が肩を震わせると、

「ふふふ…

 残念ながらこの場の支配者はこの私…

 さようなら、乙姫様…」

自信たっぷりに五十里はそう言うと、

ゆっくりと引き金を引いていく。

『貴様っ!!』

それを見たカナが飛びかかろうとしたとき、

ズドォォォン!!!!

閉じられていたコントロールルーム下部のドアが吹き飛ぶと、

真っ赤なエアカーが飛び込み、

ギャギャギャッ!!!

激しくスピンをしながら停車した。

「なにっ!!」

突然の乱入者に五十里が驚くと、

「お前が横からゴチャゴチャ言うからだろうが!!!」

「なんだとぉ!!!

 そっちこそ、ちゃんと前を見て運転しろって言っているんだ!!」

エアカーの中からお互いに胸倉をつかみ合いながら海人と藤一郎が飛び出し、

殴り合いの喧嘩を始めだしてしまった。

「ちょっとやめなさいよ!!!」

そんな二人に水姫が割って入ろうとしたとき、

「あれ?

 櫂さんじゃない…」

「あっ本当だ…

 それにあの人は乙姫様じゃない?」

続いて車から降りてきた沙夜子たちが

部屋の空中で水の衣をまとっている人魚体の3人を見つけ

きょとんとする。

すると、

「ちっ!」

拳銃を構えていた五十里はすばやく駆け出し、

相沢たちの所へと向かっていく、

『あっ待て!!!』

五十里が逃げ出したのを見たカナが直ぐに追いかけるものの、

一足早く、五十里が合流をすると、

シャッ!!!

その前に透明な壁が立ちはだかり、

カナの行く手を塞いだ。

ドンドンドン!!!

『こらぁぁぁぁ!!!』

鬼気迫る表情でカナは壁を叩きまくるが、

「ふっふっ

 人魚君、命拾いをしたな、

 まっ今回はココまでだが、

 今度あったときは容赦はしないからそのつもりで、

 では…」

不敵な笑みを浮かべながら五十里は手を上げると、

シュゥゥゥン!!!

ゆっくりとその部分の床が沈み、姿を消していった。

『こらぁ!!!

 くそぉぉぉぉ!!!!

 待てぇぇぇ!!!』

壁にピッタリと顔をくっつけながらカナは声を上げていると、

程なくして、

ズゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!

大音響と共に浮城に聳え立つ一棟のビルの下部から煙が吹き上がり、

シュボォォォォ!!!!

そのビルが飛び出していった。

『あれで地球へ行くつもりなのか?』

『こんな仕掛けがあったなんて…』

ウールーの重力を振り切って飛び上がっていくビルを見送りながら、

カナとマナは驚いていると、

『さぁ、

 何をしているのです?

 あの人たちのことは忘れましょう。

 これから私達にはやらなくてはならない大事な使命がありますから』

乙姫はそう言うと、青く光るウールーの海を見つめ。

そして、次第に接近をしてくる赤い星、火星を見上げた。



『この星が地球に接近する前に何とかしないと…』



つづく





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