風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第53話:発動、乙姫救出作戦!】

作・風祭玲

Vol.578





『土星にて巨大爆発!!!』

『土星、輪を失う』

『爆発後、なぞの惑星出現!』

『衝撃、ツルカメ彗星砕け散る!!』

『惑星、太陽通過後、地球に接近か?!』

土星で発生した巨大爆発と始まりの星・ウールーの出現、

さらにツルカメ彗星消失という衝撃的なニュースは

たちまち地球中を駆けめぐって行ったのだが、

最初こそセンセーショナルに取り上げられたものの、

しかし、それも数時間のウチにトーンが変わり、

『…このようなときこそ政権交代が必要。と野党指導者』

『…郵政民営化問題、抵抗勢力は徹底的に粛清する。と首相談』

『…川■探検隊、地上の楽園で幻の従軍慰安婦と接近遭遇』

『…サンゴから新証言!私はこうして傷つけられた。記事捏造問題徹底追及へ』

『…相模湾に出現した謎の飛行物体はただの自然現象。気象庁発表』

『…アキバにネットカフェ”喜び組”開店。オーナーはあの将軍様長男』

とまるでこのことから目を逸らすかのような報道になってしまった。

「もぅ!!

 どーなっているのよ、

 この国のマスコミはっ」

TVニュースの馬鹿馬鹿しさに呆れながら香奈が膨れていると、

「まーまっ

 そんなにむくれないのっ

 お肌に悪いわよ」

母・綾乃は笑みを浮かべながらTVのチャンネルを

このような事態になっても相変わらずいつものアニメを流している

某チャンネルに合わせ香奈を諭すが、

「お母さん…

 そんなにのんびりとしてていいの?」

そんな慌てない母親の態度に香奈が文句を言うと、

「大丈夫、

 大丈夫、

 何もかも乙姫様や櫂達が何とかしてくれるわ」

と言うだけだった。

「のんびりしているわねぇ…

 何か…情報が入っているの?」

余裕の雰囲気を漂わせる母親の姿に香奈が聞き返すと、

「ふふっ、

 大丈夫…」

綾乃はそう返事をすると手を休めた。



一方、月の裏側にあるコロニーにとっても一連の事件は大きな衝撃を与えていた。

『これは一体どういうことだ!!』

『この惑星についての情報は残念ながら何もない』

『連合艦隊が壊滅したというのは本当か?』

『五十里はどうなっておる!』

DEJIMAの中にあるコロニーに老人達の切羽詰った声が響き渡る。

『静粛に…

 静粛に…

 いまこの場で言い合いいてる場合ではないと思うが』

浮き足立ち、狼狽する声を制するようにサイバースコープを付けた議長の声が響き渡るが、

『これが落ち着けられるか』

『そうだ、

 連合艦隊の敗北。

 想定外の惑星出現。

 そしてツルカメ彗星の消滅。

 どれをとっても我々にとって予想だにもし得なかったことだ、

 この事態をどう受け止めているのか、議長に伺いたい』

『異議なし』

『異議なし』

『異議なし』

逆に議長に対して参加各位より現状の認識についての質問を突きつけた。

『ふんっ、

 まったく…』

険悪な雰囲気に議長は苦虫を噛み潰したような表情になりながら、

『よいか、落ち着いて考えるのだ。

 現在我々に対処を求められている現実とは

 連合艦隊は土星で壊滅、

 一方、ツルカメ彗星は消失、

 しかも、我々の脅威だった五十里らの消息は不明。

 つまり、

 何も慌てることではない。

 ということだ。

 悪戯に不安を掻き立て、

 短絡的な行動に出ること自体…』

と議長が演説したところで、

『お取り込み中のところすみません、

 あの、議長っ

 先ほど、その五十里より通信が届きまして…

 メッセージを預かりました』

の言葉とともに1人の男の映像が割って入り、

『どうぞ…』

と言と返事をする議長に向けそのメッセージが転送される。

『なに?

 五十里が?』

『議長なんて書いてあるので?』

『議長?』

議長の下に転送された文面が気になるのか、

皆の注意が一斉に議長へと向けられる中、

プルプル…

転送されてきた文面を見つめながら議長の顔が見る見る引きつって行くと、

『?』

『あの?

 議長?』

議長のその表情に皆が不安を感じ始めた。

そして、

『あっ

 すまぬが用事を思い出した。

 じゃっ』

突然議長はそう切り出すなり、

フッ!!

まるで逃げ出すようにしてバーチャル会議室から姿を消してしまった。

『ぎっ議長!!!』

『ちょちょっと、どこに行かれたのですか?』

思いがけない議長の行動に皆が慌てふためくと、

『おいっ、

 五十里はなんて言ってきたのだ?』

と今度はメッセージを転送した男に皆が詰め寄った。

『いやっ

 あのぅ…』

顔は見えぬが殺気立つその雰囲気に男はおびえると、

『こっこれを…』

と言いつつ、受信した内容を全員に配信した。

そして、その文面を全員が見た途端。

フッ

フッ

フッ

バーチャル会議室から次々と参加者が姿を消し、

『あっあのちょっと…』

ついにはメッセージを送った男だけが会議室に残っていた。

『ったく…

 みんな、逃げやがったな…

 あはは…もぅここもおしまいか…

 はぁ、次の仕事、どうやって見つけようかな…』

ほぼ無人となったバーチャル会議室を眺めながら男は呟き、

『これだけ貼っといてやる』

と言い残して、

ピッ!

受け取った五十里からのメッセージを会議室に張り出し、

フッ!

姿を消した。

”私は大丈夫。いまから行く、これからのことをじっくりと話し合いましょう。五十里”

男が残していったメッセージはそう表示されながら、

無人のバーチャル会議室の中をクルクルと回っていた。



ギュォォォォン!!!

ゴォォォォォ!!!

『プリンセス…

 あれは…』

DEJIMAを離れ一路地球へと向かっていく夥しい宇宙船の群れを指差しながら、

月を統べるカグヤの足元で三日月マークの黒猫が尋ねると、

『あらら…DEJIMAを捨てて、

 地球へと逃げ帰る者達の船…

 まるで平家物語のような有様ですね…』

とカグヤは答える。

『………』

『ん?』

なかなか返事が返ってこないことにカグヤが下を向くと、

『いやー…

 プリンセスの口からそんな台詞が聞けるだなんて…

 長生きはするものだわぁ…』

と黒猫は感心した口調で見上げいた。

『うっるさいわねぇ!!!

 あたしが平家物語のこといっちゃいけないの?』

『いやぁ、そーじゃなくて、

 平家物語のことを知っていたことに驚いているのよ』

『ちょっと!!

 はぁ、これが亜●ちゃんだと何も言われないのに…』

『教養の違い…かな?』

『うっ

 ル●ぁ〜っ

 ここでお仕置きしてあげましょうか』

『いやぁ…

 あはは…あーっ星がキレイだわ』

『あっコラ、逃げるなー』

逃げていく黒猫を追いかけながら銀のドレスを翻す少女が消えていくと、

その空にはツルカメ彗星に代わって光る青い光、

始まりの星・ウールーが輝きを放っていた。



そして、その青い星、ウールーへ向けて竜宮は移動を始めていた。

「魔導炉の出力に十分注意するのじゃ

 相手は貪欲に魔導エネルギーを食い尽くす星じゃ、

 いくら我々にプラスエネルギーあるといっても

 油断をするとひとたまりも無いぞ」

艦長席の成行が声を大にして叫ぶと、

『アイアイサー!!』

オペレーションを行う人魚達から一斉に声があがる。

「ウールーか」

徐々に大きさを増してくるウールーを見据えながら海人が呟くと、

「えぇ…」

その横に水姫が立ち、

「乙姫様達を救い出して

 地球に帰らなくっちゃね…」

と囁いた。

その一方で、

「ねぇ…

 どんな星なのかな…」

身を乗り出すようにして夜莉子がウールーに付いて尋ねると、

「うーん、

 地球とそんなに変わらないんじゃないかな?

 だってホラ、

 こうしてみる限り地球とそんなに変わらないじゃないか?」

と沙夜子は指摘するが、

「ふふっ

 ウールーを地球と同じだと思っていると痛い目にあうぞ」

そんな二人に向かって成行は自身たっぷりに言う。

「え?

 違うんですか?」

成行の言葉に沙夜子と夜莉子が振り返ると、

「前にも説明をしたと思うが、

 この星の体積のほとんどは水だ。

 つまり、我々が立ち止まることが出来る陸地は0であることを忘れるでない。

 もし、迂闊にもあの海に取り込まれたら最後、

 深さ何万キロにも及ぶウールーの深海へと引きずり込まれ、

 たとえ人魚であってもその水圧で潰され消えてしまう。

 まことに恐ろしい星じゃ」

と成行は説明する。

「地球のようで、

 地球とはまったく違う星・ウールー…

 地球に命を与えた星の正体は結構キビシイんですね」

話を聞いていた藤一郎がそう呟くと、

「けっ、なに格好つけているんだよ」

すかさず海人が茶々を入れた。

「なんだとぉ!」

その言葉に藤一郎が刀を抜こうとしたとき、

『竜宮の上空に空間歪発生!!』

と竜宮の真上の宇宙空間に歪みの発生を人魚が告げた。

「なに?」

その報告に成行が驚くと、

「また、星がワープアウトするの?」

夜莉子は不安そうに尋ねるが、

「いやっ

 この歪の規模は小さい…

 星ではないようだ」

成行はその可能性を即座に否定した。



フォォォォォン…

竜宮の上空に現れた歪みは更に成長し、

そして、

シッ!!!

ウールーがワープアウトしたときと同じように閃光が輝くと、

足の無い一体のモビルスーツが姿を見せた。

『ワープ終了!!

 マイクロワープ伝送管、切り離します。

 動力、コンピュータ共に異常なし!!』

『櫂さんっ

 下を見てください!』

「うっうん…」

『竜宮です…

 竜宮ですよ、櫂さん』

ワープ後の自動チェックが終わったモビルスーツのコクピットに

摩雲鸞・オギンの興奮気味の声が響くと、

「ふぅ…

 ようやく…

 ようやくみんなに追いついたんだね、オギン」

感慨深そうに櫂は呟いた。

『えぇ…そうです』

その声にオギンも頷くと、

「よしっ、

 いくよっ」

櫂は気持ちを新たにして操縦桿を握り、

ゴォォォン!!!

搭乗するモビルスーツを竜宮へと発進させた。



『上空に発光現象確認!!!』

『時空震!!

 ディメンジョンマグニチュード、dM1.2!』

『震源域に小型宇宙船らしきもの出現!』

櫂が向かう竜宮に近距離で小型物体がワープアウトしたとの報告が響き渡る。

「ワープアウトしたのは小型宇宙船?」

『はいっ

 極めて小さなもののようです』

「そうか、

 ふむ、dM1.2とは達かに小さいな…」

発生した時空震のと出現したのが小型宇宙船と聞き

成行はホッとしながら頷くと、

『艦長っ

 その宇宙船より通信が入ってきています』

とインカムを付けた人魚が声をあげた。

「まわせ」

その声に成行は指示をすると、

『ザっザザ…

 こちら、櫂っ

 水城櫂だっ

 竜宮、応答せよ』

艦橋内に櫂の声が響き渡る。

「あっ!」

「櫂さん!!」

「あいつか」

櫂のその声に艦橋内にいた藤一郎や海人、

そして水姫、夜莉子に沙夜子が一斉に声をあげると、

「おぉっ

 無事だったかっ」

あのN2超時空振動弾の爆発に巻き込まれて以降、

音信普通だった櫂の声に成行は喜びの声をあげる。

『はいっ

 あのっ

 ご迷惑をおかけしました』

みんなの声に櫂は恥ずかしそうに返事をすると、

ゴォッ!!

竜宮の艦橋の前にモビルスーツを寄せる。

「きゃっ!!」

「うわっ

 なんだこれは!!」

ヌッ!

と現れた巨大な顔に艦橋内の全員が驚くと、

『あっすみませんっ

 これ、月のカグヤ姫から貰ったのです』

モノアイで艦橋内を確認するようにして櫂は説明をする。

「ほぅ…

 カグヤ姫からか…

(ほぉ、あそこではこんなものも作っていたのか)

 まぁこんなところでの立ち話もなんだ、

 それを収容できそうなゲートを開けるから、

 そこから入ってくるがよい」

モビルスーツを見ながら成行は櫂に指示をすると、

「おいっ

 あのモビルスーツを収容できそうなゲートへと誘導しろ」

と人魚に指示をした。

そして、それから30分ほどが過ぎたころ、

『あっどうも、お迷惑をおかけました」

の声とともに人魚体に変身したカナ(櫂)が艦橋へと入って来る。

「おぉっ

 待っていたぞ

 ん?

 ほぉ!!」

『なっなにか?』

「いやっ

 人魚の姿のお前さんは始めて見るのでな…

 ふむっ

 こうして見ると、いやなかなかではないか」

と成行は人魚としてのカナ(櫂)をジロジロと見ると、

『あのぅ…』

ジトッ…

軽蔑した目でカナは成行を見る。

すると、

「そーですよっ

 成行博士っ

 いい加減にしないとホラ

 他の人魚達も軽蔑した目で見てますよ」

と夜莉子が成行に注意をした。

「え?

 あっいやっ

 あはははははは!!!!

 冗談、

 冗談だってば」

艦橋内の軽蔑のまなざしを一身に浴びていることに

気がついた成行は笑ってごまかすと、

「まっ

 スケベなのは相変わらずか…」

海人が陰口を叩く。

「何だと?」

その声に成行が抗議しようとすると、

「艦長っ

 これからウールーに着陸するんでしょう?

 指揮を疎かにしていいんですか?」

さりげなく水姫が注意をし、

そして、

「元気そうでよかった」

とカナをねぎらう。

『え?

 えぇ、お蔭様で

 ところで、乙姫様たちはいまどこに?』

「ん?

 あぁ…

 乙姫たちがいると思われる浮城は

 さきほどあのウールーの大気圏に突入した。

 恐らくウールーの表面上に点在する竜気の吊り合い点に落ち着くと思うが、

 問題はそこからじゃ、

 我々も浮城を追ってウールーに降りるが、

 しかし、向こうも近づく我々に向かって間違いなく抵抗をしてくるであろう。

 そこでいくつかのプランを考えてみたのだが…

 ただ、お主が持ってきたモビルスーツで状況が変わった」

カナの質問に成行はあのモビルスーツが戦力なることを告げると、

「会議室へ来てくれ、

 そこで、作戦を説明する」

と言いながら腰をあげた。



「これで終わりかしら…」

「相当上に上がっているはずなんだけど…」

歌舞伎メイク男から5戦連続して勝利し、

”この先コントロールルーム”

と掛かれている案内札を黒コスの少女戦士は見つめる。

そして、目の前に立ちはだかるドアを開けた途端、

「え?」

バサバサバサ!!!

『オキャクサン、ゴアンナーイ!!』

その声とともに二人の前を黄緑色の羽が舞い上がり、

『(ぼそ)お待ちしておりました』

一羽のインコを肩に止まらせた内気そうな女性が人を迎え入れる。

「え?

 えーと

(五十里の部下なのかな?)」

「(さぁ)」

場違いな女性の登場に2人は困惑していると、

『(ぼそ)あの…お相手できますでしょうか?』

と女性は蚊の鳴くよな小さい声で尋ねる。

「はぁ?」

聞き取れなかったその声に思わず聞き返すと、

『(ぼそ)おっ…お相手できますでしょうか?』

女性は再度同じ台詞を口にした。

しかし、

「あの…よく聞こえなかったのですが…」

耳に手を当てながら聞き返した途端、

キッ!

女性の表情がいきなりキツく変わり

それと同時に

『はぁぁぁぁ!!』

気合を入れ始めた。

「なっなによっ」

女性の豹変振りに黒コスの少女戦士が驚くと、

ズドォォォォン!!!

『ふんっ、ここで勝負しようというのよ!!』

の声とともに女性は黒のゼンタイに身を固めた女戦士へと変身していた。

「うわぁぁ!!!

 また出たぁ!」

女戦士の登場とともに、

シュタッ!!

シュタッ!!

今度は二人の後ろに同じ黒ゼンタイにマッチョな肉体美を誇らしげに浮かび上がらせる

大小2人男戦士が姿を見せると、

『ここから先は何人足りとも行かせぬぞ』

の声とともに立ちはだかった。

そして、

「ヤルしかないようね」

「えぇそうですわね」

3人の戦士に取り囲まれた2人は頷き合ったとき、

戦いの火ぶたが切って落とされた。



さて、竜宮の甲羅の上に聳え立つ戦艦の中央部にある大会議室。

「ほぉ…こんな会議室もあったんだ…」

「まぁなんというか…」

各席ごとに液晶ディスプレイを輝かせる円卓を眺めながら

海人と藤一郎が苦笑していると、

「では、全員揃ったかな」

遅れて入ってきた成行が出席者を確認する。

すると、

ガチャッ!

いきなり会議室のドアが開き、

ゾロゾロとセーラー服を基調にした戦闘服に身を包んだ9人の少女戦士達が入ってくるなり、

「私達はプリンセスの命令でここに来ました。

 一体何時になったら出撃の命令が出るのですか?」

と赤の戦闘服を着た少女戦士が長い髪を梳きながら成行に尋ねた。

「ちょちょっと、マ●ズ、

 いきなりそう切り出すのは…」

「だめよ、マーキ●リー

 こういうことはハッキリさせる必要があるわ」

「そうだな、何時出られるのか決めて欲しいな」

「あら、わたくしは別に構わなくてよ」

その言葉に少女戦士達の間にやり取りが始まると、

「丁度いまから

 これから行う作戦について話し合うところじゃ、

 開いている席に座りたまえ」

少女戦士達に向かって成行はそう指示をすると、

ピッ!

会議室の壁に掛かるスクリーンにツルカメ彗星の中より出てきた浮城を映し出し、

「これが、これより我々が攻略をしなければならない敵だ」

と説明をする。

「ひゅーっ

 都市要塞って感じだな…」

「あはっなんか、カキ氷みたい…」

「あのビル群の下、

 クレータが開いている小惑星の土台との間にある

 ベルトのようなものは何かな…」

「うーん…」

スクリーンに浮き上がる浮城の姿に少女戦士達はそれぞれの感想を言うと、

「おほんっ」

成行は咳払いをし、

「残念ながらこの浮城についての詳しい資料はこっちにもない。

 ただし、三次元解析の結果、

 この浮城には2箇所の弱点というか、

 盲点が存在することが判明した。

 それは、この上部中央部と、

 その真下、下部中央部だ」

浮城を図したポリゴンを振りながら成行はその弱点部分を示す。

「ふーん、

 真上と…

 真下…

 ということですか」

「そうじゃ、

 よって、我々は二手に分かれ、

 ブラックタイガーを主体とする航空部隊は浮城の真上より、

 また、竜宮並びにモビルスーツは真下より浮城の攻撃をし掛け、

 敵を混乱させる」

「えーっ

 混乱させるだけですか?

 倒すのではないのですか?」

「何を言っておるっ

 あの中には乙姫様が囚われているのだ。

 我々の目的は乙姫様の救出が第一の目的じゃ。

 それ故、攻撃の混乱に乗じあの浮城内部に潜入、

 そこで二手に分かれてもらい、

 一つは この浮城の動力並びにコントロールを押さえること、

 また、もぅ一つは囚われている乙姫様達を探し出し、

 奪還をする。ということじゃ」

成行は乙姫救出作戦のあらましを説明する。

「なんか、安直な手段というか」

「お決まりのパターンかな?」

「ふむ…」

その説明に海人たちはやや醒めた意見を言うと、

「えぇぃっ

 文句をいうなっ

 お決まりというのはこの手しかないということじゃ」

そんな意見に成行は語気を荒げると、

『なるほど、

 じゃぁ、あたし達は動力とコントロールを押させる方に行くわ、

 いいでしょう?

 みんな』

話を断ち切るようにして金色の戦闘服姿の少女戦士が尋ねると、

「まっそうだな」

「いいんじゃない?」

と少女戦士達は納得し、

「じゃぁ、僕達は乙姫様救出ってことになりますか」

それを聞いた藤一郎が沙夜子達に伺いを立てる。

すると、

「でも…

 攻撃後、潜入って言っても簡単には出来ないだろう?」

手を上げて海人が意見を言うと、

「うむ、確かにそのとおりじゃ、

 しかし、これを見たまえ」

その意見に成行は大きく頷き、

そして、スクリーンの画面を切り替え、

クレーターが覆う小惑星のような浮城の下部構造物をズームアップさせる。

「ん?

 これは?」

それを見た藤一郎が声をあげると、

「ふふっ

 そうじゃ、

 下部構造物には内部からの出入り口が何箇所かある。

 そこをカナ、

 お前のモビルスーツで攻撃をしてもらい突破口を開くのだ」

と成行はカナ(櫂)を指差しそう告げた。

『うんっ、

 判った』

その言葉にカナが大きく頷くと、

ズン!!

鈍い音ともに会議室が大きくゆれ、

『艦長っ、

 ただ今ウールーの大気圏に突入しました!』

艦橋に居る人魚より竜宮がウールーの大気圏に突入した報告が響き渡る。

「よーしっ、

 作戦開始じゃっ

 全員、配置につけぇぇ!!」

帽子を被りなおした成行が声を高らかにあげると、

「はいっ!」

会議室に居合わせていた全員が立ち上がり、

一斉に散って行く。

そのとき、

「あの…あなた、月のモビルスーツでここに来ましたよね」

とカナを呼び止める声が響いた。

『あっはいっ』

その声にカナが振り返ると、

水色の戦闘服を着た少女がカナの後ろに立ち、

「あのモビルスーツにはサイコミュウと言う

 オペレーション支援システムが搭載してあります。

 人魚のあなたでしたらきっとシンクロすると思いますから、

 使ってみてください」

そう告げると、少女戦士は去っていった。

『サイコミュウねぇ…』

少女戦士の言葉をカナは復唱すると、

『何か使えるのかな?』

首をひねりながらモビルスーツが格納されているデッキへと向かっていった。



『櫂さんっ』

『ただいま、オギン。

 やっとだ、

 やっと、真奈美を迎えに行くことが出来るよ』

人魚姿のままモビルスーツのコクピットに潜り込んだカナは

直ぐにモビルスーツの起動を始める。

『あれ、人間にはならないのですか?』

人魚姿で操作を始めたカナにオギンは疑問をぶつけると、

『うん、

 このモビルスーツにはサイコミュウって装置がついていて、

 人魚のままで操縦した方が良いんだって、

 月からきた女の子が教えてくれたよ』

その疑問にカナはそう答えると、

『こっちは準備完了!』

と艦橋の成行に向かって叫んだ。

「うむっ

 モビルスーツ発進準備完了、

 よーし、

 他の者達の支度は終わっているか!」

カナの返事を聞き、

成行は他のメンバーの状況を尋ねると、

『こっちはオッケーだ』

『巫女神夜莉子と沙夜子、準備オッケー』

『月の美少女戦士…何時でもどうぞ』

と成行の元に準備完了の報告が次々と入ってくる。

「ふむっ

 問題は無いようだな」

その報告に成行は満足そうに頷くと、

「浮城まで後どれくらいある」

と降下する竜宮と浮城との距離を尋ねた。

『はいっ

 浮城は現在、ウールーの北緯35度41分、東経139度41分、

 地球で言いますとちょうど東京都庁のある辺りで静止しています』

画面を見ながら人魚はそう伝えると、

「そうか、

 都庁の上で静止するとは大胆な奴じゃ(星は違うけどな)」

その報告を聞いた成行はニヤリと笑う。



「五十里!!

 竜宮が大気圏に突入したぞ、

 まっすぐこっちに向かってきている、

 どうする」

竜気の吊り合い点で浮城を止めた五十里の元に、

竜宮の大気圏突入の報告が入ると、

「そうか、

 あとどれくらいでこっちに来るか?」

ジャリン!!

五十里は鎖を引っ張りながら竜宮がこの浮城に到着するまでの時間を尋ねた。

「あぁそーだな…

 時間にすると…あと1時間程度だ…

 ってさっきから鎖で何をやっているんだ?」

竜宮到着時刻を告げながら夏目は五十里がしていることの意味を尋ねた。

「いや?

 まぁ健康法の一つ…ってやつかな

 お前もやってみるか?

 いい運動になるぞ」

訝しがる夏目に五十里は鎖を差し出した。

「いやっ

 私は間に合っているから」

「そうか?」

差し出された鎖を夏目は押し戻すと、

「降下してくる竜宮を望遠で捉えました!」

相沢の声が響き渡り、

ブンッ!!

正面のパネルスクリーンに大気との摩擦熱で

真っ赤になって降りてくる竜宮の姿が映し出される。

「ふんっ」

それを見た五十里は鼻先で笑うと、

「あの3人組が相手をしている向こうの様子はどうだ?」

とこのコントロールルームの隣で行われている戦いについて尋ねた。

すると、

「えーと、

 どうやら歯が立たないみたいです。

 楽勝っすね」

バトルの様子をモニターで確認した相沢はそう返事すると、

「ふふっ

 でも、楽勝だからといって手を抜かれては困るけどな」

その報告に五十里はあの3人の戦士が手を抜かないように釘をさした。

そして、その隣の部屋では、

「でやぁぁぁぁぁ!!!」

ゲシッ

ボコッ

バシッ

『はっ

 ほっ

 どこを見ているのっ』

「たぁぁぁ!!」

パンッ!!

ガスッ!

『遅いぞ!!』

真奈美と乙姫が変身した少女戦士と、

五十里が放ったマッチョな黒ゼンタイ男女3人組との死闘が繰り広げられていた。

はぁはぁ

はぁはぁ

「くっそぉ!!」

これまで相手をしてきた者達とは明らかに違うパワーに押され、

明らかに少女戦士の旗色は悪かった。

そしてついに、

「マーブルサンダーで決めるよ」

「えぇ」

二人は必殺技を使うことを決意すると、

片手を握り締め、

「ブラックサンダー!!!」

「ホワイトサンダー!!!」

と掛け声を上げた。

しかし、

『ふふっ』

黒ゼンタイ3人組は不敵な笑みを浮かべると、

『ふんっ』

一人が受け止めるポーズをし、

残る二人がその者の両脇で構える。

そして、その直後、

「…マーブルサンダー!!!!!」

の声と同時に白と黒の稲妻の渦が3人に襲い掛かった。

が、

『ふんっ!!』

真中の男が渦を受け止めると、

『でやぁぁぁ!!!』

両脇の者が稲妻の渦を手刀で切り裂き、

稲妻の渦は瞬く間に白と黒の稲妻に切り裂かれて消滅してしまった。

「そんな…」

「マーブルサンダーが利かないだなんて」

『ふっふっふっ

 マーブルサンダー敗れたり!』

必殺技を無力化されたことに驚く二人に対して、

三人組は余裕の表情を見せる。



ゴォォォォ…

バッ!!

バッ!!

バッ!!

青く輝くウールーの大気圏に突入した竜宮が

上空にたなびく白い雲を突き抜けると、

そのはるか先にまるでお椀に盛られたビル群を思わせる浮城が姿を見せる。

『浮城を確認しました』

艦橋内に人魚のその声が響き渡ると、

「うむっ」

成行は大きくうなずき、

被っている制帽のつば先で浮城の影を見据える。

『浮城までの距離、

 5000!!』

『4500!!』

『4000!!』

次第に迫ってくる浮城までの距離を別の人魚が読みあげると、

「よいかっ

 3000でブラックタイガー隊出撃じゃ

 ブラックタイガー隊の出撃後、

 モビルスーツ発進、

 竜宮を援護しろ!

 なお竜宮はこのまま浮城下部へ向かい、

 上下からの同時攻撃を掛ける。

 以上だ」

人魚の声を背景に成行は指示をする。

『了解っ』

その声をモビルスーツ内で聞いたカナ(櫂)は小さく返事をすると、

グッ

操縦桿を握る手に力が入る。

そして、

「(待っていろ、真奈美っ

  乙姫様っ

  いま行きます)」

心の中でそう呟くと、

『なんか…

 緊張しますね…』

とカナの肩に止まっているオギンも身震いをしていた。

そして、

『浮城まで3000を切りました』

「よしっ

 ブラックタイガー隊全機出撃!」

ついに目標としていた距離を切ったと同時に、

成行は声をあげると、

海人や藤一郎、

そして沙夜子達をそれぞれ乗せたブラックタイガーが飛び出し、

追ってあの美少女戦士達も出撃していった。

そして、一呼吸置いて

『カナ・オギン、行きます!!!』

カナが操縦するモビルスーツも竜宮を飛び立ち、

一気にウールーの海面まで降りる。

「頼むぞ!

 乙姫様は君たちの肩に掛かっている」

出撃していくブラックタイガーを見送りながら成行はそう呟くと、

「竜宮の進路はこのまま!!」

と声をあげた。



「五十里っ!

 来たぞ!!」

「判っている!!

 防衛システム作動!!

 エアー・スクリーンを張れ!!!」

肉眼でもその姿が見えるようになってきた竜宮を見据えながら、

五十里が声をあげると、

ガゴン!!!

ゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

浮城を上下に分けるようについているベルトが回りだし、

そして、そのベルトよりガスが勢いよく噴出すと、

シュワァァァァァァ…

たちまち高速で回転するガスの渦が浮城を防護し始めた。

「くくくっ

 この鉄壁の防衛システムを破れるかな、

 竜宮…」

接近する物体を悉く退ける防衛システムに自信を持ちながら、

五十里はいつものポーズをすると、

その口には笑みが浮かび上っていた。



「なんだ、あれは?」

突然、浮城を包み始めた渦に成行は驚くと、

『浮城まで、距離1500を切りました!!』

人魚の声が艦橋内に響き渡る。

「えぇい、くそっ

 仕方が無い

 竜宮、攻撃準備!!

 鬼神・ザンガ発動じゃ!!」

シャーッ!!!

ウールーの青い海の上を滑るように進む竜宮内に成行の命令が響き渡ると、

『了解!!

 鬼神・ザンガ、発動!!

 目標!!

 前方、浮城側面!!』

人魚達はすばやく竜宮に備わっている防衛システム、

鬼神・ザンガのを発動させた。

すると、

フォン!!!

突き進む竜宮の正面に赤いルビー色の衣装を翻す巨大な少女が姿を見せ、

その少女が迫る浮城を見据えると、

フッ!

っと一息、息を吹きかける。

その途端、

ズンッ!!!

たちまち浮城の側面で大爆発が発生するが、

しかし、浮城の上半分を占めるビル郡はガスの渦に守られ、

何一つ破壊されたものは無かった。

『艦長!!』

その結果に人魚が声をあげるが、

「それで十分だ!!

 進路このまま、

 モビルスーツ!!

 所定の位置に!!」

眼光鋭く成行がカナに命じると、

ゴゴゴゴ!!!

竜宮は進路を変えず真っ直ぐ突き進む。

「なっ

 バカなっ!

 体当たりをする気か!!」

進路を変更することなく接近してくる竜宮の姿に五十里は腰をあげると、

「いやっ

 この進路は…」

冷静に竜宮の軌道を分析していた桂が声をあげる。

そして、

「うわぁぁぁぁぁ!!!

 ぶつかる!!」

相沢の悲鳴が上がるのと同時に、

ズゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

スクリーンを覆い尽くすくらいに接近した竜宮の姿が一気に下へと動くと、

ドゴォォォン!!

ズズズンン!!

浮城の下部で爆発が広がり始める。

「何事だ!!」

「こっ攻撃です!!」

「なに?」

悲鳴に近い相沢の声が響くと、

ドォォン!!

今度は上より爆発音が響き、

「飛行物体多数上空より接近!!」

夏目の声が追って響く、

「真上と真下からか…

 ふふっ

 はーはっはっはっ!!

 やるではないか…」

思いがけない挟み撃ち攻撃に

五十里は仁王立ちになりながら笑い声をあげていた。



「五十里っ

 気は確かか」

その様子に思わず夏目が声を掛けると、

「えぇいっ!!

 狼狽えるなっ!!

 ザケンナーを至急増員するんだ!!

 人魚どもに我々の恐ろしさをとくと思い知らせてやる。

 急げ!!」

浮城のコントロールルームに五十里のその声が響き渡る中、

上に見える浮城をカナはキッと睨み付けると、

「攻撃!!

 目標、正面、入出口!!」

と声を張り上げ、

チャッ!

操縦桿についている発射ボタンを押す。

すると、

バシュン!!

操縦をするモビルスーツから両手と首が切り離され

その10本の指先と口に備えられたビーム砲が一斉に火を噴きある一点を攻撃する。

そして、爆発のあとにポッカリと口が開くと、

「これより浮城内に突入する!!!」

その声を残して海人や藤一郎、

そして少女戦士らが搭乗するブラックタイガー隊と共に

モビルスーツは浮城内へと突入していった。



つづく





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