風祭文庫・人魚変身の館






「狙われた乙姫」
【第54話:熱闘、浮城攻防戦!】


作・風祭玲

Vol.580





ドゴォォォォン!!!

青く輝くウールーの海上に浮かぶ浮城の下部、

クレーターがだらけの小惑星を模した構造物の一角より爆発音が響き渡ると、

バラバラバラ!!!

爆風と共に崩れ落ちてゆく岩や人工物が海の中へと吸い込まれ、

煙が去ったそのあとには黒くポッカリと口を開く穴が姿を見せる。

「よーしっ

 カマの底に穴が開いたぞ!!

 乙姫様救出部隊、全機突入せよ!!」

ブラックタイガー隊が通れる大きさの穴の存在を確認した成行が

声を震わせながら怒鳴り声を張り上げると、

『了解っ!

 ただ今より突入します』

竜宮との共同作戦で浮城の最上部を攻撃していたブラックタイガー隊は

その返事と共に踵を返すと、

次々と浮城の下部へと回りこみ、

一機、また一機と開けられた穴より内部へと突入を図っていく。

『よしっ

 これで最後だ』

最後の機体が穴の中に吸い込まれて行くのをカナ(櫂)は確認すると、

『オギン!!

 行くよ!!』

『はいっ』

『カナ・オギン!!

 行きまーーーす!!!』

の声とともにカナが搭乗するモビルスーツはモノアイを輝かせ、

浮城へと突入していった。

ガツン!!

ガツン!!

爆発によってこじ開けられた穴の幅は狭く、

カナが操縦するモビルスーツは崩壊した構造物に衝突をしながらも進んでいく。

そして、長さ100m近くはあろうかと思われる崩落部分を抜けると、

ゴワッ!!

一気に視界が開け、

係留されている宇宙戦艦の艦影がカナを迎えた。

『すげー』

整然と並んでいる宇宙戦艦や宇宙空母の脇をすり抜けながら、

カナは感心しながらも、

チッ!!

真正面に姿を見せた宇宙戦艦に向け照準を合わせるが、

しかし、すぐにその手を外し、

『いまは攻撃するときじゃないか…』

と呟きながら、頭の上で天井のように広がる空港、いや、宇宙港を見据える。

そして、程なくしてその宇宙港の一角に一筋の煙が上がると、

たちまち本数を増やしていく。

『あそこかっ』

その煙筋がブラックタイガー隊の突入点であることをカナは判断すると、

ブワッ!!

モビルスーツのバーニアを全開してその場へと急行しようとする。

ところが、

『!!!

 邪気が来た!!』

瞬間的にカナは何かの気配を感じ取ると、

反射的に操縦桿の角度を変える。

その途端、

ズドン!!

爆発音と共に衝撃がモビルスーツを襲い、

『うわっ!!!』

そのショックでモビルスーツは制御を失うと、

煙を噴きながら軌道を大きく逸らしてしまった。

『うわぁぁぁぁ!!!』

『きゃぁぁぁ!!!

 かっ櫂さん。

 うっ宇宙船が迫ってきています』

『判っている!!

 くっそぉ!!

 とまれぇぇ!!』

モニターに映し出される宇宙戦艦の艦体を凝視しながら

カナは操縦桿を思いっきり引くのと同時にバーニヤ制御をかけた。

すると、

ドンッ!!

間一髪、

カナの操縦するモビルスーツは進行方向を変え、

宇宙戦艦の艦体の表面を舐めるように飛行していく。

『ふぅ…

 なんとか間に合ったぁ』

モニターの中を流れてゆく艦体の映像を見ながらカナが一息ついていると、

シャシャシャ!!!

モビルスーツの上空より狙う打ちするかのように幾本もの光の筋が突き刺さってくると、

ドォン

ドォン!

ドォン!!

直撃を受けた真下にある宇宙戦艦の艦体に次々に穴が開き、

たちまち爆発が巻き起る。

『櫂さぁん!!』

『こんちくしょう!!!』

姿の見えない攻撃にカナは怒鳴りながら、

直感でその狙撃ポイントを感じ取ると、

ほぼ同時に、

ガコン!!

ズシャァァァ!!!

モビルスーツ本体から切り離された両腕がビーム砲を放ち反撃に出た。

しかし、

『ちぃぃ!!』

カナの視線はすでにその場所ではなく、

別のところの方を見る。

『櫂さぁぁん!!』

『オギン、ちょっと黙って!!』

『!!!っ

 そこだぁぁぁ!!』

悲鳴をあげるオギンに向かってカナは口を慎むように告げるのと同時に、

ある一点を感じ取るとそに向けて集中する。

すると、

ヒュンッ!!

本体と有線で繋がっている腕がその方向を向くと

再びビーム砲を放った。

ドォォォン!!!

『やったか!!』

ビーム砲に貫かれ小型の宇宙戦艦が火を吹くのを見ながら、

カナは狙撃者が倒されたことを祈るが、

『!!!っ

 ちっ!!

 そこか!!』

自分に向けられている邪気がいまだ健在であることに気づき、

即座にそのエリアに向け注意を向ける。




その頃、橋頭堡を確保した海人や

美少女戦士達は強行着陸したブラックタイガーから降り、

一斉に中央部にある管制塔へと向かって走っていった。

そして、

「シャイン・アクア・イリュージョン!!」

「ファイヤーソォォウル!!」

「シュープリィームサンダー!!」

「ワールダァ…シェイキング!!」

「ディープサブマージ!!」

「デッドスクリィィム!!」

次々と必殺技の集中砲火を行い、

『ザケンナァァァァァ!!!』

宇宙港の管制塔を警護していたドール・ザケンナーを倒すと、

たちまち管制塔を制圧する。

「うひゃぁぁ…

 すげぇぇ!!」

美少女戦士たちの鮮やかな仕事運びに

海人以下の面々は唖然としていると、

「何をしているのっ

 早くエレベータに乗りなさい」

とエレベータを確保した赤の戦闘服に身をつつむ美少女戦士が声をあげた。

「あっはっはい」

その言葉に沙夜子や藤一郎そして水姫に海人が乗り込むと、

ダダダダ!!!

追って7人の美少女戦士達も乗り込み、

「いってらっしゃーぃ!」

この場に踏みとどまって管制塔を守る2人の美少女戦士に送られながら、

グンッ

エレベータは動き始めた。

「はぁ、取りあえず第1関門突破ね」

動き始めたエレベータに沙夜子はホッと一安心すと、

「まだ安心するのは早い」

「そうよ、この先何が待ち構えているか警戒を怠っちゃダメよ」

その声を打ち消すように美少女戦士たちは呟き、

そして、

「そうだ…

 これを成行艦長から預かってきました」

と言いながら緑の戦闘服姿の少女戦士が

直径15cmほどの大きなストップウォッチを思わせる機械を水姫に手渡す。

「これは?」

機械を眺めながら水姫が尋ねると、

「乙姫様達を探すためのレーダー、

 ”オトヒメレーダー”だそうです。

 この上にあるボタンを押すことで

 緑の画面に表示されているメッシュのスケールが変わり、

 また発光点の色の変化と併せれば、

 目的の位置と座標がわかるそうです」

と少女戦士は説明をする。

「へぇ…

 確かにこれなら、むやみやたらに走り回らなくてもすみそうだな」

オトヒメレーダーを覗き込みながら海人が感心していると、

カチッ!

早速水姫がボタンを押す。

すると、

ポッポッポッ!

乙姫レーダーの表面に幾つもの光点が輝き、

その中央には幾つもの光点が密集する。

「あれ?

 これって?」

カチッ

カチッ

スイッチを弄りながら水姫はその理由を探ろうとすると、

「俺達のすぐ近くに居るってことか?

 乙姫様は?」

怪訝そうに眺めながら海人は周囲を見回した。

「あの…

 このレーダーって乙姫様の何を検出しているのですか?」

そんな状況を見た藤一郎が聞き返すと、

「さぁ?

 あなた達人魚が持っている竜玉に反応する。

 と聞きましたが…」

藤一郎の質問に美少女戦士が答える。

「竜玉?

 竜玉って…

 おいっ、自分達のその竜玉に反応しているんじゃないのか?

 オトヒメレーダーは?」

美少女戦士の返事を聞いた藤一郎が海人と水姫の胸で輝く竜玉を指差すと、

「へ?」

「あっ!」

藤一郎のその言葉に二人は顔を真っ赤にし、

「やっやーねぇ…」

「水姫っそっそかしすぎるぞ」

「あははははは…」

白けきった場の雰囲気を誤魔化すように笑い声を上げた。

「ふぅ、あーびっくりした」

「脅かさないでよね」

そんな二人に沙夜子と夜莉子は巫女装束の胸に手を当てながら、

安堵の表情を見せると、

「ごめんねー」

二人に向かって水姫は手を合わせた。

グンッ!!

「さて、着いたみたいだ」

エレベータの動きがたまったことを感じた少女戦士が声をあげると、

「じゃぁ、私達はこの浮城の制御システムの確保に向かいます」

美少女戦士たちは水姫たちに告げ、

「判りました。

 では私達は乙姫様のところへ向かいます」

それに答えるように水姫は返事をすると、

「では」

「健闘を祈る」

互いに言葉を交わして二手に分かれていった。



その水姫たちが探しに向かっている乙姫と真奈美はというと、

「でやぁぁぁ!!」

『おーっとっ』

「うぉりゃぁぁぁ!!」

『あはは、どこを見ているのさ』

五十里が居るコントロールルームの隣の部屋で、

二人が変身したキュアな少女戦士と、

その行く手を阻む、黒ゼンタイに身をつつんだ

マッチョな男女3人組とで死闘を繰り広げていた。

『ふはははは!!!

 この黒い三連星が放つ

 ジェットストリームアタックを簡単に破られると思うな!!』

『お嬢ちゃんたち、

 大怪我をしたくなければ、大人しくしていることね』

『悪いことは言わない。

 この場を引き下がることだ』

「(ハァハァハァ)

 くっそう、全然パワーが違う…」

響き渡る3人の笑い声に

真奈美が変身した黒コス姿の少女戦士がふと弱音を吐くと、

「ダメよ、

 諦めちゃぁ…」

そんな彼女に乙姫が変身した白コス姿の少女戦士が励ます。

「でも…」

「大丈夫(ニコっ)」

攻撃を悉くかわされ、すっかり弱気になっている黒コスの少女戦士に、

白コスの少女戦士は笑みを浮かべると、

「わたしに考えがあります…」

と呟いた。

「考え?」

「ちょっと耳を貸して」

「えっえぇ…」

『ふふっ

 何をしても無駄だというのに』

髪の毛を逆立て、相談する二人を見下ろしながら黒ゼンタイの3人は腕を組む。

「判ったわ…

 マーブルサンダーも利かないのならこれしかないみたいね」

「えぇ、やって見る価値はあるでしょう?」

「うん」

話がまとまったのか二人は頷くと、

「行くよブラック!!」

「任せたわ、ホワイト!!

 でやぁぁぁ!!」

二人は3人組に向かって駆け出していった。

『ふんっ

 無駄だといっているだろうが!!!』

向かってくる少女戦士の姿に黒ゼンタイ3人組は一直線に並ぶと、

『うぉりゃぁぁ!!!

 ジャットストリームアタァック!!』

の叫び声と共に向かっていくが、

シュンッ!!

『なに?』

いきなり少女戦士の姿が目の前から消えると、

ドンッ!!!

その直後、先頭の小男の頭に二人の片足が蹴る。

『わしを踏み台にしたぁぁぁ!!』

その感覚に小男は叫び声をあげるのと同時に、

「でやぁぁぁぁ!!!」

ゲシッ!!!

『うごぉぉっ』

少女戦士の二つの膝が小男の真後ろにいる女の顎を直撃し、

『おのれっ!』

目の前の仲間が蹴り上げられてことに後ろにいた長身の男が

向かって右側に居る白コスの少女戦士に殴りかかる。

しかし、

「はっ!!」

その腕を白コスの少女戦士は軽くいなすと、

「お前の相手はあたしだ!!!」

の声と共に

ドゲシッ!!

倒れて行く女の身体を足場にした黒コスの少女戦士が放った蹴りが炸裂した。

ドサッ

ドサッ

『うぐっ』

『馬鹿なっ

 我々のジャットストリームアタックが破られるとは』

「さぁ、これで形勢逆転ね」

仲間の二人が倒され、

事実上、一人だけになってしまった小男に向かって

黒コスの少女戦士が胸を張りながら迫ると、

『くっくっ

 これしきの事で勝ったと思うなよ』

突然、小男は意味深な台詞を吐き、

そして、

『ハァッ!!』

気合を込め始めだした。

「なっなによっ

 最後の悪あがき?」

小男に向かって黒コスの少女戦士が声をあげると、

『ふふふ…はぁっ!!!』

『くっくっ…うぉぉっ!!!』

倒されたはずの二人も起き上がって同じように気合をため始めた。

「ブラック!!」

「ほっホワイト…」

気合をためる3人の姿に白と黒の二人は身を寄せ合う。



「やつら、何をする気だ?」

その模様をモニターで見ていた夏目が五十里に理由を尋ねると。

「ふっ」

いつものポーズをしつづけていた五十里の口元が微かに開く、

すると、

「五十里さーん、

 侵入者は二手に分かれました!!」

下部の宇宙港より浮城に侵入してきた侵入者が二手に分かれたことを相沢が告げると、

「ネズミめ…」

五十里はそう呟き、

「ザケンナーを向かわせろ」

と指示をする。

「しかし、こうもザケンナーを投入して大丈夫か?」

コトッ

円形をしたチェス版を思わせる操作盤に

桂はザケンダーの部隊を示す駒を置きながら尋ねると、

「問題は無い。

 それよりもいまは侵入者を捕まえることだ」

五十里はそう言いきった。



『くのぉぉぉ!!!

 落ちろぉぉぉ!!!』

シュバシュバシュバ!!

カナ(櫂)の叫び声と共に操縦をするモビルスーツの指先からビーム砲が放たれ、

ズドムッ!!

その直撃を受けた宇宙戦艦から爆発と共に煙が吹き上がった。

『ちっ

 逃がしたか…』

浮城突入時より執拗に攻撃を仕掛けてくるなかなか姿を見せない相手に

カナは神経をすり減らしつつも、

指先までピリピリと来る位に感覚の感度を上げ、

ランダムに攻撃を仕掛けてくる相手の半歩先の攻撃を試みる。

そして、

『!!っ

 そこぉぉぉっ!!』

一瞬の隙を突いてカナの怒鳴り声が響くと、

ズシャーッ!!

モビルスーツのビーム砲が火を噴き、

宇宙戦艦の陰よりビームライフルを構える白いモビルスーツを捕らえた。

『やったか』

ビーム砲が命中し、

首が落ちた相手のモビルスーツの姿にカナは思わず尾びれを叩くが、

しかし、

シュパァァン!!

ズドムッ!!

『なにっ』

向うが放ったビームライフルがカナが操縦するモビルスーツの動力炉を射抜いた。

『ちぃぃっ!!!』

バシュッ!!

カナは即座に自分が搭乗している頭部を本体から切り離すと、

『これでも食らえぇぇぇっ!!!』

暴走し放電を始めだした本体部分を相手に向けて体当たりさせるべく、

フルスピードで突撃させる。

シュパァァン!!

シュパァァン!!

首が落とされても迫って来るモビルスーツの姿が見えるのか、

相手の白いモビルスーツは盛んにビームライフルを乱射するが、

ドガン!!!

ガラガラガシャァァァン!!

ビームライフルで何箇所も打ち抜かれたカナのモビルスーツが激突すると、

そのままの勢いで係留中の宇宙戦艦の中へと突っ込んでいく。

その直後、

ドゴォォン!!!

宇宙戦艦内で爆発が起きると、

『ざけんなぁぁぁぁぁ〜』

白いモビルスーツに搭乗していたドールのものか、

叫び声を響かせながら宇宙戦艦は幾つものパーツに分裂しながら落下していく。

『けっ、手間を駆けさせやがって…

 ざまみろ!!』

落ちてゆく宇宙戦艦を見据えながらカナは捨て台詞を吐くと、

『すっかり遅くなった…』

搭乗するモビルスーツの頭部をブラックタイガー隊が制圧した宇宙港へと向かわせて行った。




ドタドタドタ!!!

広大な浮城の中に駆け足の音が響き渡ると、

海人を先頭に藤一郎、夜莉子、沙夜子、水姫たちの救出部隊が駆け抜けていく。

ハァハァハァ

ひぃひぃひぃ

「ねぇ、ちょっと休みましょうよ」

美少女戦士たちと別れてから走り通しだったためか、

夜莉子が音を上げてしまうと、

「そうね、ちょっと一休みしましょう」

オトヒメレーダーを掲げながら水姫が提案した。

「ちっ、体力の無い奴だ」

息を上げているメンバーを見ながら海人が呟くと、

「あのね(ひぃひぃ)

 みんな(はぁ)

 あなたみたいな(ひぃ)

 人じゃないのよっ(はぁはぁ)」

肩を大きく動かしながら沙夜子が反論する。

「まったくだ、

 少しは手加減を言うのも知れ」

沙夜子の言葉に藤一郎も同調すると、

「けっ」

海人はそっぽを向いてしまった。

「まったく…

 で、水姫さん、

 乙姫様はどの辺りにいるのですか?」

そんな態度の海人を睨み付けた後、

藤一郎は水姫に尋ねると、

「うっうん」

ピッ

ピッ

ピッ

オトヒメレーダーのスイッチを操作しながら

水姫はいま時点での乙姫のいる地点と、

自分達がいる地点との距離を測る。

「そっそうねぇ…

 この竜気の強い輝きが乙姫様の居場所だと思うから、

 そこまで…

 うーん、まだあるかしら…」

レーダーの緑のスクリーン上に輝く光点の位置を計りながら、

水姫は思案をする。

「この端っこにある大小二つの光ですか…」

「えぇ…

 この大きな点が乙姫様、

 で、もぅ片方は真奈美さんだと思うわ」

「なるほど」

レーダー画面を覗き込みながら水姫と藤一郎が話し合っていると、

「おいっ」

突然、海人の声が響き渡った。

「なんだ?」

その声に藤一郎が振り返ると、

「あれを見ろよ、

 エアカーだ!

 あれに乗ろうぜ」

そう言いながら海人は走っていくと、

SFチックな流線型をした真っ赤なエアカーに駆け寄っていった。

「まったく…

 ガキじゃあるまいし…」

そんな海人の姿に藤一郎が皮肉を言いながら、

「どうします?」

と水姫に尋ねた。



「……だからと言って…

 なんで全員が乗るんだよ」

それから5分後…

本来二人乗りと思われるエアカーに鈴なりになって乗車したメンバーに向かって

海人が怒鳴り声を上げると、

「しょうがないだろう!!!

 これ1台しかないんだから…」

「そうよ、

 一蓮托生、呉越同舟って言うじゃない」

「こうなったら地獄の底まで付き合いますわよ」

という声が振ってくる。

「もぅ

 大体、俺が最初に見つけたんだぞぉ…これ」

その声に海人は文句をいいながらエアカーを起動させる。

すると、

ブワッ!!

エアカーの下より勢いよく空気が噴出し、

フワリ…

重量オーバー状態にもかかわらず車体が浮き上がる。

そして、

「おぉ、浮かんだぞ」

「すごい…」

その様子に皆が一斉に驚くと、

「ふっふっふっ

 何人たりとも俺の前を走ることは許さねぇ!!!

 しっかりしがみつけよ、

 落っこちても…知らないからな!!」
 
ハンドルを握る海人の表情が変わり、

「行け、悪魔のZ!!!」

 この峠!!

 プロジェ●トDが貰ったぁぁぁ!!!」
 
の声を残して、

シュバッ!!!

海人が操縦するエアカーは浮城の周囲を巡るチューブの中へと消えていった。



『はぁ〜っ』

『うぉ〜っ』

『ふぐ〜っ』

「なっなによっ!!」

「どうする気かしら?」

ジェットストリームアタックを破られた黒ゼンタイ3人組が気合を込め続け、

その姿に白・黒の少女戦士たちは言い様も無い不安に駆られていた。

すると、

『くふふふっ

 お嬢さんたち…

 我々の真の姿をお見せしよう』

一番前で気合を込めていた小男が二人に向かってそう告げると、

『うぉぉぉぉぉ!!!』

込めていた気合を発散させるかのように、

突然、叫び声をあげた。

「きゃっ!」

その声に二人の少女戦士は悲鳴を上げるが、

『うぉぉぉぉ!!!』

そんなことには構わず、

更に小男は雄叫びをあけると、

ズニュッ!!

その背中より尻尾のようなモノが伸び、

見る見る後ろで気合を貯めている女へと向かっていく、

そして、

クワッ!!

女の前で尻尾が大きく口を開くと、

ちゅるん!!!

まるで蕎麦でも啜るかのように飲み込んでしまった。

「うひゃぁぁぁ!!!」

それを見た白コスの少女戦士は悲鳴を上げるが、

『ぐふふふ…』

黒ゼンタイの小男は笑みを浮かべ、

今度は女の隣の長身の男へと尻尾は向かい、

男も同じように飲み込んでしまった。

「うっそぉ…

 飲み込んじゃったよ…」

目の前で起きた現実が信じられないのか、

黒コスの少女戦士はそう呟くと、

『ぐふふふふ…』

仲間二人を飲み込んだ小男は笑い声を上げ始め、

そして、

ズドン!!!

『ふわーはっはっはっ!!!

 合体完了!!

 完璧だ!

 無敵だ!

 パーフェクトだ!!!

 私はパーフェクトになったのだ!!!』

と嵐のようなオーラを吹き上げ小男は叫ぶ。

すると、

メキッ

メキメキメキ!!!

軋む音を上げながら見る見る小男の身体は巨大化し、

やがて、

ギンッ!!

黒い全身に赤い目を輝かせる魔人となると、

『ふははははは…

 このパーフェクトなわたしがお前達のお相手をしよう…

 さぁどこからでも掛かってくるがよい!!!』

と少女戦士を見下ろしながら自信たっぷりに挑発した。

「なによぉ!!!

 でかいからって調子に乗るんじゃないわよ!!!」

「そうよっ

 そんな姿に怯えて引き下がる私達じゃないわ!!」

魔人の挑発に少女戦士たちはそう言い返すと、

「いくよっ」

「えぇっ」

「でやぁぁぁ!!!」

二人はこれまでの疲れも見せずに飛び掛っていった。

しかし、

ズドン!!!

「きゃぁぁぁ!!」

魔人の放った一撃によって二人は弾き飛ばされ、

幾重もの壁を突き破り、

そして床をもぶち抜いてしまうと、

ヒュンッ!

ドサッ!!

「あうっ」

「うぐっ」

巨大な空間へと落ちていってしまった。

『ふふふふっ

 呆気ない…』

その巨大なパワーを見せつけた魔人は赤い目を細め、

ブワッ!!!

飛ばされた二人を追って移動を始めた。



ズドン!!

『ん?

 何じゃあれは?』

横転ている宇宙戦艦ヤマモトの艦橋より、

爆音と煙を吹き上げはじめた宇宙港の管制塔を見上げながら、

水神が驚いていると、

『水神様っ大変です!!!』

の声と共に海魔が飛び込んできた。

『落ち着け、何事じゃ?』

その声に水神が声を張り上げると、

『せっ戦争ですっ

 外側から侵入してきた者達と、

 管制塔を警護している者とで戦いが!!』

と海魔は状況を報告する。

『戦争じゃと?』

報告を聞いた水神は驚きつつも、踵を返すと

『そうか…

 乙姫殿の救出に来られたか』

と呟き、じっと煙を見つめた。

そして、一時は激しく吹き上がってきた煙が見えなくなった頃、

『!!っ』

何かに水神が気づくと、

『どうかなされましたか?』

その姿に海魔が恐る恐る尋ねた。

『いっいかんっ

 これはまずい…』

何かを見つめながら水神は呟き、

ポゥ…

その身体が金色に輝き始めた。

『うわっ

 なっなっなんですか』

輝き始めた水神の姿に海魔は腰をすかすと、

『”マメきゅあ”をいじめちゃだめぇぇぇ』

突然、水神が叫び声をあげ、

『水のパワーを受け取るポポ!!!』

と叫びながら、

クワッ!!

その口を大きく開くのと同時に、

ドムッ!!!

2重螺旋構造の光の矢を解き放った。

そして、その矢は浮城の中を一気に突き抜け、

降りてきた黒ゼンタイ3人組が一人に合体した魔人と対峙している

二人の少女戦士”マーメイドきゅあ”のグローブに突き刺さる。

「!!!!っ」

「!!!!っ」

「なに?」

「これ?」

突然起きた出来ことに二人は自分達のグローブを見ると、

シャッ!!

そこには虹色を輝かせるブレスレットが燦然と輝き、

二人にパワーを送り始めた。

「あっ…身体の痛みが…」

「消えていくわ…」

「それに力も…」

「うんっ、みなぎってくる」

「いける」

これまでの疲れが取れ、

またパワーがみなぎってくることを感じとった二人は互いに頷くと、

ギュッ

手を握り締め、

「希望の光よ!」

「光の石よ!」

と声をあげた。

『ふんっ、

 何が起きたのかは知らないが、

 無駄なことだ!

 このパーフェクトな私に勝てるなど妄想はやめるんだ』

声をあげて二人の姿を見据えながら魔人は

手を握る二人に向かって手を振り下ろした。

しかし、その直前、

『マメきゅあ・レインボォォォォーストォォォォームッ』

手を握る二人は声を合わせてそう叫び、

バッ

バッ

相次いで拳を突き出すと、

クッ!!

力をこめる。

そして、一呼吸置いて、

シャッ!!

二人の前に虹色をした球形の輝きが姿を見せると、

ドムッ!!

怒涛の流れとなって魔人に襲い掛かってきた。

『ぬわにぃ!!!』

見るまもなく迫ってきた虹の流れに、

『うわっ!!』

魔人は受け止めるが、

しかし、

ズズズ−ッ

『んなっ…』

そのパワーに足が動きジリジリと後退してゆく。

「まだまだ…」

「まだよぉ」

フンッ!!

魔人が押し流されてゆく姿を見据え、二人は更に力をこめると。

ズズズズズズズ!!!!

『うっうわぁぁぁぁぁ!!!!』

ついにパワー負けした魔人はその流れに飲み込まれ、

流れの中で消滅すると、

コロン

コロン

二つの石が転がり落ちていた。



ハァハァ

ハッハッ

「かっ勝ったのかしら…あたし達」

「そ、そう見たいね」

魔人が残した石を拾い上げ、

二人はペタンと座り込むと、

「で、ここはいったどこなの?」

一息つけた黒コスの少女戦士は変身を解き、

バニー姿の真奈美となって立ち上がり、

広大な宮殿の広間を思わせる辺りの景色を見回した。

「さぁ?」

それを受けて同じく白コスの少女戦士からバニーに戻った乙姫も

立ち上がると周囲を見回す。

「あーぁ、

 折角、あそこまで行ったのになぁ…」

コミューンを片手に真奈美が頭の後ろに手を組むと、

「ん?」

広間のかなたに白い台のようなものに目が行くと、

「乙姫様…

 あれ何かしら?」

と指差した。

「さぁ、何でしょう?」

真奈美が指した台を見つめながら乙姫はそう返事をすると、

「行ってみましょう」

「えぇ」

カツンカツン

ハイヒールの音を響かせながら真奈美が見つけた台へと向かい、

そして、そこに到着すると、

「んー?

 何かしら?

 これ?」

真中に窪みがある台を覗き込んだ。

すると、

『おいっ、ハチ!!!』

突然、真奈美のコミューンからカクの声が響くと、

ポヒュン!!

『少女達よ、何かようか?』

小さな爆発音と共に石の番人・ハチベエが姿を見せる。

『カッコつけているんじゃねぇ、

 さっさとホーティッシュを出すんだよ』

そんなハチベエにカクは怒鳴り声を上げると、

『もぅ、ひと使いが荒いんだから…』

ハチベエは文句をいいながら足元のホーティッシュを真奈美に差し出した。

「これを?」

ハチベエからホーティッシュを受け取った真奈美が聞き返すと、

『それに、さっきの虹水晶をセットして、

 台の窪みに置いてください。

 そうすればここに記録されたメッセージを聞くことが出来ます』

と乙姫の手にあるスケさんが指示をした。

「あっそう…」

スケの指示で真奈美は全ての虹水晶をセットしたホーティッシュを台座の上に置いた途端、

シャッ!!!

突然台座が光り輝き、

『・・・・・・・・・』

その中から声が響き渡った。

「なっ何を言っているの?」

聞いたことの無い言葉に真奈美は飛び上がると、

「え?

 待っていた?

 あたし達を?」

言葉の意味が通じるのか乙姫は驚く。

「乙姫様?

 この言葉わかるのですか?」

乙姫の反応に真奈美が不思議そうに尋ねると、

「えっえぇ、

 まぁ…

 でも、この言葉は…

 確か…」

ややあいまいな返事をした後、

乙姫は首を傾ける。

すると、

『・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・』

台座から別の女性を思わせる声が響き渡り、

みんなに何かを話し掛けてきた。

「うーん、

 何を言っているのかぁ…

 あたしには全然意味わからないよぉ」

響き渡る声の意味がさっぱり理解できない真奈美が困惑していると、

「うそぉ!!

 やだ!!」

乙姫は驚きながら声をあげた。

「どっどうしたんですか?

 乙姫様?」

突然声をあげた乙姫に真奈美がその理由を尋ねると、

「この、お城…

 あたしが織姫ちゃんに注文をしたものじゃない。

 すっかり忘れてた!!!」

乙姫は自分の両頬に手を当て、

顔を真っ赤にして叫ぶ。

「へ?」

乙姫のその言葉に真奈美の目が点になると、

「それって…どういうことでしょうか?」

と聞き返す。

「うっうん、

 実は…

 ほらっ

 竜宮って、大分古くなったでしょう?

 それで…

 前のお茶会のとき、

 織姫にそのことを話したら、

 新しいのを格安で作ってくれる。って言ってくれたので、

 注文したのです…

 あーやだ、すっかり忘れていましたわ…」

気恥ずかしさを誤魔化すかのように

ピョンピョンと飛び跳ねながら乙姫は理由を話すと、

「へ?

 ここが、新しい竜宮?

 なの…

 うっそぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

その直後、真奈美の叫び声が浮城の中に響き渡って行った。



つづく





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