風祭文庫・人魚の館






「狙われた乙姫」
【第52話:櫂、参戦!】

作・風祭玲

Vol.576





ついに太陽系内にワープアウトした始まりの星・ウールー、

そして、その引力圏に飲み込まれたツルカメ彗星は

大きく進路をねじ曲げられた上に朝夕力によって粉々に砕かれてしまうと、

その破片はウールーの大気圏内に突入して燃え落ちるか、

輪となってウールーを周回するかの2つに分かれていった。

「間一髪だったな…」

ツルカメ彗星崩壊の直前、離脱した浮城のコントロールルームで

夏目は安堵の表情を見せながら呟くが、

「夏目さん、安心するのはまだ早いです。

 魔導炉の出力、さらに低下、

 このままではあの惑星の衛星軌道に居ることも困難になります」

と相沢はさらに状況が悪化していることを告げた。

「おっおいっ、

 一体どうなって居るんだ?
 
 なぜ、魔導炉の出力が下がり続けて居るんだ?」

出力が低下する魔導炉のことを夏目が尋ねると、

「狼狽えるな」

いつものポーズをしたまま五十里が一喝した。

「しかし、五十里っ

 このままでは…」

そんな五十里に向かって夏目は声を上げると、

「第2宇宙速度が出せないとないうえに、

 第1宇宙速度さえ維持できないとなると…

 仕方がない。
 
 余力のあるうちにあの惑星に降りるしかあるまい」

状況を分析した桂はそうきり出す。

「降りるって、

 あの惑星にか…
 
 どんな星なのかも判らずにか?」

「このまま引き寄せられて、

 あの惑星の大気圏で燃え尽きるよりかはマシだろう、

 五十里っ構わないだろう?」

惑星への着陸を拒む夏目に対して、

桂は着陸についての判断を五十里に求めた。

「……そうだな、

 一旦、惑星に降りて原因を調べるんだ。

 ふっ、
 
 14万8千光年を飛んできたんだ、
 
 これしきのことで再起不能になるものではあるまい」

桂に向かって五十里はそう告げると、

「判った。

 相沢っ
 
 大気圏突入、
 
 あの惑星に降りるぞ!!」

五十里の判断に桂は相沢に降下を命じた。

「了解っ

 進路変更!!

 浮城っ

 惑星に降下します」

相沢は復唱をすると着陸に向けて操作を始める。



一方、

ズズーン!!

惑星のワープアウトともに発生した時空震は容赦なく竜宮にも襲い掛かり、

『きゃぁぁぁ!!』

激しく揺れ動く艦橋内に人魚たちの悲鳴が響き渡る。

「みっ見て!

 星が…

 星が…!!」

遠くに見えていた土星に変わり、

目の前に姿を見せた巨大な青い星を夜莉子は指差す。

「むっ、あれはまさしく始まりの星・ウールーじゃ、

 何が原因かわからぬが、

 ワープアウト地点がずれたらしい」

艦長席につかまりながら成行が叫ぶと、

「みっ見ろ!!!

 ツルカメ彗星が!!」

ついさっきまで竜宮に迫っていたはずのツルカメ彗星が

渦の形を大きく歪ませ、

まるでウールーに巻き取られていくかのように形を崩していくと、

見る間に引き裂け、砕け散って行く、

「乙姫様っ!!!」

その様子に夜莉子や沙夜子が叫び声をあげ、

「ウールーのロッシュ限界に取り込まれたか…」

ツルカメ彗星の最後を目の当たりにしながら

苦痛を滲ませるように成行はつぶやく。

すると、

「いやっ

 乙姫たちはまだ無事の様だ、

 あれを見ろ!」

崩れていくツルカメ彗星の様子をじっと見ていた海人は

宇宙のある一点を指差すと、

「あれは…」

「浮城か…」

彗星の残り香であるガスの衣を漂わせる浮城の存在に皆が気がつく。

「彗星が崩壊する直前、

 あいつが中から飛び出して来た。

 おそらく、あの浮城が敵の根城であり、

 乙姫も皆あの中にいるはずだ。

 行くぞ、

 連中も混乱をしているはずだ。

 叩くならいまだ!」

浮城を見つめながら海人はゲチを飛ばすが、

ズゥゥゥン!!

竜宮は大きく振動し、

『キリーリンクのパワーが下がっています。

 魔導炉の出力50%低下!!!』

人魚が声をあげる。

「まだ、エネルギー漏れが続いているのか!」

人魚のその声に海人が怒鳴ると、

『そっそんな事言われましても…』

報告をした人魚はシュンとする。

そのとき、

「そうじゃった!!」

何かを思い出したように成行が立ち上がると、

「なっ何が”そうじゃった”なのよ」

成行の声にびっくりしながら沙夜子が聞き返す。

すると、

「この原因はウールーじゃ」

成行は目の前のウールーを指差し叫ぶ、

「ウールー?」

「あのウールーが原因なんですか?」

その声にバニー1号や美麗達が声をあげると、

「そうじゃっ

 始まりの星・ウールー…

 じゃが、始まりの星故にウールーを満たしている竜気は

 我々とは正反対の性質を持っているのじゃ」

と成行は言い切る。

「正反対の性質?」

「そうじゃ、

 歯車を連想してみるといい、

 ウールーを親の歯車、

 そして我々をその歯車に接している子供の歯車じゃ、

 親の歯車に対して我々子供の歯車は正反対に回っているじゃろ、

 つまり、ウールーによって命を与えられた我々の竜気は

 親のウールーとは正反対の性質を持っているのじゃ、

 そして、2つの性質をもつ者同士が接近した場合、

 そのエネルギーは中和され消滅してしまうのじゃ…」

「はぁ…」

「なんがか良くわからないけど、

 なんかわかったような」

成行の説明に皆ポカンとしながら頷くと、

「でっでも、

 その話ではウールーの方も竜気の減少が起きているんでしょう?」

と沙夜子が聞き返す。

「ふっ

 サイズを考えるのじゃ、

 直径6万キロの惑星が持つ竜気の量と

 聖魔を含めた竜宮全体の竜気の量…

 煮えたぎる鍋にたらす氷水一滴よりかも少ないぞ」

「うっ…そうか」

成行の指摘に沙夜子は納得をすると、

「あっ、

 ウールーに向かって浮城が移動して行きます」

移動をはじめた浮城について人魚が報告をした。

「何をする気だ?」

移動する浮城の姿に藤一郎が理由を考えると、

「むっ

 恐らく、ウールーに着陸する気だろう、

 ここにいるだけでも竜気が奪われていくからな、

 思い切って懐に飛び込むのも手か…」

浮城を見つめながら成行は独り言をつぶやき、

そして、

チラ…

海人を見つめると、

「竜王っ

 すまぬが一仕事頼むぞ」

と声をかけた。

「おっ俺に?

 何をするんだ?」

いきなりの声掛かりに海人は驚くと、

カタン!!

成行は徐に立ち上がり、

「(ぼそっ)

 下の第2艦橋に立ち入り厳禁の特別室がある。

 そこで一発”抜いて”来い」

と小声で命じた。

「はぁ?」

あまりにものの唐突な命令に海人の目が点になると、

「(ぼそっ)

 なにをしておる、

 さっさと行かぬか、

 人妻・巨乳・アブノーマルと選り取りみどりだ」

成行は囁き続ける。

その直後、

ゴツンッ!!

「いきなり何を命じたかと思えば、

 そんなくだらない事かっ」

海人の拳が成行の脳天を直撃し、

同時に怒鳴り声が響き渡る。

「どっどうしたの?

 海人?」

海人の怒鳴り声に水姫が慌てて駆け寄ると、

「どしたもこうしたもあるか

 こいつ、俺にアダルトビデオを見て来いっ

 って言うんだよ」

と海人は訴える。

「はぁ?」

「何を考えているんですか?」

「軽蔑…」

海人の声に皆は一斉に成行を醒めた目線で見ると、

「何を言うか!!!

 これは必要な儀式なのじゃ!!

 よいか、ウールーに着陸をするということは、

 我々はマイナスエネルギーの海の中に飛び込むということじゃ

 飛び立つときのエネルギーの確保もせずに飛び込んだら最後、

 二度と飛び立つことが出来なくなるんだぞ」

と成行は訴える。

「あっ

 そうか…」

成行の言葉に居合わせた全員がハッとすると、

「でもよ、

 だからと言ってなんで俺が”抜かないと”ならないんだ?」

そんな成行に海人が尋ねると、

「ふっ

 竜王、

 おまえが持つ竜気は強力なプラスの竜気じゃ、

 その力はあのウールーのマイナスのエネルギーを振り払うだけのパワーがある」

と海人の両肩を掴み言い聞かせる。

「はぁ…」

「わかったか?」

「はぁ」

「じゃぁ、さっさと行って抜いて来い!」

「はぁ」

まだ納得が出来ないものの海人が艦橋から出て行こうとすると、

『あの…

 私達がお相手を…』

と数人の人魚が手を上げた。

ところが、

「だめだ、

 女達はここに居るんだ!

 いいか、今から竜王に近づくことはまかりならん!!」

と成行は声をあげる。

「何です?」

その理由を夜莉子が尋ねると、

「女は男が放つプラスの”気”を体に取り込み子供を作る…

 いま必要なのはあのウールーから振り切るための”気”、

 もし、女が竜王のそばに居たら竜王が放った”気”は

 すべてとは言わぬが女達に吸い取られてしまうのじゃ」

と理由を話す。

「はぁ…

 なんか、すごい事なのね…」

成行の話に夜莉子はただ関心をしていた。

「そうじゃ…

 頼んだぞ竜王、

 お前が放つプラスの気こそが我々が地球に帰るための力なのだからな」

海人が去っていった方向を眺めつつ成行はつぶやくと、

「出来る限り速度を維持しろ!

 ”気”が溜まるまで竜宮はウールーの衛星軌道にとどまるのじゃ!」

と成行は命じた。



「デュアル・オーロラ・ウェーブ!!」

ウールーが姿を見せる直前、浮城の中に真奈美と乙姫の掛け声が響き渡ると、

カッ!!!

取り囲んでいたドール達の中に閃光が光り輝く、

『うわっなんだ、

 この光は!!!』

痛いくらいに輝く光に歌舞伎メイクの男は目を庇い、

そして

ドォォォン!!!

弾けるようにして光が消え去ったとき、

コトッ!!

スタッ!!

白のコスチュームと黒のコスチュームに身を包んだ2人の少女戦士が凛々しく着地する。

そして、

「水の使者・きゅあブラック!」

「水の使者・きゅあホワイト!」

と互いの名前を名乗り、

ビシッ!!

ドール達をたちを指差しながら、

「ふたりは”マーメイドきゅあ”!」

と声をそろえると、

「…闇の力の僕たちよ!!」

「…とっととお家に帰りなさい!!」

互いに口上を叫ぶ。

『なにぃ!!

 勝手に入り込んでその口上は聞き捨てならん!!』

その声に歌舞伎メイク男は怒鳴り返すと、

スーッ

2人は大きく深呼吸をし

「ブラック、行きますっ」

「はいっ」

の声とともに

「でやぁぁぁぁ!!」

取り囲んでいるドールの中へと飛び込んで来た。

『くっくっ

 何をするかと思えば、

 力づくの実力行使かっ

 構わんっ

 取り押さえろ!!』

それを見た歌舞伎メイク男はそう叫び、

ドールに向かって命じるが、

ドスッ

ベキッ

バキッ

2人に襲い掛かったはずのドール達は次々と倒され、

歌舞伎メイク男に向かって一本の道が作られていく。

「なっなにぃ!」

ドールを倒しながら迫ってくる二人の姿に歌舞伎メイクの男は驚いていると、

「一気に行くわよ」

「えぇ!!」

迫る二人は頷き遭い、

そして、手を掲げると、

「ブラックサンダー!!!」

「ホワイトサンダー!!!」

と声をあげる。

『なっなにぃ!!!』

歌舞伎メイクの男が二人の姿を見たのはここまでだった。

その直後、

「マメきゅあ・マーブルスクリュー!!!!」

の掛け声とともに、

ズドォォォン!!!

『うわぁぁぁぁぁ!!!!』

襲い掛かってくる白と黒の光の渦に歌舞伎メイク男は消えて去っていった。



「はぁはぁ」

「はぁはぁ」

「やっつけちゃったね」

「うっうん…」

あれほど居たドールや歌舞伎メイク男が消え、

変わりに小さな星の姿をした奇妙な物体が、

「ゴメンナー

 ゴメンナー」

と叫びながら散っていく姿を見ながら2人は一息つけていると、

コロっ

さっきまで歌舞伎メイク男がいた所に光る石が落ちていた。

「これは?」

その石を拾いながら2人は首をかしげると、

『あぁーそれは!!』

腰元に下がるポシェットの中よりスケさんの声が響く、

「知っているの?」

その声に黒のコス姿の少女戦士が聞き返すと、

『間違いありませんでぽ、

 それは月の秘石・虹水晶でぽ』

とスケさんは返事をする。

「あれ?

 でも、虹水晶は確か、カグヤ殿が織姫殿に?」

『判らないでぽ。

 でも、織姫殿に託した虹水晶がなぜかここで使われているのかな?

 このことは、すぐにご老公とプリンセスに報告をせねば…ぽ』

「はー…

 なんか大事になっていくみたいね…」

スケさんの慌てぶりを見ながら少女戦士達は見つめあい呟くと、

「でも…

 そもそもこの浮城は誰が作ったものなのでしょうか?」

そう言いながら白のコス姿の少女戦士は上を見上げる。

そのとき、

リィィィン!!!

突然、澄んだ鈴の音が辺りに響き渡り、

「この音は?」

響き渡る音に耳を塞ぎながら黒コスの少女戦士が叫ぶ、

すると、

『…乙姫…………』

「!!!」

一瞬自分の名前を呼ばれたように感じた白コスの少女戦士が

耳を済ませるのと同時に

ドゴォォォン!!!

今度は浮城全体が激しく振動し始めると、

「きゃぁぁぁ!!」

2人は折り重なるようにして倒れ込んでしまった。

「大丈夫?」

「えぇあたしは…」

「何が起きたのかしら…」

「判りません、

 でも、さっきの鈴の音とこの振動はただ事ではありません。

 急ぎましょう!!」

「はいっ」

起き上がった2人はその声を残して、

タッタッタッ!!!

廊下を走り去って行くと、

再び次の振動が浮城を大きく揺さぶった。



「なに?

 突破されただとぉ!!!」

衛星軌道を離脱し、

ウールーへの降下を始めた浮城の中に五十里の声が響き渡る。

侵入者対応として配備していたドールの壊滅。

ならびに浮城第2層への進入を許したことの報告に

五十里は驚きながら腰をあげかけると、

「大丈夫だ、

 第2層、第3層、第4層とドール達を配備してあるし、

 それぞれ指揮を執る一体にはあの石を持たせてある。

 ここまで来ることはまずありえない」

廊下を走る二人の姿をモニター越しに見ながら桂は断言し、

そして、

「それよりも、竜宮が衛星軌道にとどまっていることが気になる…

 奴ら、何を考えているんだ?」

とウールーの衛星軌道にふんばる竜宮の動きに懸念する。

「ふんっ

 状況が変わった。

 人魚どもは後だ、いまは潜り込んだネズミを退治し、

 そして地球に行くことが肝心だ。

 ふふっ

 待っていろよ、老人ども、

 これまでのツケ、

 この私がタップリと支払ってくれる」

そう呟きながら

ジャキンッ!!

五十里は壁から伸びる数本の鎖を引いてみせる。

「あれ?

 あんな鎖…何時の間に?」

横で見ていた相沢は不思議そうに首をかしげた。



一方、月に向かっていた櫂だが、

『櫂さんっ

 櫂さんっ

 月があんなに大きく…』

月に向かうカプセル内に摩雲鸞・オギンの声が響くと、

「ん?

(ポリポリ…)」

その声にカプセル内に山と積まれているキムチを食べながら櫂は窓から覗く、

すると、

ヌォォォォッ

巨大な月の明かりがカプセルを照らし出しはじめていた。

「後どれくらいかな?」

クレータの一つ一つがはっきりと見え始めた月面を見下ろし櫂は呟くと、

『もうまもなくです。

 ところで、どこに下りるのでしょうねぇ』

とオギンはカプセルの着陸点を尋ねた。

「さぁ?」

『さぁ?って

 櫂さん知らないんですか?』

櫂のその返事にオギンは驚きながら聞き返すと、

「ん?

 オギンの方こそ知っているんだろう?」

と櫂はオギンに聞き返す。

『えぇ!!

 私何も知りませんよ、

 てっきり櫂さんが知っているものだと思っていました』

「うそぉ!!!」

オギンからの意外な返事に櫂は青ざめると、

『え?

 あのっ

 ほっ本当に何も知らないんですか?』

オギンも顔を青くしながら聞き返す。

「しっ知らないよ、

 そんなこと…」

『えーっ

 じゃどうするんです?

 ここままだとこのカプセルは月面に激突ですよ!!

 ペシャンコですよ』

「うわぁぁぁぁ!!!

 ミール先生!!

 ミール先生!!

 教えてください!!!

 あの、もうすぐ月につくんですがどうすれば良いんですか?」

オギンの指摘に櫂はカプセルの無線機にしがみつくが、

しかし、

『”・・・・・・・(ニダ)”』

と無線機は朝鮮語で返事を繰り返すだけだった。

「ひぃぃ!!!!」

それを聞いた櫂は悲鳴をあげるが、

その間にも月面は迫り、

櫂を乗せたカプセルは月面への激突コースをひたすら辿いく。

「オギンっ

 どうすればいいんだよ!!」

『私だって、朝鮮の言葉なんて知りませんよ、

 櫂さんこそ何とかしてくださいよ』

狭いカプセルの中で櫂とオギンの擦り付け合いが起きたころ、

『ザッザザ…

 こちらシルバーミレニアム、

 月面に接近中のカプセルに告ぐ…

 すぐに軌道を変更しなさい。

 現在のコースを飛行することは禁じられています。

 即刻軌道を変更しなさい』

と月面より警告を告げる無線が入った。

「(はっ!)

 モシモシっ

 もしもーしっ!!

 あのっ

 こちらそのカプセルです。

 その…軌道を帰ることが出来ないんです。

 だれか助けてください!!」

無線を聞いた櫂は無線機にかじりつき、

必死になって救援を要請する。

すると、

『ザッザザッ…

 軌道が変更が出来ないとはどういうことだ、

 現在、貴殿はガクヤ様のお屋敷に向かって接近している。

 これ以上接近した場合、

 安全保障上、貴殿を撃墜をしなければならない。

 すぐに軌道を変更しなさい』

と櫂が乗るカプセルがカグヤ姫の屋敷に向かっていることを告げ、

これ異常接近した場合撃墜もありうるとの警告を受けた。

ところが、

「あのっ

 カグヤ姫に用事があってきたんです。

 あのっ

 私、竜宮の乙姫様に仕えているのですが、

 その乙姫様がさらわれ、

 さらに竜宮も乙姫様を取り返しに旅立っていきました。

 しかし、僕が居ないうちに竜宮が飛び立ってしまったので…

 それで…」

藁にも縋りたい気持ちで櫂は無線機に向かって訴える。

すると、

『………お尋ねします。

 あなたは乙姫の手のものなのですか?』

今度は丁寧な女性の声が無線機より響いた。

「はっはいっ

 そうです。

 わたし…人魚名ではカナと申しまして、

 乙姫様より竜牙の剣を受け賜りました。

 ほっ本当です」

女性に向かって櫂はそう訴えると、

『……(ネットの準備を)…』

誰かに向かって女性はそう告げ、

その直後、

シャッ!!

月面に銀色の光が輝き、

蜘蛛の巣状のネットが姿を見せる。

『かっ櫂さんっ』

姿を見せたネットにオギンが声をあげると、

「うっうん」

櫂も一縷の望みを掛けながら迫るネットを見据えた。

そして、

シュンッ!!!

バシッ!!

カプセルが月面に激突する直前、

張り巡らされたネットに引っかかると、

「はっ

 たっ助かった…」

『でっですぅ…』

櫂とオギンは安堵しながら抱き合っていた。



ゴゴゴゴゴン…

「ふむ、ご苦労じゃったの」

「へへへっ…」

フラフラになりながらAVルームより出てきた海人に向かって

成行きは満足そうに労をねぎらうと、

「やだーっ」

沙夜子と夜莉子は鼻をつまみながら距離を置く、

「なんだよっ

 文句あるのかっ」

露骨に嫌がる2人に海人は食って掛かると、

「まーまーっ

 これで地球へ帰るエネルギーが手に入ったんですよね」

割って入るようにして水姫は成行に尋ねた。

「うむっ、

 竜王の協力でプラスのエネルギーを得ることが出来た。

 このエネルギーも無論、ウールーに吸い取られはするが、

 しかし、特製のエネルギーコンデンサに溜め込んでおいたので、

 直ぐになくなることはないだろう。

 よしっ、

 我々も浮城を追いかけウールーに着陸するぞ、

 こんどこそ、乙姫様たちを救出するのだ」

と声高に叫ぶと、

「はいっ」

「おぉ!!」

艦橋内に皆の声が響いた。



「そうですか、

 それで竜宮に乗り遅れたのですね」

時を同じくして

月面・シルバーミレニアム内の宮殿に女性の声が響き渡ると、

「はい…

 あっあのぅ、

 さっきはありがとうございました。

 カグヤ様のおかげで月に衝突せずに澄みました」

宮殿内の大広間で硬くなりながら櫂は

落下してきたカプセルを受けて止めてくれたことへの御礼を言う。

「いえいえ、

 ただ、あのままでしたらあなた方が乗られていたカプセルを

 撃墜しなければならなかったので当然の事をしたまでです。

 判りました。

 あなたを竜宮まで送り届けて上げましょう」

櫂の前にセーラー服姿の月の姫君・カグヤはそう告げると、

「ほっ本当ですか?」

櫂は身を乗り出しながら聞き返した。

「わたくしも気になっていたのです、

 竜宮がわが屋敷の前を通ったとき、

 力になれればと親衛隊をつけてあげたのですが、

 しかし、その後、

 地球人の艦隊は壊滅、

 また、ツルカメ彗星もその後現れた惑星に砕かれ、

 今では惑星の周りをまわる輪となり…」

とカグヤは状況の変化を憂う。

「え?

 それって…」

カグヤの説明を聞いて櫂は驚くと、

「あら?

 まだ知らなかったのですか?」

カグヤは驚きながら聞き返した。

「えぇ…

 地球を飛び立ってから何のニュースも聞いてなかったので…

 あの、地球は壊滅したのですか?

 それにツルカメ彗星が砕かれたのは本当なのですか?」

と櫂は身を乗り出して尋ねた。

「………」

櫂の質問にカグヤはしばし沈黙した後、

スクッ

と立ち上がると、

「ついて来なさい」

そう言うなり額に三日月模様がある黒猫を従え部屋から出て行った。



「あっあのぅ…」

カグヤの後を着いて行く櫂が恐る恐る尋ねると、

「なんでしょうか?」

彼女は振り返らずに返事をする。

「いや、

 なんで、カグヤさんはセーラー服を着ているのかな?と、

 それにさっきから顔を扇で隠していますし…」

櫂は率直に疑問をぶつけると、

「あぁこれですか?

 そうですね…

 昔”月に代わってお仕置きよ”なんて言っていたときが懐かしくっててね。

 それに顔は…まぁいろいろ問題あるしぃ…

 カグヤなんて名前も、

 ぶっちゃけ、あだ名みたいなものよ」

「はぁ?」

「え?

 あぁいえいえ、ただの独り言…(うふふふ)

 さっ着きました。

 ここです」

そう言いながらカグヤがある建物に入った途端、

「カグヤ様に敬礼!」

ビシッ!

カグヤの入室とともに業務についていたウサギ達が一斉に敬礼をする。

そして、

「太陽系内に姿を見せたウールーの現状はどうなっていますか?」

すかさずカグヤが尋ねると、

「はっ!

(ピッ)」

その質問に即座に一匹のウサギが答え、

正面のパネルスクリーン一杯に輪を持つ青い星が映し出される。

「これは…」

その青い星を見上げながら櫂が尋ねると、

「始まりの星…ウールーです。

 まだ、太陽系に来るはずのない星なのですが、

 どこをどう間違ったのでしょうか、

 先ほど姿を見せたのです」

とカグヤは櫂にこの星が太陽系に迷い込んできた星であることを告げる。

「始まりの星・ウールー…」

巨大な惑星の姿を見ながら櫂は復唱すると、

「ツルカメ彗星はこの星の潮汐力によって、

 粉々に砕かれ、このような輪となってしまいました。

 ただし、彗星の崩壊前、内部より浮城が飛び出し、

 その浮城はウールーの周回軌道を回りつつ、

 惑星への着陸を試みるようです。

 また、竜宮はこの画面からは見えませんが、

 現在この辺りを飛行していて、

 こちらもまもなく着陸するする予定です」

と現在の状況を説明する。
 
「はぁ…

 乙姫様も竜宮もあの星に皆降りるのか…」

カグヤの説明を聞きながら櫂は目の前に見える星が、

いわゆる決戦場であることを自覚していると、

「さて…」

カグヤは話を一端切り、

「乙姫のほかにもぅ一つ、

 このウールーには憂慮すべき問題があります」

と告げた。

「憂慮?」

カグヤのその言葉に櫂は驚くと、

「はいっ、

 現在、ウールーは木星軌道に向かって進んでいますが、

 そのずっと先…

 そう、ウールーのこれからの軌道を追っていくと、

 地球に大接近するのです」

とカグヤはウールーが地球に接近することを告げる。

「地球に大接近って…」

カグヤの言葉に櫂は驚きながら聞き返すと、

「ウールーは現在太陽へと接近しています、

 しかし、太陽の横をすり抜けた後、

 今度は地球に大接近するのです。

 もし、ウールーが計算どおりに地球に大接近いたしますと、

 ウールーより大量の水が引っ張られ、

 地球に向かって流れ込んでしまうのです。

 そうなってしまったら地球は大洪水に見舞われます。

 櫂さん、

 いえ、カナさん。

 乙姫を至急救出し、

 そして、乙姫とともにウールーをつかさどる女神に訴えください。

 人魚族のあなた方ならウールーの女神も

 きっと聞き届けてくれると思います。

 よろしいですか、

 あなたの手に地球の命運が握られているのです」

とカグヤは訴えた。

「はっはぁ…

(なっなんか、トンデモないことになってきてしまったような…)」

カグヤの訴えに櫂は冷汗を掻きながら返事をすると、

「では、格納庫へ参りましょう、

 竜宮へと赴くための機体を用意してあげます」

クルリ

カグヤは櫂に背を向けるとオペレーションルームから出て行った。



「でやぁぁぁ!!!」

「はっ」

バシ

ゲシ

ドカッ!!

そのころ、真奈美と乙姫が変身した2人の少女戦士は順当に勝ちあがり、

次のフロアでは筋肉もりもり男を倒し、

その次のフロアでは心を操るインケン女を倒した。

しかし、次のフロアでは対戦相手の職場放棄にて不戦勝となり、

そして迎えた5番目のフロアでは、

「ははは

 ここまで勝ちあがってきたのは誉めてやる、

 しかし、この私を倒せるかな!!」

坊主頭の男が二人の前に立ちはだかった。

「ここを通らせてもらいます」

「だぁぁぁぁ!!!」

坊主頭に向かって二人は果敢に挑むものの、

『無駄だ!!

 ハッ!!』

ドォォン!!

ドォォン!!

坊主頭が放つ切れ間の無い攻撃に

「キャッ!!」

「くっそぉ!!」

「デヤァァァ!!」

バシ、ゲシ、

バシ、ゲシ、

『何度やっても同じだ!

 ハッ!!』

ドォォン!!

「きゃぁぁ!!」

苦戦を強いられていた。

『ふふふふ…

 これしきの力でこの私に挑むなど、

 舐められたものだ!』

己のパワーを誇示するかのように坊主頭は見下ろすと、

「くっそう…」

黒コスの少女戦士は臍をかむ。

すると、

「あの胸にあるペンダントを攻撃しましょう」

何を思ったのか白コスの少女戦士が坊主頭の胸で輝くペンダントを指差した。

「え?

 あれを?」

「えぇ、これまでの敵は皆あのペンダントが虹水晶でした。

 恐らく、この者も同じでしょう」

「判ったわ、

 二人で同時に攻撃をかけましょう。

 タイミングは任せた」

攻撃目標を定めた二人は互いに頷き合う。



「ふふっ…

 強いではないか、あの者は…」

そんな戦場の様子をモニターで見ながら五十里は満足そうに腕を組むと、

「しかし、

 あれを倒されてたら後がないぞ」

同じモニターを覗き込みながら夏目は懸念を言う。

「ふむっ」

その言葉に五十里は考え込むと、

『やはり我々が出たほうがよろしいですかな?』

の言葉とともに3人の影が五十里の後ろに立った。

「え?

 うわっ」

その言葉に振り返った夏目が悲鳴をあげると、

「ん?

 あぁ、お前達か…」

振り返った五十里はそう声を掛ける。

「なっなんですか?

 この者達は…」

黒のゼンタイにマッチョな体を包み込んだ、

男2人・女1人の3人組の戦士を眺めながら夏目は尋ねると、

『あぁ、

 この者達もドールだ

 とは言ってもまだ試験中なのだが…

 でも、連中よりかはパワーは格段に上だ』

と五十里は紹介する。

「はぁ…」

五十里のその言葉に夏目はしげしげを眺めると、

『五十里様…』

ドール達は一歩目に出て指示を仰いだ。

「よかろう、

 お前達に最終防衛線を任せる」

『はっ!!

 ありがたき、お言葉』

五十里が下した許可に3人は一斉に頭をさせると、

シュッ!!

瞬く間にその姿を消した。

そしてその直後、

「ダブル・イナヅマキィィクゥッ!!!!」

『しまったぁ!!!』

ユニゾンし攻撃を仕掛けて来た二人の足が

坊主頭の胸元で輝くペンダントを直撃すると、

『うぉぉぉぉぁぁぁ!!!』

ズォォォン!!!

ついに二人は坊主頭をついに倒すことに成功する。

「ふうっ

 これで5つ目ね」

坊主頭が残した虹水晶を黒コスの少女戦士が拾い上げると、

「あの番人さん…」

と声をかける。

すると、

ポヒュッ!!

『呼んだか?』

小さな爆発音とともに二人の前にケースを従えた小男が姿をあらわした。

「はいっ

 次の虹水晶よ」

番人と呼ばれた小男に向かって黒コスの少女戦士が手渡すと、

『おぉ、ご苦労であった少女達よ…』

そう番人は返事をし、渡された虹水晶をケース内にセットする。

『おいっ、ハチっ

 なに気取っているんだぽ』

番人に向かってスケさんが声をあげると、

『何を言うか、

 この私がいなかったら誰が虹水晶を管理するのだ?』

と番人は反論する。

「まーまー、いいじゃない、

 さぁて、残りは2つね」

番人とスケさんとのやり取りに終止符を打つように

白コスの少女戦士が割って入る。



「こちらです」

「はぁ」

”(有)アナハイム・エレクトロニクス”

そう書かれたゲートをくぐり、カグヤに連れられた櫂は

”関係者外立ち入り禁止”

の札が掛かるドアを開けた。

すると、

ドォォォン!!!

「うわっ」

目の前に姿を見せた巨大な顔に思わず声をあげ腰を抜かす。

「なっ、

 かっ顔?

 人の顔だ!!」

「はいっ、

 まだ開発中ではありますが、

 わたくし達シルバーミレニアムの技術の粋を集めて造ったモビルスーツです」

顔を指差しカグヤはそう返事をする。

「はぁ…

 モビルスーツですか…(まっマジ?)」

紹介されたモビルスーツに櫂は関心ながら近寄り、

タラップよりモビルスーツの全体像を眺める。

「あれ?

 あのぅ…脚がないんだけど」

モビルスーツの下部、

腰から下が存在していないことを櫂が指摘すると、

「脚なんて所詮は飾りですよ、

 偉い人にはそれがわからんのですよ」

の声とともに額に三日月模様がある白猫が姿を見せ櫂にそう告げる。

「はぁ…」

白猫のその言葉に櫂はただ頷いていると、

「これにマイクロ・ワープ転送管をセットしたものを櫂さんに差し上げます。

 これに乗って竜宮に追いついてください。

 きっと、竜宮もあなたが来るのを待っているはずです」

カグヤはそう告げると去っていった。



キィィン!!!

『(ピッ!)

 櫂さんっ

 準備はいいですか?』

月のクレータ上に浮かぶモビルスーツに通信が入る、

「あっはいっ

 こっちは何時でもオッケーです」

クイッ

クイッ

光り輝くモノアイを上下左右に動かすモビルスーツのコクピット

その中でノーマルスーツ姿の櫂は返事をすると、

『マイクロワープ転送管が起動しましたら、

 ほぼ同時にワープインします。

 ワープの時間は実質30秒程ですので

 視界が開けましたら眼下に竜宮が見えるはずです。

 では御健闘をお祈りします』

画面の中のウサギはそう櫂に告げると姿を消した。

「ふぅ…」

クレータの中から上空に浮かぶ地球を見つめ、

「あそこからここまでの旅と、

 ここから竜宮までの旅…

 随分と格差があるものだな…」

と呟く、

『さっ、

 櫂さん、行きましょう…』

感傷に耽る櫂にオギンはそう促すと、

「うんっ

 行こうか」

櫂は手を伸ばし、

モビルスーツにセットされたマイクロワープ転送管を起動する。

その直後、

キィィィィィン!!!!

転送管は高周波の音を響かせると、

ドンッ!!!

櫂が搭乗するモビルスーツを月から竜宮の上空へと一気に運び

『かっ櫂さんっ』

「うっうん」

コクピットの視界をさえぎっていた光が消え、

代わりに巨大な青い星が姿を見せると、

櫂の足元にカメの姿をした竜宮が飛行をしていた。

「竜宮だ(本当にカメの姿をしてる)…

 やっと追いついたんだ…」

乙姫と真奈美、そして五十里達が居る青い星に向かって移動する竜宮の姿を見て、

櫂は思わず涙を浮かべるが、

すぐにその涙をふき取って、意を決すると、

「オギンっ

 行くよっ」

オギンに向かってそう告げ、

モビルスーツを竜宮へ向けて発進させた。



つづく





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